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星を追う者たち  作者: 矢口
第五章 地球の風、カグラの嵐
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49:南西諸島の不死鳥

ルースさんに会いに行きますが、途中で出会ったこの人どこかであったような気がする? 皆さんは覚えてるでしょうか?

 巧が森に近付く時、二台のトレーラーと三十式偵察警戒車両には、現在は最低百キロは後方で待機して貰うことになっている。

 戦闘に巻き込まれて貰っては困るからだ。

 三十式には簡易レーザーガンが装備されているとは云え、出力は一キロ程度の射程であり、熱線量もASのレーザーガンに遠く及ばない。

 また、再装備し直された三十七ミリ機関砲も当たらなければ意味がないのだ。

 扱いなれるまでは動きの速いハティウルフレベルにどれほど対抗できるか難しい、と考えて巧が皆を説得した。


 いざという時のバックパック換装は、トレとネロにトレーラーを走らせて貰えば良い。

 彼らは自分の身は自分で守れるのだ。

 まあ、それを言うならばヴェレーネはそれ以上であろうが。

「あいつは絶対、自力でドラゴンの十や二十は始末できるはずだ。

 何故こんな回りくどい方法をとる?」

 巧の偽らざる感想であるが、彼女には彼女の考えがあるのだろう、と思い敢えて聞かない。

 コペルが言っていたことに関係している様な気がしてきた為、今後は更に聞きづらくなった。


「まいった」と溜息を吐いた時、ベースキャンプが見えてきた。

 本日の成果を報告すると、

「ドラゴンまで!」と皆驚いたが、(いず)れ出会うにせよ三十ミリ・ガトリング砲で対応できる相手である以上は、レーザーガンまで装備している今、「特に問題は無かった」とだけ言っても誤魔化せた。


