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星を追う者たち  作者: 矢口
第五章 地球の風、カグラの嵐
53/222

52:★パッチワーク・ワールド

 シナンガル人民共和国における『主席』は今から五百年以上前は『マスター』と呼ばれていたと言う記録がある。

 現在の主席であるワン・ピンは共和国の『マスター』が『主席』と呼ばれる様になった時期くらいは知っている。


 六ヶ国戦乱の頃にシナンガル以外の五ヶ国における『マスター』が国王だの、大統領だのと名乗る様になったのだという。

 シナンガルの場合も大凡(おおよそ)に置いて、その頃に同じようなことが起きたのであろう。


 ある王国は血縁主義で国を持たせていた様だが、その手の国は最初に滅んだ。

 血統を国民が認めなかったという。

『王家の血統』

 これが何を指すのかよく分からないままであった為、『独裁』と云う事で国内から崩壊した。


 それを教訓としたシナンガルは、選挙による『議員』とその議員から選出される『主席』を指導者とする民主主義国家として西大陸の王者となったのだが、結局の処、戦乱が終わった時点で戦争において最も功績の大きかった『シュリス家』が主席を三代にわたって独占した。


 形式的には議員間相互選挙という形ではあるが、何のことはない、単なる政争によって地位を独占したに過ぎない。


 シュリス家を追い落として、次の主席になったのはシェタート家であった。

 七代続いたという。


 その後も幾つかの家が一代のみ、或いは十二代にも渡って続いた。


 三百年前、ワン家の二十二代前の先祖は議院ではあったが、末席も末席であり、その頃は開発担当地経営に悩んでいた時期であった。

 戦争がようやく終結し、議員は食糧の確保に追われていたのだ。


 当時、既に議員の数は千名を数えており、元々敵国人であったワン家は新興議員と云う事で辺境の森林を与えられたのは良いのだが、労働力が不足していた。


 この頃、土地は国民から預けられたものであって議員の私物ではなかった。

 政争の中とは云え、一応にまともな時期であったのだ。


 当時も人口は充分であった。

 しかし、労働者は戦争が終わったことの解放感からか、広大な大地に広がって自由に生活しており、ワンの開発担当地の様な辺境に来たがるものは居なかった。

 彼の担当地は大陸の西の果てだったのだ。


 戦争によって人口が減る、と言うのは端的に言って余り正しくはない。

「死者」は出る。当然だ。

 しかし、戦乱期であるからこそ人々はその危機感からか人口増加に励むのである。

 これは地球の第一次、第二次世界大戦後に世界的なベビーブームが起こり、先進国ですら一時的にではあるが人口が爆発的に増大したことにもよく現れている。


 地球の件はひとまず置くが、当時のワン家の先祖の思考はフェリシアの人口増加の緩やかさに向いていた。

 戦後の人口増加とそれに伴う食糧難に頭を痛め、その政治体制を羨んだのだ。

 あの国は五百年間、戦場にならなかった。

 だからこそ戦争後に爆発的なベビーブームを迎えることなく緩やかに人口が増加したのだ。

 国全体が落ち着いていたことに憎らしささえ覚えていた。


 対して西側は生き残るためには開墾を続け、農地を増やして行くしかない。

 しかし、フェリシアの様に魔法を使えるものも少なく、少数で広大な大地を豊かな穀物庫に変えることは難しい状況であった。


 人口は有り余っている。だが、民主主義国家で「職業」を押しつける訳にはいかない。

 また、先に述べた通り、広い地域にバラバラに住む生活やその中でも都市部への人口集中が大規模な農業生産を妨げていた。


 フェリシアに頭を下げ食糧援助を求める。

 西側を統一して覇者となったはずの旧来からのシナンガル人である『旧国民』にほど屈辱的な百年間であったと言えるが、豊かな東部穀倉地帯が戦争を支えていたことも、戦後のカグラ全体を救ったことも共に事実であった。


