その33
ようやく自室に入りオペーク草を取り出すと何故か歪んで見える。
あれ…おかしいな?
目をしばたかせると、涙が幾筋もこぼれた。
「あぁ私、涙を我慢してたのか…」
思わず独り言を言ってしまう。
それを皮切りにダムが決壊したようにダクダクと涙を流す自分に驚きながらも”ヒックヒック”というしゃっくりに似た涙声が止まらない。
「ラ、ラルー・・・今は・・・・・・・泣いてる、ヒック。時じゃ・・・無いでしょ・・・・」
自分に話し掛けながら必死で涙を止める。
せっかく集めたオペーク草の薬に涙なんか入ってしまえば一瞬でただのゴミに変わってしまう。
オペーク草のエキスを抽出すれば、もう枯れる心配もなくなるので、なんとか泣き止みながら必死で特効薬を作る事に専念した。
幸福感に包まれた分、その倍の罪悪感に襲われ、ごちゃ混ぜになった心は、何度も涙で視界を歪ませたがそれを必死に拭って、やっと特効薬が完成した。
特効薬が完成した時は、太陽も頂点を過ぎた頃だった。そして私の瞼もこれ以上無いほど腫れてしまっていた。
「あー。目が痛い・・・・。さてと。最後の確認しなきゃね・・・。」
確認とは、薬がちゃんと効くのか試す事。動物実験の重要性は、セドリック先生から耳にタコができる程聞かされていた。動物には、悪いが万が一失敗した場合、何が悪いがを研究できる。しかし、自分の体で試した場合、悪い結果が出ても何が悪いか追求する前に死んでしまったら、救える命も救えない。必ず動物実験は必要だと何度も聞かされた。
しかし、ここには動物実験をする動物も時間もない。
「セドリック先生…。ごめんなさい。」そう言って目を閉じた。そして、ゆっくり目を開け腹を括った。
一応、血液サンプルの反応では薬が効く事まではわかっているが、生身の体ではどんな反応が起こるかはわからない。
本当に薬が効くかどうかは、自分がキアヌリア菌にかかり薬を飲むしかない。
疲れと心労で手の震えが止まらないが、できた特効薬を試す為、林檎から取り出したキアヌリア菌を自分の体に直接注射で打った。
=10分後=
激しい嘔吐と腹痛と高熱に襲われ、それまでに体力を擦り減らしていた体が更に悲鳴を上げる。
「グ………。グハァ……。ハァハァハァ…」
何コレ?こんなに苦しいの?死んじゃうかも…?
立っていられずに、椅子を掴むが、不安定な状態で全体重をかけてしまったので”バタン”と派手な音と共に椅子ごと床に倒れ込んだ。
苦しい…でも、町の人達はこの症状がずっと続いてるんだよね…。薬を待ってる人がいる。
早く特効薬を飲んでみないと効くかどうかわからない。
呻き声をあげながら必死にはいつくばり、出来たての薬が置かれている机に進むが中々体が進まない。
”ドンドンドン!”
部屋のドアを叩く音が遠くから聞こえる。
「ラルー!大丈夫?今、ドンって音が聞こえたけど、大丈夫か?邪魔をしないから、ドアを開けて!」
クラスの声が聞こえてきた。しかしドアは、私が作った結界で絶対に開かないようにしている。
助けあげて欲しい気持ちより万が一キアヌリア菌がうつる事を心配する気持ちが勝って頑張って声を出す。
「だ、大丈夫!ちょっと転んだだけだから!今、正念場だから一人にして…」
「・・・。わかった。でも何かあったらいつでもドアの向こうにいるから声をかけてね」
クラスの渋々ながらの了解した声が聞こえた。
このままここではいつくばっていても、何にもならない!今は薬の効果を見なくちゃ!
一生懸命、匍匐前進をしながらやっとの事で薬が入っている試験官に手が届き震える手を押さえながら一気に飲み干した。
すると突然、全身が痙攣し始め、その場でガタガタと震えながら意識が遠のく。
副作用??これ失敗した?
あぁ、私このまま死んじゃうのかな…。
半分諦めながら意識を手放そうとした瞬間ドアがぶち破られた。
「ラルー!大丈夫か?!」
ベイルを先頭に、クラスとフィーダが部屋に入ってきた。そして痙攣する私をベイルが抱き上げてベットに運ばれる。
なんで、入って来ちゃうの?きっとベイルのハイクラス魔法で私の結界壊したな…でも、この世でみる最期の顔がベイルでよかった・・・。
そう思いながら意識が徐々に薄れていき遂に闇に包まれた。