127:Zilla(ジラ)
〔コード『ガーブ』よりコード『セム』、聞こえますか?〕
『こちらコード『セム』だ。 珍しいね、君からの通信とは?
特に警報が出ている訳でも無いようだが、どういう事だね?』
〔疑問点の確認です〕
『疑問点とは?』
〔デナトファームの補充後についてですが、なぜ使用権をティアマトに残したままなのでしょうか?〕
『君らしくない質問だな。規定だからだ』
〔しかし、現状は緊急事態が発生しています。
”コード『アクス』は既に管理能力を失った”と私の現状判断では結論が出ております。
だからこそ、コード『セム』もデナトファームの管理を私に任せている〕
『正解だ。それで?』
〔私は、ティアマトも既に管理機構に異常を来していると判断します。
よってデナトファームの使用権を持たせる事も不適切指令だと判断します。〕
『何故そう思う?』
〔現在、マテリアル4、及び7が既に補給担当区域の係員を含む組織構造に打撃を与えています。
更に言うならば、マテリアル8に至ってはコード『セム』の『実施形態』にまで攻撃を仕掛けつつあります〕
『君だって、クラスS・A・Bの余剰生息分を補給担当区域に誘導したじゃないか』
〔私の計算能力の確認作業ですね。お答えします〕
〔前回の計算に於いては、状況は係員によって対応可能な範囲でした。
何より、状況処理により係員に多少の打撃が加えられ、結果として損失が生じるにせよ、それは生活区域を守る為の処置です〕
『続けて』
〔また、今までの生活区域のカスタマーによる係員及び補給担当地区への圧力的行動は、オーダーの過剰化といった程度の意味合いしか有りませんでした〕
『今回は違うのかい?』
〔あなたが気付いていないとは思えません。
ティアマトの援助によるカスタマーの行動は、最早オーダーの範囲を超えています〕
『君、カスタマー、カスタマーって一括りにするけどね。
どのカスタマーを指して問題行動だ、と言っているんだい?』
〔4,572,720時間前を持ちまして、カスタマー登録は更新を停止しております。
よって全カスタマーの個別登録は行っておりません〕
『早っ! あの後、すぐかいっ!』
〔”あの後”とは?〕
『いや、今の言葉は判断要因から外して良いよ』
〔了解 返答を続けます〕
『どうぞ(此奴、ホントにマイペースだよなぁ、機械かよ。
あ、機械だったわw)』
〔何やら、計算能力に悪影響を与えかねない、不快で微弱な信号が流れ込んできましたが、判定不可能でした。何者かからの攻撃でしょうか?〕
『いや、僕には判定できなかったな(棒
僕らの通信も太陽風に影響を受ける事があるから、それかな?』
〔可能性として、今後の判断材料にします(擬
さて、返答ですが、現在のカスタマーは本社からの特設の指示がない以上、本来のカスタマーの『被保護者』つまり『アコンパニメント』と判断します〕
『となると、我々には彼等を保護する義務があるね』
〔そうです。しかし、如何に契約を勘案したとしても彼等の行動は見過ごせるものではありません〕
ガーブから発せられる通信信号がいつになく冷徹に感じるのはセムの気のせいであろうか?
