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星を追う者たち  作者: 矢口
第四章 脱出行
36/222

35:誰かが道に立っている

今回は前半は、ほのぼの。

後半はちとヤバイのです。

 今回の輸送に使用した四トントラックは荷台長が六,二メートル、幅が二,四メートルである。

 其処に燃料をドラム缶積みで八本、計一六〇〇リットル。

 その他食料品から、テント、シーツ類等まで詰め込んであったので、一台は最初から完全な満載であり、もう一台も半分は埋まっていた。


 車体の燃料タンク内の量も含めて、燃料は行きで半分以上消費したものの未だに一台の荷台には四本のドラム缶が詰まり、空のものは、屋根にくくりつけてある。

 地球のものを出来るだけこの土地に残したくないのだ。

 最初は、ウィンドカッターでばらしてしまおうと思ったのだが、カレルの提案でそれは暫く待つことにした。


 帰路三日目、トラック二台の荷台内部は六九名の被害者と、荷物でごった返している。

 多くの荷は屋根に積み上げたのだが、過ぎればバランスが悪くなる為、限界があった。

 また、今すぐにでも車を止めて落ち着かせてやりたいのだが、万一の追っ手を考えると少しでも距離を稼いでおきたい。


 小休止と食事の時間も今までの様にのんびりとは行かない。

 八十名を越える大所帯となっては、食事の準備だけでも大変な労力であり、何より隠れる森を探すのに難儀することになった。

 初日など昼食は車内で取って貰った程だ。


 しかし、不満を漏らすものなど一人もいない。 

 誰もが唯、故郷に帰れることを喜び、荷台に同席したカレルやアルバに礼を言っては涙を流すことの繰り返しであった。


 アルバは照れくさいこともあったが、此処まで多くの人たちに感謝されたことは無かった。 

 日頃のうっかりも消える程に精力的に被害者の世話に勤めていく。

 カレルは怪我をしている者、特に衛生環境の問題から皮膚病や眼病の診察に忙しい。

 そのため衛生面も考えて幌は部分的に開けて走っている。風通しを良くしなければならないが、通る場所によっては土埃にも気を遣わなくてはならない。

 そこは、カレルの判断に任せる。


 密閉型のトラックを選ばなかったのは、救出者の数が増える事を見越してのことではあったが、此処まで増えたとなると選択を誤らなくて良かったと巧は胸をなで下ろす。


 その巧は、現在三十式の指揮席で後方警戒の真っ最中である。

 行きは三十式が先頭を走ったが帰りは逆で、三十式が最後尾について警戒を行う。

 指揮席は、助手席をエレベータで上昇させるもので、巧は天井部分の半屋外に上半身を晒している。

 また、本来は車内から操作するレーザーガンの回転砲塔に接続したトリガーを握って三百六十度の目視を続けていた。


 近距離用の熱源探査装置(サーモグラフ)はともかく、レーダーが人間に反応しにくい為であることもあるが、実際はパノラマ式照準機(最大二十倍)があるため、一々顔を出す必要はない。

