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星を追う者たち  作者: 矢口
第九章 激戦区一丁目一番地
202/222

200:ザ・ガン

 ようやく全ての鉄巨人を倒したマーシアだが、やはり量子収斂が難しい事は彼女にかなりの負担を与えていた。


 兄のオーファンは何らかの新手におびき寄せられる形で森に跳び込んだまま姿を見せない。

 また、相田少尉率いる防衛線には遂に数体の鉄兵士が跳び込み、白兵戦となっている。

 後続の本隊である数十体を対物ライフルが吹き飛ばすことで連続した敵の浸透を許しては居ないが、僅か数体ですら陣地内を混乱に陥れるには充分すぎる数だ。


 あちこちで防衛兵が切り伏せられ、噴水のように血が噴き出す姿が遠目にも分かる。

 防護ジャケットを着た国防軍兵士は、腕や首でも切断されぬ限り出血も大きくは無いだろうが、瞬間打撃圧三トンを超える重量物に弾き飛ばされると、そのままピクリとも動けなくなる。

 挙げ句、隙を縫ってはシナンガルの弓兵まで五十メートル前後の位置に取り付き、最早、乱戦処か混戦と言っても良い状況が繰り広げられていた。

 これではAH(コブラ)も迂闊に援護射撃という訳にはいかない。


AH(コブラ)はとにかく後続を断て!』

『第二小隊、聞こえるか!  特に第一,第二分隊が奴らに近い!