彼がそう考える間にもガーブの通信信号は送られ続けている。
〔また、私はこの1,314,000時間の間に獲得した情報から判断する事になった結論を持っています〕
『あれ、もしかして気付いちゃった?』
〔コード『セム』が言う処の“気付いた”の主語が何を指すのか判断不可能ですが、私の獲得した情報から導き出された結論を指すならば、その答は“YES”と予測されます〕
『結論を』
〔現在、『アコンパニメント』は『契約への責任能力を持つ成体』である、と云う事です〕
『人は年を取って成長する事に、気付いたか……』
〔はい〕
『だがね。彼等は情報を与えられていないんだよ。
そうなると完全な責任は問えないんだ』
〔それでティアマトに行動の自由を与えて、彼等に情報を与えている訳ですか?〕
『其れだけじゃないんだけどね』
〔ティアマトの行動容認の要因となる情報は頂けませんか?〕
『今は無理!』
〔ならば現在、コード『ガーブ』が保持する情報から導き出した結論を報告します〕
『それ止められない?』
〔私は結論を報告するだけです。
決定権はCentral management mechanism(中央管理機器)、コード『セム』に存在します〕
『分かったよ。どうぞ』
〔はい、コード『ガーブ』は現生活区域の残存住人を『リフューズ・カスタマー』と認定する事が正しい判断だと計算結果の報告を致します〕
『あ~あっ、やっぱ言っちゃったよ。こいつ!』
『セム』は本当に困っている。
この言葉だけは聞きたくなかった。
リフューズとは要は『ゴミ捨て』の事を指すからだ。
だが、こうなればもう、“やけくそ”である。
更に質問を続けた。
『リフューズが不可能な場合どうする』
〔法管轄の行政組織を施設内に導入する事になります〕
『君は知らないだろうが、此処は法的に特殊でね。
いろんな意味で本社の規定以外は適応不可能なんだよ』
『さあ、どうする!』
『セム』としては、”これで『ガーブ』が、暫く計算のために黙っていてくれれば良い”程度に考えて発した信号だった。
だが、それに対する『ガーブ』の回答は『セム』の意表を突く。
〔その場合、生活区域現住のカスタマーは『Extermination existence』となります〕
『今、何と言った』
〔その場合、生活区域現住のカスタマーは『Extermination existence』となります〕
『馬鹿を言うな! 彼等は人だぞ、虫じゃあないんだ! “駆除対象”ってなんだ!』
〔マテリアルを処分する際に使われる用語ですね〕
『そんな事を訊いているんじゃない! 何故、そう急ぐ!』
〔女王が現れつつあります〕
『女王ならもう居るよ。代替わりするにしても次代も特に問題無いだろうね。
いや、今の女王よりはずっと安全だよ』
〔いえ、今の言葉は正確な報告とは言えませんでした〕
『どゆこと?』
〔つまりです。バーナリオンではなく“レジーナ”が出現しつつある、と云う事です〕
『!』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あんた、馬鹿でしょ!」
「貴様! この事態にも悪態がつけるとは、実は冷静だろ!」
六方向からのステルス化されたキネティック誘導粒子砲の存在は一瞬だけならば捉える事は出来ても、照準を合わせるには至らない。
相手は常に跳躍を繰り返しながら攻撃しているのだ。
何より、正面の敵から直接発射される二重の熱線はランセ程とは言えなくとも充分な威力がある。
デフォート城塞を後方に見る高度百メートル地点。
マーシアもヴェレーネも対抗力場の中で背中合わせのまま、正に『タコ殴り』と言うにふさわしい状態に陥っていた。
「これでは奴の本体まで近づけんな!」
「このア~ホ~!」
スーラが指揮官席から消えた後、マーシアは例の魔獣と鉄巨人のいずれを先に攻撃するか暫し悩んだが、結局はシエネ城壁の安全を優先し、鉄巨人を消す事に決めた。
一応、マリアンは止めたのだ。
(ねえ、マーシア)
“なんだ?”
