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星を追う者たち  作者: 矢口
第八章 俳優交代
159/222

158:開放への道(前編)

今回の作戦に於いて主人公、巧の考えに問題を感じる部分もあるのではないでしょうか。

いずれ彼のその考え方の根源も示さなくてはならないと考えています。


それはさて置き、本日も宜しくお願い致します。

 先の作戦会議でヴェレーネの怒りと共に却下された『洗脳』では在るが、“呼び掛け”や“教育”まで否定された訳では無い。


“洗脳”と“教育”の差違は、根底に『恐怖』と『思考の選択の可否』が在るか(いな)かの違いと言える。

 軽く語ったが、これは大きな違いだ。


 国防軍は一般兵士達のみを対象に侵略戦争の無意味さを語り、彼等の土地の肥沃さと、そこから生み出される産物を商品とした交易による相互の繁栄を呼び掛けた。

 彼等に、本当の意味で自由な人間に戻れ、と呼び掛けたのである。


 唯、軍事行動として『自分たちも本来は民間人である』、『本業は商人なのだ』、『いつか取引が出来る日が来ると良い』などと甘い言葉を付け加える事を忘れなかったのは言うまでもない。


 その上で、

『今回の帰還ルートの決定は実に不幸な事ではあるが、我々にもどうしようもない。

 帰還のための手助けは出来るだけする』

 とも声を掛ける。


 勿論、前半の言葉への不信感から、後半の『手助け』という言葉に期待するシナンガル兵など誰一人としておらず、乾いた笑いが流れるだけであったが、国防軍兵士達はその表情を特に気にするでも無しに何度でも同じ言葉を繰り返した。


 この頃から、捕虜キャンプの食糧分配に関して国防軍が介入する様になる。

 とは云っても直接にではなく、栄養状態の悪い兵士を一箇所に集め別個に連隊を組ませたのだ。

 そうして、互いに助け合わなければまた同じ事の繰り返しになる、と教え込んでいく。

 弱い立場によって一度は酷い目に遭った彼等は少しずつでは在るが意識改革されていくことになった。



 出発を三日後に控え、ポアンスクを中心とした将官一行は、今後どうするかについて語り合っている。


「バルトシェク中佐とかいう、あの妖精(どれい)種族とは再度話し合いは持てないのでしょうか?」

「チェルノフ司令官の他、残留組を引き連れて南方の街に向かったらしい。

 此処(ここ)はあの忌々しい自由人達が完全に仕切っている」

「補給も無しに陸路六千キロなどを歩けるはずもありません。全員死にますよ!」


 訴える士官の顔色は真っ青である。

 ポアンスクは強欲だが、流石に此の様な時に混乱を起こさせる訳には行かない事ぐらい承知していたのだろう。

 巧からの言葉を素直に伝えた。


「補給に問題は無い様だ」

「と、言いますと?」

「何でも、鳥とフェリシア海軍の船が先回りして、物資の集積所を二十キロから百キロ()きに作っているらしい。我が海軍にも物資補給だけなら認めると言ってきた」

「おや?」

 そこまで話が進んで、一人の男がある事に気付いた様に声を上げる。


「どうした?」 

「いえ、海軍は未だ降伏していないと聞きました」

「そうだな」

「ならば、我々を救い上げることも可能でしょう」

「なるほど! 国境さえ越えてしまえば奴らも手を出さないかもしれんな」

「ならば、陸路の実質は直線で二千キロと少し、と云う事ですか?」

「そうなるな……」

「チャンスを待ちましょう!」


 (にわか)に表情が明るくなった彼等ではあるが、重要な事をすっかり忘れていた。

 チェルノフがこの場にいたなら、『馬鹿ども!』と一言で切って捨てていたであろう程に彼等は楽観的過ぎたのだ。



       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 



 急造されたとは言え、北方シナンガル海軍の船舶は平均排水量四百トン前後のキャラックと呼ばれる三本マスト船であり、甲板には片側四十から六十の十二ポンド(砲弾重量約五キログラム)砲門を構え、此の世界では充分に大型艦の部類に入る戦闘艦である。