 対物ライフル(バレット)で陣地内に跳び込んだ鉄兵士の排除に移行しろ!』

 赤井、相田共に殆ど同じ指令を出しているが、森林からバラバラに飛びだして来る兵士に対して、戦闘ヘリは三~四機も対応出来れば上出来である。


 戦場は決して狭くは無い。

 しかし、九機のヘリが全面展開出来るほどの広さもないのだ。

 何より、上空の竜を墜とすなり近づけない事がヘリに求められた最大の任務であり、迂闊に地上に近づき過ぎる訳にも行かない。

 真上から竜の火炎弾があれば、如何な最新鋭兵器と云えども墜落は免れないだろう。


 実際、既に一機が墜ちている。

 敵を甘く見すぎたのだ。


 大気環境の異常から量子収斂が難しい今、近距離ならば転移するより走る方が早いマーシアの中に、次第に焦りが生まれる。

「少尉! 今、向かう! 持ちこたえてくれ!」


『大丈夫……が、敵は……ます!』

 途切れがちな無線に辛うじて届いた相田の声。

 そこに重機関銃の打撃音が重なった。



      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇  



 鼻腔から大きく息を吸い込むと、戦闘時用に調整された適正酸素が脳をクリアにしてくれる。

“興奮状態が保てず戦意が下がる”と嫌う兵士も少なくないが、DASメットの補助装置では巧が特に気に入っている装備だ。


 心は燃やしても、頭は冷静でいなくては戦闘に勝つ事は出来ない。

 戦場に限らぬ闘いのセオリーだと巧は思う。


 今、オーファンは木々の間を縫うようにローラーダッシュを稼働させていた。

 時にはアンクル()アシスト()ホバー()を働かせて、走行時の振動を軽減させる。

 完全体であるグランド()エフェクト()ホバー()と違って高度は取れないが、高速移動の補助には充分だ。

 何より巨大な電圧によって駆動する二つのシステムは、”静か”とまでは言わなくとも決して騒がしくはない。

 クリールの力場と森林の吸音効果を共に活用出来れば、バックパックの排除によって二トンは軽量化された機体を素早く移動させてくれる。

 とは云え、敵に距離感を見失わせている可能性はあっても、完全に隠れきっているかどうかは怪しい。

 どうやら移動時にはクリールの攪乱力場も完全には働いていない様なのだ。


 オーファンの移動した直後の空間では、細い熱線によって枝や幹が吹き飛ぶ事が繰り返されている。

 移動時の大気振動は、かなりの遅れではあっても敵に届いている事は確実だ。

 一箇所に留まっている時とは訳が違う。

 出来る限りの回避行動を取りながら移動を繰り返さなくてはならない。


 またも来た。

 荷電粒子砲の発射準備音である。


『2、1、』


 警戒音声(アシスト・ボイス)による“ゼロ”の声が聞こえる前に、ターンを完了させる。

 本来は一秒後にオーファンが居たであったであろう空間を、“何か”が通過して、足下の土を平行に吹き飛ばしていった。


 北部山岳戦において、初めて『ギルタブリル』の名を聞いた時の事を思い出す。

 あの時、コペルは確かにこう言った。

『足下に注意!』と。

 最初は“地下でも潜るのかね、それならば逆に此方(こっち)が有利だ”などと思った。


 土中の相手の動きは鈍い。

 振動を捕らえるセンサー3を使えば飛び出す瞬間を苦もなく狙い撃ちできる、と考えていたのだ。

 だが、答は違った。

 敵の砲塔は恐ろしいほどに自由度が高く、地を這うほどの低位置から上に向けても撃ち出す事が出来る。

 つまり、コペルの言葉は文字通り“足を吹き飛ばされないように気を付けろ”との事だったのだ。


 何より磁気を纏った荷電粒子砲からの熱線と言えど、必ず見えるとは限らない。

 狙われている側にとっては、通過エネルギーが速過ぎてまるで見えなくなる事もある。

 スクリーンに広がる大気の歪みと、センサーに捕らえられたイオン反応のみが、巨大なエネルギーが通過した事を教えてくれるだけだ。

 巨人は僅かな窪地を見つけると、直ぐさまに膝を折って伏せた。


 まるで銃撃に怯える人間の兵士そのものだ。

 直後、頭上の空間を先と同じ破砕エネルギーが貫いて行く。

 敵は動きを止めたオーファンを見失った。


「野郎、結構良い連射しやがる」

 毒突く割に巧の声は落ち着いている。

 また、それに合わせたかの様にクリールの言語表示もなめらかだ。


『物理対抗力場を張る事を完全に放棄した可能性が高い』


「こっちの武装をパルスガンのみと見極めたか……」


『同意……』


 今、オーファンはギルタブリルを軸にその周りを円を描くように移動している。

 当然ギルタブリルも位置を変える以上、油断すればこちらも同じように背中を取られそうになる。

 言うなれば“ドグファイト”だ。


 とは云え、先手を取って動いたのは大きかった。

 彼我の距離二百メートルから二百五十メートルを保ちながら、ジグザグに動き攪乱を交える。

 基本はオーファン先手による反時計回りである。

 これは変わらない。


 ギルタブリルの主力兵装である荷電粒子砲は人型の本体下部からシッポのように伸びた先端に発射口を持ち、それを頭上まで掲げるか、或いは股下から潜るようにしては粒子弾を打ち出す。

