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絡繰人形の仕事

部屋に入ったら何やら気難しい顔をした主人とヴェル様がおられました。



「失礼します、ハイド様。」


「あぁ………」


「緊急だと伺いましたが」


「あぁ……」


煮え切らない返事で私を視界にすら入れないこの主人。どうしてくれようかと少しばかし黒い考えが頭に浮かんでしまったのでふるふると追い出して。


「申し訳ありませんが、用がないなら下がらせてもらいたいのですが。」


そこでようやく顔を上げた主人は何やら言いにくそうにしているので、用はあるけど言えない。ていうことだと理解しました。けれども私とて暇ではありませんのでさっさと用はすましてほしいのです。


「ハイド様、ジゼルにも仕事があるのです。言うならおはやく。」


「わかってるっ……!ジゼルッ!」


だん、と立ち上がって先ほどまであからさまに避けていた私と目を合わせ否、寧ろ睨んでくるほどの気合いで口にしようとしている主人を見つめ返してその次に出てくる言葉を待っていたのですが……。


「――ハイド様。下がらせてもらいます」


「いや、ジゼルっ!すまんっ!!」


一向に口にしない主人に背を向けてドアノブを回そうとして止められました。はぁ、はやくしてくださいませんかね。


「ハイド様、もう私が言います。」


ヴェル様も見切りをつけて応えの返ってこない消沈しているハイド様に一言言い放ってから私を見据えてある言葉を口にされたのです。


「ジゼル、貴女にはハイド様と共に2週間後のヴィルフェル公爵家の夜会に行ってもらいます。」


「………承知いたしました。」


ヴェル様に向かい一礼してから、主人を見ると何やら言いたげなご様子。だからと言って私から声をかけるほど優しくありませんので。


「ヴィルフェル公爵様と言えば丁度次女のアターシャ様が花も盛りなご様子で、大層素晴らしい淑女だと聴き及んでおります。これを機にお話しされては如何でしょうか?」


そう、ヴィルフェル公爵家には3人の令嬢がいらっしゃるのです。長女のスターリン様は一言で言えば妖艶でそれはそれは美しい女性であらせられて夜会の薔薇姫のふたつ名で有名なお方で昨年、隣国の第二皇子との間に御子が誕生したらしく我が国との友好に大変貢献されている方です。そして、主人とも年が近い次女のアターシャ様は姉君とは正反対の方で可憐で清楚なお方なのです。夜会でも彼女が微笑めば見るもの全て釘付けにされてしまうとかなんとか噂されてしまうほどのお方。聴くところによればまだ婚約もされてないとか。


「――ル、ジゼル!」


「はいっ……申し訳ありません。」


私としたことが口に出してしまっていたようでヴェル様はいつもと変わらないご様子なのですが主人が少しばかり怒っているよう感じで私を見ているのです。何かしましたかね。


「……ジゼル、今回貴女にはハイド様のパートナーとして出席していただきます。」


ヴェル様が片眼鏡をくいと上げながら何の気無しに口にした言葉が私の機能を停止させていきます。なんて訳あるはずがないのですが。


「私が、ですか?絡繰人形アンドロイドである私がですか?」


少しばかり皮肉げになってしまったのは不躾だったと少しばかり後悔しますが、それよりも。そんな“私”を連れて行くという決定を下した主人とヴェル様が不思議で不思議で、思わずじと目で見てしまった私は悪くないはずです。


「それに、旦那様は了承されているのですか」


仕事も殆ど引き継ぎ、領地を主人が治めているもののまだ公爵家当主は旦那様であり采配は旦那様がされておられるのに何故一介の使用人であり、ヒトですらない私が公爵家の跡取りのパートナーを勤められることが出来るのでしょうか。答えは否に決まっているはずなのです。だから、こんなことあるはずが――


「勿論ですよ。じゃなきゃ貴女の元まで下ろすわけが無いじゃないですか。」


ありました。

旦那様、と思い出しみたら屋敷のモノを巻き込んでおいかけっこをしてみたり、急に奥様とどこかへ旅行に出られたり、まだ年端もいかなかった主人に1年領地を丸投げして奥様と結婚何周年旅行だとか言って帰ってこなかったり……。自由奔放な旦那様でした。

ですが、王宮では旦那様の右にでる者はいないとまで言わしめた程外交官として腕を振るってらっしゃってもはやいける伝説とまで言われている御方なのです。


「……使用人ですよ」


「かまいません。寧ろ下手にどこぞのご令嬢を連れて行っては面倒です。それに貴女は“了承”したのですからね。」


にこり、と微笑みながら言質はとってあるから無駄な抵抗すんな。てきなオーラが出ているヴェル様を少しばかり睨みつけてから深々と一礼して今度こそ部屋を出てきてやりました。





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