その38
結構修正しました。。。
静かにベイルが部屋に入ってきて、つかつかと私に近づき、ぐいっと両手で私の顔を挟んでマジマジと顔を見た。
な、なに??ベイル!! 顔がフグみたいになってるから、わたし。
っつか、近い、近いから!!息できないって!
「よかった!すっかり元気そうだね。一時は、死人より顔色悪かったんだから・・・」
ええ・・・軽く一回死んで、天国で父様と軽快なトークしてます。。。
「あ、ありがと。心配かけてごめんなさい」
=3分経過=
ベイルさん、そろそろ手をどけてくれないかと。。。ち、ちかい、顔が近いから!心臓がバクバクして口から飛び出しそう。
非常にうろたえながら上目使いで、ベイルを見ると、ベイルの顔が怒りの表情で曇っていた。
えぇ!?・・・な、なんで?
「ほんっっっとに、心配したんだ。死ぬほど心配した!ラルーが倒れているトコを見た時は、心臓が止まるかと思った。1日に2回も心臓が止まるかと思ったのは、生まれて初めてだよ。
もう、あんな怖い思い、2度としたくない!!」
「・・・ご、ごめんなさい・・・」
ベイルのまさかの怒りに圧倒され、おずおずと言葉を返す。
「けど、生きていてくれて、本当、よかった・・・・」
そういって、今度はぎゅっと抱きしめられた。
な、なに?飴とムチ?これがうわさに聞く、ツンデレ?
「シャランとの事だけど、俺は、あくまでも妹としか見れない。俺の隣にずっといて欲しいと思うのはシャランじゃなく、昔からラルーだから。初めて会ったあの祭の日、なんとなく、ラルーから目が離せなくなって、一緒に過ごすようになってどんどん目でラルーの姿を追いかけていくようになって・・・。
その気持ちに気が付いてからは、事あるごとに父上に結婚相手は、血ではなくて自分の心で決めたいってずっと言って来たんだ。ラルーも知っての通り、王家は誰よりもエルフの血を重んじる一族だろ?だから、ずっとハイエルフとの婚姻関係を結んできた。けどその結果、血が濃くなり過ぎて、王家は子供ができにくくなってしまったんだよ。たまたま運よく子供を授かったとしても、どこかに欠陥がある子供がほとんどなんだ。かく言う俺も生まれながらに視力が悪くてね。ホラ、子供の時からこのメガネだろ?」
確かに。初めて会った時もハーフエルフならともかく純粋なエルフでメガネなんて珍しいって思ったっけ。
「それが、ちょうど1年半くらい前に急にシャランの体が急成長してね。シャランの成長した姿を見た周囲の連中が、『早く王子との結婚を!』って騒ぎ出したんだ。そしたら、今度はシャランとの結婚を反対する連中が物騒な動きをし出してね。何度か反対派の連中にシャランが襲われそうになったことがあって・・・。もちろん、サルン伯爵や、クラスとフィーダがシャランを守ってくれて、彼女には、かすり傷一つ負わせてないよ。」
「わたし、全然知らなかった・・・。」
おじー様は、そんな事いちいち言う人じゃないって事はわかってるけど、フィーダもクラスもそんな事があったなんて、一言も言わないんだもん。
けど、『妹命』のあの二人の事だから、きっと襲った側の人、五反満足じゃ済まされないよね。。。不憫・・・。
「シャランの安全を考えると、このままサルン家にいて、伯爵や、クラス、フィーダに守られながら、好きな男が現われたら、そいつと一緒に幸せになるのが1番幸せだってずっと思ってた。
けど、3か月前の母上の誕生日の晩餐会で、シャランが王宮に来て、父上と母上に謁見した時に『ずっと延期になっていた、ベイルとの婚約発表を早くしたい』って言ったんだ。それを聞いた父上が待ちに待ったことだから、テンションMAXになってしまってね。婚約発表の場を新年のパーティにしようって事で話がトントン拍子に進んじゃって・・・。もちろん、即猛反対したよ。けど途端に、シャランが大泣きして、母上もそこに加わり俺が悪者になってしまって・・・。それで、なんだか押し切られる形になって・・・。その日をきっかけにシャランが俺の事を事あるごとに、かまうようになってさ・・・。」
ふーん。ふーーーーん。。。。。。。なんか、なんつーか。
ラルー=スエル 100歳 イライラする。
なんなのこの懺悔大会。あたしは神父か!?