 真実を話すまで、巧の手柄になるのは少々心苦しいが、今、コペルと会って何を話したのか訊かれるのは(まず)い。

 四百頭以上の魔獣など、パニックの元だ、と巧は判断したのだ。


「主任。今、良いですかね? 一寸話が」

 パラソルを広げティータイムを楽しむ彼女は、まるで二十世紀初頭インド植民地の総督令嬢の風情である。


 おあつらえ向けに、桜田を始めとする四人はマニュアルに首っ引きになってオーファンのA整備(簡易整備、最大C整備まである)に熱を入れている

 人払いの必要もなく、自然に話せる。


「何かしら?」

「コペルさん、覚えてるかい?」

「ああ、あなたの日誌にあった謎の人物ね」


 巧は前回の『救出作戦』に於いて行軍日誌を付けていた。

 後から報告書を提出する為だが、ヴェレーネは

『下手に纏められた報告書より、日誌の方が客観性があるものよぉ』

 と言って日誌をそのまま読んだ。


 彼女が日誌を読了後に『コペルについて見当が付くか?』と巧は尋ねたが、彼女は首を横に振った。

 難しそうな顔付きは嘘を吐いている様には思えなかったが、何やら困惑しているのも見て取れた事を巧は良く覚えている。


「彼に、又会った」

 そう言って彼が現れた時の様子を話すと、ヴェレーネは何とも言えぬ表情をしたものだ。

「いや、気持ちは分かるよ。でも、巫山戯ている訳じゃない」

「あなたに不満がある訳じゃないわ。その男、知ってる奴を思い出すのよぉ。

 多分、本人ではあり得ないけどねぇ」

「そうか。なら良いんだが……」

 本音を言えば良くはない。

 性格程度ならともかくあの手の『化け物』がもう一人いるとなれば問題だ。 

 はてさて、と巧は(いぶか)しむが、今はそれどころではない。



 コペルの話を三つに分けて話す。

 最初はフェリシアの兵士達が地球の兵器に依存し、又、自分たちに無力感を感じつつあるのではないのか、という件である。

「気付いてたのぉ!?」

 ヴェレーネが驚いた声を上げたが、そちらの方が巧には驚きである。


「いや、恥ずかしながら俺じゃない。コペルさんからの指摘でやっと気がついたんだ」

「ああ、そうなの。でも、その人物、大したものね」

「近頃悩んでいたのは、それか?」

 ヴェレーネは頷く。


 そこで巧は自分の考えを披露した。

 戦争における情報と補給の重要性である。

「それは、分かるけど? それが?」

「主任。あんたにしちゃあ、鈍いね」

「意地悪しないでよぉ!」

 何だか分からんが、妙に甘えた口ぶりが怖い。


 取り敢えず、巧は今度はヴェレーネの案を訊くことにした。

「いずれは銃器を持たせなくちゃあならないのかな、と考えるんだけど。

 下手に構造を覚える者が居た場合が怖いのよ。といって、彼らに戦力を与えない訳には行かないしね」

 と溜息。

「RGP-7はいいのか?」

「あれは火箭(かせん)と一緒よ。それにモンロー効果を使ってますからね。

 簡単には模倣できないわ」


 モンロー効果とは爆圧を一点に集約させる効果であり、ある程度だが高度な計算が必要である。

 また、ヴェレーネが言った『火箭(かせん)』とはミサイルのご先祖様と言える存在だ。

 訓読みならば『ひや』と読めるが、一二三二年には南宋がモンゴル軍との戦いで使った記録がある。 

 原始的な模造品がこの世界に存在しても問題は無い訳である。


 しかし、燃焼薬莢を使用しているとは云え、元込め式小銃は一気に武器の発展を(うなが)しかねない。

 巧達の世界の武器を使用することに決まった第一回目の会議からの悩み処なのだ。


「じゃあさ、こう云うのはどうかな?」

 巧の話を聞いて、ベレーネは飛び上がる。

「な~るほど!」

 しかし、今度は一転不審な顔になって、

「私は、その案は悪くないと思うわよ。でも、効果あるかしら?」

「先の大戦の時のソ連で実証済みだよ」

 その言葉に、今度こそ明るく笑う。

「ありがとう早速、女王様に手紙を書くわ。無線は未だ王宮にはないの」

 そう言って立ち上がろうとするが、巧は慌ててそれを止めた。


「ちょっと待って、もう二つ話があるんだよ!」

「?」

「いや、言い辛いんだが……」


 そこで、ようやく四ヶ月後に起きる魔獣、四百頭の出現についての話となった。

 ヴェレーネの顔は真っ青になったが、直後には辛うじて声を絞り出す。

「百体前後まではあたしで片付けるわ……」


 やはり、と巧は思う。ヴェレーネは百処か全滅させることも可能だと見た。

 だが、出来ない訳があるのだ。

 小銃の様な理由であろう。


 気付かぬふりをして、

「すまんな」とだけ返した。


「あなた、可笑しいわよ。こっちの戦争なのに」

「こっちがやられりゃ、地球側もアウト、だろ?」

 巧の返事にヴェレーネは肩をすくめて軽く笑う。

「そうだったわね。処で、もうひとつは? 