 六ヶ国戦乱初期に置いては「戦争法・交戦規定」と云うものが存在していたらしい。

 その中においてフェリシアは常に中立、もしくはそれに近い立場を取っていたため、食糧援助を嫌がらなかったとも言われる。



 さて、その戦争の問題点は統一国家をどの様な政治体制にするか、という点に焦点が絞られていた。


 つまりはカグラのリーダー争いである。

 いや、元々はもっと別の理由があった筈なのだが百二十年を超える戦争の中で、『真の』理由すら忘れ去られていた。

 本来、もっと重要な問題があったはずなのだが、長い歴史の中で有耶無耶(うやむや)になってしまっていた。


 戦争が終わって開墾が進み百年ほど経つと、担当地は『議員管理地』と言う名の“議員私有地“へと変化を遂げていく。

 議員の選挙は最初、『食糧緊急時』と言う理由で行われなかった。

 次いで、フェリシアとの『戦時』であるという理由に取って代わられた。


 次第に土地所有の権利を手放さないために議員選挙の先延ばしが公然と行われていく。

 そのような中で税が重くなると、一般国民が『議員管理地』での労働を望む様になる。

 巧の国で古代に起きた『荘園制度』のようなものが始まった。


 『管理地』を得る議員の中には推薦と言う名の賄賂の横行によってワンの様な旧敵国の人間が多く混じる様になった。 

 彼らは食糧生産の能力をバックに次第に力を付け、発言力は大きくなる。


 そして議員は次第に『貴族』となっていった。


「個人による土地の自由所有の権利は認められるべきだ」

 シナンガル人の自然な欲求であったが、それすら議会に置いて増加した旧敵国人の反対にあって成立しなかった。

 旧敵国の人間とシナンガル人の権利は基本的に同じであり、推薦を受ければ空席になった議員席には誰でも座れた。 それが悪用されたのだ。


 本来シナンガルも初期には平等を基本とした、自由と希望に満ちた国であったはずなのだが、戦争は結果として様々な傷を残したのだ。


 善意による外国人の平等な受け入れの結果、議員所有の土地は増え、管理を名目に土地の個人所有が完全に禁止されていく。


「馬鹿げている!」


 旧来のシナンガル人の誰もがそう思っていた頃であった。

 次第にその旧敵国人の人口は増大し、どちらがシナンガル人でどちらが旧敵国人かあやふやになってきたのだ。


 そして旧敵国の中で『黒髪、金の瞳を持つ』血縁主義を重視する旧敗戦国の民族が何時(いつ)の間にか多数派を占めると、『純粋シナンガル人』を名乗り、本来のシナンガル人は人種の混血の中に消えた。

 シナンガルという国はいつの間にか生まれ変わってしまったのだ。



 百五十年程前、首都においてワン家はある一件の邸宅を手に入れる。

『ギルド会館』と呼ばれる、何の組合を指していたのか分からないまでも、三階建てのまずまず大きな建物であった。

 ワン家としては、領地沿岸の海産物の干物や特産品の販売所を目的として、街の中央部に在り一階部分に広いスペースを持つこの建物を、かなりの無理をして手に入れた。


 それがシナンガルの政治体制を更に大きく変える事になるなど、購入した当人も気付かぬ事であったのだが……。



     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 ルナールが首都に戻って一月(ひとつき)が過ぎていた。

 九月も半ばを過ぎた。

 彼は主流派議員の会合に呼ばれた折から、魔法荷車の話の他、多くの話をしてきた。


 最初ルナールは、

『馬鹿にされるなら良い方で、ピナー将軍が敗戦の責任を彼に押しつけて何らかの責任を問われる為に呼ばれたのではないのか?』

 そう疑いながら議員会館の門をくぐった。

 しかし、思いの外に主流派議員の面々の感触は悪いものではなかった。


 かなり真面目に『魔法荷車』について話を聞いたのだ。


 実際、ピナーに悪意があるのではないのかと疑ったことに付いては、ルナールは詫びるべきであった。


 ピナーは敗戦について責任をどうするか悩んでは居たが、別段それをルナールに押しつけるつもりはなかった。

 また、ルナールが首都に呼ばれたことで上手くいけば主流派議員からの叱責も少なくなるであろう、と考えルナールの功績を正しく伝えてあったのだ。

 尤も、包囲網の連携が崩れた理由を『彼以外の部下が欲に走った』、と云う事にしたのは言うまでも無かったが、ピナーの立場としては当然の保身であろう。


 実際、表向きに彼は部下の暴走を止めるそぶりは常に見せていたのだから、非難には当たらないとも言える。



 さて、ルナールを招聘(しょうへい)したグループは主流派の中でも特に『トップ』と呼ばれる人々ばかりであり、特に首席補佐官のマークス・アダマンが居たのには驚かされた。

