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星を追う者たち  作者: 矢口
第七章 愛に生まれ、殺戮に育つのは『世界』
102/222

101:近接戦闘

 二九日、深夜一時二十分。


 ブリッジの山崎は首の後にチリチリとした違和感を覚えている。

 こう云う時の嫌な勘はおおよそ当たるものだ。


 敵、つまり魔獣の襲来は近いのだろう。


 輸送艦の操舵と推進は1本のスティックと数基のスロットルレバー、それにピッチング、ヨーイング対応などの幾種類かの自動化及び手動レバーで行われる。

 サイドスラスター・コンソールには別種のパワースライドレバーが使われている。

 手動システムが存在するのは、この船が実際は戦闘艦である事を見越して設計されたからであろう。

 ブリッジ真下に設けられたCIC(戦闘指揮司令室)の存在や船内各部構造が緊急時に出来るだけ体を船室内にぶつけないように配慮された構造になっている事も、それを示している。

 

 他の分隊員と同じく彼はこのような大型船舶の操船など初めての事であり、どれだけ手間取るかと心配したのだが、「あっけない」と言う程の時間すら使う事も無く、彼は操舵を手に馴染ませてしまった。

 上陸用舟艇の操作訓練を受けた事が二度程有ったことも助けになっていたのだろうが、それ以上にこの(ふね)は素人の操舵を可能にする程の高い技術に支えられているのだろうと山崎は思う。

 自惚れて分隊を危機に晒す気にはなれない。


 コペルがブリッジ中央よりやや右側の艦長席に陣取って、彼の動きを見るともなく見ている。

 と言うよりは退屈そうに眺めている今の処、山崎の行動に問題は無いと云う事なのであろうと何故か安堵した。


 オベルンには機関の出力ゲージを見て貰っているが、彼もまた本当に不思議な男だと思う。

“エネルギー”という概念を理解しているとしか思えない程、的確に機関部の出力についての報告をしてくるのだ。


 しかし、この船の動力源はどうなっているのであろう?

 エンジンは水素を使ったラムジェットエンジンであり、その燃料は海中から電気分解されて生み出されている。

 だが問題は、その燃料を生み出す莫大な電力だ。

 上部甲板のあのセンサーが怪しいとは分遣隊員誰しもが分かっているのだが、地球のドッグの調査でも

『完全なブラックボックス化されており、期限内に調査は不可能』

 との返答であった。

 

 コペルを下手に怒らせる訳にも行かず、結局調査は中断の(まま)であるが、電力がどこから来ているのかは大凡の予測は付いている。

 誰もが”口にするのが怖い” それだけだ。


 何より本来、今は操艦に全力を尽くさなくてはならない。

 そう思って一旦その件を脇に置いた山崎だが、今度はその脳裏に全く違った光景が渦巻き始めていた。



 地球での昨年、十月の事である。


 当時、彼は未だ第三十歩兵連隊に所属しており、カグラとは縁もゆかりもない状態で有ったのだが、基地内でカグラに送られた別の連隊から死者が出たとの一報が駆け巡った。


 もしや、と考えたがその名簿の中に『柊』という名も『二兵研』の記載もなく、ほっとしたのも一瞬の事で、別の名前を見る事になる。


 同期の青木という男だ。

 生きて帰ってきたものの、重傷者リストに入っており、現在も軍病院の再生(リペア)タンクの中で眠り続けて居ると聞いて軍病院を見舞う事にした。

 両腕を失って、よく生き残ったものであるが結局、見舞いは許されなかった。


 家族ですら一度しか再生(リペア)タンクを見せては貰っていないという。

 子供達には流石に刺激が強すぎるのだろう、青木の両親と妻だけがその姿を見たと言うが、生きているのが不思議な程であったと泣き崩れるばかりで、それ以上の話を聞く事は出来なかった。


