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星を追う者たち  作者: 矢口
第四章 脱出行
39/222

38:袋の鼠と竜のゲーム(Cパート)

「その石、もうちょっと大きいのに替えてくれる?」

 時刻で表せるなら夕方の五時頃。 

 夏場であり、未だ二時間は明るいだろう。

 巧達と別れた後、アルスは三十キロ程進んだ森の近くでトラックの周りに魔法陣を構築中であった。


 魔法陣は基本的な物と術者が高度ならより大きな体積の物を運べるオリジナルの物がある。

 オリジナルの魔法陣は知られたからと云って誰にでも使える物ではないが、出来れば一回使えば出発点・着地点共に壊してしまいたい。


 だからアルスは個人跳躍の方が好きだ。

 転移魔法陣など要らないのだから。


 尤も個人跳躍は見える所や行った事のある所に限られる問題がある。

 その場所にある別の質量を『纏める量子』で全てはじき飛ばさなくてはならないからだ。

 大気程度なら反応して淡く輝く程度で済むが、固体の物質なら元素爆発を起こしかねない。

 その為、着地点の誘導用としての魔法陣が必要な場合もある。

 ヴェレーネが異世界に跳んで平気であったのはエルフリーデの記憶を捉えていたことと、彼女自身の能力の特殊性に寄る所が大きい。


 それは兎も角として魔法陣は完成した。

 中央のトラックには女性や子供だけが満載されている。


 拉致被害者六十九名。

 レータを入れると七十名の中、女性と十五歳以下の子供の数は二十八名。 

 残りは老齢と病で戦力にならない男性が十名。

 それぞれに体が小さいから良いもののトラックは満載状態であり、荷物は毛布と最低限の食料を積み込むのみである。

 燃料はタンクの半分、二〇〇リットルある。

 カタログデータでは燃料は充分すぎるほどだが、路面状況や進路が直線ばかりではないことから完全に信用はできない。

 いざとなれば最後は歩く。


 もう一台のトラックの側には男達が居る。

 完成した魔法陣を壊せない為、一号トラックには近寄れず、円の外から別れを惜しむ。

「おとうちゃん。こないの?」

 小さな子どもの声が聞こえ、すぐ行くから心配するな、という父親とおぼしき男の声が返る。


 いよいよトラックは北の包囲網を突破する。

 対するはルーファンの若き大隊長ルナール率いる第八大隊一万及び、軍団長麾下の別働隊一千、計一万一千。

 が、この作戦は『脱出』が目的である。交戦ではない。

 其処を間違えてはいけない、と巧はアルスに強く念を押した。


 アルスとしては目の醒める思いであった。

 敵を叩きつぶして勝つ。

 それが戦場の習いだとすっかり思い込んでいたのだ。

 自分の能力の高さ故であろう。


 斥候に行っていたスプライトが戻って来たのが一時間前。

 案の定、国境の切り通しにあるフェリシアの防衛線に向かうルートの入り口となる丘は漏斗状の布陣で固められていた。

 今、アルス達のいる三キロほど先である。


 最初に敵を発見しやすく陣を広げ、相手が突破するほどに側面からの攻撃が強くなる。

 そして、最終点において包囲を完了し相手を潰す訳である。 

 鶴翼陣の変形。

 ルナールは誰に習うでも無しに、作戦目的と地形からこの陣を構築した。

 このまま育てばシナンガル屈指の大将軍になりうる素質の片鱗を見せている。


 だが、だからこそ彼と正面からぶつかる事は避けなければならない。

 彼は未だに魔法荷車(トラック)二台を発見していない。

 確実な通り道に待ち伏せをしているだけである。


 獲物が近付くまで気付かれぬ様に偽装工作もきちんとなされているが、完璧すぎて側面はともかくも正面には斥候が出せなかったのであろう。

 アルス達にとってはそこが幸いした。


 また、スプライトが陣地構築中の彼らを見つける方が早かったことも大きい。

 彼は電子や磁気を操って自分を隠す、ナチュラルな光学迷彩の持ち主である。

 普通の人間になら隣にいても気付かれることはないであろう。


 二号トラックは森の奥に隠れる。

 一号トラックの警戒線突破が上手くいけば、その後更に一キロは後退していく予定だ。