 その大型艦一千二十隻により編制された船団は錚々(そうそう)たる大艦隊と言えた。


 一隻に五十人近く乗り込む戦闘要員の全てと砲兵の一部が上陸部隊に当てられたが、それでも未だに一隻当たり六十人前後の躁船(そうせん)員、戦闘員が居残っており、三隻中一隻を放棄して乗員を集中配置すれば未だ海戦も可能である。


 しかし、それは理屈の上の話であり、上陸部隊を回収する可能性も考えるならその様な再編成は夢物語といえた。

 何より、議会から預かった船をそう簡単に手放す訳にはいかないのだ。

 例え造船資金が反乱を疑われているスゥエンから出て居るにせよ、これらの船舶は共和国の財産である。


 現在、補給の問題もあるため、三分の一以上に当たる四百隻は一旦、ランド-への帰路についた。

 フェリシア北部の海岸線に残る船舶は六百二十隻余りである。


「上陸部隊は完全に崩壊したらしいな」

「俺たちも引き上げるべきか?」

彼方(あちら)から軍使がくるのを待つか、此方(こっち)から使わすべきか?」


 艦隊の分隊指揮官達はそれぞれに考えをまとめようとするものの、船団司令官が結論を出さない以上、どうしようもない。


 その様な中、一頭の小型竜が指令艦船の後部鐘楼に降り立つ。

 本国からの連絡用翼飛竜であった。


 輸送艦隊の司令官、ガーベン・カトーはこの連絡を心待ちにしていた。

 シナンガルは伝統的に海軍が弱い。

 いや、南部からの砂糖運搬の為の海路を守る海軍以外は存在せず。

 総軍でも三十万を超えないのだ。


 その中で出世が(とどこお)っていたカトーは海のものとも山のものともつかぬ北部遠征に駆り出され、成功しても総司令官であるラデク・チェルノフの功績。

 失敗すれば艦隊運用の責任を取らされる立場だ、としか考えておらず、陸戦部隊など放り出して、とっとと本国に帰りたいのが本音である。


 チェルノフまで死んだ。 或いは行方不明である以上、早々と帰り着いて北部の島である『アクリス島、発見!』の栄誉を自らの手柄として報告したかったのだ。

 そこで、彼は翼飛竜輸送部隊と連絡を取り合い、互いに失態は無かったことを確認した上で、全ての責任をチェルノフのものとして撤退のタイミングを計っていた。


 そこへ竜部隊総括の大隊長であるポルトスがラーグス将軍からの竜部隊撤退許可を得て戻って来たのである。

 同時に征東都督(ベルナール)も船舶の撤退を条件付きで許可してきた。

 だが、伝えられたその条件を聞いた時、いよいよカトーは自分の運の悪さを嘆いたのである。


 条件とは、議員階級捕虜の救出、若しくは交渉による引き取りであった。


 一般兵はどうあれ、議員階級に名を連ねる者に対する救出の努力もせずに撤退した、とあっては議会からの叱責のみならず、今後の軍の活動に大きな支障が出る。

 指揮官クラスが『負け戦なら見捨てられる』と考えるようになれば命令に従わなくなる可能性は高いのだ。

 如何(いか)に本家から放置された三男坊以下とは云え、多くの者はいざとなれば、実家の権限を使って上官の命令に背く程度の力はある。


 シナンガルに於ける『議員間権力闘争』は、常に政敵を削る正当性を求めているのだ。

 ベルナールは此処(ここ)で隙を見せる訳にはいかず、この一点だけは撤退条件として譲らなかったのである。


「あの連中が生きているかどうかなど、知れたものでは無いだろうが!」

 怒鳴るカトーに、連絡騎兵は首を横に振った。


「生存者名簿は数日後にライン岸に駐留する本隊へ届けられる、とフェリシア側から既に通達があったそうです」

「馬鹿な! 貴重な魔法跳躍力をその様な事に使ったのか!」

「提督閣下は“その様な事”と仰いますが、事実“その様な事”程度が我々に巨大な(くさび)を打ち込んでいますな」


 言外に『間抜け』と言われたのにカトーは気付いたが、相手は指揮系統が違う兵士の上に、士官でもある騎兵だ。

 迂闊に怒りを買って妙な報告をされては(たま)らない。


「助言には感謝する。命令は遂行すると伝えてくれ(たま)え」

 虚勢を張ってそう返すのが精一杯であった。 

 