 もう一人同期で生き残った男がいたが、片足を失った上に精神に完全に失調を起こしていた。

 壁中が自傷を防ぐ為のマットレスで覆われた部屋に閉じ込められていたのが信じられなかった。

 彼は明るい男であった。

 あの様にマットレスが血に染まるまで、自分の爪が剥がれても気にせぬ程にどこかに逃げようと床を掘り起こそうとする男では無かった筈だ。

 後を振り向いては、其処にはない魔獣の影に(おび)え、床を掘り返そうとし続けていた。

 丁度、山崎が面会に訪れた時その症状が現れ、結局彼は拘束衣ストレート・ジャケットに押し込められた。

 知人に会えば病状も緩和されるのでは、との医者の配慮は無駄に終わったのだ。


 いつかは自分も“あの様に”なるのだろうか、と思う。

 此処に居る分隊六名の内、何人が生き残るのであろうか。

 何故、俺たちはこのような任務にこのような少数で就かざるを得ないのか。


 答えは艦長席で足を組み頬杖(ほおづえ)を着く白衣の男が全て持っているかのように感じる。

 半分は間違っては居ないのであろうが、残り半分は母国の勝手な都合だ。

 生け贄にされたような気分であり、吐き気すら(もよお)して来る。


 それにしても『柊少尉は強い』、……そう思う。

 彼は自分のやるべき事を一歩一歩固める事が遠回りでも一番安全だという事を知っている。

 彼の下に居なければ、自分もどこかで狂っていたかも知れない。


 と、山崎が其処まで考えた時であった。

 左手前方レーダー席に陣取る桜田が叫んだ。

「九時方向、大型飛来物四! 距離八十キロ、高度(およ)そ五百メートル! 速度約……、約四百四十キロ、です!」



 桜田の声に返ってきた分隊長、柊の声に迷いはなかった。

『記録、開始! 桜田はCICへ移れ!』

 インカムから巧の声が返ると同時に桜田は座席ごと床下のCIC(戦闘指揮司令室)へ降りていく。

 床は厚く、二重の装甲で守られている。

 当然だがどれ程被弾してもCICには関単に被害が及ぶ事がないように設計されている筈だ。

 桜田はレーダー手と共に戦闘記録の管理も行わなくてはならない。

 戦闘行為に於いては、全ての記録を取る事が求められる。


 先の巧の言葉は『戦闘配置に付け!』と同義語であった。


 事実、巧は海峡に入る前に全員に配置の完了を終えさせている。

 後は初撃の令が下されるだけであるが、その前に巧から山崎に指示が出た。

操艦(そうかん)運動を最優先させる。射撃命令停止権を与える』

 驚くべき言葉である。


 確かに、操艦時に於いて余計な方向に勝手に射撃を行われ視界が(ふさ)がれるのは困る。

 しかし、思い切った命令だ。

「後方の桐野はどうなりますか?」

『彼女はハッチを開け放しておけば直ぐに退避できるよ。気にするな!』

『気にしますよ!』

 直ぐに桐野から抗議の声が飛んできたが、巧は、

『後方の射撃を停止する命令は出ないよ。理由がない』と一言付け加えた。

 さりげなく山崎に艦の運動と後方射撃に関わる問題について巧は教え込んだのだ。


 部下に恥を掻かせない配慮のある上官を持って幸運だと、山崎は先程の自分の考えに確信を覚え、落ち着いて艦を動かす事に専念することになった。


 巧は桜田に予想接触時間を推定させる。

 単純に考えると、既に艦対空ミサイルの射程内にはある。

 だが、対抗力場がシーカーを無効にする可能性が高く、レーザー直接照準の距離まで引きつけなければミサイルは無意味であろう。

 高度がある為ピンと来ないが、もう十五分もすれば敵との距離は水平線の距離に同じである。


 巧は最初の攻撃を自分が行う事を確認した。