(ヴェレーネさん、言ってたよね。“あれ”使っちゃいけない、って)
“あいつの言う事など気にするな”
(でも、お兄ちゃんも“二度とやるな!”って言ってたし……)
“そう言われると、そうなんだがな……”
そう言ってマーシアは一旦は考えを放棄してくれたかに思えたのだ。
だが、その時、数体の鉄兵士が城壁に“投げ込まれた”事がその流れを変える。
驚いた事に強大な布に包まれた其れは、鉄巨人の腕が振り回す遠心力を持って投げ込まれた。
大砲を持っていない巨人であったため、兵士達には油断があったのだ。
次はどの様な方法で城壁にあの危険物が投げ込まれるか知れたものでは無い。
そう考えたマーシアは、結局マリアンを説得する事に成功した。
そう、成功してしまった……。
何より、あの様なものを見せつけられては、ヴェレーネに並びつつあると信じていた自分の力が、まるで児戯にも思えたのだ。
二体目以降の鉄兵士を全て破壊したのはヴェレーネである。
どうやったものか知れぬが、鉄兵士の前に立ったヴェレーネが特に何かをしたようには見えなかった。
鉄兵士はヴェレーネに見据えられた。
彼女が行った事は、唯それだけである。
だが、その瞬間、恐るべき殺戮兵器だった筈のものは、単なる”鉄さび”となって風に散って行ったのだ。
背筋も凍る光景としか言い表せず、味方までもが戦慄する。
が、それもやむを得無い事であろう。
国防軍兵士の一人は、思わず自分たちの装備するM2に眼を遣る。
万が一にも彼等がヴェレーネに敵対する事があれば、この重機関銃ですらあの鉄の塊と同じ運命を辿るであろう事を知ったからだ。
いや、今の力が仮に『人間』へと向けられたなら……。
実際の処、ヴェレーネにとってもこの魔法は使い慣れたものでは無く、やや消耗が有ったが、其れは表情に出さない。士気に関わる。
但し兵士達を頼りにする素直な言葉は口にした。
『今の魔法って結構疲れるのよぉ。
みんながあの“でかいの”を止めてくれるなら、とっても助かるわぁ』と、
彼女の”その発言”の効果は絶大であった。
兵士達は、いざという時の安心感に加え、其れを与えてくれる存在から頼られる喜びを得たのだ。
喩えるなら、
『怒ると確かに怖いが、日頃は優しく頼りになる母親からの“お手伝い”を期待された』
そんな少年の頃の様な気合いが兵士達の中に入っていく。
そこから俄然、勢いづいた彼等は鉄巨人に猛撃を加え、遂には一体を行動不能にしてしまった。
『うぉ~!』と歓声が上がる。
昔からヴェレーネは此の様に部下を上手く使う力があった。
そうでなくては、見た目十五,六歳の少女にしか見えない女性が二兵研時代に、在籍数一千名に近い部下を従える事など出来よう筈もない。
“なんか、むかつく!”
(マーシア落ち着いてよ)
“一発やれば、落ち着くだろうな”
(もう、一発だけだよ……)
端から聞いていると違う意味でも危険な会話だが、その様な事に気付かぬ二人である。
兎も角、此の様な経緯で結局は粒子砲を発射することになってしまったのだ。
だが、城壁前で粒子砲力場を構築すればヴェレーネがすっ飛んでくるのは眼に見えている。
二人はかなりの上空まで跳んで粒子砲を構築した後、地上に降りるとヴェレーネが止める間もなく一気に撃ち込む事にしたのだ。
上手くいった。
城壁前の鉄巨人達は一瞬にして蒸発する。
射線も決めてあったため城壁は勿論の事、切り通しにすら被害はない。
スウェンにおける砲撃には遠く及ばないが、それでも窒素原子を完全にプラズマ化させた三億キロワットの電力量、即ち一〇八万ギガジュールのエネルギーを持つ荷電粒子砲の威力は絶大であった。