 主席の懐刀とも言われる人物であり、滅多なことでは面会に応じない事でも有名であった。 

 大抵の事柄は下の者に対応させて、報告だけを受け取ると言われていたのだ。


 ルナールは様々なことを聞かれた。


 まず当然ながら、魔法荷車についてである。

 もう少し疑いの目で見られるものと思われていたのだが、主流派グループの面々はアダマンを含め、かなり真剣に話を聞いた。

 メモをきちんと取る者も多く、聞き逃すと『その点をもう一度』、或いは『もう少し詳しく分からないか?』など、相当な熱の入れように驚かされる。


 特にルナールが気に掛かったのは、アダマンからの質問であった。

「ルナール君は、その荷車が『本当に』魔法で動いていると感じたかね?」


 そう訊かれ、困惑した。

 言われてみると確かに奇妙(おか)しい。

「奇妙な音がしていたこと、人が表を見る為の窓があまりにも小さかったことなど不思議な点は多かった」

 と言うに留めたが、それ以外の意見は控えた。


 アダマンはルナールの其の姿勢に何やら満足げに頷いていた。


 また、(つぶて)を発する棒についても話題に上がった。

 多分に『ハンドキャノン』の一種であろうが、あまりにも速射性が良すぎる。

 そのような話で議員達は盛り上がったのだが、その時になってルナールはようやく気付いた。


『あの棒が“ハンドキャノン”即ち機械だとすれば、荷車も“機械の一種”であってもおかしくはあるまい』

 と言うことは、あの秘密が分かれば、『魔法王国フェリシア』に対抗できるのでは?


 ルナールは、この会合の意味にも気付き始める。

 軍事力の質的な増強に本格的に乗り出したと考えて良かった


 更に別の日には、爆発力のある火箭(かせん)の話題に移ったが、一番の問題となったのは七頭の『竜』の死亡である。


 ドラゴンライダー達の話によれば、竜はいずれも地上にいる時に殺されたと見られる。

 胸元に『焦げた痕があった』というが、家畜化されたとは云っても元々は魔獣である。

 一週間とせずうちに肉は溶解し、鱗と皮だけが残った。


 攻撃部位については外部からでも推測は可能だが、正確に体内の『どの部分』が攻撃されたのか知りたかった、と誰もが残念がる。


『この議員達は、かなり物事を合理的に考える人々である様だ』

 それがルナールの感想であったが、それならば何故、今の様な無闇な鉱山開発を続けるのだろうか?

 そこも又、不思議である。


 フェリシアに送り込んだ、間諜(スパイ)から、フェリシア南部で魔獣の活動が活発化してかなり手を焼いている事も聞かされたが、同時にルーファンショイの南部、未だ開拓は行われては居ないが、その地域に置いても同じように魔獣が増えてきたとの報告が入る。

 今のところ、猪程度のものらしいが、これに対する対策をルーファンに指示することでその日の会合は終了するものかと思われた。


 しかし、そこにニュースが入ってくる。


 フェリシア国内で、魔導新兵器と思われる飛行物体の噂が立っているというのだ。

 各議員は詳しい報告を知りたがったが、現在フェリシアでは『魔獣対策』として石壁の防衛ラインを引いており、そこから先に民間人は入れないのだという。


 また、兵士に偽装して潜入した所、昨日までは確かに有ったという『新兵器』は影も形も無くなっていたとの報告も添えられていた。



 二週間後、再びルナールは会合に呼び出された。

 フェリシアと南西諸島が互いを対等の独立国として承認し合ったという話題について意見を求められたのだ。


「軍事同盟は有るのでしょうか?」

 と言う彼の問いに、

『今のところは無い』との返答であったが、東西両面から攻められるのは拙い。

 バルコヌス半島への兵力増強なり、海軍の増強を考えるべきで無いのか、という意見を述べた処、好意的な反応が返ってきた。


 議員らはルナールに対して、『中央における軍師と会ってみないか?』と言い出した。

 どうやら、ルナールが首都から離れることは今暫くは難しい様である。


 