 タイヤの跡を見つけられない様に、男達は歩きながら落ち葉を散らしていくことになる。


 女性と子供が避難する一号トラックの救出隊メンバーはアルスとアルバの二名だけである。


 まず、アルスは見える範囲で十キロほど『跳んだ』

 空中に現れるとすぐさま『纏める量子』で自分の体を維持する。

 ゆっくりと、地面に降りた。

 そのまま、風を纏って走り始める。

 彼女が今まで出した速度の中でも最速の部類に入るであろう。

 百メートルで足を地面に着ける事が一度あるかどうかだ。

 飛んでいると言っても過言ではない。


 そのまま、約五キロを走りきった。

 この地点まで『跳んで』も良かった。 

 しかし、万全を期したい。

 万が一にも失敗は許されないのだ。


 無線は充分に届く。

「着いたわ」

『アルスお姉様大丈夫ですか?』

 相手はアルバである。

「少し休んでから始めたいんですが。どうかしら、相手に動きがあります?」

 敵とトラックは三キロは離れていた。

 自分の能力に問題はないと思うのだが少し回復の時間が欲しい。アルスはそう思ったのだ。


『スプライトが大丈夫だと言ってます』

「そう。でも相手が動く様なら連絡して。すぐに『跳ばせる』から」

『はい』


 約三十分後、アルスは完璧に近い状態にある。

 彼女が一度に『跳躍できる』、或いは『させる事が出来る』最大距離は二十キロ。

 一日に二回が限界だ。

 あと一回使えば、文字通り『すっからかん』に近い。

 第一回目の跳躍を半分の距離にして稼いだ残存魔力は、トラックの護衛用という事になる。

 此処さえ抜ければ、最長時間でも後二日半で国境を越えるのだ。

 問題は無いと計算した。


 正しくは巧が計算したのだが、


 アルスは息を整える。

「アルバ、三つ数えたら行きますわよ」

『はい』

 


 三秒後、トラックは完全に跳躍に成功した。

 ルナールの敷いた警戒線の遙か後方十五キロ地点である。

 場所も遮蔽(しゃへい)の多い場所を選んだ。

 これから林を抜ける様に走る。

 まず、第一陣の脱出は成功である。 

 アルスを拾い上げたアルバは、すぐさまアクセルを踏み込んで国境を目指す。


 二人掛の可能な助手席ではレータがスプライトを抱えて半分眠り掛けていた。

 足下にポンチョが滑り落ちている。

 これで顔を隠して乗り込んだかと思うと不憫でならないとアルスは僅かに泣きそうになっている自分に気付く。

 眠りに付いた彼女をそっと抱きかかえながら、アルバに命じた。

「急ぎましょう。第二陣の救出に間に合う様に!」




 森の中で静かに歓声が上がる。

 トラックが消えた瞬間、大の男達が涙を流した。


 その様子を見ながら桜田は大きく息を()く。

 これから二日間、本当に逃げ切れるのだろうか?

 戦闘になった場合どうするのか?

 巧から指示を受けているとは云え、(から)め手など何もない正攻法である。

 心臓に悪い。


 だが、自分で望んだ事だ。

 人を殺せない軍人なら、人を救うしかないのだ。

 そう思った。



     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 巧達の乗った三十式偵察警戒車両は一旦前進した後、南の田園地帯に入りUターンする。

 森を抜けて進んだ。

 敵の斥候が居た場合を考えて、自分たちの向かう方向を誤魔化したかったのだ。


 昼間に小休止を取った丘からかなり西に向かって戻ったことになる。

 但し、先程小休止した場所が街道の北だとすれば、現在は街道から真南である。

 より高い丘を捜して一気に登り切った。



 先程、桜田が『ハイ』と手を挙げて発言し、巧とハインミュラーが大笑いしていたのは実はこれだ。

 敵の包囲は完成していない処か、竜の航続距離の計算により包囲前の『竜』のキャンプ地点まで割り出せたのである。

 巧やハインミュラー同様に各個撃破の絶好の機会だと桜田も気がついたのだ。



 計算してみると明後日の挟み撃ちに備えるなら、竜使い、或いはドラゴンライダーとでも呼ぶべき集団はこのあたりで一晩、休む事が望ましいと出た。

 