「十分後。いや、相対距離一万メートル地点に於いて“戦闘”を開始する。 

 初撃は甲板上のオーファンから行う。 

 その後は敵をブレイクさせて一頭ずつ屠る。

 外した対象は距離の近い順に対空ミサイルを使用」


 巧は作戦の出足を説明すると隊員の心情を計る。

「岡崎、CICの居心地はどうだ」


 返ってきた岡崎の返事は明るい。

『すこぶる快適ですよ。十二席に二人しかいないのが寂しいですがね』

 その返事に巧は軽く笑って指示を続ける。

「最後は十インチ砲及び、オーファンのバルカンで近接射撃を行う。 

 十インチ砲は射撃前に炸薬量をブリッジに伝えよ!」

 巧の射撃命令に各員が復唱を行い、準備は整った。



 オーファンは、甲板上に装着された八百キロワット熱ビームキャノンを腰溜(こしだめ)に構え、そのコクピットで巧は桜田の数え上げるマイナスカウントを聞いていた。

 既に射程には入っている。

 しかし、望遠カメラに写った赤外線映像を輸送艦に搭載されたカメラに切り替えると、まるで真昼のように相手の色が明確に分かる。

 国防軍で使用する第7世代の光量増幅・熱線映像装置が玩具のようで、思わず苦笑いになるが送られてきた映像は苦笑い処では無い。


『青黒い竜』

 シエネとの交信で知らされている派遣戦車中隊の一両が完全破壊、もう一両が砲塔を根本からもぎ取られたという怪物である。

 形成炸薬弾の一~二発には五キロ以内でも充分に耐えきったという。

 実弾を射程三キロより外に置いて使用するのは躊躇(ためら)われる相手だ。


『残り、二十秒です!』

 桜田の声がインカムに響くと巧はキャノンの安全装置を外した。


 ビームキャノンの電源はケーブルで輸送艦の上部甲板中央部にある『何らかのセンサー』脇に設置されたアダプタ・ソケットに繋がれている。

 冷却ダクトは液化窒素で既に白く煙を吐いていた。


 コペルは中央センサーに当たる二十メートル×三十メートルの平坦な位置に触れる事を禁止したが、その周りにある様々なアダプタ類を地球式に改造する事は認めてくれた。

 そのアダプタのひとつから繋がるビームキャノンの出力は八百キロワット。

 オーファンが通常背負うビームガンの四倍の出力を持ち、単純熱照射量は二十二倍に及ぶ。


 最大出力ならば、二十キロ以上離れた今の距離に於いても、(およ)そ一六,八〇〇度の熱を与える事になる。

 最大出力ともなれば一時間に砲身が一~二回しか持たないのが最大の欠点である為、当然其処までのエネルギーゲージを与えられてはいないが、現在の標準出力でも直撃時に七千度は下るまい。

 此は一キロ先の相手になら一平方メートルの範囲に一五五〇トンの衝撃を叩き付ける事を示す。


 ビームキャノンの口径から考えると二五倍の集約圧力が加えられる事になり、

 その効果がどうなるかなど、考えるだに恐ろしい光景である。

 どれ程の装甲を持つかは知らないが一撃で貫通する事は間違い在るまい。

 レーダー照射を行いサイトに中央の竜を捉える。


 が、おかしい。

 巧ははっと気付いた。“これ程の距離でも駄目か!”と。

「桜田、攻撃用の(アクティブ)レーダー切れ!」

『え? 少尉、何言ってるんですか? 照準取れませんよ!』

「いいから切れ!」

 山岳民救出作戦時に翼飛竜(モドキ)を七頭、始末した。

 あの時も翼飛竜はレーダーの電波に鋭く反応した。

 同じように南部戦線の本物の竜達はレーダーこそが敵を示す『波』と認識して、その身を対抗力場で包みレーダーを無力化させていったのであろう。


 あの攻撃の時から、

“竜達はマイクロ波に近い電波を使って会話を行う可能性が有るのではないか?”