     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 


 記者会見後、巧とヴェレーネは首都セントレアからプライカへ戻り、桜田と合流すると地球の八月十日へと跳んだ。


 前回、地球からフェリシアに跳んだ日の三日後に帰って来たことになる。

 先に帰って来ていた五十嵐が出迎えてくれたが、

「あちらで六十時間近く飛んだのに、こちらでは全く記録が残らない、ってのは悔しいよな」

 と彼にしては珍しく愚痴を言った。

 こればっかりは地上のレーダー記録と照らし合わせるのだから仕方ない。

 巧としては苦笑して返事を誤魔化すしかなかった。


 整備班は、たった二日で『C整備』どころかオーバーホールが必要になった機体を見て、

「どんな使い方をしたら二日でこうなるんだ……」

 と開いた口が塞がらない。


 これはAS担当の班も同じらしく、早速、巧には苦情の嵐が吹き荒れた。


 曰く、

「破壊試験の時期は過ぎているんだ。車両を大事にしろ!」

「書類上、半分は官給品扱いなんだぞ!」

「部品が無いんだよ!」

「新型パーツの開発が必要な使い方するんじゃねーよ!」

「修理や整備じゃなく、開発課に持って行ってくれ!」

 等々である。


 整備班はその殆どの隊員が巧よりも下の階級とは云え、決して敵に回してはいけない集団である。

 半分はヴェレーネの責任に廻して頭を下げまくる一日が過ぎた。


挿絵(By みてみん)




 さて、その整備班であるが、車両班、AS班、航空機班の各班長が主任室に呼ばれた。

 フェリシアに各一個小隊三十人ずつ九十人を送らなくてはならない。


 協力を求めたのだ。 


 当然彼らにもアメリカ南北戦争についての話をすることになったのだが、有る週刊誌が「可能性」として話題にしてあったため、事は以外にスムーズに進んだ。


 班長達の反応を知った巧は、作戦を進めるための政府からのリークである可能性も考え、「穿(うが)ちすぎかな?」と疑り深くなった自分の性格に少し気が滅入った。


 ともかく彼は本命の活動に入る。


 まずは小田切に連絡を取り、

『フェリシア防衛において、フェリシアから見ての『外国』に国防軍を進めることを政府はどう捉えるか? 合法か? 違法か?』

 についての回答を求めた。


 予想された問題であったらしく、閣議では既に結論が出ていた様である。

 出ていた結論は意外なことに『合法』であった。

 理由は二つ。

 まず、フェリシアもシナンガルも地球上のどの国家もその二国を知らない。

 即ち『国家と認めていない』ということである。

 地球の法律上では『無主の地』である以上、国際法の概念に当てはまらない上に、宇宙開発条約にも抵触しない。


 また、現在、第二兵器研究所が行っている行動は、あくまで

『人体フィードバックの危険性が高いシミュレータ内部における兵器実験である』

 という建前であった。


 交易はどうなるのだ?

