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星を追う者たち  作者: 矢口
第七章 愛に生まれ、殺戮に育つのは『世界』
93/222

92:彼らの使命

「どうして、こんな馬鹿なことをなさったんですか?」

 池間の右の拳に包帯を巻きながら、マイヤは上目遣いで池間を見る。


 彼がずっと俯いたまま声も出さないため、彼の中にある苛立ちに気付いて居ても彼女には掛けるべき言葉が見つからないのだ。

 やむなく在り来たりの質問になってしまう。


「すまん……」


 池間はそれだけ言う。


「フェリシアの人類種じゃあ、あの壁には絶対に穴は開けられませんよ。

 ドワーフのエルトまで『負けたかも知れない』って悔しがってました」

 マイヤは(つと)めて明るい方向に話題を振ろうとするのだが、項垂(うなだ)れたままの池間の目を見ることは叶いそうにない。


 マイヤは少々手荒な手段に出ることにした。

「少佐は、私のこと嫌いなんですか?」

 

 いきなりの言葉に流石の剃刀(かみそり)も慌ててマイヤを正面から見据(みす)える。

「いや、何を言ってるんだマイヤ君! 

 君には、いや君たちには感謝しているし、何よりフェリシアの人間を嫌ったことなど一度もない!」


「やっと、お顔を上げて下さいましたね」

「……」

 目が合うとマイヤが微笑み、その笑みに合わせるかの様に池間も少し困った様な笑みを見せた。

 それから彼は再び彼女たちに対して申し訳ない気持ちになり、またもや目を伏せる。

 マイヤのようなフェリシアの人々の優しい言葉と柔らかな微笑み。

 それこそが今の池間の胸に鉛を詰まらせていく最も大きな要因だ。

 

「嫌われては居ませんが、信用されても居ないようですね」


「そんな事はない……」

 池間は俯いたまま、包帯の最後の一巻きが巻かれるのを見ている。


「いえ、信用なさっていません」


「どうして、そう思う」


「嫌われるのを恐れておいでです」


 池間としてはマイヤの言葉に驚きを隠せない。

 巧からヴェレーネが意識や記憶を読む、と聞いた事があった。

 昔は『比喩』だと思っていたが、この世界に来てそうではないことを知っている。

 不安が顔に出ただけなのだが、彼はマイヤに意識を読まれたと捉えた。

 

 その表情を見て、マイヤはクスリと笑う。


「あんな事が出来る魔術師は、フェリシアに百名も居ませんよ。

 勿論、私はその中に入っていません」

「そ、そうか、すまん」


「ね、信用してらっしゃらないでしょ?」

「そうかな?」

「そうですとも!」

「しかし、誰だって人に嫌われるのは怖いものだろう?」

「仲直りすれば良いんですよ」


(だま)した場合は?」

「謝るしか無いですね」

 マイヤはなんだか子供を相手にしているかの様な気分になって来た。

 おかしくなって自然と笑みがこぼれるが、俯いたままの池間にはその表情は見えては居ない。


「これから、騙す相手にはどういう態度を取ればいい?」

 その言葉を発してしまってから池間は“しまった!”と思ったがもう遅い。


 マイヤは当然だが怪訝(けげん)な顔をする。

「騙す程嫌いな相手なら、自然に振る舞えば良いんじゃないんですか?

