その32
ヒヒン!
風にペガサスが煽られ、いなないた声に、ふと我に帰る。
あ、あたし…なんて事してるの?
仮にもシャランの婚約者に対していくら好きだからって言っても、これは良くない!
罪悪感に包まれて、ガバッとベイルから離れた。
「ごめん!私ってば本当何考えてたんだろ!シャランに申し訳ない事しちゃった!本当ごめん。今の無し!お互いにさっきのは忘れよ!!……さ、さぁオペーク草取って帰ろ」
私は、一気にまくし立てベイルから離れた。
「………。わかった。とりあえずオペーク草を取る事が優先事項だよね。けど、後でちゃんと話し合おう。」
最初は、私の慌てふためき様にビックリしていた顔が「シャラン」という言葉に固い表情をしたベイルが答えた。そして私を自分の前に下ろし、崖の方へとペガサスを移動させオペーク草を探しはじめた。
気を落ち着かせながら、崖の方に目を懲らす。しばらくすると、崖の中腹に青々としたオペーク草らしき草が密集している箇所を発見した。
「あ!!もう少し左側に近付いて!」
すかさず、ペガサスを近づけてもらう。
「これがオペーク草なの?」
「うーん…。よく見てみないとわからないな…」
そう言って、手を伸ばし一本引き抜いて観察する。
「…。うん。これに間違いないわ!オペーク草は、すぐに枯れちゃうから摘んだら急いで帰ってもらっていいかな?」
「大丈夫だよ。このペガサスは、父上から拝借してきたから、速さは、おりがみ付きなんだ。サルン家までは30分位で着くと思う」
「ありがとう!助かるわ」
そう言って、オペーク草を手当たり次第摘んだ。
「OK!もういいわ」
「よし、じゃあ飛ばすからしっかり掴まりなよ」
ベイルは、私がオペーク草を袋に閉まって、ペガサスのタテガミをしっかり握るのを見届けると、ペガサスの腹を足で蹴った。
「うわぁぁぁ!」
いきなり凄いGに襲われ、体が後方へと押し流される。とうとう、私は、ベイルへ体を預ける形になってしまった。
「しっかり掴まれって言ったろ?上体を低くして風の抵抗を無くせば、そんなにきつくないから」
そう言われても、抵抗が強すぎて体が動きませんよ…
すると、ベイルの体に覆い被さられて否応なしに上体が低くなったが、密着度が増した。
うわー!!
恥ずかしい!!けど良かった顔が見られなくて。けど、凄い速さで目が回る…
ギュッと目をつむり、ペガサスに捕まって、早く家に着く事だけを祈った。
=30分後=
「ベイル!姉様!お帰りなさい。心配してたのよ!!」
家に着くとシャランとラインが出迎えてくれ、ベイルの姿を確認したシャランがベイルに抱き着いた。
ズキンと胸が痛む。
本当に胸って痛くなるんだ…
いやいや、今は、私の気持ちなんて二の次!
「ベイル本当にありがとう!じゃあ、私は急いで薬を作るわ」
ベイルの顔を見ずに、そそくさと自室に戻ろうとすると、手を掴まれた。
「ラルー、今は見逃すけど、後で必ず話をしよう」
真顔のベイルと目があう。
目線を横にズラすとキョトンとしたシャランがいる。
再び罪悪感に襲われ、いたたまれなくなった。
「・・・また・・・今度ね。」
俯きながらも手を振りほどこうとするが強く掴まれ中々うまくいかない。
「必ずだ!」
思わず大きな声を出したベイルにビクっとした…
ベイル、怒ってるの?なんで?
「ベイルと姉様ケンカでもしたの?」
おずおずとシャランが聞く。
「ケンカなんてしてないわよ!ね、ベイル。話は必ず、するから今は手を離して。」
そう言うとようやくベイルの手が離れた。
「お帰りラルー、ベイル!大丈夫だった?」
私達の声に気がつき、母様達も出てきた。
「シャラン、ラインお出迎えありがとうね。母様達、今帰りました。せっかく来てくれたのにごめんなさい。急いで薬をつくらなきゃ…部屋に戻るわね」
笑顔で周りを見回した後、急いで自室に向かう。
おそらく今は酷い顔してるな…
良かった一人になれる。
そう思いながら自室のドアノブを握った。