 巧はそう考えていた。


 だからこそ、ハティウルフがミリ波レーダーの波をかいくぐった時もレーダーを完全に放棄して“全て魔術師に置き換える”事をためらった。

 魔獣もレーダー的に電波を使っているならば、逆手に取る事も可能ではないかと考えたのだ。

 歩兵用のDAS(分散開口システム=情報をリンクして行動するシステム)の導入を強く進めたのもその為である。

 魔獣の発する電波があるなら其れを捉えるチャンスもあるかもしれないと考えたのだ。

 当然こちら側から、能動的(アクティブ)な探査を行う訳には行かないが、一人が発見すれば全員に敵の位置が分かる。


 しかし、やはりレーダーを捉える相手にはアクティブレーダーは分が悪いようだ。

 能動的(アクティブ)に電波を発信する分、その出力は大きくなり、当然相手を刺激してしまう。


「目視で行く!」

 普通に考えて巧の言葉は馬鹿げた台詞(セリフ)としか言えない。

 いくら“望遠カメラを使う”とは云え、赤外線シーカーも使わず僅かな星明かりを目当てに勘で撃とうというのだ。


 だが、巧にもそれなりの考えがあった。

「桜田、パッシブで電波の受信だけしてくれ!」

 そう、“もしかすると”であるが、竜たち自身から何らかの電波が出ている事に期待したのである。

 互いに会話しているとすれば、という条件が付くが。


 対抗力場を作っていれば互いの会話も成り立たない可能性が有る。

 それを越えて会話する能力がなければ、会話時には対抗力場を解除している可能性は高い。

 力場を作っていれば、奴らは互いのコミュニケーションが取れず連携が不可能になるだろうからだ。

 対抗力場を作るのはこちらと接触するギリギリまで待つ可能性が高いだろう。 

 期待にしか過ぎないが、其処に掛けた。


 そして巧は賭に勝った様である。

「あっ、捉えましたね。同じヘルツですが、少し幅があります。

 あと少し時間をもらえれば個体識別できますよ」

「どれくらいだ?」

「三十ぷ……」

「あほう! 適当に一番強い奴のデータよこせ!」

「はい……」


 項垂(うなだ)れた声ながら、桜田から送られたデータは明確な波長を持って敵の位置を知らせている。

「阿呆が! 自分から松明(たいまつ)を掲げて飛んでるようなもんだ!」

 そう言いながら、巧は切り替えた『電子サイト』の中央に浮かぶ一際高い『波』に向かって引き金を引き絞る。

 桜田の悠長なセリフに少し腹を立てていたのだろうか?

 エネルギーゲージを中指ではじいて目盛りを適当に上げてしまっていた。


 二秒後、口径一〇五ミリの熱レーザーキャノンは文字通り火を噴いた。


 約一万度、衝突効果にして一九四〇トンの衝撃が中央右側の竜の首の根本に直撃(あた)れば、体はそこから広がった衝撃によって破壊されることが予想されてはいた。

 だが、結果は予想を大きく上回る。


 熱ビームは基本的には貫通するものだ。

 だが、その衝撃波も決して無視できるものでは無い。

 一九四〇トンの衝撃効果は一平方メートルで計算される。

 二五分の一の面積に集約されるという事は、逆に二五倍、即ち四万八千五百トンの衝撃が竜の体に叩き付けられる事となったのだ。

 

『粉砕!』


 そうとしか言えない現象が起きた。

 カメラに写っていた竜は弾け飛ぶと同時に蒸発したのだ。


「凄い!」

 全天スクリーンに包まれた巧や、カメラ越しに見ていたCICの岡崎、桜田、そして主砲内の石岡ですら唖然とする光景である。

 ブリッジにいた三名や鐘楼の桐野など目視していたのだ。

 その衝撃はカメラ越しの四名の比では無かったのであろう。

 声は桐野が発したものであった。


 ブリッジの三名などは声も出ない。

 残った三頭の竜は慌てて散開(ブレイク)するが、それでも逃げる気配は無く各自に突っ込んできた。


 巧はレーザーキャノンを冷却用砲台に戻すと、七キロまで近付いてきた竜に照準レーザーを発する。

 既に、対抗力場で覆われているのは24倍のカメラにもはっきりと写っている。


 目視である為、一頭にしか照準を合わせられないが、取り敢えずこれでよい。

「岡崎!」

 巧の声と同時に岡崎はボタンを押した。

 前方甲板の六十四基のセルがひとつ開き、艦対空ミサイルが発射される。

 一見には、前方甲板が爆発したかのように見える程の炎を吹き出し、ミサイルはレーザーロックされた目標に向けて一直線に飛んでいく。

 

