ワタシハ、ワラッテタ
「ふふふ、私はマリアよ。貴方達は…アルフとユーリ、でしょう?アイリーンに良くしてるみたいね」
優雅にスカートを摘んで一礼し、マリアは言った。
ユーリとアルフは、呆気に取られた。
「殺す、のか?俺たちを」
アルフは、息を飲んで次の言葉を待つ。
「まだよ。貴方達ならきっと、気付いてくれる」
ユーリが眉を寄せた。
「それはぁ、何に?」
大方の予想は、付いていた。
「もちろん、壊す理由よ」
マリアは笑みを崩さない。
「もしかしたら、これはほんの推測なんだけどぉ」
ユーリも負けじと笑いながら、話す。
「本当のワルモノは、アイリーンってことぉ?マリアは、アイリーンの望みを叶えているにすぎない」
何のことか分からないアルフは、頭上にクエスチョンマークを浮かべている。
「最初に真実にたどり着くのは、貴方だったのね…。いつから気付いてたの?」
「最初から」
ユーリは迷わずにそう答えた。
ふふふふふ、とマリアは笑う。
「ど、どういう事だ、ユーリ?」
そんな会話について行けない人が一名。
「おっしえなぁい。アルフが知ったらアイリちゃんに言うかもでしょ?アイリちゃんは、自分で気づくべきだ」
自分で気付かないと、駄目だ。
気づくまでの過程に誰かの手を借りてもいいけど、教えてもらってはいけない。
「じゃあ、さようなら」
マリアは手を振った。
気が付けば、私はユーリとアルフの前に立ち尽くしていた。
「え、と…」
「アイリーン、か?」
戸惑いながらも頷いた。
「さっき、マリアちゃんと話してたんだよぉ」
ユーリは笑いながら言った。
「な、何を話し…」
「教えなぁい」
最後まで言う前に答えられる。
いつもの笑みを貼り付けたまま。
アルフはなにやら考えこんでいた。
ユーリはソファに座り、テレビをつけた。
ニュースだ。
殺人事件のニュース。
思い出すのは、幸せの残骸となってしまった死体。
あの時を思い出すと、今でもゾッとする。
クスクスと笑いながら、ユーリは私に問いかけた。
「なぁんで笑ってるの?」
笑ってる?私が?
唇に、触れる。
確かに笑っいた。でも、何故?
死体を思い出して、笑ってた?
そんな訳ない。だって、殺して愉しむのはマリア。
私はいつだって被害者で────
違う。
そうだ。死体を目にし、笑ってたんだ。
マリアじゃなく、アイリーンが。
ワタシハ、ワラッテタ。
嫌だ。嫌だ、嫌だ。違う。
私は、私は、殺人を楽しんでなんていない。
ワタシハ、ワラッテタ。
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
シタイヲミテ、ワラッテタ。
嫌、嫌っ、違う…!
“違わない。いつだって、笑ってたのは貴方よ、アイリーン”
嫌────