 その方が騙しやすいですよ。 

 それに、こんな怪我するほど悩んだり自分に腹を立てたりするんなら、そもそも騙したくないんですよね?」


「ああ、そうだな……」

 何故か観念した気分だ。

 剃刀などと呼ばれていい気になっていた様だが、実際はそれほど何でも割り切れる性格でもなかった様だ。


 マイヤとはこれ以上は話さない方が良い。

 そう思う。

 彼女は、元々医師だ。

 カウンセリングの能力もあるのだろう。

 これ以上会話を続ければ、事が公になりかねない。


 礼を言って立ち上がる。


 が、マイヤに引き留められた。

「池間少佐」

「何かな?」

「騙したくないなら、素直に話したらどうですか?」

「そうだな」

 適当に相づちを打って池間は其の場を後にしようとしたが、マイヤはその背中に更に声を掛けた。


「ちょっと前に、巧さんが言ってたんですけどね」

「柊が? 何を?」

 巧の名を聞いて池間の足が止まる。


「頼り合って出来上がっている国の人間なんだから、仲間を頼っておかしなことなんか無い、って」

「どういう意味かな?」

「そのままですよ。苦しい時だから、みんなで乗り越えようって事です」

「柊がそんな事を?」

「はい!」


「みんな、っていうのはどれくらいの人を指すんだろうな?」

「多ければ多いほど良いんじゃないでしょうかね?」

「なるほど」


 池間が頷くと、マイヤはすまし顔で頬の高さまで腕を上げ、手首を外側に折る様に医務室の右手を指した。

「相談事ですけどね」

「相談事?」

「そうです。お困りですが、私には話せない。

 でも、他に話せる人がいるかもしれないでしょ?」



 この医務室は議員会館三階の中央の部屋を使っている。

 議員会館全体がフェリシア防衛司令部になって以来、シエネの市会議員達が此の会館を使用することはない。

 シエネが戦場になれば此処は危険な場所に位置するため、元より余り使われていた事もなかった。

 そこで特に苦情もないと考えられた事からこの会館が中央司令部に選ばれた。


 各戦線の指揮官、連絡員達は時折状況報告に直接この会館の門を潜る。

 そして、彼女が指した医務室の右手、廊下の端にはある人物に(あて)がわれた部屋があった。

 今、マイヤが女王とヴェレーネに続いて信頼を預ける人物の部屋である。


「あっ!」

 池間の叫び声に、マイヤは“どうだ!”と言わんばかりににこやかな表情を見せる。

 そして実際に其れを問いにした。

「どうですか?」


 少しだけ池間は迷った。が確かに『ほんの少し』であった。

 それから、

「マイヤも来てくれ、地球とフェリシアは仲間同士だ!」

 そう言って頷く。


 彼の小さな頷きが意味するもの。

 それは自分を奮い立たせると同時に、フェリシアと地球に垣根を作らないことを確かめるための頷きでもあったのだ。



     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



「ありえねぇ……」

 石岡の呟きは一人の案内者を除き、その場に居る全員の声でもあった。


 ラキオシアの首都、リンデ。

 そこから馬車で丸一日、海岸線の崖下に出来た半地下に当たる巨大な洞窟に埠頭はあり、『船』は其処に接岸されていた。

 崖から下を見おろす一同にあって、オベルンは巧達が驚くのを楽しそうに見ている。

 まあ、これを見せられて“驚くな”という方が無理な話である。


「排水量、軽く一万トンはありそうですね」

 山崎がそう言うと、オベルンは更に嬉しそうに頷く。

「その通り、排水量一万三千トン、全長二百六十メートル、全幅はまあ、同じくらいだと思うが、データが無くてね。但し本体だけなら六十メートルぐらいかな。

 問題は武装が無いってことだけだね!」


 目の前に浮かぶ船は『船』と呼ぶにはあまりにも異質な代物であった。

 巧はこれを見た時、ある航空機を思い出していた。


『エクラノプラン』、別名「カスピ海の怪物」

 船胴部を除けばまるきりその姿としか言いようの無いエンジンと、それを支える水中翼がはっきりと見えている。


挿絵(By みてみん)


 オベルンの自慢げな説明に巧は思わず半畳を入れてみる。

「武装がないのは見りゃ分かりますが、どういう訳なんですか?

 軍籍があれば『軍艦』かも知れませんが『戦闘艦』とは呼べないでしょ?」

 役に立つのか、という意味合いも込めてみたが、其処は流された様な返事が返って来た。

「この世界での武装は『魔法』もしくは『黒色火薬まで』って、そんなルールがあったのさ」


 なにげに言うが、これだけの『もの』を製造できる技術がある以上、武装も可能であったであろうに、何故其れが認められないと言うのだ。


「ルールね……」 

 そう、即ち()の世界には『ルール』を決めることの出来るだけの力を持つ何者かが、(かつ)て存在した、ということなのだ。

 もしかするならば未だに存在しており、この世界の人間達が足掻き苦しむのを笑い転げて観て居るのかも知れない。

 そう思うと、やたらと不愉快になる。


「なにやら、お気に召さない様だね?」

 オベルンの質問に、巧は首を横に振った。

「お気に召さない処じゃない。 

 こう言うのは“胸くそが悪い”って言うんですよ」

「しかし、この船が女王から『返却』を求められた船なんだがね」

「この船の話じゃあ無い、って事、知ってて言ってますね?」

 巧がオベルンに向ける表情は思わず肉食獣が敵対者を見るそれになってしまう。

 だが、オベルンの返事はその巧の不快感を腰砕けにするに充分であった。

「今更、どうこう言われてもねぇ?」

「まあ、確かに……」

 