       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 



 カトーに負けず劣らず、輸送艦ネルトゥスの艦橋内では誰もが頭を抱える事態に陥っている。


 本来の敵艦隊壊滅作戦は実に簡単なものになるはずであった。


 まず、小西隊が北の入り江を襲撃し、数隻の敵船舶を沈める。

 その後、山崎の名をもって降伏勧告を行い、敵船舶の三分の一を沈めて残りの船に乗員を移し替えさせた後、国境まで即時撤退する様に命じる。

 その後の撤退捕虜への補給活動はフェリシア海軍が受け持ち、アクリス島の支配権も同時に獲得する。


 それだけだ。 それで終わるはずだったのだ。


 だが、ここに来てコペルがとんでもない事を言い出したのである。


「敵艦隊の真下にデナトファームが(ひそ)んでいる。

 ()の闘いがフェリシア防衛戦略の一環である以上、自分には敵艦船を守るデナトファームに積極的に手を出すことは出来ない。

 ネルトゥスやフェリシア海軍がシナンガル海軍と直接戦火を交えるに当たってデナトファームが此の艦(ネルトゥス)を襲うというなら、自分も手が出せるんだが……」


 つまりコペルは、『ネルトゥスが先制の一撃を喰らうまでは、自分は動けない!』と言い切ったのだが、その一撃でネルトゥスが沈む可能性は充分にある。

 一昔前の『専守防衛』の考え方だ。


 いや、ネルトゥスを襲ってくれるならば、未だ良い。

 コペルならそれすらも(しの)ぎ切ってくれるだろう。

 だがフェリシア海軍の木造船が襲われた場合、コペルは一切手を出さない、と宣言しているのだ。


「理屈が分からん!」

 山崎が叫ぶのも無理はない。

 敵が海中の大型魔獣に守られているというなら、それを撃破するのがコペルに与えられた任務ではなかったのか?


 山崎がそう問うと、コペルは明確に首を横に振った。

「僕が君たちに約束したのは、『デナトファームからこの艦(ネルトゥス)を護る』という事であって、直接の国家防衛戦闘に参加することではない。

 唯でさえフェリシア有利の戦だ。

 これ以上の肩入れはバランス的に難しいんだ。

 分かってくれない?」


「お~、もう! じゃあ、どうすりゃ良いってのよ!