 それでも、彼が顔を露出しているのは、前にいるトラックの荷台にいる被害者達に心理的な安心感を与えることを最大の目的としている。


 三十式は無骨である。

 彼らからしてみれば得体の知れない化け物に見えるかも知れない。

 馬の上に人が乗る様に、人の顔が見えるだけで安心できると巧は考えた。

 そして、それは正解だった様だ。

 最初は恐る恐ると三十式に視線を向けていた人々が、その存在を意識しなくなり、時々は子どもたちがこちらに手を振る程に視線が変わった。


 車内のレーザーガン操作席には、現在は捕虜を縛り上げてある。

 リンジーは僅かに困惑したが、運転に集中しても大丈夫な様に縛り上げてあること、いざとなれば撃ち殺すことを話すと、複雑な表情ながらも少しは安心した顔になる。


 巧から見て彼女は年齢の割にしっかりしていると思って居たが、このように年相応の恐がり方をしてくれるのも、また新鮮な感じでほほえましい。

 巧は知らないが、リンジーは女王覚醒時にヴェレーネから与えられた言葉を今でも大切にしている。

 そこが、彼女を年齢以上に立派に感じさせるのであろう。

 マーシア覚醒の際には醜態も見せたが、あれは止むを得ないといえるご愛敬だ。


 そのマーシアが、警備に付いていると聴いて被害者達は皆一応に安堵したものだ。

 殆どの者が六十年前の伝説を子供の頃の『躾け』に使われていたのだ。

 その恐怖の対象が今自分たちを守ってくれているなど夢の様であった。


 奴隷にされて、最も長い者なら十年にはなろうか。

 既に亡くなった者もいると聴かされ、カレルやアルバは勿論のこと二号車でドレスをポンチョで隠して被害者の世話に当たるアルスも、思わず(こうべ)()()びを口にした程である。


 フェリシアには身分制度はない。

 女王以下は一律に平等ではあるが、やはりその宮廷や研究所に使える者にはそれなりの『格』というものが存在し、尊崇(そんすう)の対象になっている。


 カレルやアルスもそのうちの一人であり、そのような人々が自分たちに此処まで尽くしてくれることに涙を流す者まで居た。

 唯、奴隷小屋で生まれた子どもたちが数名おり、その子どもたちには今後、先のシナンガル人に言った様な『支配・被支配』以外の人間関係を教えて行かなくてはならない。

 最も成長した子で六つにはなっていなかったので余り心配することもないのであろうが、『三つ子の魂百まで』とも言う。

 礼に応えながらも、度の過ぎた敬意は子供の為に良くないと、彼らを軽く(たしな)めるアルスであった。


 それがまた、尊敬の度を深める結果となってしまうのだが。



 さて、戦魔王マーシアは中央の二号トラック梁に縛り付けられたドラム缶に腰を下ろして風に吹かれていた。  

 前のトラックの屋根にも同じように二人の魔術師が座り込んでいる。

 勿論、屋根には(はり)(ほろ)はあるのでドラム缶は紐を通して固定され、その上に腰掛ける形だ。


 周囲への警戒を怠らず、何かあればすぐに戦闘態勢に入れる様にしてあった彼女だが、その前に未だ(かつ)て無い強敵が現れた。


 それも三人も、である。


 二号車のトラックで親達からマーシアの話を聞いた子どもたちが、作業はしごを伝って屋根に上がってきたのだ。

 二人の男の子と一人の女の子である。

 男の子の一人は狼人であり、この子が最初に身軽さを生かして屋根に上れることを発見したのだ。


 狼人の子が取り付けられた金属梯子に脚をかけて昇ってきた。

 助手席の後ろに当たり、荷物に塞がれた梯子の位置は大人ではやや手が届きにくい。

 驚いたのは、マーシアは勿論であるがマリアンもである。


(危ないから、降りてもらおうよ!)

“とはいえ、どう言えばいい”

 二人が悩むうちに体の半分を屋根に乗せている。

 それ以上登ってくる気はないらしく、そこでじっとしているのだが、平地と言うこともあり車は充分な速度が出ている。

 道は当然、舗装路ではない。危険である。

 

 と、手を滑らせた。

 下から悲鳴が聞こえる。

 慌ててマーシアが飛びつき、その手を掴んで引き上げる。

「危ないではないか!」

 ホッと息を吐いたが、その後は怒声と共に狼人の子を睨む。

 落ちそうになったことに驚いて目をつぶっていた子だったが、恐る恐るとだが目を見開くと、マーシアがホッとしている顔を確かめては何故だか嬉しそうだ。


「どうした。私に何か用か?」

 出来るだけ優しく訊ねると、少し恥ずかしそうに笑う。

“ハティウルフが笑うとこんな感じかな”

(酷い事、考えるね。可愛いと思うんだけどなぁ)


 下の方から親とおぼしき声が詫びながら、子供を受け取りたいと言ってきた。

 それならば、と渡そうとすると、マーシアにしがみついて離れない。


「なあ、お母さんが心配しているのだ。帰りなさい」

 そう言うと首を横に振る。

「どうしたのだ?」

 余りしゃべれない様だ。

 その時、ふと、マリアンはあることを思い出した。

 友人で、一度イジメにあった子がマリアンの前でも余り上手に喋れなくなっていたことを。


(この子、奴隷の時に喋ったことが原因であそこの人たちに殴られたことがあったんじゃないのかな? それで余り喋るのが得意じゃないと思う)

“なるほど、どうすればいい?”