 これは基本的に不可視であるレーザーと違い、発光を避けられない荷電粒子砲の発射位置が知られやすかった頃の対抗措置の名残である。

 ギルタブリルは対抗力場による光学迷彩を身に付けた後も、この機能の優位性を捨て去る事は無かった。

 結果として、その体勢を低く保つ事で隠密姓を保ちながら、かつ砲撃を行う事が可能な『本物の人型戦車』となったと言える。


 戦闘姿勢を四つ足の状況に保つと、背中の上で自由旋回砲塔(フレキシブル・ガン)をドーム状に可動させる事ができる。

 言うなればサソリの様な存在だ。


 現在、ASは匍匐(ほふく)体勢時の射撃や兵装交換に弱点を持つ。

 ギルタブリルはその問題を全てクリアした次世代ASと言っても良いだろう。

 ASにとっては似た性能で有ることから相互の相性が良くとも、敵にするには苦しいと言える程に性能差があるという矛盾した存在で有った。


 クリールの存在により防御が互角以上である事は巧には心強いが、果たして奴の連射にどれだけ耐えられるだろうか。

 しかも、物理対抗力場という切り札は最後の最後まで、どうしても使えないのだ。


『来た!』


 見つかった様だ。ギルタブリルが距離を詰めてきた。

 慌てて立ち上がりながらパルスガンを連射して防御射撃を行う。

 これで一つめのカートリッジは使い切った。

 残り二つ。


 関節部を守ったのだろうか、ギルタブリルの動きが一瞬遅れた。

 その隙を突いて、再度距離をとる。


 バックパックとレーザーガンをパージしていなかったら、ここまで機敏には動けない。

 光学観測から、ギルタブリルの装甲は立方晶窒化炭素製であるオーファンの盾を遙かに凌ぐ防御力を持っている事が判った。

 モーターパンチでの外殻破壊は不可能、と戦術コンピュータも判定している。

 振動剣(レジナンスソード)を装備していても、果たして勝てるだろうか?


 正面から斬りつけている間に、あの尻尾が襲い掛かる事は間違い無い。

 つまり格闘戦に持ち込むにしても、これまた勝ち目は薄いだろう。

 今、頼れるのは足だけである。


 とにかく逃げた。


「とは云え、機体バッテリー残量が九分しかない。動きを読まれる事は前提にしても、いい加減に勝負に出ないとな!」

 危うく逃げ切った巧は指先で鼻筋の冷や汗を拭い、肩で息をする。


 バックパックを排除(パージ)して身軽になった代償にオーファンの稼働時間は二十分しか無くなった。

 よって、この時間内に決着を付けなくてはならないのだ。


 何より、最後の最後でオーファンは奴に身を(さら)さなくてはならない。

 そう、今、奴の内部では戦術コンピュータが情報を蓄積し、オーファンの闘い方をパターン化させているだろう。

 それを信じて少しずつ奴を引きずり回すしかないのだ。


 クリールが巧を見て微笑む。

 それからタブレットを掲げた。

『今の奴の動きは重要なヒント!』


「うん、確かに奴は突っ込んできた。上手く掛かってくれたかな?」

 その台詞を口にした巧も確かに笑っていた。



      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇  



 ギルタブリルの内部では今、様々な計算が同時進行で働いている。


 マテリアル5からの連絡によれば係員の活動は更に盛んであり、このままでは戦線が膠着しかねない、との事だ。

 対して、今現在の敵の行動パターンはほぼ確定した。

 対象Aの破壊を完了させなくてはいけない。

 ギルタブリルの中で、この模擬戦闘は既に終わりを迎えつつある。

 次いでは係員を相手とした実戦に入らなくてはならないのだ。


 先に進む事にした。


 敵の戦闘パターンは初期に自分が取った戦法の鏡写しである。

 接近して一撃を加え、反撃の前に姿を隠すヒット&アゥエイ戦法。


 敵の狙いはギルタブリルの装甲を少しずつ削り取る事にある。

 確かに避弾率を考えた場合、僅かに敵が有利である。


 但し、敵装備の一撃に脅威度は無い。

 また、マテリアル8による防御装備も働いていない。

 精々、攪乱能力が認められる程度だ。

 命令系統からマテリアル8に関わる情報は与えられていないが、現在の条件下では(エイト)の動きに制限がある事は理解できる。


 つまり対象Aは正面から破壊可能な状況にある、と情報処理は結論づけられた。


 答は出た!

 足を止め、敵を引きつけた後、一撃で倒す!


 多少の損害があったにせよ、その後の戦闘行動に問題は無い。

 何より、敵が次に現れる地点は十メートル以内の誤差で予測できる。


 反時計回りで移動を続ける敵の次の出現ポイント。

 それはつまり、ここだ!


 最初に敵からの射撃を受けた地点に網を張る。

 電子画像の視界には特色ある黒曜石の巨大な塊が写っていた。



      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇  



 大木の影からオーファンは左腕のリモートカメラで周辺の警戒を行う。

「さて、奴の姿は見えない。どうやら待ち伏せのために完全に隠れ切った様だな」

 やや苦しいね、と巧が息を吐く。

 だが、クリールはその言葉に明確な不満を漏らした。


『でも、ない……』


「どういう事だい?」


『タクミは“マテリアル8”の現在の能力を不当に低く見積もっている。

 これは実に大きな問題である』


「はあ、左様(さい)、で……」


 自分の力は頼りにされていない、とクリールが感じ、それに腹を立てている事が巧には可笑しい。

 なあ、お前、機械だろ。

 そう言いたくなって、ふと思う。


 意識を持った機械と人間の違いとは果たして何処にあるのだろう。

 星に願いを掛けたピノキオは人間と何処がどう違ったと言うのだろうか?