 作戦上、遠距離から全て沈める訳にはいかないわ! 生き残って帰ってもらう船も必要なのよ!」

 桜田も頭をかきむしって、声を絞り出す。

 巧も長尾も居ない中で、彼女は良く自分を律していると言えた。

 いや、日頃好き勝手な行動に出ているのは巧が自分のブレーキになることを知っているからなのかもしれない。


 何より、今回巧が立てた海上作戦について、撤退兵への”心理誘導”の総指揮を()るのは彼女なのだ。 

 部下を率いる以上、彼女には似合わぬ程の冷静さが求められる。


 山崎は艦の運用と乗組員の統括、それに航空隊との連携、補給で手一杯である。

 階級上も指揮能力上も彼女以上の適任者はいなかったのだ。


「ねえ、コペルさん。じゃあ敵艦隊との私たちの戦闘が始まってから奴が出てきたとした場合は、私たちを護ってくれないってこと?」

 桜田の怒りに触れぬ様に恐る恐ると尋ねてきた桐野の言葉にコペルは、其れは無い、と明確な否定を示す。

「いいえ、まさか! 唯ですね、デナトファームの動き次第なんです。

 さっき言った通り、明確な攻撃が無ければ防衛活動には入れません。

 また奴が敵艦隊の真下に逃げ込んだ場合、追いかけ回して潰す、と云う訳にもいかない。

 この船に襲い掛かる事が明確になった場合に倒す、或いは護る。出来るのは其れだけ」


「じゃあ、問題無いじゃないですか。何とかという牛みたいな魔獣は指も使わずに一撃だったって聞きましたよ」

「……う~ん。 あれはあくまで付属品だから。

 それに海中型のデナトファームに対しては、僕が海中に入れない以上は不利なんだ。

 多分、かなりの確率で睨み合いになると思う」

「コペルさん、泳げないんですか!」

 桐野はビックリ仰天という顔になる。


「いやいや、そうじゃなくて、条件が整っていないというか。

 う~ん。これ以上の質問は勘弁してもらえるかな?」

 どうやら此処でもコペルには何らかの制約が掛かっているようだ。


 “彼は力の割に制約が多すぎる”と誰もが肩を落とす中、艦長室の入り口前で巨体を縮めて全員の話を聴いていた石岡が、のっそりと手を挙げた。


「コペルさんの言い分は分かったとして、それならそれで“どう行動すべきか”少尉に指示を仰ぐべきではないのでしょうか?」

 

 真っ当な意見である。

 そこで巧が呼び出され、コペルと話をする事になった。


      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 


「なるほどね……」

 山崎から話を聴いていた巧は(しば)し黙り込んだが、作戦とは別のことを話し始めた。

 まずコペルに対する猜疑心を彼等から取り払いたかったのだ。


「山崎、コペルさんに疑念があるかい」 


 そう聞かれて山崎は答えに詰まる。

 当の本人が目の前に居ると云うのに、我が上官は何故この様な答えに困る質問をして来るのだろうと恨めしい。


 しかし黙った(まま)という訳にもいかず、ようやく重い口を開いた。

「まあ、正直に言えば……」


 その言葉を聴いて巧は緩やかに頷く。

 叱責(しっせき)のひとつもあるかと思っていた山崎は、やや肩すかしであるが、その後に続いた巧の言葉に彼も、目の前の事だけではなく全体を見ることの大切さを思い知らされる事となる。