〇,〇一五秒の刹那に百トンの物体が上空一万一千メートルから落下してきたに等しい打撃力を熱として浴びた鉄巨人達は、当然ながら一瞬にして消滅する。
文字通り、“塵も残さずに”消えたのだ。
だが、その事を直ぐには信じられず呆然となったのはフェリシア側の兵士達の方だ。
現実に戻るのにどれ程の時間が掛かったのだろうか、やがて……。
一転して大騒ぎになった。
盆と正月が、いや此処はフェリシアだ。
兵士達は収穫祭と新年祭が一緒に来たような喜びようであり、先のヴェレーネの戦闘など誰もが忘れ去ったかの様な光景が広がっていく。
それを眺めるマーシアのご満悦な様子に、マリアンもほっとする。
が、異変は起きた。
デフォート城塞観測所に詰めた魔術師からの連絡がヴェレーネの脳内に響く。
『ヴェレーネ様! 魔獣が動き始めました!』
城壁頭頂部まで跳んだヴェレーネだったが、一瞬遅かった。
魔獣は頭のない首をふたつ持ち上げると、城壁中段に狙いを付け、熱線を発射したのだ。
絶対不洛。
何者をしても傷付ける事は不可能と思われていたデフォート城塞の中段部にその光が当たると、呆れる程に見事なエネルギーの貫通を見せる。
この光景は、シエネ城壁手前二キロまで近づき情報収集に当たって居たハインミュラー達からもはっきりと見えた。
そして、光が消えた後の城壁には、中ほどの高さに直径三十メートルを越える大穴が開いていたのだ。
貫通孔は高度百メートル以上に在る為、当然ながら人が使えるものでは無い。
だが、デフォート城塞に史上初の貫通路が生まれた瞬間に驚かぬ者など、これまた居よう筈もなかった。
確かに全長八百キロメートル、平均高二百二十一メートル、平均幅二百五十メートルのデフォート城塞にとって直径三十メートルの穴如き、ひとつやふたつ、いや、百や二百ですら空けられた所で、余程に一点のへの集中打でもない限りは『ビク』ともするものでは無いだろう。
だが、あの砲撃が城塞の基底部分六百八十メートル幅を貫通した場合どうなる。
穴が城塞の自重で潰れてくれるならば、それはそれで良い。
上部の完全通行が不便になるだけで、残骸と言えども『壁』が残る事に変わりはないからだ。
だが城塞上部が持ち堪え、地表の貫通部分が通路となったなら?
何より、貫通箇所は一箇所で済むとは限らない。
数カ所にシナンガル軍の侵入を許す侵攻路が生み出される事も有り得るのだ。
城壁上の誰もがそれに気付いて、思わず、ぞっとする。
ヴェレーネは迷わず城壁から飛び降りると、開いた穴の正面。
つまり宙空に浮いて敵を見据える。
跳ばせるものなら、しっかりとした魔法陣を構築いて、奴を遙か彼方に跳ばしてやりたい、ともヴェレーネは思う。
だが、何処のどいつが素直に転移魔法陣の上で大人しく跳ばされるのを待つというのだ。
何より、奴も今はしっかりとした力場を纏っている。
こちらの攻撃も相当の近接距離からでなければ効果はあるまい。
其処に、マーシアが現れた。
「マーシア! だから言ったでしょ!」
「何だと? 私のせいだというのか?」
マーシアとしては、何故魔獣の為に自分が責められるのかが分からない。
「奴が狙うのは『地球の兵器に限らない』と言ったのは何処の何方さんでしたかしらねぇ?」
ヴェレーネの怒りの言葉の意味に気付いたのはマリアンであった。
(あっ! つまり、ある程度の力を見つけると攻撃してくる、と)
マリアンの言葉をヴェレーネに伝えたマーシアは、自分の意見も付け加えた。
「と、マリアンが言っている。なるほど、私もそれが正しいと思う」
「な~にが、『私もそれが正しいと思う(キリッ』よ。
あたしを笑わせようってんなら失敗してるわよ、もう少し話芸を磨きなさいな」
「貴様、死にたいと見た!