 明日の夜、休むであろう場所が戦場まで二十キロ程。

 戦闘時間を考えて滞空時間は四十キロ分の余裕を稼げる場所を選ぶと考えられる。

 そうなると、その地点から六十キロと言えば此処(ここ)になる。


 当日は巧達が逃げ回らないとも限らない。実際逃げるに決まっているのだが。

 彼らは初陣(ういじん)である以上は必ず慎重になる。

 綿密な飛行スケジュールを立てて飛ぶであろう。

 そう考えた。

 そして、導き出した地点が此処から十キロの半径内である。


 万が一、間違っていたとしてもこの丘の高さなら二十キロや三十キロの誤差など問題は無い。

 彼らの通り道の真下に当たる以上はレーダーが必ず感知する筈だ。


 通常レーダーは『鳥』と感知した物には反応しない。

 何でもかんでも反応していては困るからだ。

 しかし、三十式搭載レーダー処理システムは体長五メートル、翼長十メートルの飛行物体を鳥と感知して、情報から切り捨てるほどの阿呆な情報処理機能ではない

「サンマル()めるな!」

 巧は呟く。


 その言葉にリンジーが反応した。

「そうですよね。この子はホントにすばらしい子です」

 この旅では八割近く彼女が三十式のハンドルを握っている。

 愛着が湧いている様だ。 

 デュアルスティックタイプのハンドルを愛おしげに撫でる。


「ペットネームでも付けるかい?」

 巧は笑う。

 三十式にはペットネームが無い。

 過去の偵察警戒車両の中には黒塗りであることから『ブラックアイ』と云うペットネームを持つものもあった。

 だが今は誰もが皆、三十式を『サンマル』と呼ぶ。

 そのままで語呂がよいし、何より外観にレーダードーム以外の特徴らしい特徴という物がないのだ。


 女の子。それもエルフにペットネームを貰う戦闘車両がいたら、こいつが最初かもな。

 と思い、巧は笑う。


「ペットネームって何ですか?」

 そう訊いてきたリンジーに巧は、

「この子にはね。まだ、名前がないのさ。 

 名前を付けたかったら付けてやってくれよ。かっこいい奴を頼むよ」

 軽い冗談で時間つぶしをする。


 車両長の席には、ハインミュラーが陣取っている。

「機銃が使えん戦車長というのも少し物足りんが、この旋回監視塔(キューポラ)は中々気分が良い」

 そう笑う。


 後部乗員室には魔術師のネロとトレ、そしてマーシアが揃う。

 捕虜のサミュエル・ルースも後ろ手に縛られて座らされている。

 今まで程、拘束が厳しくないのはやはりマーシアがすぐ側にいる為である。


 ルースは、

「墓には五体満足で入りたいんだから逆らわないって。手をほどいてくれよ」

 と言ってきたが、巧が、

「ルースさん。 

 マーシアはあんたの心臓が動いているのに気付いたら、あんたをバラすかも知れないよ」

 と訳の分からない脅しを入れて口を閉じさせた。


 個人的に嫌いなタイプでないからこそ、フェリシアで扱いがどうなるか分からない為、彼に情を移したくなかった。


 そのマーシアは後部左側を占領している簡易レーザーガン用の電池に胡座(あぐら)を掻いて、ハルベルトの手入れ中である。

「落とすなよ」

 と巧は言っておいた。

 筐体殻(きょうたいかく)が傷付くぐらいなら良いが、彼女の場合は中身まで破壊しかねないと思ったのだ。


 車内には銃が八丁。

 此処までは良いが、その銃弾二万発

(八丁に対してなら通常三千もあれば多すぎるのだが、今回はかなり持ち込んだ。

 通常戦闘での個人携帯は最大四百発前後である。)