(はい、か、いいえ、で答えられる質問をすると良いと思う。 

 そうすると慣れてくるよ。多分……)


 マリアンとて自信はないが、そうしか言いようがない。

 これは巧に習った方法で、その子とは『それ』で上手くいった経験はあるのだが。


「私に何か話があるのか?」

 そう訊いてみると、首を横に振る。

「じゃあどうして……」


 話をしかけて、このままだと『YESorNO』の質問にならないことに思い至り、言葉を変える。


「何か、知りたいことがあったのか?」

 今度は首を縦に振った。

「怒らないから、言ってみるんだな」

 そう言うと、遠慮がちにではあるが、やっと口を開いてくれた。


「見たくって……」

「見たい? 何を? 遠くか?」


 そう言ってマーシアは子供を抱いたままドラム缶に腰を下ろす。

 マーシアとて大柄ではない。

 自分で『大人になる』、と決めた十五歳頃で外見の発達が止まってしまったのだ。

 身長も一五五センチを僅かに越える程度だ。

 大人が子供抱くと言うより、仲の良い年の離れた姉弟のようになってしまった。


「よく見えるか?」

 そう言うと、狼人の子は頷いたが、すぐに

「マーシア様……」

 と呟く。

「どうした?」

 そのまま黙り込んだ。

「困ったな。黙っていては分からんのだよ。頼むから困らせないで欲しいのだがなぁ」

 本当に情けない声になった。


 すると、

「怖くない……」

 と一人で納得する様に呟く。


「何が、かな?」

「マーシア様。怖くない」

 そう言ってきた。

 マリアンが中で大笑いをしている。


 マーシアにもやっと状況がつかめた。

 この子は『ザーストロン・ルシフェル』の話を、ついさっき生まれて初めて聴いたのだろう。

 そこで好奇心が勝ってマーシアを見に来てしまった所、見つかった。

 しかし、見つかった拍子に驚いて手を滑らせたのだが、そのマーシアに救われたことで話と違うと喜んでいるのだ。

 自分たちを『あの場所』から救い、両親がこれほど喜ぶ顔を初めて見させてくれた人が悪い人では困ると思ったのである。


「なるほど、そう言うことか」

(じゃあ、沢山、話をして安心させてあげようよ)

“私は、そう言うのが苦手だ”

(マーシアの訓練にもなるから、話す内容は僕が教えるよ)

“なんだ、その訓練というのは?”

(そのうち、お兄ちゃんと仲良く喋りたくないの?)


 最後の台詞は効いた。 

 マーシアがマリアンの中に居て居心地が良かった事には、やはり杏や巧の存在が大きかった。

 となれば、当然ながら巧とは睦まじく話せるものなら話したい。

 彼の危機に『今こそ』、と思って駆けつけたら、事は既に終わっていた。

 挙げ句、最後に話したのは、あの女を大事にする巧に対して腹を立てた嫌味だ。

 何とか取り戻したいとは思っているのだ。


“わかった”