 竜の二キロ程手前で、ミサイルは更に分裂し十二発のミサイルに別れる。

 十一発が先行した。

 全てが対抗力場に衝突し凄まじい閃光を夜空に浮かび上がらせる。


 流石に竜も全てをしのぎきった瞬間に気がゆるんだのか力場は一瞬弱まった。

 其処に遅れて、アポジモーターに点火した最後のミサイルが飛び込んだ。

 頭部にシーカーを乗せたミサイルはその構造上、形成炸薬効果を上げる事は難しい。

 しかし、今回は巧が誘導したミサイルである。

 頭部に電子機器(シーカー)など積んでは居ない。爆薬の固まりである。

 その上、照準レーザーは竜にとっては最も飛び込んで欲しく無いであろう鱗の隙間を見事に捉えていた。

 いつもながらの、巧の能力である『ナチュラル・ボーン・キリング』は此処でも発揮されたのだ。

 モンロー・ノイマン効果はフルに発揮され、衝突したミサイルの先端部分から、音速の数倍に及ぶメタルジェットが吹き出す。

 温度は約六千度。

 なるほど、確かに彼らの装甲なら六千度程度は表面では防げたであろう。

 しかし、今回は体の一点に穴を空けられ内部から焼き尽くされていくのだ。


 見た目は傷ひとつ無い青さの(まま)に内部から焼き尽くされて二頭目の竜は落ちた。


 中空装甲の隙間に当たった事が彼の不幸であったのだろう。

 鱗と鱗の隙間、鎧で云えば、継ぎ目にサーベルを突き刺されたようなものだ。

 あっけないとしか言いようが無かった。


 まず、二頭までは上手く行ったものの残った二頭には三キロ以内まで近付かれた。

 通常こうなれば船舶側の負けである。


 だが巧達は陸の兵士であり、そのような常識に捕らわれる気はなかった。

 十インチ砲が火を噴き、ありったけのガトリング弾が叩き付けられる。

 後方の鐘楼(しょうろう)に陣取った桐野など、

「もっと近寄らんか~!」などと騒ぐ有様である。

 流石のOSV106も三キロともなると射程外なのだ。


 桐野の叫びが届いた訳でもあるまいに、一頭の竜が十インチ砲の弾幕を抜けて艦の右側、三時方向に回り込んでブリッジのある艦橋(アイランド)に突っ込んでくる。


 山崎は回避行動に移り、十インチ砲の砲撃中止命令を出した。

 変わって岡崎に指示を出し、CICからの操作でアイランドに備え付けられた槍衾(やりぶすま)を使って竜に至近からの集中弾を浴びせる。


『槍衾』の様な防空兵器は米国ではCWIS(シウイス)、或いはファランクスと呼ばれる無人式二〇ミリ機関砲であるが、これは数秒から十数秒でその弾薬を使い切ってしまう。

 そうなると、兵員が甲板上に身を晒して無人の対空砲のカバーを開き装弾を行うのだが、此に十数分はかかるという何とも間抜けな兵器だ。


 確かに近来の艦船戦闘というものは、レーダーリンクによる艦隊の連携戦闘である。

 しかし最後の最後は結局、自艦は自艦で守るしかない。

 先制攻撃が可能な米軍は長らくその弱点を放置していたが、巧達の母国は『専守防衛』が国是である。

 このような欠陥兵器をいつまでも使い続ける訳にはいかなかった。


 そこで国産で開発されたものが四四式対空機関砲、通称『槍衾(やりぶすま)』である。

 三十式偵察警戒車両と互換性のある三七ミリ六砲身機関砲を四基詰め込み、装弾は艦内から上に向けて自動給弾する方式を採用している為、艦に積まれた弾が全て切れるまで打ち続けることができる。