 クリールを機械と見る事は実は侮辱に当たるのでは無いか。

 命の掛かったこの瀬戸際で本気でそう考え始めた巧。

 いや、不思議な事だが、今だからこそ、この様な想いを大切にしなくてはならない気がして言葉を換える。

「いや、悪かった! 当然だが頼りにしてる」


『判れば良い!』

 クリールはにこやかに返事を返す。

 その表情を見ていた巧は、”分の悪い賭”を“賭”とも思えなくなっている自分に気付いた。


「センサー6、最大効果で可動。クリール、補助に入ってくれ!」

『yes!』

 センサー6とは不協和画像センサーを指すナンバーだ。

“不協和画像センサー”とは、通常の景色の中に於いて“その景色に入っている事があり得ない、或いは状況の調和を乱す”と判断した物体や現象に反応するセンサーである。


 五十メートル以内の至近距離ならば強力な光学迷彩(ステルス・エフェクト)にまで対応が可能。

 とは云え、砲撃戦闘で相手を見つけた時に既に五十メートル以内に迫られている、となれば、当然だが遅すぎて使い物にはならない。

 だが、巧とオーファンには今、クリールという力強い味方がいる。

 結果、電子迷彩に隠れたギルタブリルと思われる存在を発見した。

 辛うじてだが、遂に相手を捕らえたのだ。

「いた! やっと掛かりやがった!」


 この戦闘の肝は、相手に『自分が待ち伏せる側だ!』と完全に錯誤させる事にある。


 小回りのきく相手である。

 普通に闘えば常に位置を変える事は当然だ。


 だが、待ち伏せを選んだ、となればどうだろうか?


 “待ち伏せ”とは文字通り、その場で『待つ』必要がある。

 つまり足を止めなくてはならない。

 また一見して有利なように見える待ち伏せだが、待ち伏せは『伏せる』つまり身を隠す事に成功した時にこそ意味がある。

 ギルタブリルは機動力の優位を捨て去り、挙げ句身を隠す事にまで失敗した。


 後は、奴の装甲を破るだけだ。

 当然、ギルタブリルも此方に反撃される可能性は考えて居るだろう。

 だが、奴が考える反撃とは、何か。


 そう、パルスガンである。


 其処(そこ)にこそ勝機があった。

 同じパターンの繰り返しからの急激な変化。

 トレーニングによって“それ”への対抗策を叩き込まれたプロボクサーですら、一瞬の戸惑いを見せる。

 巧はその一点に賭けていたのだ。



 今までと同じ静粛(せいしゅく)を保ち、同じジグザグの動きで行動しつつギルタブリルを捜す演技を行う。


 ガラス質の黒い岩が一倍率でも明確に見える位置にまで辿りつく。

 最初に潜んだ窪地まで、残り百メートルを切った。

 先に見つけた事を知らせる様にまずは二発打ち込む。


 来た! 返礼の砲撃だ!

 クリールの対抗力場が全面展開され、森は七色に輝く。

 オーファンのカメラに激しいノイズが走る。

 ヘッドフォンの雑音までもが脳を抉り、巧は必死で奥歯を噛み締める。

 如何に強力な力場を張っているとは云え、距離が近すぎるのだ。


 爆発的な粒子の拡散により周りの木々は粉砕される。

 やや遠くに位置する樹木が先に発火し始めたのは、離れた位置でならば酸素がイオン化されずに燃焼力を維持している為だ。

 微小物質の衝突とは言え、砲撃を連発されたなら、粒子の乱反射は当然だが超高温をも生み出す。

 遂には岩までもが融け始めるのが見えた。


 力場の内部にいても安心できない巧は思わずオーファンの盾を相手に向ける。

 砲撃が開始されてから既に三秒が経過していた。


 と、連発されていた荷電粒子砲が収まる。

 流石の連射にも限りがあるのだ。まずはクリールが勝った!