 あなたのことだから、その対処法でしょ?」


「話が早くて、助かるよ」

 という訳で、ルースに会いたい旨を伝えると、露骨に眉をひそめる。


「何でよぉ?」

 と、ふくれっ面だ

 三十を廻ったおばはんが、かわい子ぶってんじゃねぇよ。

 と言いたい処だが、実際可愛く見えたため巧は少々自己嫌悪に落ち入った。


 気を取り直す。


「主任も気付いてるんだろ、彼が何を俺に頼みたいのか?」

「命乞い?」

巫山戯(ふざけ)ないで欲しいな。

 この国が、たかが戦争中の相手国の議員だってだけで、むやみに殺しに走る国とは思えないよ」 

「まあ、ね……」

「言葉を濁すって事は、やっぱり気付いているんだろ?」

 ヴェレーネはルースが巧に何を頼むつもりであるのか気付いているのだ。


「ああ、もう面倒くさい。人員が足りなくなるわ」

「五十嵐大尉じゃないが、土台六十人でやろうってのが無理なんだよ」

「指揮権の問題もあるのよ」

「大丈夫、大佐殿。五二五〇人まではあんたがトップだ」

「違う!」

 ヴェレーネの声は先程迄の演技掛かったものではなく、真剣な声だった。


「違うって、何が?」

「あなたよ!」

「俺?」

「そうよ。あなたが下士官って事が問題なの」

「なんだそりゃ?」

「最終的にどれだけ必要になるか分からないけど、国防軍内であなたが指揮権を持てるのは精々分隊までよ。特例で小隊三十から六十人ってとこね」

「だね。それで?」

「全体の戦略構想に参加することから外れて欲しく無いの」


「随分と買ってくれてるんだな。それでも俺が参加できるのは精々、戦術レベルだろ」

「今からルースに会いに行くことが戦術レベルの話だとでも思ってるの?」

「最終決定権は主任にある」

「でも……」

「でも?」

「本格的に動く様になると副官は尉官クラスになっちゃうのよ」


「俺に側にいて欲しいのか?」

 ぶん殴られた。それも少し魔力が籠もっていた様である。

 陸奥○明流?並みの凄まじいボディブロ-が見事に決まる。

「こ、こ、こ、今度言ったら。殺すわよぉ!」

 ヴェレーネの顔は耳まで真っ赤であるが、巧は気付かない。 

 それどころではない痛みなのだ。


 のたうち回りながら、巧は考えていた。

『この(アマ)何時か()る! オーファンのガンで遠距離から狙うしか勝ち目は無いが、それでも素手でやる!』と……。


 冷静になったヴェレーネは、慌てて巧にヒーリングを施した。

「あ、ゴメンナサイ……」

「ごめん、じゃねーよ! 死ぬところだろ!」


 ヒーリング効果で、痛みが弱まった処で話は再開される。

「大丈夫、離れないよ(お前を殺すまでは、な!)」

「それなら、良いんだけどね」

 巧の内心を知らずヴェレーネは納得顔である。

 と同時に、『あっ』っという顔をした。


「どうした?」

「官位を与えましょう」

「あんたに人事権があるのは戦場内でのことだけだろ」

「だからよ!」

 軍は大抵の国でそうであるが、大きな戦場においては総司令官が必要に応じて一時的に人事権を持つ。

 勿論限界はあるが。


「あっ、なるほど。この戦場に限定して官を上げるって事か」

「そう! 何ならフェリシアの名誉職でも良いわよ。

 連合してるんだから地球の軍に対する指揮権もあるわ」

「まあ、それはそのうちね。ともかくルースさんだよ」

「そう、ね。でも私たち此の戦線から動けないわよ?」


「後方で兵站が整って一万は兵が駐留しているんだろ。彼らに活躍の機会を与えてやれよ。

 なんなら、アルス当たりを一時的に引っ張ってきてもいい。

 それから、魔法士や魔術師に連携して魔獣と戦わせる方法を考えさせる良い機会だよ」


 巧の言葉に、ヴェレーネは(うつむ)く。

「死人が出るかも知れないわ……」

「戦争だ」

 巧は冷たく言い放った。


 一人も死なずに勝つことなど出来ない。

 ロークに対して、あれだけ『死なせない!』という気持ちだったのに、知らない人間に対しては冷たいと我ながら思うが、あの時ヴェレーネも言った通り、

『兵士は”結果として”死ぬことも仕事の内』なのだ。

 とはいえ、『死なずに済むなら』それに越したこともない。とは巧も思う。


「医療関係の魔術師を揃えて、後、重傷者を『プライカ』にすぐ“跳ばせられる”様にしておけば良いんじゃないかな?」

『プライカ』とは町の名である。

 アトシラシカ山脈から、流れ出るプルトという細い河が東部穀倉地帯の東側を貫く様に流れている。

 その下流、即ち穀倉地帯から二百五十キロ程南に位置する町である。


 また、元々工業の町であったのだが、現在、倒された多くの魔獣、ヘルムボアの皮やドラゴンの鱗などを加工することで武具の生産が伸び、魔獣の驚異に備える人々に飛ぶ様に売れているという。