 RPG-7が四丁と弾頭が二十四発揃っている。 後は予備の燃料。

 これらが後方でかなり場所を取っているが側部・後部銃眼の位置は確保できた。


 まあ、これらの実弾は使いたくはなかったのだが、明日以降はそうも行かない。


 結局、『一筒でも紛失したら、ヴェレーネに殺されるだろうな』と、既に覚悟を終えた巧であった。


 二号トラックにもやはり銃身加熱を考えて小銃は十四丁、弾は二万発はあるのだ。

 最早どうしようもない。



 五時三十五分、桜田から第一陣の警戒線突破の報が入る。

 皆で拍手をした。

 女性や子どもたちは、まず問題なく故郷の土を踏めるであろう。

 誰もがアルスに感謝する。


「まずは『ワン、ダウン!』」

 ジェフリー・アーチャーの小説で覚えた言葉が巧の口を突いて出た。





 巧の時計で十九時を廻る頃、レーダーに『感』があった。

 翼長おおよそ十メートル。対象数七。


 これだ! 間違いない。


 五キロほど手前の森の前の広場に降りた様だ。


 巧も小休止点にしようかどうか、と迷って通り過ぎた場所である。

 帰路の休止はハインミュラーに一任していたのだ。

 口は出すべきでないと思っていたので、巧はその場所をよく覚えている。


 電気低速走行で、その位置まで向かう。

 時速十五キロ。


 四十分後。発見した! 確かに『竜』らしき物が居る。

 数は七頭。


 巧はコモドドラゴンという奴を地球にいた時にテレビ番組で見たことがある。

 胴体部分はよく似ている。

 羽根はと云うと、恐竜化石の予想図のプテラノドンの羽根に厚みを付けて、鳥の様に折りたたんでいる。

 胸元が、鳩の様に膨らんでいるのを見て、

『やっぱり鳥類という奴は爬虫類からの進化生物なんだなぁ、あれ逆だったっけ?』

 等と考える。


 巧は学術的好奇心をひとまず放棄した。

『竜』を始末しなくてはいけないからだ。


 こちらは四メートル程相手より高い位置にいる。

 レーザーガンの砲塔をエレベータで四十センチ程上げると俯角(ふかく)が取れた。

(俯角=下に向ける角度、上に向ける場合は「仰角ぎょうかく」と言う)

 照準内に収まる。

 ハインミュラー老人には車長席を車内に戻して貰ってパノラマスコープで外を見て貰う事にした。


 街道に面した直径三十メートル程の広場の隅に竜を繋いで、ライダーと思わしき人物達が、焚き火を囲んでいる。


 サーモグラフに写る焚き火を攻撃対象から外す様にセットした。

 照準レーダーを竜に当てると反応して騒ぎ出す。

 慌てて電力を絞る。おとなしくなった。

 距離の割に出力が大きかった様だ。

 

「どうしたんですか?」

 巧の慌てた動作に気がついたリンジーが聞いてくる。

「いや、あの竜達、レーダーに反応したんだよ。 

 今後、やっかいな相手になるかも知れないな。いや、まてよ、」

「?」

「ま、こっちの話だ。今回は大丈夫だよ」


 今回三十式に取り付けられた簡易型レーザーガンの有効射程は二キロ。

 三連射して、冷却に三十秒かかる。

 但し、一度に十二の対象をロックしておける様にしてある。

 これは元々三十式がもつレーダー機能が優秀であるお陰だ。

 

