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星を追う者たち  作者: 矢口
第六章 海の風、国境の炎
86/222

85:不確定報告

 桜田の言う通り、巧は相当におかしくなっていたようだ。

 桜田も本人もおかしくなったのは、ヴェレーネからのメッセージビデオを見てからだと思っているようだが実は違う。


 巧が少しずつではあるが不安定になって来たのは多分、コペルとの最後の会話の時からであろう。

“ヴェレーネの暴走の可能性”、その事実が常に彼の冷静な思考の邪魔をしていたのだ。


 また、何時(いつ)からかは一旦置くにしても、彼はガーインから此処に来る間だけでも、かなりの小さな失敗を繰り返している。


 例えば、水晶球(スパエラ)の埋め込みだ。

 あのように派手にナンバリング等をすれば万一見つかれば怪しまれない可能性も完全に無いとは言い切れなかった。

 石を其れなりに積むか、大きめの木の枝に切り込みを入れてから折るなど、自然を装った印の付け方はいくらでも有ったが、そこに全く思い至っていなかった。


 ギガント・ビートルと名付けた甲虫を最初に見つけた時もそうである。

 石岡はマガジンふたつを空にしたが、あれは慌てただけではない。

 初めて見る魔獣ともなれば、死んだことが確実になるまで攻撃の手を緩めないのが当然なのだ。

 つまり石岡は攻撃の基本(セオリー)を守ったに過ぎず、巧が怒鳴る必要など何処にもなかった。

 普段の巧をよく知り、また今の彼の状況も把握していた石岡だから良かったが、これが初めて会う部下であったなら彼の指揮官としての資質は相当に疑われていたであろう。


 ルースとの会話でも気がゆるんでいるのか、わざわざトレの成長についての話をして、ルースに不要な欲を持たせている。

 最後の件について桜田は知らないが、その他にも色々と巧にはミスがあったことを彼女は見逃さなかったのであろう。

 山崎の言う通り、まさしく『政治将校』であるが、この際は有り難い存在で有った。

 

 その桜田の忠告に従い砂糖の移動について調べていく内、一行は妙なことに気付いてくる。

 通常、シナンガルの一般層が使う砂糖は精糖(せいとう)を途中ぐらいで止める三温糖(さんおんとう)と呼ばれて土色の状態で流通している砂糖だ。

 それも通常なら北方、つまりシーオムなりロンシャンなりの工場を使う。


 ところが、バルコヌス半島南部に数ヶ月前に製糖工場が完成したという。

 その上、数ヶ月前から殆どの黒糖を白糖に迄、精糖しているというのだが(これ)はおかしい。

 軍で使用するなら兵士の疲労回復には三温糖あたりの色の付いた砂糖が向いている。

 白糖と違い三温糖にはタンパク質、カルシウム、リン、鉄分、ビタミンB1、B2等のミネラル分が多いためである。

 ミネラルの不足は持久力に大きな差が出る。

 科学的に実証されていなくとも、効率を考える軍の人間なら経験で知っている筈だ。


 フェリシアですら甜菜(ビート)に頼り過ぎるのは余り良いことではない、として兵士の食事の甘味料に黒糖を手に入れようとしている。

 今後輸入される予定のラキオシア産の黒糖には大きな期待を寄せている程なのだ。


 此の様な砂糖生産では兵を弱くするだけではないか?

 余計な手間と資金を掛けて軍の食料に向かない砂糖を生産しているなど異常である。

(因みに、地球でもグラニュー糖と呼ばれる白糖の七〇パーセントはサトウキビから作られる。

 世界におけるサトウキビと甜菜(ビート)の生産比率から見て当然である)


 一つ考えられることは、兵士から味に関する不満が出た可能性が有ると云うことだが、特にそのような話は聞けなかった。

 菓子類にはサトウカエデや蜂蜜を使うことが多いからだ。


 また何より問題なのは、その生産量である。

 丸一日、街道を北上する砂糖運搬の馬車が途切れないのだ。

 一つの馬車に四百キロ程の荷が乗るとして一日に九十~百二十台は北に向かい、また戻ってくる事が彼此(かれこれ)ひと月は続いているという。


 そうやって視察と聞き込みを終え山小屋に戻ったのだが、そこで更に驚く話を聞く事になった。


 ウラヌフ老からの情報によると軍に付属した研究所からの依頼で北部の砂糖保管庫も全て開放して、将来ラキオシアやフェリシアに販売する予定であった砂糖まで、全て工場で白糖化しているという。