 驚いたことに南西諸島からも噂を聞きつけてビストラントの海峡を抜け、買い入れに来た船があると聞いた。


 ともかくその町は現在、東部方面守備隊の補給拠点の一つにもなっており、魔導研究所の支部が設置され、『次元転移補助装置』が置かれている。

 接続先は、当然ながら『二兵研第六倉庫』である。


 ヴェレーネは少し考えていたが、

「うん。良いと思うわ」

 そう言って納得してくれた。




 移動には一週間の準備が必要になった。

 まず、後方の部隊から選抜を行い、四千の兵力を集めた。

 その上でカレルを方面隊長に指名する。


 また、RPG兵出身者が十名いたので彼ら用の武装も揃え、隊を二隊に分けてネロとトレに指揮を命じた。

 桜田はトレーラーの管理を行って貰うと共に、救急装備化させた兵員輸送車を用意したので、いざという時には、これらを使って前線からキャンプまで兵士を後退させる役割を担って貰う。

 また兵站の管理も彼女が全て行う。会計課主任としての腕の見せ所である。


 間接部補強の指示書を付けたオーファンを三十式の電力補助を受けて第六倉庫に送り、

「じゃ、宜しく」

 そう言うと、ヴェレーネと二人で三十式に乗り込みプライカに向かう。


 聞けば、ルースはスパイを行う可能性も考えられる為、首都に置く訳にも行かず、結局セントレアと国境の中間点であるプライカに留め置かれることになったのだそうだ。


「拷問とかされてないよな?」

 巧はふと心配になり、一応には訊いてみる。

「憲兵隊が全員、善人だと言うつもりはないけど、建前として拷問は禁止されているわよ」

 ヴェレーネは答えたが、苦い顔をする。

 少なからず、問題が起きたことがあるのであろう。


「シエネの兵士は立派な人々と感じたがな?」

「前線に近いとね。やっぱり、自分の振るまいが自分の死に様を決めるって無意識に分かってるんでしょうね」

 死んだ後に、どの様に評価されるか。 

 それがすぐに分かる環境の側で生きている人々は、権力を盾にする事の醜さを肌で感じるのだろう。


 安全地帯に近づくほどに、不心得者や権力を(かさ)に掛ける人間が増えるのは何処も一緒か、と巧は溜息を吐いた。



 途中で、アルボス軍の本隊に寄った。

 ヴェレーネが後方支援や、石壁の設営で特に頑張っているものを百名ほど選別しておく様にと伝える。


「何をなさるおつもりで?」

 アルボスの疑問には、側にいた五十嵐が質問という形で答えた

「叙勲ですか?」

「そうよ」

「良い、案ですな」

 ヴェレーネと五十嵐の会話の意味がアルボスには分からない。


 カグラにおける、叙勲は『武勇』における面のみで与えられていた。

 また、叙勲という制度自体が絶えて久しく、アルボスも全く気が回らなかった様だ。

 巧がヴェレーネに提案した兵士の士気向上の方法とはこの事であったのだ。


 何せよ、話を聞いたアルボスは喜んだ。

「兵にやる気が出ます!」

 五十嵐が続けて言う。

「補給がない軍隊は死体と一緒、いや下手をすれば略奪に走るから、それよりタチが悪い。

 縁の下の力持ちほど評価しないといけませんな」


 その五十嵐の言葉に、ふと巧は桜田を思い出した。

「文書管理の人間も候補に入れて下さい」

 アルボスも、それはよい、と頷いた。


 翌日、A-10を整備の為に”跳ばせ”て出発する。

 あちらでは自動的に整備班に信号が送られるので、今頃は、整備小隊が第六倉庫に走っているであろう。


「そろそろ、シャッテンヌマーを揃えたいんだが?」

 五十嵐がそう言った為、ヴェレーネは五十嵐本人も一緒に跳ばした。


「暫く、対等に酒を飲む相手がいなくなったなぁ」

 アルボスは残念そうであるが、一週間もしたら整備班込みで戻ってくる。

 航空機も後、二機増やすので飛行場の整備を頼む、と伝えてそこを発った。

 A-10は頑丈に出来ており、平地なら大抵の所に着陸可能だが、今の飛行場では、三機運用は難しいと見た為だ。


 なお、その日マーシアが巧と影で会って、嬉しそうに抱きついていたのは誰も知らない。