 桜田が二人の会話に割り込んでくる。

「でも、あの船、ボロッボロって感じですよ? 動くんですか?」

 その質問にオベルンは自嘲気味に笑った。

「あれが動けば、インディなんぞ使う必要があると思うかね?」

「じゃあ、どうやって?」

 桜田の質問も(もっと)もである。


「いや、私も二~三度しか会ったことはないので、それほど知った男ではないのだが、今回、君たちが乗船次第、動く様に手順を指示する人物が現れることになっているんだ」


 その不思議な言葉に巧と桜田の二人のみが何故だか嫌な予感を持った。


 だが、敢えてその話題には触れずに、この船の由来とラキオシアについて話を聞きながら船に近付いて行くことにする。

 彼方(かなた)に見える乗船口までは、たっぷり二十分は歩くことになるだろう。

 乗り込んでも艦橋まで上がるのに更にどれだけ掛かるやら、である。


 その間に聞かされた、ラキオシアの歴史は巧達一同には驚愕(きょうがく)の内容であった。

 目の前の船が存在しなければとても信じ得ぬほどに。


 

     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 ハインミュラーの一言は、あまりにも思いきったものであった。

 当然、池間は思わず問い返す。

「出来ますかね?」


 池間の台詞に対する老人の返事は、その前の段階の確認を求めるものであった。

「『作戦的に稚拙(ちせつ)だ』とか『相手に通用しない』、とは言わないんだな?」


 池間は首を横に振る。

「それが可能ならば奴らは必ず掛かります。人間は見たい物しか見ないそうですからね。

 それにヘルが仰るには連中、『船』を飛ばしたがって居るんですよね。

 秘密に迫れる可能性が有るならば、必ず食いついて来るでしょう」


「飛ばしたがって居る『船』って奴が、実際『ロケット』のことかどうかは、はっきりは分からんよ。あの男に聞いた方が良いと思うね」

 ハインミュラーは額に人差し指と中指の二本を当てる。

 名前が出てこない、という訳だ。


 マイヤが助け船を出す。

「オレグ大隊長ですよ」


 池間はすぐに思い出した様だ。

「オレグ・バチェク?」

「そうそう、あいつだ。長いこと会わなかったんで名前が出てこなかったよ。 

 何せ、要塞に引き籠もってるからな」

「引き籠もってる? 何故ですか?」

「何やら女が怖いんだとか、そう聞いたな」

 そう言ってハインミュラーが笑うと、マイヤも吹き出した。


 池間はオレグと面識がない訳ではない。

 中央作戦本部の会議で何度も話をしているが、確かに彼はシエネに中々戻ってこないのだ。

 良い男だと思っていたので、当然、職務に熱心なだけかと思っていたのだが、何やら事情があると知り、訳を尋ねる。

 そして、ハインミュラーとマイヤとのふたりからポージー・ツァロテカの悲恋話を聞かされる事となった。


 右手の痛みすら忘れ、その手で口元を押さえて笑いを堪える池間であったが、其れは兎も角、彼にもこちらに来て貰わなくてはならない。


 池間は今回、巧抜きでこの作戦案を成立させたい。

 成否に拘わらず彼に同じ思いをさせるのはまっぴらなのだ。

 急ぎ臨時の『東北部方面参謀部』を組織しなくてはならなくなった。

 オレグ以外に必要な人物のリスト作りが三名によって進められていく。

 唯、その中でマイヤが一つだけ我が儘を聞いて欲しいと言いだし、恩に感じていた池間は了承する。


 が、その話を聞いてハインミュラーは、“儂を巻き込まんでくれよ”とその時ばかりは慌てたため、二人の方が逆に驚かされた。

 この老人がこれ程慌てることがあるとは、と。


 しかし池間は作戦に気が向きすぎていたためその提案を気にも留めなかった事、マイヤは自分の意見を受け入れてもらえたことを単純に喜んでいた事から後々生じるであろう事態を甘く考えていたのだが、やはりハインミュラーこそが最も正しい反応を示した事をいずれ二人は思い知ることになる。