 膝の上で前方とマーシアを交互に見ている狼人の子に話しかける。

「何か、聴きたいことはあるか?」

「……悪いことすると、七十七に分けられちゃうってホント?」

「シナンガル人なら、な。フェリシアの子ならお尻を叩くぐらいだ」

「じゃあ、お母さんぐらいだ」

 そう言って『ふふふ』、と笑う。

「お母さん怖いのか?」

「うん。でも優しい時もあるよ」

「今まではな、辛い事が多かったり、お前を守る為に強く叱っていたんだろう。

 これからは優しい時間の方が多くなる」


 二人とも、親はこの子を守る為に必死だったのであろうと思い、胸が痛んだ。

「うん。この荷車に乗ってから、まだ一回も怒られてないんだ」

 そう言ってまた笑う。

 それは良かった、とマーシアも笑った。

 笑い声に釣られたのか、男の子と女の子が一人ずつ昇ってきた。

 おいで、というとマーシアの両脇に座る。


 下の方から、アルスが親たちに向かって、『大丈夫ですよ』と声を掛けていた。


 マーシアは、戦場の話は血生臭くならない様に話し、それからマリアンから習った『赤ずきんちゃん』を話した。

 子どもたちが喜んで、同じ話をもう一回、もう一回とせがむのには参ったが概ね楽しく過ごした。



 帰りは進行ペースが上がってはいる。

 少し余裕が感じられる様になった三日目の夜は、運良く川の側の森で野営が可能となった。

 水の質も良いこともあって、カレルの提案で全員を風呂に入れることになった。

 薪を集め、水をくみ、男女に分かれてドラム缶で風呂に入る。


 二つは既に、一度巧達が風呂に使ったこともあって灯油の匂いはだいぶ抜けていたが、あと二つは未だ臭う。

 するとマーシアが、内部の灯油を全て結晶化させてしまった。


 巧が驚くと、女性陣の使っていたドラム缶は既にそうしていた。

 と言われ、臭い思いをしていたのが馬鹿馬鹿しくなる。


 十年ぶりの風呂に感動する被害者も居る中、食事になる肉は珍しくアルバとアルスで狩ってきた。


 マーシアが十人を越える子どもたちに捕まって離してもらえなかったのである。

 薪を拾い終わった子どもたちは、順に彼女の周りに円を描いて座り何らかの話を聞いては大喜びしている。

『奇観』とは正しくこの一事(いちじ)。と誰もが驚く一幕であった。



    ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 三十式の後部兵員輸送室では、スプライトを抱えたレータがリンジーの看護を受けている。

 新しい包帯で顔の半分を綺麗に覆われており、カレルの治癒魔法も受けた。


 魔術師二人は移動中は彼女をそっとしており、車が止まると出来るだけスプライトと二人きりにしておく様にしている。

 場合によっては、移動中ですら車上天蓋に上がって風に吹きさらされているようだ。 


 彼らも口数が減った。


 不幸中の幸いとも言うのも(むな)しいが、性的な被害は受けていなかった。

 しかし、心の傷は大きい。


 カレルが、『大丈夫、少し時間は掛かるが必ず元通りになるからね』と言ったが、痛めつけ続けられた彼女には信じることが出来ない。

 何より、カレルは嘘が下手だった。

 努めて明るく言い過ぎた。 そのぎこちなさで分かる。


 リンジーには彼女を救えない。

 唯、時が過ぎ、少しでも恐怖の記憶が薄れるのを待つしかない。


 自殺しないだろうか、と心配になったが、操縦席に入り込んできたスプライトに

「未だに何かに(すが)ろうとしている人間は死なないし、死ねない」

 そう言われて、少しだけほっとした。

 彼女がスプライトを拒絶しない限りは彼女が自ら命を絶つことはない。

 そう云う意味である。


「ただ、体が生きることを拒絶するかも知れないな」

 とも言われたのには参ったが。


 彼女の救いは何時訪れるのだろうか、確かに牢獄からは逃げられた。

 だが、彼女は自分自身の檻から逃げ出すことは出来ないのかも知れない。


 スプライトに食事を勧めると、

「彼女が食えば、食うよ」

 とレータの前で、そう言った。

 彼は彼なりに彼女を生かそうと必死な様である。 

 

 リンジーの中でスプライトは女性に恥を掻かせない『紳士』だと評価が上がった。


    ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 五日目、このペースで進めばあと二日で(ライン)を越える。

 巧はそう計算していた。

 国境まであと百五十キロを切った。

 現在は、ヴェレーネとも協議してシエネに一直線に向かうシナンガルの中央街道を堂々と車列は走っている。

 