 ついでに言うなら、ヴェレーネも叙勲のアイディアでハインミュラーに頭を撫でて褒めて貰い、ご満悦であった。


 出発時に顔を合わせた二人は、互いに

「何か機嫌が良いね」

 と声を掛け合ったものだ。


 アルボス軍と別れてからプライカまでは四日の道のりであった。

 特に問題もなく三十式は進んだのだが、町が見えてきた所で妙な男に会うことになる。


 三十式は巧が運転をするしかない為、ヴェレーネは各地と通信を行い現状把握と補給の指示を時たまするくらいで殆ど暇だったのだが、町が近付いた為、車長席から顔を出して、人々を驚かせない様に気を配る役目を果たしていた。


 それでも、やはり車長六メートル、車幅二,五メートル、車高二,八メートルの三十式は現地の人間にとっては威圧感が凄まじい。

 なにせ燃焼薬莢の問題が解決された為、三十七ミリ機関砲及び七,二六ミリ機銃まで再装備されており、ほぼ軽戦車と変わらないのだ。


 道行く人は当然ながら驚くが、その度にヴェレーネはマイクを使って軍の新兵器であること、民間人には危険がないことを自分の名前で伝えなければならない。

 結構、気を遣っており、『LAVで来るべきであった』とぼやいたが、それは今回、無線中継用にキャンプに置いてきたのだ。

 それに、どちらにせよ驚かれることには変わらないと巧は思う。



 そうやって進んでいた時。

 街道の脇、右側に一人の男が立っているのだが、服装がちょっと変わっている。

 所謂、フェリシア人の格好とは違うのだ。

 どちらかというと、昔の巧の国の封建時代における武人の格好にやや似ている。

 袴に当たる部分は巧の国のものとは少々違い、やや細身だが実によく似ていた。

 武装は外して地面に置いている。


 その男が三十式を見かけると手を挙げたのだ。

 二人とも面食らった。

 このような反応をされるのは初めてだったのだから。



 男は四十歳には成っていないであろう。背は百八十センチ程。

 (もっと)もフェリシアでは男性の標準身長が高い為、そこは特には目立たないであろうが、とかく人目を引きそうなのはその見事な金髪である。

 短く見える様に後に流し込んであり、(あぶら)を付けているのだろうか、きちんと(まと)まっている。

 黒い瞳と、同じく日に焼けた浅黒い肌。

 しかし労働者的な感じはなく、人を差配することに慣れた雰囲気を持っていた。

 実際、周りに五人の従者とおぼしき人物を連れている。

 彼が立っているのに対して、そのうち四人は片膝を地に付けて頭を下げていたのだ。

 側には人数分の馬がおり、一人がその手綱を纏めて持っている。


 その姿勢は『敵意はない』と言うことであろうが、残念ながらフェリシアにも僅かながらではあるが山賊、海賊の(たぐい)はいる。

 町も近いが用心して車から降りずにヴェレーネは話しかけた。


「何者か?」

 少々彼女らしくない横柄さではあるが、この世界ではこれで良いのであろう。


 男は右手の平を自分の左胸に当て、一礼した。

「南西諸島の出で、エレコーゼ・オベルンと申します。 

 また、通り名は『ボトム』で通させて貰っております。

 失礼ながら、フェリシア王国魔導研究所所長にして王位継承権第一位のヴェレーネ・アルメット殿下とお見受けいたします。お待ち致しておりました」


如何(いか)にも、して何用か?」

「実は、南西諸島は我が兄が昨年をもって統一に成功いたしました。

 その為、国家としての承認を頂きたく、フェリシア国王陛下にお目通りを願いたく考えているのですが、なにぶん、先例の無い行為である為、面会もままなりませぬ。

 思案に暮れておりました処、近辺(きんぺん)で情報を集めていたこの男が、変わった荷車が来ると話しまして」

 そう言って傍らで平伏している男を指す。


「その荷車から、『ヴェレーネ・アルメット』様を名乗る声が聞こえる。 

と言うことで、急ぎ馬を跳ばしました」


「国を承認?」

「はい」

「臣下の礼を誓うと言うことか?」

「いえ、そうではなく。 

 あくまで対等では御座いますが、国と認めて頂かなくては交易も出来ませぬ(ゆえ)