 但し二人とも、責任は取らなかったのだが……。



     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 三月十七日 午後二時二十五分

 

 二機のF-3Dは赤道上空でストラトタンカーから補給を受けると、高度を一気に五千メートルまで落としに掛かった。

 タンカーであるC-2Wはそのまま西へ進路を取り、四時間後に高度一万五千メートルで合流することになる。


 僅かに進路を南西に向けながら緩やかに二機は高度を下げていく。

 当然のことながら最初のうちに、特に異常は見られなかった。


 しかし高度八千メートルを切った時、側面警戒レーダーが反応したのだ。

 ロックオンされた訳ではないが、同高度に何かが居る。


(早速のお出ましとは、運が良いのか悪いのか……)

 と横田は心中でのみ呟いた。


 この高々度を飛ぶ飛行物体など、この世界に存在するのであろうか?

 考えられるとすれば、ランセぐらいのものであるが、ランセが発する微弱な、時に強力すぎる電波特性は既に計器に覚え込ませてある。

 と言う事は即ちUnknown《敵味方不明物体》という事になる。


「アルスさん、距離分かりますかね?」

「“れーだー”では二百二十キロとでていますわね」


「マーシアちゃん、どうかな?」

「同じですね。あと、魔力で感じる距離も同じくらいです」

 横田はマーシアの魔力探索範囲がレーダー並みと知って舌を巻いたが、感心するのは後である。

「で、どうかな? 危険?」

「一応、対抗力場は張ってありますから、いきなり荷電粒子が来ても大丈夫だとは思います。 

 それに雲が多いですから、拡散減衰(ブルーミング)もかなり激しいですよ。

 今なら一ギガワットあっても『ブラックピークポイント』は二十キロもないでしょうね」


「ねえ、マリ、マーシア、何話してるの?」

 アルスが無線で訊いてくるが、危うく“マリアン”と呼びかけようとして言い直す。


 彼女にはマーシア、要はマリアンの話の中身がさっぱり理解できない。

「え~っとですね。まあ、今の処アルスさんの対抗力場で充分防げる相手だって話ですよ」

 マリアンは出来るだけ単純に話しておくことにした。

 理論から説明し始めたなら一時間有っても終わりはしまい。



 熱ビーム砲と荷電粒子砲はいずれも電力を使うが、それぞれに特色があり一概に同じ熱線兵器とは言えない。 

 荷電粒子砲はどちらかというと質量兵器に分類されるのだ。


 但し、同じような弱点は存在する。

 ひとつは雲などの水蒸気によるエネルギー拡散現象、即ちブルーミングである。

 この空域は有り難いことに水蒸気が多く、粒子拡散率が高い。

 相手の熱線兵器が熱ビームにせよ、荷電粒子にせよ、この距離でいきなりダメージを受ける事はないとマリアンはアルスに説明している訳だ。


 また、『ブラックピークポイント』とは荷電粒子砲特有の射程到達現象である。

 熱ビーム兵器ならば、その威力は徐々に減衰するが荷電粒子砲の場合、ある距離を過ぎた途端にそのエネルギーはいきなり減衰する。


 極端な言い方だがブラックピークポイントの外に居た場合、荷電粒子が銃弾だと考えると“目の前で銃弾がポトリと地面に落ちる”様な現象が起きる訳である。


 何より荷電粒子砲は大気中では射程が短い。

 仮に熱レーザー兵器並みの出力を得ようとするならば、十万倍のエネルギーが必要になる。

 勿論、物体に当たった時の威力は電子反応である為、熱ビーム兵器とは違い物理的な破壊現象を引き起こすことになる。


 熱を発しはするものの、荷電粒子砲は名前通りに『粒子』という最小単位の物質を飛ばす。

 即ち、砲弾と同じなのだ。

 其れが光速の九五パーセント以上の速度で飛んでくる為に副次的に熱を発しているだけであり、本質は『質量×速度の2乗=エネルギー』、即ちE=mc²の原理による質量エネルギー兵器である。

(実際は粒子が地上に於ける運動をしているため「1/2mv²」が正しい理論かと思われる)

 射程内におけるその破壊力は熱ビーム兵器の比ではない。


 コペルが、オーファンならランセに対抗できると言ったのは、ランセとオーファンが闘った場合、熱線速度と射程によってオーファンが辛うじて勝つであろうと言っただけである。

 但し、ランセが粒子砲を発射する時、オーファンがピークポイント内に居た場合は、両者はほぼ同時に消滅するであろう。

 いや、下手をすればランセは打ち抜かれた状況によっては生き残れるであろうが、オーファンは命中時の衝撃波で粉砕され、塵ひとつ残るまい。


(しかし、ランセはあれだけのエネルギーをどこから得ているんだろうか?)