『幾ら何でも砂糖を集めすぎていやしないか?』 

 誰もが疑問に思う中、桜田の計算から恐るべき結論が出た。


「三百万人が二年間、毎日一キロ食べても余る量を集積してますね」

「……」

 誰もが絶句である。


「シエネの城壁前で綿飴(わたあめ)屋でも始めるつもりですかね?」

「綿飴ってなんだ?」

 石岡の冗談にルースが突っ込んだ。


 が、巧がすぐに方向を修正する。

「そのうち食わせますよ。 

 ともかく、幾ら考えても『それ』だけでは結論は出ないな。

 ルースさんの方も何か情報が有るって聞いたけど? そっちも聴きたいね」

 巧の其の言葉にルースも我に返った様だ。

「いやな。北に送られた奴隷が何人か怪我をして送り返されているんだが、現地の鉱山で再開されているのは鉄鉱山じゃないらしいんだよ」


 実に不思議、と云う表情のルースに巧はそれほど不思議かと返す。

「鉄以外にも軍で必要な金属はあるよね? 留め金用の真鍮(しんちゅう)を作る為の鉛とか(スズ)とか?」

 だが、巧の反論は不明確な回答ながらも否定されてしまう。

「ん~、それがな。変な物掘ってるらしいんだよ」

「変な物?」

「実物を手に入れたんで、持ってくるらしい」

何処(どこ)からか分かるかな?」

「一番汚染が酷い辺りだな。熱水が噴き出す中でタイミングを見計らって掘るらしいんだが、間違えると、あっという間に大やけどだとさ」

「それで、怪我人ってわけかい?」

「そう言うこと」


「熱水鉱床ですね」

 石岡がそう言って話題に入ってきた。

「石岡、分かるのか?」

 巧の問いに彼は首をかしげる。

「いや、あんまり知らないんですけどね。高校の時の先生が色々面白い授業をしてくれたんですよ。 

 その話の中で、熱水が噴き出す中で生まれやすい重要な鉱石があるって教えてくれたんです」

「ほう。で、何が生まれるんだ?」

「忘れました」

「……」


 糞の役にも立たねぇ、とルースが呟いたことで石岡が落ち込んでしまった。

 彼は意外と繊細なのかも知れない。


 色々と騒がしい六人組がああでもない、こうでもないと言い合っている内に翌日になり、問題の『石』が届いた。

 メタリックブラックの見事な石である。

 既に加工が済んでいるかのように見えるが、これが原石だと聞いて驚く。

「見たことあるか?」

 巧の質問に誰もが首を横に振った。


 中央陣地に戻って、整備員か技師に尋ねるよりないようだ。

 魔獣の毛皮や鱗の強度を測定し、その対応策を研究するための施設もシエネの隣の地球軍キャンプに設置されている。

 魔獣研究室と名付けられた其処(そこ)で訊こうと云う訳だ。


 集められる物も情報も手に入った以上、引き上げることにしたのだが、石を持ち込んだ男が、もう一つ確認して貰いたい、という『物』を持ち出してきた。

 魔法研究所に納品されている品だというのだが、此には流石の巧も困惑する事になる。


「何ですかね、これ?」

 それ(・・)を見せられた時、せっかく情報を持ってきてくれたルースの部下に思わず不審の目を向ける処であった。

 流石に其れは自重したのだが、物が魔法や科学に関連するようには思えなかったのだ。

 それは、球根のように見えるのだが、また『芋』のようにも見える不思議な植物である。

 同じように全員に尋ねるが、これも誰も分からないと言う。


 大量の砂糖、メタリックブラックの石、そして多分に芋。

 巧は芋については一通り知っている筈である。

 自生して食べられる食物は出来るだけ知っておくようにしていた。

 そうでなければ、兵長の頃に受けた『偽装及び生存率確認訓練』に於いて十年ぶりの完遂など出来ようはずもない。

 だが、この芋は知識のどこかにはあるのだが、どうにも思い出せないのだ。

 隼をハンガーで見た時のようなもどかしさがあるが、あれも思い出せたのだから慌ててはいけないと気を取り戻す。