「バロネットを通じて取引すればよい」

「この世界の問題点は其処ですな」

「どういう事か?」

「その件についてお話しをしたいと思っております。 

 明日、魔導研究所に入ることを許して頂く訳にはいきませんでしょうか? 我々は町にすら入れません」


 ヴェレーネは、(しば)し待て、と言うと車内にエレベータを降ろし巧に話しかける。

「どう思う?」

「国際法の考え方だね」

「国際法?」

「主任、地球にいた時は社会学をあまり真面目にやってなかったのかい?」

「時間が無限にある訳じゃないわ」

「まあ、そうだな。でも、会う価値はあると思うよ。魔法で攻撃される心配がなければね」

「やっぱり、刺客の可能性が有ると思う?」

「そこは、『読める』んだろ?」

 巧の言葉にヴェレーネは笑った。

「そうね。情報は有っても無駄にはならないでしょうね」


 その場で、町への入城許可を書き、自分のサインを入れる。

 但し、単独行動は禁止して三名以上で動く事を命じた。

 面会は三日後を指定する。

 

 巧に許可書が渡されたので右側面の銃眼を開く。

 こちらへ、と巧が呼びかけるとボトム自ら近付いてきたのだが、どこかで見た覚えがある。

 何処であったか?

 まあ、気のせいだろうと思い、ヴェレーネの許可証を渡すと男は実に爽やかに笑った。

 あちらからはこちらの顔は見えまい。

 しかし随分と人なつっこい顔であり、また何故か懐かしい感じのする笑顔であった。



 彼らは町まで三十式の後を馬で付いてきた。

 町に一緒に入ることになったので入城許可証はあまり意味がないかと思ったが、船との行き来があるので助かるとのことであった。

 船はプライカから東に六十キロ程行った港町ポルカにあるという。

 ポルカには首都セントレアのある半島への船便が出る港がある。


 翌日、議員会館に行くと客人扱いでルースが軟禁されていた。

 彼と話をすることになる。

 安心したのは、議員会館にいるということで当然ではあるが、拷問はされていないと云うことであった。


 そこで話をしたのだが、彼の話は巧の思った通りの願い事であった。

 また、ルースから、例のボトムという男の話も聞けた。

 彼は『兄が南西諸島を統一した』と言っていたが、ルースによると実のところ南西諸島の統一を果たしたのは彼であり、統一後はあっさり兄を王位に就けて、自分は財務・通商大臣の地位に収まったのだという。


 ルースの言葉で最も気に掛かったのは、

「あそこは昔からの戦乱地域であると同時に、奴隷が逃げ込んで作り上げた様な土地だ。

 大臣であるとか通商などと云う事を、何処でどの様に学んだのか不思議でならない」

 という一言であった。


 エレコーゼ・オベルン。自ら名乗る通り名は『ボトム』

 しかし、人は彼を『南西諸島の不死鳥フェニックス・オブ・アイランズ』と呼ぶという。




サブタイトルはSFファンタジーとして1970年に出版されたマイケル・ムアコックの「永遠の戦士エレコーゼ 黒曜石の中の不死鳥」からです。

ファンタジーなのですが、その基盤にサイエンスが存在すると言うことですので、立派なSFと言えると思いますが、内容は、主人公が酷い目に遭いまくるというだけのような気もします。

「ハヤカワ文庫」から新装版で出された表紙は実にファンタジックなものですね。

SF的な説明は薄い、と思います。

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