 マリアンが日頃ランセに対して持つ最大の疑問であるが、今はそれ処ではない。

 現在、同高度に存在する何者かの正体を突き止めなくてはならないのだ。



 と、その時である。

 相互の距離を二五〇メートルほど取って飛んでいた二機は、ほぼ同時に激しい衝撃に晒された。


「アルスさん!」、「マーシア!」

 二人はほぼ同時に、同じ事を感じ取った。

 

 そして、機体は其の場から高度を(およ)そ四千メートル上空に一気に移す。

 マリアンによって二機のF-3Dは強制的に『跳ば』されたのである。


「うお! なんじゃ、こりゃあ!」

 横田が叫んだのも無理はない。

 七七〇〇メートルを指していた高度計が一瞬にして一万二千メートルを指していた。

 二機のF-3Dは刹那の間に四千メートル以上の距離を移動したことになる。


「凄いな……」

 岩国も開いた口が塞がらない、としか言いようが無い。


「マーシアの仕業ですわ」

 アルスが、すまし顔で答える。

 普段なら此の様に自分のことの如く誇りめいた口調にはなるまいが、今、中身がマリアンであることも関係しているのであろう。

 何より、地球の現代兵器に自分たちの魔法力が後れを取らないことも誇らしいのだ。


「ねえ、マーシア。幾つだった?」

「四つですね。アルスさんの方は?」

「同じ」


「何の話だい?」

 横田が不思議そうに尋ねる。

 実際二人の会話は意味不明としか言いようが無いのだ。


「横田さん。今、攻撃受けましたよね」

 マリアンが尋ねる。

「ああ、そうだな。あれか? “対抗力場”って奴で防いでくれたんだよな」

 

『対抗力場』

 ダ-ク・エネルギーを中心とした所謂(いわゆる)”第四の力”、“弱い力”による『抗重力場(こうじゅうりょくば)』である。

 光や熱までも屈折させる以上、質量エネルギーも当然ながら届くことはない。


「そうです。が、問題は何発貰ったかですね」

「一発じゃなかったのかい!?」

 岩国が入ってきた。


 それにはアルスが答えるが、腹を立てている事が在り在りと分かる声である。

「同時に別方向から四発! 小癪(こしゃく)な真似をしてくれますわ!」



「横田さん」

「ああ?」

 まだあっけにとられて居る横田に対して、更にマリアンは彼が度肝を抜く様な提案をしてきた。


「八カ所の物体、まずは一機で一つずつ落としましょう」

「なんだって! 相手は姿が見えないんだぞ! 

 いや、見えるにしてもレーダーに対象は一つしか写っていなかったじゃないか!」


 横田の言うことは道理が通っているが、マリアンは一顧(いっこ)だにする気配が無い。

「其処はアルスさんが何とかしてくれます。

 僕ね。昔、漫画で読んだんですよ。

 シューティング・ポジションって所に着くことが出来れば良いんですよね」


「マーシアちゃん……。何、言ってんの?」

 横田は何か恐ろしいものを感じていたが、マリアンは相変わらずのマイペースである。

「まあ、まあ。兎も角、もう一度『跳び』ますよ」


 マリアンがそう言った次の瞬間、二機は再び其の場を消えた。

 そして二人のパイロットが次に気付いた時、



 機体は既に高度一万メートル地点を過ぎ、音速に僅かに届かぬ速度を保った侭、機首を真下に地面に向かって一直線であった。

 



サブタイトルはハル・クレメントの「重力の使命」の改変ですね。


さて、皆様のお陰で少しずつですが、

「あ、読んで下さる方が増えた気がするな」と嬉しく思っています。

前も書いたかも知れませんが、何はともあれ頑張る気力になるのは確かです。

繰り返しになりますが、お礼を申し上げます。


あすか様より、お教えをいただきまして「E=mc²」は正確な理論ではない事を確認させて頂きました。 

よって正確な公式「mv²」を付加させて頂きました。

今後の話に於いても、この形で説明させて頂きたいと思います。

大変失礼致しました。

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