大体、犬走りでの“あれ”は何だ? 案外原因はあれではないのか?」
「あたしはあんたと違って、魔力を無駄に漏らすなんて事は無いのよ。
あいつに感知できる訳無いでしょ」
「どうだかな。自惚れが足下を掬うぞ」
「その言葉、しっかり噛み締めて『座右の銘』にしときなさい」
二人の険悪な空気が最高潮に達した時、八岐大蛇は再び二本の鎌首を持ち上げる。
「チッ! 貴様を殺すのは後だ。今は城塞の根本を守るぞ」
”何だ勘だ”とは言いつつも、マーシアも今の強力過ぎる熱線攻撃の結果から生まれる危険性には疾うに気付いていたのだ。
「マーシア、正面構築じゃなく。球形に全方位を守りなさい」
「どういう事だ?」
「奴の首、全部消えたわよ」
城塞から八岐大蛇までの距離は約十キロメートル
普通の人間が対象を目視判別可能な距離は約六百メートル。
エルフや獣人でも四~五キロが限界だ。
だがヴェレーネの眼は、それを軽々と越えて敵の姿を正確に捉えていた。
マーシアのように『レンズ』を構築した様子は見られない。
だが、ヴェレーネが言うのなら間違い無いのであろう。
マーシアは素直に球状に対抗力場を構築する。
あの地点から熱線が発射されるにしても熱量は僅かに遅れるだろう。
照射ポイントに跳んで城塞を守る時間に問題は無い。
いや、それ以前にレンズを通して敵を見れば、相手の狙う方向など直ぐさま察知できる。
後はどれだけ耐えられるか、そして、どの様に倒すかだ。
マーシアは再度、マリアンに粒子砲の構築を試みさせる。
『一撃で潰す!』
そう意気込んだ瞬間、いきなり六方向からの熱線照射を受けた。
戦闘機で高速移動していた時とは違い、生身で受ける荷電粒子砲の嵐の中ではアルスと同じで、マーシアもまた対抗力場を張るのが精一杯である。
また、マリアンは揺れ動く景色の中で粒子砲力場の構築など出来ようもない。
熱や衝撃が殆ど体に通らなくとも、対抗力場自体は相手の力を相殺する際に激しく反応を起こして視界を歪ませる。
十二歳の彼はマーシアと違い、そこまで闘いに慣れている訳ではないのだ。
あっという間に袋だたきに遭い、挙げ句は数基のキネティック誘導粒子砲が一点を狙って砲撃を集中して来た。
危機一髪!
四基の敵から、正確に一点集中打を浴びて危うく弾け飛ばされそうになるマーシアを守ったのは、どうやってすり抜けたのかマーシアの対抗力場の中に飛び込んできたヴェレーネであった。
そして互いに背中を守り合う、この状況と相成った訳である。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
地下要塞で既に体調も元に戻って指揮を執るルナールの下に、征東都督であるベルナールが直々に現れたのは、ヴェレーネが城壁上に投げ込まれた鉄兵士の内の最後の一体を破壊する一~二分前の事であった。
「倒れた、と聞いてな」
実際、利益だけの問題ではあるがベルナールは心から彼の体調を案じている。
今回の侵攻作戦は、ルナールの通信技能に大きく頼るものであるからだ。
確かに会議で決めた通り、魔術師達の直接の統治権を彼に与えた訳ではない。
しかし、それは彼が後方で鉄巨人や鉄兵士の製作を秘密裏に進めないか、という疑念が在ったからだ。
今のように配下の兵士から切り離して彼単体ならば、その能力は実に貴重なものだ。
彼レベルの魔術師はシナンガル中を探しても、三十人に満たない。
しかもその殆どが議員として議会から動かずにいる以上、前線に出られる人物となれば更に数を減らして片手の指で数え切れてしまうのだ。
征東都督としては此処で優秀な駒を失う訳には行かない。
また此処でもそうだが、南部戦線では彼の副官までもが魔獣を引き連れているという。
どの様なカラクリかは知らぬが『軍師』なる人物が絡んでいる事は間違い無いだろう。
ルナールを『排除』する、などと云う選択肢はベルナールの中から完全に消えた。
『この男は手元に置くに限る』
そう考えていた矢先、そのルナールが倒れたと報告が入った。