 という巧の質問に小田切はこう答えた。

「それは書類上、地球上の国からの輸入と云う事になっています。

 国家の行動は『書類』が事実であって、真実はどうでも良いのです」


 電話口からは彼の含み笑いが聞こえる様であった。

 後程、第二兵器研究所には政府から『実験規模拡大に関わる許可』の書類が届くとも言って電話は切られた。



 続いては第十二旅団へ直接赴き、上級大尉となっている池間と久々に顔を合わせることになった。

 上級大尉は少佐心得であり、半年もすれば自動的に少佐に昇進する階級である。


 ヴェレーネがフェリシアの現状と政府との密約について話を終えると池間は、

「それは、面白いですな」

 とは言ったものの、それ以上は何も喋らない。


 ヴェレーネは眉をひそめた。

 彼女は三年前に巧の上司と云う事で、巧をスカウトするに当たって池間と電話での接触は持っていたが、直接に彼と会うのは初めてである。

 この男がもう少し身を乗り出すと期待していたのであろう。

 しかし「脈はない」、と見て視線で巧に退室を促した。


 だが、巧は池間が何を考えているのかもう少し知りたいと思う。

「大尉殿。面白いとは何を指して仰っているので?」


「国防陸軍、一個大隊一千五十名。

 幾ら相手が近代以前の装備とは云え、その数で一国を相手に戦争をするなど、正気の沙汰ではない。そう言っている」


「しかし、やらなくてはならないんですよ。

 大尉もアメリカの件は聞いてらっしゃるでしょう?」

 巧の言葉に池間の表情が曇る。

「今回のクリスマス休暇が最初の勝負になるだろうな」


 アメリカの議会は此の国の様に数ヶ月と区切った会期は存在しない。

 二年を一会期として常に議会は運営されているが、その中の空白期間に当たるのがクリスマス休暇である。

 公式に認められたものではなく、各議員が自分の判断で休みを取れるアメリカ議会ではクリスマスに多くの議員が休みを取る。


 そして陰謀を巡らす者は、この期間を利用して議会で法案を通してしまう例が多い。

 アメリカの議員というのは意外と無学な者が多く、自国の首都の位置を地図で指し示せない者も別段珍しくはない。

 衆愚(しゅうぐ)政治の弊害(へいがい)であるが、それだからこそ能力のある本物の議員に力が集中する。


 法律の隙を突くのではなく、法律を上手く使うのだ。

 今回の南部連合脱退案もこの時期に成立する可能性が高い。

 或いは脱退宣言に対する制裁案である。

 いずれにせよ戦争になる。


 池間はそう言っているのだ。

 巧も同意見であった。


「小麦の先物取引が活発になっている」

 不意に池間はそう言った。

「値上がりですか?」

暴騰(ぼうとう)だな」(暴騰=爆発的な値上がり)

「やはり戦争ですか?」

 池間は巧の言葉に頷くだけである。


「米海軍はどの様に動くのでしょうか?」

「第一、第二艦隊はノルウェーとカナダに母港を移す。第七は横須賀で変わらんが広島に第九艦隊、若しくは第十軍が入ってくると言われているな」

「海軍は不参加ですか?」

「第三次世界大戦がしたいなら参加するだろうがな」


 米海軍の力は強すぎる。

 第七艦隊だけで地球の六十パーセントを灰に出来ると言われているのだ。

 また、内戦中とは云え諸外国における合衆国の権益を守る実力集団は必要だ。

 外交窓口は一つか、二つの州が中立を守る事で臨時政府を立てることになるのであろう。

 或いは、いずれかの同盟国にそれが置かれるかも知れない。


「太平洋中央作戦室が座間に置かれていたことが幸いでしたね」

「だな」

「州兵による戦争と云う事になると、監視団が必要になるのでは?」

「この国の陸軍に監視団を頼んで来る可能性が一番高いな。 

 其れまでに『フェリシア(あちら)の戦争』の片が付く訳でも無かろう? 

 監視団には俺も参加することになりそうだ。 中央即応集団から打診が来ている」


 なるほど、池間が即答できなかったのはそう云う訳であったのか、と合点がいった。

 彼は「時間がない」と考えたのだ。


 滅多にない機会なので、巧は池間をからかってやることにした。

「三日前にA-10が二兵研に入りましてね。 

 五十嵐大尉が喜んで乗り回してますよ」

「あいつが近接支援爆撃に興味があるとは、思わなかったな」

 池間はそう言って笑う。

 陸・空と所属は違うが、彼らが似たもの同士で接点が多いと云う事は巧は知っていた。


 ここで一押しする。

「昨日一日で六十時間ほど飛びました」

「?」

 池間は何が何だか分からない、という顔をした。

 巧としては此の顔が見たかったのだ。思わず吹き出す。


「からかいに来たのか?」

 池間の表情は困惑に僅かな不機嫌を交えた。

「嘘だとお思いなら、今夜にでも連絡を入れてみて下さいな。 

 電話番号、ご存じなんでしょう?」

 ニヤニヤと笑いながら言葉を続けるとヴェレーネまで笑い出した。


「なんだか知らんが気に入らんな。柊、お前性格が悪くなったぞ。

 その魔女の影響か?」

 

「上官に向かって偉い言いぐさね!」

 ヴェレーネが歯をむき出しにして喚く。まるで子供だ。

 池間は其れを見て思わず笑ったものの直ぐに、

「失言でした」と詫びた。


「しかし、そう意地悪をしないで欲しいものですな。 

 上下の関係とは言え、信頼関係無しには作戦の完遂(かんすい)は不可能ですよ」


「あら、それじゃあ、作戦に参加して下さるのかしらぁ?」


「時間が有りません。その点が問題なんです」


「時間のことなら、今の話がヒントになるとは思わないのかしら?」


 首をかしげていた池間だが、次の瞬間にはハッと気づいた様な顔を見せる。 


「……時間の流れが、違う?」

 確認する様な口調でゆっくりと池間が尋ねると、二人は笑顔と共に頷いた。




サブタイトルの元ネタはラリー・ニーヴンの「パッチワーク・ガール」です。 

今回の話と元ネタには何の関係もないですが、世界が入り乱れている様子を表すタイトルが欲しくて使わせて貰いました。

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