 (もっと)も、すぐさまとはいかず、巧からそれなりの洗礼を受けてからの話だ。


 巧はまず、こう言った。


「なあ皆、聞いてくれ。コペルさんは嘘は()かない。これは確かだ。

 だが、彼は必ずしも我々の味方でなくてはならない義務はないんだ」


 一瞬誰もが首を傾げたが、最初に巧の言葉の意味を“表面だけ”でも理解できた桜田が真っ青な顔になり、すぐさまに呼吸を整える。

 その姿に気付くものはいなかった。


 彼女はコペルと最も早く出会ったうちの一人であった。

 その体験からか、巧が『彼を信用しない』いや『彼が何時までも味方である保証は無い』と言い切った事に気付いたのだ。

 本人を目の前にしての巧の大胆さに驚きつつも問い返すが、その問いこそが爆弾であった。


「コペルさんが私たちの敵になる可能性も有る、と云う事は分かりましたが、それと今回の件とどの様な関連があるのでしょうか?」


 彼女の言葉の爆弾は見事に破裂し、誰もがゾッとした顔となると、恐る恐るとコペルに目を()る。

 彼の表情に変化はない。いつものポーカーフェイスである。


 だが今は、誰しも其の無表情が恐ろしかった。


 隊員達に困った様な顔を見せながら、巧は説明を再開する。


「コペルさんはコペルさんで自分の目的がある。それが偶々(たまたま)我々の行動に合致したから、我々の(がわ)に付いてくれたんだろうね」

 ゆっくりと頷いたコペルに巧は視線をぶつけた。


 その巧の視線は憎しみや疑いのものではない。

 冷静な、計算のみを頼りとする“何者か”の目である。

 そして、その視線をコペルから外すことなく、全員に語りかけていく。


「分かるかい? コペルさんと俺たちの関係は“運命共同体”ではない。

 利害の一致による一時的な同調行動なんだ」


 巧の言葉は冷静だが、山崎は冷静では居られない。

「それは、つまり! いつ何時裏切られるか分からない、と云う事じゃないですか!」

 怒鳴りつつ、遂にはコペルを睨み付けた。


 その行動に巧ははっきりと視線で怒りを示したが、その段階では特に何も言わず、山崎とコペルを残して全員に退室を命じた。

 艦長室に二人が残ると巧は(おもむろ)に話を再開するが、その言葉は辛辣(しんらつ)である。


「山崎。貴様、艦長代理を降りるか?」


 巧の怒りを肌で感じていた山崎はこの言葉に更に狼狽(うろた)える。

 巧の意図は掴めないまでも“艦を任せるに値しない人物である”と評定を下されたのである。


 部下を退出させたのは、このためであったのかと、ようやく山崎は気付く。

 彼にとっては実に屈辱である。 が、ようやく声を絞り出す事に成功した。


「申し訳ありません。隊長の意図する処が掴めません」

 悔しげにそう言った山崎に、巧はようやく口調を変えた。


「すまんな。緊急時に自力で判断する能力を養って貰いたかったんだ。

 君が“兵”や“下士官”ならこの様な事は言わなかっただろう。

 だが、君はもうすぐ士官、いや既に士官となりつつ有る」


 山崎の現階級は“准尉”である。

 国によっては立派な“士官”として扱われる。

 巧達の国でも、この階級まで来て少尉に任官しない事はあり得ないのだ。


 巧の一言が山崎に今、士官教育を受けていることを気付かせる。


「私に今不足している要素は何でしょうか?」

 山崎の声に先程の様な不快な感情は()もっていない。 冷静さを取り戻したのだ。

 その表情を見て巧は嬉しそうに頷いた。


「なあ、俺たち軍人は結構単純な人間が多い」

「はっ?」

「いや、敵と戦うに()いては実に“疑い深い”人種さ。だがな、」 

 一呼吸置いて巧は両手の平を肩の高さで開くというオーバーなジェスチャーで付け加える。

 「一度でも肩を組んで(さかずき)を交わした他国の軍人が、情勢の変化によって敵兵に変わる、と云う事を受け入れるのに苦労するんだ。

 分かるだろ?」


 言われてみれば、と山崎は考える。

 米軍との合同演習は何度も行っている。

 あの物量を見るに敵に回せない、と思うだけでは無く無意識のうちに、

『あんな気の良い連中と敵対するなど想像も付かない』

 という意識もあるのだ。


 だが士官となった場合、心の奥底に『その可能性』を認めていなくてはならない。

 いざという時、敵対して闘うためだけではない。

『その“いざという戦い”を避けるために軍人はどうあるべきか』をも考えるのが将官であり、士官の役割なのだ。


 軍人の第一義は国民と国家の防衛であって、戦闘はその手段のひとつに過ぎない。

 相手との関係性を見誤ってはいけない。

 巧は山崎に()れを学んで欲しかったのである。


 また事実、コペルが国防軍に敵対せざるを得ない状況条件を考え、それを避ける努力をして欲しかったのだ。

「そこで、ここからが本題だ。全員を戻してくれ」

 全員が艦長室に戻ると、巧は最も重要な点を話す事になる。


「皆、コペルさんが自分たちの思い通りに動いてくれない、と不満を持たないでくれ。

 彼は本来の()の艦の管理者であり、さっき話した通り何時(いつ)我々と(たもと)を分かつかも知れない」

 全員が頷く。

 彼等もいつの間にか、コペルを『都合の良い道具』扱いしている事に気付いたのだ。


「フェリシアという国も彼には手を出せない様だが、此も仕方ないだろう」

 これはコペルは魔獣を触れる事なく倒す事が可能な存在である以上、フェリシア王宮ですら持て余す存在なのかも知れない、と巧は言ったのである。


 これまた誰もが頷く。


 だが、其れはひとつ間違えれば、コペルに対する無制限の恐怖へと変わりかねない。

 巧が初めてコペルに会った時ハインミュラー(どころ)か、マーシアですら“コペルを竜に、対して自分を鼠に”例えたのだ。


 だからこそ、巧の最後の言葉はネルトゥス乗員の胸に響いた。

 立体(ソリ)モニタの巧は部屋の全員を見渡して、(さと)す様にこう言ったのだ。


「コペルさんが自分にルールを課して其れを破らないと云う事は、彼が『あの力』を自分のためには”決して“使わない、と云う事なんだ。

 コペルさんの行動に制限があることを不満に思う前に、俺たちは喜ぶべきなんだよ」





サブタイトルは、オースン・スコット・カード「解放の時」からです。

あんまり捻りがないですね。

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