その8
「流石、人間の汚れた血が入っているハーフエルフの娘だわ。男をそそのかして自分の庇護を得るなんて。幼いのに娼婦の振る舞いが板についているのね。いいわ、その男共々消し去ってあげる。」
バカ母が罵声を浴びせる。
この人を人とは思わない言動。怒りと肩の痛さでクラクラするが、言い返す気力もなく、痛みが和らぐのを待とうとして、体を青年に預けたまま、目をギュっと閉じる。
「貴方達がこの子を傷つけ、あげく腕を折ったんですか?」
青年は私を抱き起こしながらバカ親子に厳しい目を向けた。
「この野蛮で薄汚いハーフエルフが息子を殴ったのよ!ハーフエルフの分際でエルフの貴族に手を挙げるとは、死に値する行為だわ。だから然るべき処置をさせてもらうだけよ」
すると青年はため息をつきながら言った。
「子供の喧嘩に親が出てきて、あまつさえ、殺そうとするなんて、とんだ貴族もいるもんだ。恥を知りなさい。」
低く冷たい青年の声が響く。
「ハーフエルフに騙される愚かな男が私に説教とは…。愚か者同士仲良く死になさい!」
そう言うと、キレたバカ母は、呪文を素早く唱え手の平の中に光りの玉を作ると、それをこちらに投げつけた。
ドォーンという地の底を揺るがすような音と共に空気がビリビリと揺れる。
すると一気に上から何十倍もの重力が私達に襲い掛かり、圧死させようとする。
「キャアー」
思わず叫んだ次の瞬間、ふっと体が軽くなる。ゆっくり目を開けると、私達の周りの地面は数十メートルに渡り陥没しているが、我々は温かな光りの中にいて何ともない。
幸い、巻き込まれた人もなく、立ち並ぶ屋台にも影響が無かったのでケガ人もいないが、さすがにここまでのハイクラス魔法を道端で使ってしまうと注目の的になるが、皆バカ母が恐ろしく遠巻きで見ている。
「馬鹿な…私の最大級の呪文が止められるなんて…」
バカ母はおそらく彼女が持っている魔力を総動員して、私達を殺すための呪文を使ったらしく、力を使い果たしてしまい、立っていられず地面に膝をついた。
「「母様!」」
バカ兄妹が母親に駆け寄る。
バカ母は、驚きと力を使い果たした事で顔色は相当悪い。
(顔色の悪さでは、バカ母に腕を折られた私の方が確実に悪いと思うけど…)
「先程の呪文が貴方の使える最大級の呪文とは…弱すぎてかける言葉もありませんよ。」
青年が悲しい表情でバカ親子を見下す。
何この人、さっきまでの柔らかキャラとは全然違う!
なんかちょっと、怖い…
「貴方が先程、私達を殺そうとした魔法の威力は……こんなものですかね?」
青年は手の平にバカ母が作った光の玉を出した。見ると明らかにバカ母が投げて寄越した、2倍くらいの大きさだ。
「じゃあ、お返しです。受け取って下さい。」
青年は、光りの玉をバカ親子に投げつけた。
「「「きゃあぁぁぁ」」」
バカ親子の断末魔が響く。
一瞬にして目が開けていられない激しい光が周りを包み、バカ親子の姿は光で見えず、その周囲は、激しい光のせいで逆に闇に包まれた感覚を覚えてしまう。
青ー年ー!!優しい顔して親子共々消し去ったの!
いや、そりゃバカ親子だけど殺してしまうって…
あまりの事に私はワナワナと体が震えた。
「ちょっ…」口を開いた私は青年から離れた。
「殺す事ないじゃない!そりゃあ、私も殺ってやるとは言ったけどあれは売り言葉に買い言葉で、本当に殺そうなんて微塵も思って無かったわよ!それを、あなたはー。」
私が怒鳴りちらしていると、青年はゆっくりバカ親子達がいた場所を指をさした。何のことかわからずその方向を見る
眩しさにボー然としている親子がそこにいた。
「人を殺そうとする時は、自分が殺されるかも知れない事を覚悟するものだよ。」青年は、平然とした顔で言った。
な、なんなんですか?この人は……。