 ともかく、対象までおおよそ五百五十メートル。

 小銃でも射程内ではあるが、頭に直撃でもしない限りは、あれを一発で倒せるとは思えない。

 十二,七ミリの対物ライフルならば話は違うのであろうが、それを超える三七ミリ機関砲は現在車体から取り外されている。

 と、思っていると、ハインミュラーが巧のお土産を持ち出した。


「どうするんですかそれ」

「せっかく貰ったんだ。試させて貰いたいね。試射も終わって調整済みだよ」

「あちらからは見つからないと思いますが、レーザー発射後の冷却時間は三十秒しかないんですよ。上に揚がるのは危険です」

「外からやるのさ。それに三十秒もあれば逃げられる奴は逃げるぞ」

 そう言うと、ハインミュラーは『それ』を持って表に出ようとする。

「ヘル、それは(まず)いですよ」

 巧がそう言うと。

「大丈夫、薬莢はきちんと回収してくる。約束するよ」

 そう言って薬莢袋をひらつかせると、ドアを開け出て行ってしまった。


「リンジーちょっとだけ集音マイクを入れて置いておいてくれ。ヘルの発射音を確認しないといけないんだ」

 巧はそう言って肩を落とす。

(俺が綱廣(つなひろ)に狂う様な物だから、責めにくいんだよなぁ)

 そう思いながらサーモグラフィを操作していく。


 巧がハインミュラーに渡したお土産。


 それは、Kar98kである。

 一般的には第二次世界大戦中にドイツ軍が使っていたモーゼル小銃と言うと、わかりやすいであろうか。

 口径は七,九二ミリ、装弾数は五発のボルトアクション銃である。

 有効射程は五百メートル、短い様に思えるが小銃は元来このような物である。

 跳ぶだけなら二キロは飛ぶであろうが、きちんと当たるなら、と云う意味では五百メートルでよい。

 狙撃銃なら二,五倍から六倍スコープで八百メートル前後であろう。

 それ以上は砲兵の仕事である。


「しかし、スコープ無しの有効射程外だぞ。当たるのか?」

 やはり巧としては心配ではある。


 サーモグラフィと射撃管制のリンクが完了した。

『竜』の体温に合わせて、七つの赤い三角形が示される。

 ロックオンされた証拠である。


 近い対象から、順に撃って行くであろう

 レーダー及びレーザー手の席は車長席の後で、運転席の後にある計器類に対して座る。

 要は、正面から見ると真横に座っている訳だ。椅子を引くと後部兵員室との間のドアを塞ぐ形になる。

 リンジーはチラチラと左肩越しに巧を見ている。


「スコープ見ててくれな」

 そう言って、巧はペリスコープを降ろさせ、正誤判定を声にする様に言った。

「当たったら『当たった』って言ってくれよ」

 レーダーで表示されるのだが、サーモグラフィだと判定に少し時間が掛かるのだ。


 巧は壁に垂直に置かれたコンソールの照準を確認して、真下にある発射ボタンを押す。


 リンジーは見た。

 三頭の竜がいきなり倒れる。

 そしてその後、闇夜(やみよ)に白い筋が一瞬現れた。


 誤解されているが、映画の様には熱ビームレーザーは目には見えない。 

 夜間に空気がプラズマ化した現象が僅かに現れるくらいである。

 それも遅れてだ。


「倒れました! 三頭!!」

 リンジーは大興奮である。

 簡易レーザーガンは『竜』の最も体温が高く動きの多い部分、即ち心臓を一撃したのだ。


 兵士達は竜が倒れたことに気付かず、食事を続け歓談の真っ最中である。


『三連射撃ヲ行イマシタ。銃身ノ冷却終了マデ残リ三十秒デス』

 機械音声が冷却開始を告げる。


 竜達が仲間の様子がおかしいことに気付いて騒ぎ始めた。


 兵士達も慌てて立ち上がり、竜の下に駆け寄る。

 何事かと騒ぎ始めた様だ。 

 竜が死んだ事に気付いたのか、何人かは周りをきょろきょろと見渡している。

 死んだ竜に取りすがっているのは騎乗主であろう。


「すまんな、今夜は新月だ。おまけにサンマルは真っ黒の塗装と来てる」

 冷却中に巧も車長席のパノラマ式照準器を覗かせて貰って呟いた。


『冷却終了マデ、残リ十五秒デス』

 竜が興奮し始めた。ライダー?達が(なだ)め始めたが上手くいくか?