 このところの失敗は、原因を辿れば全て焦りから来るものなのだ。


「取り敢えず(これ)も保留だな。いざとなりゃ地球に戻ってから調べるさ」

 しかし、情報が不足しすぎている。

 巧がそう思った時、“気遣(きづか)いの男”岡崎が一番言っては欲しく無かった台詞を言ってしまった。

「う~~ん。このままだと手遅れになった瞬間に此等(これら)が全部繋がって、『なるほど!』ってパターンになりそうですね」

「……岡崎、」

「はい?」

「それ、言いっこ無しにしてくれよ」

 項垂(うなだ)れる巧の様子に岡崎は真面目に反省したようだ。

「すいません……」


 二人の会話に『石』と『芋』を持ち込んだ男が、もうひとつ情報があると云ってきた。

 訊くと、シナンガル軍の新兵器の実験が近々行われるのだという。

 場所は西アスタルト山脈、文字通りアスタルト砂漠を西に()き止めている山脈だ。

 その最北の街、ガンディア郊外で実験が行われるというのだ。

 勿論、簡単に見ることは出来ないであろうが、この石や芋が何らかの形で繋がる可能性は高いという。

 砂糖を含めて、此等の物資は全て『シナンガル魔法研究所』の指示で集められた物だからである。


 全員俄然(がぜん)と興味が湧く。

「近いというのは、何時(いつ)かな?」

 巧の質問に彼は戸惑った様子を見せた。

「あのですね」

「うん」

 全員の声が重なる。


「今日との事です……」


「アホか! 近々じゃ、ねーだろ!」

 巧とルースが共に叫んだが、溜息を吐いて桐野が付け加えた。

「あ~~、これは慧ちゃんの言う通りになりそうですね、准尉」

「だから!! それ言うなって……」

 巧としては『参謀長』などという階級にそぐわない重い役職を背負っていると云う事と、ヴェレーネを守りたい一心で焦りきっているのだ。

 俯いてしまい、最早顔も上げられない。


 落ち込む巧に山崎が声を掛けてくる。

「准尉、時間はまだ有りますし俺たちも考えます。 

 任せろとは言いませんが、少しは頼って下さい!」

 その言葉に巧は驚いて山崎の顔をまじまじと見てしまった。


 山崎としては怒鳴られるのではないかと、不安げな顔付きになっている。


 だが、そうでは無い。


 山崎のその言葉を聞いた瞬間、巧はあることを思い出していたのだ。

 ロークの死を見届けに来たヴェレーネと、その時に自分が彼女に掛けた一言である。

 山崎は、あの時の自分と同じ事を言っている。

 そして自分はまた『一人で抱え込む悪い癖』が出ているのだ。


 岡崎や桐野はことさら不安をあおったのではなく、“自分たちはこう考える”と意見を出して自らを巧と同じ立場に置こうとしただけだったのである。

 少々、言葉に間違いがあるのは問題だが。


 其れに気付いた時、巧は少し楽になった気がした。

 それから、桜田の忠告は他にも意味があったとも気付く。


「山崎、すまん。ありがとう。お前の言う通りだ。頼らせて貰うよ

 岡崎も、な。但し、桐野は少し言い方を考えてくれな」

 そう言うと、全員の顔を見回して笑みがこぼれた。

 その様子を見たルースが肩を竦めると“なるようにしかならん!”と言って場を収め、

「飯にしよう」と元気よく言った。

 空腹の時はまともな考えも出てこない、との彼の言は正しい。

 実験についてもルースの配下が出来る範囲でも調べを進めると言ってくれているのだ。

 無理かも知れないが其方(そちら)にも期待して、取り敢えずは食事に移るために準備を始め、空元気でも無いよりマシだとばかりに、皆それぞれに騒ぎ始めた。


 但し、桜田が『昨日から準備していた自信満々の本格的な英国料理だ』と言って“ウナギのゼリー寄せ”を出してきた時には、巧は危うく空の胃から何かをリバースするところであった。