 挙げ句に四基の内、一基は常に十秒間の全砲身冷却時間をおく二重三重のバックアップシステムを置く対空機関砲に隙間は見あたらない。


『槍衾』という名は伊達では無いのだ。


 流石の竜もこれには足、いや翼が止まる。

 身を翻して逃げに掛かった、が遅かった。

 身を翻した先の鐘楼には桐野が喜び勇んで彼に照準を合わせていたのだ。


 衝撃吸収剤を仕込んだアラミドスーツさえあれば、恐るべき反動のOSVですら一,五キロ迄は必中を誇る桐野の腕である。

 鐘楼からアイランドまでは百メートルと無い。

 何より岡崎に頭を抱えられて以来、彼女の指先に迷いの在ろう筈もなく、百メートル処か一千メートル迄の全ての(まと)は、手を伸ばせば触れることの出来る位置にあるタイヤの直径にも等しく感じている


 引き金(トリガー)は引くのではない、絞るのだ。


 爆発音が響くと同時に竜の右目に飛び込んだOSVの銃弾、いや”砲弾”は其の脳を縦横にかき乱し、頭蓋骨内部を暴れ回ると同じ右目から飛びだして来た。

 暴れきった弾頭はようやくその推進力を失い海に落ちていく。


 その後を追うかのように竜も海面に向かって緩やかに頭を向け、小さな弾頭の数万倍の飛沫(しぶき)を上げて、遂には沈んだ。

 


 最後の1頭は、オーファンの二十ミリバルカンと甲板に向けられた三十七ミリ槍衾を交互にその身に受け、対抗力場を張る力も失い中空装甲化した鱗も次第に剥がれてくるとやはり脱兎(だっと)の如く逃げてゆく。

 だが、耐熱効果が在ると思われるエレベータまで移動したオーファンはラムジェットエンジンに初動推進剤を送り込むと一気に点火し、竜を追った。


 高度二百メートルを越えられたなら終わりである。

 推力重視に作られているとは云え、オーファンのようなバランスの悪い機体を二百メートルも持ち上げる事に成功した坂崎の能力は異常だ。

 飛ぶだけ、大したものである。

 

 だが、オーファンが飛び立った時、既に竜の高度は五百メートルを超えていた。


『少尉、竜は五百を超えました。深追いは(まず)いですよ』

 CICでレーダーを見守る桜田は単位を省いて叫ぶ。

 巧は一言だけ、

「仲間を呼ばれちゃ叶わん」

 気怠(けだる)げにそう言うと、同じく“坂崎昇御謹製”のカートリッジガンを構え、空中でバランスを取る。

 熱レーザーガンに反動が無い事はこの際有り難いが、磁気コイルの関係で軸がやや左にぶれることが予想される。

 二連装ガンならそのぶれを相殺出来るのだが、単発では難しい。

 ブツブツと不満を言いながら巧はトリガーを引き絞った。


 艦橋にいる山崎の目にオーファンのラムジェットのオレンジの炎が写る。

 その遙か上空の闇夜に白い筋が伸びていった。


 直後、CICの岡崎の声がブリッジに響く。

「敵光点、消滅。撃墜と思われます。

 司令官機、帰投(きとう)。エレベータロックを外して下さい」

「了解!」

 山崎の返答とほぼ同時に巧のAS20―Fは輸送艦の上部甲板に降り立つ。



 二十九日、深夜二時〇八分、ビストラント海峡における初の戦闘は終了した。




サブタイトルはディビッド・ブリンによる「知性化戦争」からお借りしました。

原生種と外来種の闘い、って処で少しだけ関連性が有るかな?

まあ、そこら辺は少し苦しいですね。

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