Question&Answer
私は壊す少女、マリア。
この名前、結構気に入ってるのよ?
健気なアイリーンが付けてくれた、私の名前。
壊さないでとあの子は願う。
アイリーンは、勘違いしているの。
私からそれを指摘できないけど、きっと気付いてくれるって、信じてるから。
どれだけ時間が掛かっても。
壊さないで、マリア。
貴女は何故、私の幸福を壊すの?
壊された幸せを治すのは、私の仕事。
苦労して治した幸せを、壊すのは貴女。
いつから貴女は、私の中にいたの?
「俺とユーリ、こう見えても強いんだぞ?」
アルフは、俯いて泣く私の頭を撫でた。
私より大きくて、暖かい掌。
「俺らはそー簡単には殺られないってー!安心しなよ、アイリちゃん」
なら、と私は訊く。
この質問に、頷いて。
「なら、私を、躊躇わず殺せますか?」
「そんなこと、出来るわけないだろっ!?」
いきなり大声で叫ばれたので、驚いて茫然とした。
「俺も、できないよ、アイリーン」
ユーリは、初めて私を本名で呼んだ。
「でもっ、そうしなきゃ死にますよ!?それでもですか!?」
「ああ」
迷いの無さに、驚愕する。
でも。
「そんな中途半端な優しさは、いらない。いらないんです」
自分に言い聞かせるように、二度言った。
「後で辛くなるだけ、だから」
それは私の経験からの結論。
それなら逸そ、厳しくされたい。
「辛いこと、いっぱいあったんだねぇ」
分かったように言わないで。
殺したくなくても、殺してしまう。
そんな私の気持ちなんて、分かるわけ無いじゃない。
「だから、そう結論付けたんでしょ?」
そんなに優しくしないで。
優しい貴方を、殺したくない。
「アイリーンの気持ちは、俺らには分からない。でもな、お前が辛いんだってことは、十分分かるんだ」
そうよ、アルフ。
私は、辛いの。
そして、酷く─────臆病、なの。
「殺してっ─────」
「アイリーン」
優しく、宥めるようにアルフは私の名前を呼ぶ。
「嫌、なの。怖いの。失いたく、ない」
「誰だってそうだ。失うのは、怖い」
その声色は、優しくて暖かかった。
だけど、少しだけ寂しさが混じっていた。
きっとアルフも、何かを失ったことがあるんだろう。
「アイリーンには、教えたげる」
ユーリが不意に、そう切り出した。
「俺ら、ホントは─────」
その次の言葉を黙って待つ。
やがて意を決したようで、ユーリは私に告白した。
「殺し屋、なんだ」
私は別段驚いたフリを見せなかった。
内心では驚いていたが、どこかでやっぱり、と納得していた。
「驚かないんだ」
私は微笑み返した。
「殺人鬼は、お互い様ですから」
少しだけ目を見開いて、ユーリは言った。
「怖がられるかと思ってた。皆、大体そうだから」
でも、とユーリ。
「嬉しい。ありがとう、アイリちゃん」
私は、にっこりと笑った。
「もう、死にたいなんて言うな」
アルフは、私の肩に手を置いた。
「殺し屋、なのに、私は殺せないんですか?」
「もうアイリちゃんは、俺らの大事な存在だから」
私には勿体ない、でも欲しかった言葉。
「ありがと、ございます」
私はここにいていいの?