 この隙を狙って敵の方向に向けてパルスガンを三連射する。

 最後の餌に掛かって欲しいと心から願い、残り一発を撃てる筈のカートリッジをガンから抜き取ると射撃方向へと向かって投げつける。


 後は文字通り、窪地へと転げ込んだ。



      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇  



 戦闘終了まで残り二十秒を切った事をギルタブリルは確信した。

 今回も対象Aの主要武装からの直撃弾を三度受けたものの、予想通り損傷は軽微なものであった。


 また、敵は今、エネルギーパックと思われる物体をパルスガンから切り離した。

 現在は再装填の最中であろう。

 相手が照準を完了する前に肉迫して潰すべきである。


 マテリアル8による物理対抗力場が働いた事は計算外であったが、その限界時間が来るまでの間に敵を射程から逃がさなければ良い。

 しかも窪地に転げ込んだ今、対象Aの戦闘姿勢が整っていない確率は高い。


 迷う必要は無い。

 二足歩行モードに切り替えを済ませると、窪地を覗き込む為に距離を詰める。

 敵を発見した直後に照準を完了させられる事は間違い無かった。


 そう、間違い無い筈であった。

 だが、これは何なのだ?


 目の前に見えるのは『砲口』では無いのか?

 敵はこの様な装備を何処に持っていたと云うのだ?


 戦闘距離はほぼゼロであり、斜面の底に片膝を付いたままの対象Aはそれだけで自分を照準に収めている。

 こちらの荷電粒子砲は未だ、背部から頭上に向けて移動中だ。

 肩口に辿り着くまでにしても、後〇,二秒の時間が必要である。

 いや、対象Aの持つ“盾”は一瞬だけでも荷電粒子砲を押さえる。

 仮に破砕した処で、再度の粒子の収斂(しゅうれん)が起きるまでの時間に敵の主力兵器がこちらの装甲を直撃する事は間違い無い。


 成る程、そうであったか!


 対象Aを最初に見失った地点。 彼はこの場に網を張ったのだ。

 データを振り返るに対象Aはこの位置から姿を再度表した後に、機体の重量を大きく減らしていたではないか。

 つまり、この主武装を装備した侭に、この位置関係を作り上げる事が対象Aの狙いであったのだ、と知る。


 では、この武装こそが本来の主要兵器として、どれだけの威力があるのか、データを取らなくてはならない。

 はたして結果を送信できるであろうか?


 ギルタブリルの疑似思考はそこで途切れ、遂に復帰する事はなかった。


 距離にして僅か十二メートル。

 二千キロワットを越える背嚢式エネルギーパックは、その一割以上のエネルギーをレーザーガンへと送り込む。

 標的到達時温度二十万六千度、瞬間圧力三十万トンは流石のギルタブリルの装甲をも易々(やすやす)と貫いた。


 ほぼ真下からの攻撃。一瞬だがギルタブリルの巨体は“くの字”に折れて浮き上がる。

 貫いたイオンラインはそのまま高く伸び行き、遂には天空の果てまでも届くかのようだ。


 この至近距離では拡散された熱までもが物体全体に広がり、直撃孔から外部の熱の侵入を許して、一気に燃え上がって行くだけだ。

 ゴースで柴田がリヒトの首を跳ばした時の様な、豪雨による熱拡散(ブルーミング)は無い。

 ギルタブリルにとっての悪条件は悲惨な程に重なった。


 猛炎に包まれたギルタブリルは立った侭に、まずは腹部、続いて胸、頭と続けざまに崩れ落ちていく。


 融けゆく敵を見上げるかの様に砲身冷却の排熱蒸気に包まれながら、炎に朱く照らされるオーファン。

 合わせるかのように、パイロットはコックピット内部でようやく大きく息を吐いた。





サブタイトルはフィリップ・K・ディック、「ザップ・ガン」からです。

決着が早めに投稿できて良かったです。

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