 午後からは街道外の進行地の起伏が激しく、荷物と一台につき四十名を満載したトラックでは進度が遅くなると判断したのだ。

 荷物もだいぶ片付けてはある。


 風呂も今日を含めて二日半は我慢して貰うとして、空になった六本のドラム缶はマーシアと魔術師達の座席分を除いて全てばらして板状にする。

 少し腰をかがめれば防弾板になる。 


 各トラックの後方と側面の幅一メートル程しかカバ-出来なかったが、二枚重ねにして間に毛布などを詰めてあるので七,六二ミリ弾ですら火薬(パウダー)の量次第では五百メートル以上の距離からならば止められる……、かも知れない。


 荷台までなら同じ距離で十二,七ミリ弾にまで耐えられる様に装甲化してあるが、如何(いか)んせん、人が荷台に座れば守れるのは腰から下だけである。

 全員が伏せる余裕がある訳ではない。

 この世界に、それほど貫通力のある魔法があるとは思えないが、臆病であるに越したことはない。


 いざという際に弓矢や火炎弾を防ぐ事にもなるだろう。 

 火炎に関しては、トラックの幌自体が防火対策されてはいるのだが千度以上の攻撃があれば長時間は持つまい。

 しかし、出来ることはやったと巧は思う。


 その上で、思い切って不要だと思われる資材の半分は燃した。

 そうやって車体を少しでも軽くし、速度を得て距離を稼いでいる。

 

 被害者達の乗車空間も少しではあるが広がった。




 昼食の時間も近づき、太陽も頂点にある。

 その男を最初に見つけたのは一号トラックで双眼鏡を構えていたカレルである。

 いや、もしかすると二号トラックの上で、フードを被って日を避けていたマーシアかも知れない。


 カレルは、『妙な格好をした奴だ』、と思っただけではあるが道のど真ん中に仁王立ちしているのは気に掛かった。


 マーシアはその男を見た瞬間、二号車から跳んだ。

 二十メートル以上前を走る一号車運転席の屋根に降り立つ。

 いきなり頭の上を飛び越えられた魔術師達が固まった。


 車の長さも添えると助走無しで三十メートルは跳んだことになる。

 大きくはないが、着床の瞬間にゴツンと言うぐらいの音はする。


 カレルが驚くと、無線から

「車を止めろ!」とマーシアの怒鳴り声が響いた。


 ハインミュラーもある程度のところで止めるべきか、罠と考えて一気に轢き殺すべきか迷って居たため、マーシアの判断に任せた。



「あんな奴が、この世界に居てたまるか」

 それが、ハインミュラーの感想である。


 髪は金髪の様だが帽子を被っているため、良く分からない。

 二十世紀前半に流行り、チャーチルも愛用したホンブルグだ。

 身長一九〇センチはあるだろうか。

 細身の体にきちんとしたYシャツと濃緑のスーツを着けている様だが、上着はベストまでであり、上から長い白衣を着込んでいる。

 そしてアンダーリムの細い眼鏡。ご丁寧にフレームまで緑色だ。

 笑っている様な細い眼ではあるが下品な感じはしない。しかし鋭い。


 こんな格好の異世界人が居てたまるか。

 それに何より、こいつは危険だ……

 

 此処に『虎』があったとしても、勝てるイメージが全く浮かばないのだ。


 ハインミュラーはどうやって避難民だけでも逃がすべきか、考えは既に其処(そこ)にシフトしている。

 

 巧と桜田から、停車の理由と、マーシアは何をしているのかと訊ねる無線が入る。

 それに対して、ハインミュラーはゆっくりと噛み含めて諭す様に答える。


「化け物がでた。マーシアが対応しているが迂闊な行動は取るな。皆殺しにされるぞ」

 これは無線が全員に繋がっている以上、マーシアにも自重を求めた通信である。

 聞いてくれると良いのだが、と思う。



 もし奴が敵なら、老人はこの世界で初めて『殺意』を持たざるを得ないであろう。

 その意志が現実に届くかどうかは別としても……。





サブタイトルの元ネタは言わずと知れたブラッドベリです。

あれは幾つぐらいの時に読むのが一番良いのでしょうかね?


中学生で読める人は凄い感心しますね。

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