 当然、没収・廃棄&拳骨のフルコースである。

 桐野が「だから言ったのに、」と桜田を慰めていたが、分かってるなら()めろ、と巧としては言いたい。


 さっき心の中で感謝したばかりだというのに『何でこんな事ばかりするかね。この女は』、と本気で胃も痛くなってくる。


 気を取り直して準備を進めるが、桜田が桐野の料理を手伝うと言いだしたので男性兵全員で彼女を椅子に縛り付けた。 

 このときばかりは温厚な岡崎ですら全く躊躇(とまど)わなかった為、ルースが腹を抱えて笑う。


 ウラヌフ老の自ら焼いたパンは少し固いパンだが、スープに付けて柔らかくしてから食べると丁度良い。

 桐野がレトルトの肉を持ち出して、固いパンをパン粉にして香辛料と共に半端な揚げ物に仕上げたが、カブとトマトピューレのスープに良く合う味付けであった。

 バジルをたっぷり使ったビーフカツレツとミネストローネもどきといった風情である。

 ウラヌフ老と石を持ち込んだルースの部下を含め、賑やかな昼食になった。


 ルース領及びガーイン間の連絡網は完成し、ルースの反乱組織の無事も確認された。

 無駄な旅だったのではない。

 侵攻に関するヒントすら手に入れたではないか。

 巧は急に気楽になり、桜田といつもの掛け合いが出来る程に元気を取り戻していた。


 既に三月四日であり、翌日には引き上げなくてはならない。

 魔獣を避けて早朝の出発となれば早めに眠りに就かなくてはなるまい。

 そんな事を考えながら互いに笑い合っていた。



     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 二月の二十六日にランセと共に中央陣地を飛び立ったカレシュは、遅くとも三日後、即ち二月二十九日には巧と接触が可能であろうと考えていた。

 (ランセ)の最大速度をカレシュは知らない。

 ランセが常に、カレシュを怖がらせない範囲の速度しか出さないからだ。


 しかし、A-10と共に行動している内に、時速七百キロまでは充分に出せていた。

 計算上は三日後処か、休みを含めても二日目の昼前には巧を捉えていたであろう。


 だが、そうはいかなかった。


 中央陣地を飛び立ち二時間が過ぎると、早くもラボリアが見えてきた。

 此処からは少し進路を変え、真西に舵を切る事になる。

 不可侵域の上空を飛んでいるのだが、ランセにとって何ら問題は無かった。

 彼に近付く竜など存在しなかったのだ。


 だが、不可侵域の三角州の中程で妙な存在にぶつかる事になる。

 カレシュは驚きを隠せない。

 彼女は今、ランセの角を捕まえる事など無く、頸元(くびもと)から伸びた手綱を握って飛んでいる。

 その手綱を外したところでランセの近くに居さえすれば彼との意思の疎通に何ら問題は無い。


 今まで、カレシュに叱られることを除けばランセが何かを気に留めることなど無かった。

 だが、ランセが今、何らかの『苛立ち』を抱いている事がカレシュに伝わってくる。


 背中にいるカレシュを守りきれるかどうか、其処に気を向けているかのようである。

 珍しくカレシュとの思考の繋がりを弱めている。

 それほど周りに気を向けているのであろうか。

 何かを警戒していることだけはカレシュにも強く伝わって来るのだが、其れがなんなのか彼女には全く判断が付かないのだ。


 何処(どこ)に何が居ると言うのだ。 周りを見渡すもカレシュには何も見えない。


 カレシュが何らかの気配を感じ右を向いたその時、ランセが右の羽根を大きく(かか)げた。

 カレシュを守る行動である。


『何か』が飛んできて、ランセの羽根に当たると四散して()ぜる。

 ランセに「怪我は無いか?」と尋ねると、“全く問題無い”と帰ってくる。

 ほっとしたカレシュだが、ランセは続けてこう伝えてきたのだ。

“手加減されるのは分かっていましたから”と

 

