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その34

お待たせいたしました

気がつけば、そこは一面のお花畑だった。

「綺麗…」

こんなに暖かくて穏やかで綺麗な場所なんてあったんだ!


なんだか嬉しくなってお花を摘んでいたら後ろから声がした。

「ラ、ラルー?」


いきなり名前を呼ばれて振り向くと、20代くらいの人間の男の人がワナワナと震えながら立っていた。

「?」

だ、誰だこの人?頭をフル回転して、出会ってきた男の人の顔と目の前に立っている男の人の顔を照合させるが、思い出せない。でも、何処かで会った事があるような、なぜだか懐かしい気持ちにさせるその風貌。


「えっと…何処かでお会いしましたっけ?」


そう言った瞬間にがっしりと抱き着かれ、頬ずりをされながら

「うぉぉーラルー!俺のラルー!会いたかったよぉぉぉぉ!」と泣きはじめた。


「ギャー!な、なにするの!放してぇ!」なにこの男!?気持ち悪い!!!!

必死にもがいても力強い腕から逃れられない。


チ、チカーン!誰か助けてぇぇぇ


「ラルー忘れちゃったのかい?父様だよ!あぁ綺麗になって!よく顔を見せて」


え?はっ?このチカン『父様』って言った今?


その言葉に怖ず怖ずと男の顔を見ると、そこには幼い頃に見た若かりし父の顔があった。


「と、父様なの?だって死んじゃった時なんてヨボヨボのじぃさんだったじゃない?」


「アハハ、驚くのも無理ないか。ここは、天国だから、死んだ人の容姿は、その人の1番楽しかった頃の年代になれるんだよ!」


「そっかぁ…って、ちょっと待って!天国って言った今?ってことは、私も死んじゃったの」


「いや、ラルーは死んではいないよ。弱っていた体に強い菌とそれを消す強い薬を入れたろ?それで一時的に精神が体を離れてこっちに来ちゃったってわけ。ま、いわゆる臨死体験ってヤツだよ!お前が、帰りたいって強く願えば帰れるよ!」


ま、マジっすかぁ。私、今、臨死体験中なの!


自分の状況がイマイチ掴めない。しかし、今私は天国にいる。

つーか、花なんか摘んでる暇なんてなかったわ・・・薬は?町の皆は?


イロイロな事が頭をよぎり一気に顔が青ざめていく。


「父様、父様に会えて、凄く嬉しいんだけど、私今すぐ帰らないと…町の人達が私の薬を待ってるの!」


「まぁまぁ、落ちつきなさい。ここでの一日は地上の5分にも満たないんだ。大丈夫だよ!」


「で、でも、今でも苦しい思いをしてる人がいるの。早く帰らないと…」


「…。グス、や、優しい娘に育って…、な、なんていい子なんだ!」


再び父様の泣きながら&力いっぱいの熱い抱擁を受け思わず息が止まる。


「ど…どうざま、ぐ、ぐるじぃ…」


「あ、ごめん、ごめん、ラルーがいい子に育ち過ぎて、思わず感極まっちゃって…。

実はね、父様がここに来る前にある人から伝言を頼まれて来たんだ。お前が気にしてる薬の事なんだけど、あの薬は成功してるが、そのまま飲むと非常に強いんだそうだ。これは、今ここに居るラルー本人が身を持って知ったと思うけどね。

だから、お前が住んでいるあの地域の特産でもある、ナギ茶と一緒に飲みなさいってさ」


「そ、それって誰から聞いたの?」


「セドリック君だよ。あの青年はいい子だね。こっちに来てからも薬の研究に余念がなくてさ、最初は、寡黙でとっつきにくいヤツだと思ったけど、話をしたら中々いいヤツでさ。

仲良くなって色んな事を話すようになったら、話の中にお前の名前が出て来たから驚いたよ!セドリック君とラルーが師弟関係だったとはね…」


「え!セドリック先生と父様が知り合い?」


「今、女の子のナンパの仕方を教えてやってるよ」


父様、お願いやめて…

母様に言い付けるわよ!