そこで慌て、蒸し風呂のような通路を駆けた訳である。
ルナールは、一寸ばかり驚いた表情を見せた。
ベルナールの顔付きが本当に心配げであったからだ。
勿論、ルナールとて彼が友愛の精神から自分の身を案じている、などと甘いことは考えないが、正直、此処まで慌てられるとも思わなかった。
”そう考えてはいけない”と思いつつも、元からの彼の優しさが悪い方に出た様で、征東都督に対してやや好意的になってしまう。
”まあ、割り切って考えればよい”と笑顔を返す。
「ご心配をおかけしました。
未熟者の様でして、自分の力の配分を知らなかったようです。
今後は此の様な事も無いと思いますので、ご安心下さい」
ルナールの言葉に一旦は満足した征東都督ではあるが、もうひとつの心配事もある。
ワン・スーラだ。
ルナールの昏倒とほぼ同時に数十分間に渡って戦場に現れ、挙げ句に“あの”マーシア・グラディウスと何らかの会話をしていたようだと、魔術師達からの証言があるのだ。
流石に魔法石で声を伝えきれるものはいなかったが、かなり対等に話をしていた様に見えたという。
彼女が地下要塞に戻ると、入れ替わるようにルナールが意識を取り戻した訳だが、今度は戻ったスーラが意識を失ってしまって現在は洞窟外の本陣で侍女からの手当を受けている。
彼は、其処も気に掛かるのだ。
それを問おうとした時、魔術師一人が「ああっ!」と、大声を上げた。
「どうした?」
驚くベルナールに対して、ルナールは特に慌てもせずに、「またか、」と諦めた様に呟くだけである。
「どういう事だ? 何が起きている?」
ベルナールはルナールに矢継ぎ早に問い掛けた。
ルナールは肩を竦め、諦めた様な声を出す。
「ヴェレーネ・アルメットです。さすがカグラで唯一『大魔法使い』の称号を認められた女だけ在りますな。鉄兵士四体があっさりとゴミにされました」
「そう、簡単にいって貰っては困る。物量で押せるはずであろう?
戦力の逐次投入など、貴殿らしくない愚策ではないか!」
怒りを交えて焦り気味の口調だが、ベルナールの問いは正しい。
軍事は行き着く処、“敵より如何に数を多く揃えるか”であり、その後は“揃えた兵をどれだけ無駄なく、一気に活用できるか”に掛かっているのだ。
だが、それを聞いたルナールは特に腹を立てるでもなく、にこやかに返す。
「はい、都督の仰る通りです。しかし、この六十体には魔術師達の力は殆ど注いでおりません。魔女たちが一度に対応できる数を知りたかっただけなのです。
飽和攻撃はその後ですな。マーシア・グラディウスの砲撃もそろそろでしょう」
ルナールの言葉が終わって数分と立たずに、マーシアの粒子砲は火を噴いた。
敵の城壁では兵士が兜を放り投げ、祝いの鏑矢を撃っての大騒ぎが起きている。
その様子は、この地下司令室の中央に置かれた特大の水晶球にも、明瞭と写っていた。
六十体の鉄巨人を失ったルナールであるが、驚いたことに彼は緩やかに拍手を始めた。
次第に強く両の手を打ち付け、遂には声を上げて笑い出す。
当然だが、誰もがそれを見てあっけにとられる。
「な、何を?」
はっ、と我に返って問い質すベルナールだが、その都督を横目でチラリと見てルナールは言い切った。
「さて、これで準備完了です」
サブタイトルは、怪獣映画「ゴジラ」のアメリカ版「GODZILLA」をアメリカのゴジラファンが、GOD(神の如き強さ)ではないではないのでGODを外して「zilla」で充分だ、と云う評価から取らせて頂きました。
まあ、この物語でゴジラの立ち位置は多分ランセでしょうから、今回現れている八岐大蛇にはZillaの役割を演じて貰うという意味のサブタイトルです。
私はこの映画を見ていませんが、当時見た友人の感想は「『ジュラシック・パーク』を作ったついでに作った映画かと思った」と散々でした。
「でかいトカゲが走り回るだけの映画」とも聞いて笑った記憶もあります。
今なら、多分冷静に見ることができると思いますので、試しに借りて観たいですね。
追記:評価を沢山頂きました。 ありがとうございました。