 何かいる。だが何も見えない。

 カレシュは今、自分の魔法が使えないことが悔しくて堪らない。

 攻撃が来ると云うことは相手が居るという事だ。


 自分に魔法が戻れば、これ程の力を持つ相手の居場所が分からない筈など無いのだ。


 ランセから“南に向かいたい”という声がしてきた。

 本当は、カレシュを降ろしてあげたいのだが、既に危険な場所である不可侵域上空である。

 このまま南に向かうならば、何者かも攻撃を止めるようだ。


“無事に戻してみせるから、お願い!”と彼は必死である。

 カレシュとしては「自分など捨てても良いから逃げなさい」

 と意識を送り込むのだが、ランセは其れだけは認めない。

 自由気ままなこの子に似合わず、カレシュを守る為だけの行動を選ぼうとしているのだ。


「ランセも一緒に帰らなきゃ、やだよ……」

 条件付きで了承した彼女の返事にランセからの意識は確かに帰ってきた。

 唯、其れの中にカレシュに向けて詫びる気持ちが僅かに混ざっていたことを彼女は見逃すことは出来なかった。


『ランセを無事に連れ戻すのだ!』

 何の力もない少女が何故、其処まで思い込めるのかは分からない。

 仮に岩国が誰かに其れを尋ねられたとしたなら、

“それが彼女だからさ”としか言い様が無かったであろう。



 カレシュは最後の通信を試みる。

 与えられた任務を全うできそうにない以上、現状を報告しなくてはならない。

 しかし中央陣地処か、ゴース軍からすらも返信は無いままに二人は進路を南に向けざるを得なかった。



     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 三月七日、巧達のキャラバンは復路(ふくろ)二日目も昼を過ぎ、誰もが次の小休止に心を寄せていた。

 そんな中、先行警戒(ポイントマン)を受け持っていた石岡から、妙な物が見えると全員の無線に連絡が入る。


 指揮官の判断が必要だとの言葉に、何事かと尋ねる巧であったが、石岡の返事は、

「見て頂いた方が早いかと思います」

 と簡潔であった。


 幌が邪魔をして周囲は見えなかったのだが、馬車から降りて見れば左手の砂漠まで良く見通せ、先頭馬車まで行く必要もなかった。

 石岡が何を差して自分の指示を求めているのかはすぐに分かったのだ。


 遠い。三百、いや四百メートルは有るであろうか? 其処に何やら緑色の物体が見える。

 蛇のように長く伸びているが立体感はまるで感じられず、布が広がっているかのようだ。


 商隊の一人に尋ねる。

「あれが問題のサンドワームかな?」

 予想はしていたが、全員が首を横に振った。


「サンドワームは、肌色や砂色で保護色が強いんです」

 これは襲われたことがあるという男だ。

 他にも、

「近寄られるまで気付かないそうですからね」

「砂の上に現れる長さは()れと同じくらいだと聞きますが、それなら激しく動いているはずです」

 など、何れにせよ否定の意見ばかりが飛びだしてきた。


 数人で双眼鏡を持ち出し、確認を取ってみる。

 桐野もスナイプスコープを持ち出して右目に当てていた。


 巧としては『あれ』が何か、回収して確認したいところであった。

 そして、結論だけから言うならば其の判断は決して間違いではない。


 実は先日行われたルーイン・シェオジェの実験に於いて、雲の上にあった『それ』は突風にあおられる形で三本の紐を引きちぎられ、結果一つを喪失した。

 ルナールは慌てたが、シェオジェは落ち着いた物で、


「風向きから見て南東にしか飛びません。また、実験用の小型のものですから二千キロも飛ばないでしょう。 

 落ちたところで砂漠の真ん中では誰の目に触れる事もありませんし、何にせよバルコヌス山塊を越えることは出来ませんわ」

 そう言って意に介さなかった。



 だが今巧達の目の前にある其れこそが、その実験装置なのだ。





サブタイトルの元ネタは、フィリップ・K・ディックの「少数報告」マイノリティ・レポートです。

映画にもなりましたね。


なお、作品中に表れた『ウナギのゼリー寄せ』は、ぶつ切りにしたウナギを茹でて塩水にぶち込み、ローリエなどで味付けして一晩かけて煮こごりにする、という由緒正しきイングリッシュ・ロークラス・ディナーですw

画像はこちら。

挿絵(By みてみん)


それはともかく、本日投稿時間が大幅に遅れたことは申し訳ありません。

体調の問題が出てしまいました。

これが、中々どうしようもなく困っておりますが、読者様方にはご容赦いただきたいと思います。

今後もご迷惑もかけるかと思いますが、宜しくお願いいたします。

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