「じゃあ、なんでここにセドリック先生は来てくれなかったの?直接教えてくれたらいいのに…それに久しぶりなんだから会いたかったよ」


「臨死体験者には近しい人が一人しか会えない決まりなんだよ。だから、父様が神様に呼ばれて此処に来たんだ。セドリック君も会いたがってたよ!」


「セドリック先生・・・」


思わず、涙が出る。天国からでも気にかけてくれてるなんて…さすが私のお師匠様!涙を拭きながら、感極まっている私を見て父様は、さっきまでの嬉しいそうな顔から一気にいじけた顔になっていた。


「ラルーは、父様よりセドリック君に会いたかったんだ…。いーんだ、いーんだ、どうせ年頃の娘にとっては、父親なんてカメムシ扱いさ…」


「ち、違うよ!父様!私、父様に会えて凄い嬉しいのよ」


「本当に?心の底から?本当に本当に本当に本当?」


じとっとした目で私を見つめる父様。

うっ…。ちょっとうざいと思うが、そこは我慢。最高の笑顔でうなづく。


「んじゃ、父様のほっぺにチューして!」


それは、父様が死ぬまで私とラインに事あるごとに言ってた台詞で当時は、まだ幼かったから気にしなかったが今は大人だ。非常に照れる……。

が、仕方ない。


チュ!

父様の右のほっぺにチューをすると思わず懐かしい父様の匂いを再確認し、父様の肩に顔を埋めていた。


あぁこの匂い。父様の匂いだ!よく小さい頃はこの肩に肩車をしてもらったり、膝の上に抱っこされたっけ。懐かしい匂いを胸いっぱい吸い込む。


「うっうっ…俺のラルーがエルザ譲りのこんないい女になって…。娘じゃなかったら口説いてるとこだ」

そう呟きながら再び涙ぐむ。


懐かしさがその言葉で一瞬で消えた。

「父様のエロ親父!」


「ひ、ひどっ!エロ親父って!父様傷ついたぁ!やばい、これ一生経っても治らないくらいの心の傷だよ」


「残念ですが、父様の一生は、既に終わっています。」


「ちょっ、ま、コレ、本当に俺のラルーなの?小さい頃は、『私、父様のお嫁さんになるのー』って言ってたの忘れたの!俺はその言葉を胸に今まで生きてきたんだー」


だから、父様、死んでますって。ここ天国ですって。

と言いたい所をぐっと我慢して父様の左のほっぺにチューをしてあげた。


するとパァーっと父様のほっぺが薔薇色に染まった。


「我が人生にいっぺんの悔い無し!いい娘に恵まれて俺は幸せモンだぁー」

父様、言ってる事が支離滅裂です。まぁ、昔からそうなんだけどね。


「ラルーありがとう!父様嬉しいよ。これで父様、これから先も楽しく生きていけるよ」


だから死んでるんだってば!父様…


「あぁ、そろそろラルーの帰る頃合いだね。じゃあ、最後の最後に聞きたいんだけど、エルザはまだ、誰とも再婚はしてないよな?」


「父様、天国からいつも見てるんじゃないの?セドリック先生だって、私の事見てたから、薬の事的確に指示してくれたじゃない?」


「え?あ、いや…見てるよ、見てる…。けど最近忙しくて、アハハ」


このエロ親父、女の子にかまけて、全く私達、家族の事見てなかったのね。あぁ、ここに母様がいたら血の雨が降ってたわ…。

そう感じ取ると、思わず、黒ラルーが現れてた。


「父様が亡くなってから私達エルフのおじぃさまの家に行って、一緒に住んでいたんだけど、その間、いくつも再婚話が持ち上がったのよ。でも、母様は、父様を1番愛しているからってずっと断ってるわ。今のところは!」


最後の「今のところ」は、父様への当てつけだ!


「母様、益々綺麗になったから求婚者が絶えないのよ」


ちょっと意地悪過ぎかと思ったけど事実なので、それを素直に話すと見る間に父様は、動揺していった。


「エ、エルザを1番愛しているのは、俺なんだ!あ、でも俺は、もういないし…。

いい男なら『俺の事は忘れて幸せになれ』っていうのか?い、嫌だ!エルザが俺以外の男と一緒にいるのは絶えられない!あぁ、でも俺はエルザを愛してるから、ここは、エルザの幸せをぉぉぉぅぉ?」


どうやら、出口ない堂々巡りに入らせてしまったみたい。可哀相なぐらい動揺をしている父様を眺めて、これでしばらくは、女の子を追いかけるのもなくなると確信し、助け船を出す。なんて、私は優しいんだ!父様、これからは、母様の事ちゃんと見ていてよ!


「でもね、私は、ずっと母様の近くにいたからわかるんだけど、きっと母様は父様の事が1番好きで忘れられないから多分再婚はしないよ。だって、いつも私達を見る度に、最愛のディーンにそっくりって言うんだもん。クラスなんて今、母様そっくりなのに、父様の面影を探しては嬉しそうにしてるんだよ!愛されてるね、父様!」


私のかけた言葉でとうとう涙腺が決壊した父様は涙ダクダクになりながら、「エルザに俺も愛してるって伝えてくれ」と言い私を抱きしめながら、「またいつか会う日までお別れだ」と言った。


その瞬間視界が真っ白になり、また意識を失った。

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