「あのさ・・・、話聞いてると、その状況で今まで進んでるってことでしょ?だったら、シャランの気持ちを受け止めてる事と、結局のところ一緒で・す・よ・ね!!!」
思わず、我が家の伝統の笑顔と共に、ベイルの顔に思いっきりアイアンクローをかましてた。
「え???あれ?いった、た、た、た、た。。。。あのー。ラルーさん、爪が思いっきり顔に刺さって痛いんですよ。ね?痛いから離そう?そしてきちんと話そう?」
「話しと離しを掛けてんじゃねーよ。国語の先生か!?」
「何の話?つーか、ラルーさん、もうそろそろ、本気で顔の血管が切れそうだから、離して、お願い。暴力反対・・・」
「つかさ・・・。あたしがどんな思いであんた達二人の事見てたと思ってんのよ!あんた達がイチャつく度に、毎回薄暗い嫉妬で胸の中真っ黒になって、それでも無理して笑顔作って・・・。いまさら・・・『私も、ベイルの事が好きでした。。テヘ』っなんて言えると思う??・・・ホント今更の話されても――」
数10年と、胸の中でこじらせきった思いが、一気に決壊して口から溢れ出てくる。そして、それと同時に目のダムも決壊したらしく、次から次えと涙がこぼれベイルの顔がゆがんで見える。
すると、ベイルが自分の顔から、私の手を外して、お互いの両手を優しく指でからめた。
「ずっと、無理させててごめん・・・。でも今回の事で俺わかったんだ。
ラルーを本当に失うかもしれないと思った瞬間、ホントに怖かったし、命に別状はないって聞いたとき心底神様に感謝したよ。そして思ったんだ。人生っていつ終わってもおかしくないって。そう考えだしたら、俺今まで何やってたんだろう?って、目が覚めたよ。
自分の人生なのに、ずっと気持ちを押し殺して生きるなんて嫌だ!
それに、そんな気持ちのままの俺と一緒に過ごさなければならない、シャランにも失礼だと思った。
ラルー=スエル、俺は君が好きだ。
明日きちんと父とシャランの前で自分の気持ちをはっきり伝えようと思う。これで勘当されて王家を追い出されても俺は全然、構わない。けど、ラルー。こんな俺だけど、ずっと隣で・・・笑ったり、泣いたり、怒ったり・・・ラルーの持ってる色んな表情を年を取ってヨボヨボなおじいさんとおばあさんになっても俺に見せてくれないか?」
えっと。
えっっっと・・・えっっと。
何度も自分の中で妄想して、妄想だけで幸せになって、しばらくするとなんて事を考えていたんだろうって、毎回死にたくなった夢物語が今、現実に起きている。けど、これやっぱり夢??夢なら死んでもいい!!(父様とトークをしたい訳では決してないけど)
思わず、うつむきながらその場にへたり込んだ。
ヤバイ、なんか・・・一気に色んな事が起きて許容量オーバーになってるから体がスリープ状態に入ったみたいに力が抜けて、立ってられない。
ベイルが、ゆっくりしゃがみこんで目線を合わせてきた。
「なんか、色々ごめんな。けど・・・えーっと黙ってないで、今すっごい、ド緊張しながら一世一代の告白したんだけど・・・返事を聞かせてくれない?」
「あ、え、えっと、えーーーーっと・・・その、なんかよく自分でもわからなくて。だって、夢みたいで。死ぬほどうれしいんだもん。
け、けど、そんな気持ちになっている自分がすごく嫌な女に思えてるの・・・。だって、シャランは?シャランの気持ちはどうするの?あんなにもベイルの事が好きなのに・・・」
「シャランには、申し訳ないけど、きちんと俺から伝える。もちろん、俺ができる範囲で全力でバックアップはするつもりだ。今と変わらない生活が送れるよう、彼女へずっと支援をしていく。」
「そんなの、シャランが傷つくわ!あたし、あなたの事はすごい好き。ずっと好きだった。けどシャランの事もラインと同じようにかわいい妹みたいに思っている。だからあの子が悲しむ顔を見るのは嫌なの」
自分の中で支離滅裂な気持ちになっているのはよくわかっている。けれど、これは「いけない事」とずっと自分に言い聞かせてきて、シャランを家族と思えば思うほど、家族を思う気持ちと自分の恋心を天秤にかけて、家族を思う気持ちに傾いたから、自分の気持ちに蓋をして、サルン家を出た。
「それってさ、逃げてない?自分の気持ちから」
「え・・・」
「それ、今までの俺と同じだから、わかるんだけど。逃げても逃げても自分の気持ちって正直だから毎回自分に付きまとってくるんだよ。それでがんじがらめになって身動きができなくなる。
けど、本当に大切な事がわかったから。変われたんだ。
ラルーが死ぬかもしれないって思った時に、このまま人生が終わるのは嫌だって思った。まるで後頭部をハンマーで殴られたような衝撃を感じたよ。
ラルー多分、このまま自分の気持ちに逃げて生きて行く事だってできる。だけど、人生が終わる5分前、自分の人生を振り返ってみた時に、このまま逃げてたままなら、絶対後悔するよ。
死ぬ直前の5分前に自分の人生を否定するより、一緒に逃げないで立ち向かわない?」
優しい声でベイルに言われて、思い出す。
確か、私臨死体験する前、ベイルに抱え上げられながら、最後に見る顔がベイルで良かったって思いながら天国に行ったっけ。。。
たしかに、あの時ベイルがいなかったら、きっと私ベイルの事を思い出して、告白の1つでもしとけば良かったって思った気がする。
思い返せば、私猛ダッシュで逃げてたな・・・。シャランとの事、見て見ぬふりして、一人で泣いて、傷つけたり、傷つく事に怖がってシャランに対して、薄暗い気持ちを持つばかりで、悲劇のヒロインを気取ってたのかもしれない。
ちゃんと自分の気持ちに向き合って、傷つける事がわかっていても、シャランと向き合わないと。
許してくれるなんて思ってない。けど、自分勝手な考え方かも知れないけど、勝手にシャランを恨めしく思い続けるよりずっといい。
「ありがとうベイル。きちんとシャランに伝えよう。」
そう言って、ベイルの頬に静かにキスをした。