 そう思いながら、巧はレーダー席に戻る。


『冷却終了マデ、残リ十秒デス』


「ああ、大変!」

 リンジーが声を上げる。


「どうした?」

「ものすごく暴れてます! 逃げちゃうかも!」

『冷却終了マデ、残リ五秒デス』


「あ、ロープ引きちぎっちゃいましたよ。一頭!」

『冷却完了デス。 射撃可能』

 巧は、迷わずボタンを押した


「やりました!! 飛び上がろうとしていた竜が落ちましたよ!! 

 それと後二頭も! 残りは一頭です!」

 

『三連射撃ヲ行イマシタ。銃身ノ冷却終了マデ残リ三十秒デス』


「後一頭はどうかな?」


「あっ!」

 リンジーがおかしな声を出す。

「逃げちゃいました」


「う~ん、残念! 一頭逃がしたか」


「違います。騎手達が全員森の中に逃げちゃったんです。

 竜は後一頭。綱を引きちぎろうとして暴れてますよ!」

 リンジーの声は焦り気味だ。

 なんだか、サンマルが失敗することが許せない、と云う感じである。


「切れそうか?」

「あ、切れました。逃げる~~ぅ!」

 リンジーが悔しくてしょうがないと云う声で嘆いている。

『冷却終了マデ、残リ二十秒デス』

 その声に冷静な機械音声が被り、それに腹を立てたリンジーはコンソールを叩く。


 と、同時に『ヴォム』と重い音が響いた。

 モーゼルの七,九二ミリ弾が発射された音である。

 現代のNATO標準弾である五,五六ミリと違い、口径が大きく火薬量(ガンパウダー)が多いため重い弾を打ち出すことになる。


 当時と今では火薬の質は違うので一概に比較は出来ないのだが、初速は遅いものの貫通力よりも打撃破壊力に優れるのが理屈と言うことになる。

 竜とやらが如何に鱗が固かろうが、場所次第であろう。

 しかも相手は『モドキ』である。


 銃声は一発だけ、

『シャコッ』

 コッキングレバーを引く音がする。

 薬莢が飛び出したはずだ。 

 排莢口に袋が取り付けてあったので其処に飛び込んだのだろう。

 落下音はなかった。


「……どうなった?」

 

「……眼に、眼に何か飛び込みました。今、落ちました!」

 リンジーは大喜びである。


(とんでもねぇ爺様だ。夜間射撃で射程外に投げた牛乳瓶を打ち抜いた様なものだぞ)

 巧は違う意味の冷や汗が出るのを感じた。


 しかしながら、二十時十八分、『ツー・ダウン』である。


 後は少しばかり仕掛けをして、その場を去った。



     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



「今、連絡がありましたよ。竜は全部処分したそうです」

 桜田が、カレルに伝える。

 側にいたロークが、

「凄いよな、流石は巧さんだ」

 と手放しで褒めた。


「ああ、こっちでも聞こえたよ。しかし、凄いね」


「『モドキ』とはいえ、空を飛んでるんですよね?」

 ビアンカが食事の配布を終わらせてテントに入ってきた所で話に加わった。


 桜田はカレルに確認を取る。

「電波状況が悪い所まで下がるって聞こえました?」

「うん。あっちもこっちも両方とも森に潜む訳だからね」


「明日になれば連絡は付くそうですよ」

 心配そうな顔をしたビアンカを見ながら、桜田は微笑んで言葉を付け加えた。


『この場でのリーダーはカレルさんだけど私が頑張らなくっちゃいけない』

 と、何故か桜田は肩に力が入りすぎている。

 ハインミュラーや巧が見たら、おかしい、と言っただろうか。


 いや、知っていて任せた以上、何らかの考えがあるはずである。 

 それとも他に人がいなかっただけか……。


 ビアンカ以上に自分こそが不安そうな顔をしている桜田に、『あんまり気を張ると持ちませんよ』とロークは声を掛け、ロッソとの警戒交代に出て行った。




今の書き方に、何らかのご注文はないでしょうか?

気に掛かります。

お一人様でも結構ですので、評価して頂けると反省材料になるかなと思います。

できればで結構ですので、少し頭の隅に置いて頂ければ有り難いなと思っています。

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