その3
その日の夜、皆が寝静まった頃に、仕事を終えて寝る支度をした母様がベッドに入ってきた。
「お帰りなさい、母様」
「あら、ラルー起きていたの?」
「うん、なんだか眠れなくて。」
「あらあら、睡眠はお肌にとっても必要なのよ。母様が隣に寝てあげるから、もう寝なさい。」
そう言って母様は、私の背中をポンポンとゆっくり優しく叩いてくれた。
「うん。………。
ねぇ……母様も横笛が苦手だったのよね?」
「は??え?横笛!?
いきなり何の事。横笛?そうねぇ昔、習った覚えがあるけどなんでまたそんな事いいだすの?」
「今日、おじーさまに聞いたの。
私が横笛が苦手だっていったら、おじーさまも昔、苦手で母様も苦手だったって。
しかも三人とも癇癪起こして、笛に当たっているから、横笛が出来ないんのは伝統なんだって。」
「お父様がそんな事話したの!!驚いた。
まぁ確かに、私、めちゃくちゃ苦手だったわ。いくら吹いても音が出ないもの。
ラルーも似ちゃったか(笑)
ところで、お父様にいつ会ったの?」
「んーっと、お昼前くらいかな?」
「……あんの狸じじぃめ、少し散歩をするってそのくらいの時間に執務室から出ていったのよね。
そしたら、帰ってきてからやたらと朗らかになったなぁと思ってたら、そんな事があったのね。
ラルーと会った事なんて、私には一言も言わずに!
ところで、ラルー!あの狸にイジメられなかった?怖い思いしなかった?」
例のニッコリ笑顔(目の奥は、全く笑ってない)で肩を捕まれた。
母様、今が1番怖いです!
「だ、大丈夫。そんな事なかったわ!」
「そう。…なんにもなかったのね。よかった。」
母様はホッとした様子で私を抱き寄せた。
「…ねぇ母様、言いにくいんだけど…、おじーさまって私達の事嫌いなんだよね?
初めて会った時なんて、私達の事見るのも嫌そうにしてたのに、今日は、そんな感じではなかったの。どうしたのかしら?」
「うーん…。私達の存在に慣れてきたって事が1番かしらね。それに、ラルーの顔だちが、どことなく、幼い頃亡くなったった私の兄様に似てるからかもね。」
「母様にお兄様がいたんだ!でも、私の顔は地味だから父様似なんじゃないの?母様や、おじーさま・おばーさま、みたいなエルフっぽい顔立ち(美形)ではないわよ。むしろ、顔立ちならクラスやフィーダの方がエルフ顔じゃない?」
「あら、ディーンは地味顔なんかじゃないわ!若い時はそれはもう美しい顔だったんだから!」
母様…私の顔が地味ってさりげなく言ってませんか?
「お兄様は、お父様のお母様、つまりラルーからしたら曾お祖母様に似てエルフには珍しく地味な顔だちだったのよね。
しかもお兄様の瞳の色は、私のお母様に似て紫色だったの。
ラルーと同じでしょ?
私が小さい頃お父様は、それは厳しくてね。もちろん、愛情があっての厳しさだったから、そんなに辛くはなかったけどね
でも、特に自分の後継ぎにするお兄様には、厳しくしてたわ。
私があんた達に厳しく言わないのは、そのせいかもね。ふふ」
いやいやいや…厳しいっていうか怖いですよ。微笑みの裏の恐ろしさってやつですか?ある意味、十分に厳しいですよ
「ある日、お兄様はお友達と遊びに行って、帰りが遅くなってしまったの。
そうしたら、お父様に「時間を守れない者は、ずっと外にいろ」って叱られて、家から締め出されちゃったわ。
お母様がお父様に取りなって、1時間後くらいに、なんとかお兄様を家に入れて、夕飯の残りを食べさせてあげたんだけど、お腹が空きすぎて、がっついたみたいで、食べ物を喉に詰まらせて…
その時、お母様も侍女に呼ばれて次の日、うちで開かれる事になってた夜会の食べ物の献立を決めている最中だったから、誰も食堂にはいなくてね。見つけた時には手遅れだったわ。」
おじ様……。つーか、話しの流れからおじーさまとの確執か何かで亡くなったと思ってたら食べ物を喉に詰まらせるって!
それよりなにより、いいとこのお家の子が、食べ物にがっつくってどんだけハングリーだったのよ。
ツッコミたい事が山ほどありながら、ここはぐっと堪えた。
「お父様もお母様も歎き悲しんだけど、中でもお父様の気の落ち込み様ったら尋常じゃなかったわ。
それからは、感情もあまり出さなくなったわね。
それが、今日、あんなに朗らかになった理由がラルーと会ったからなんて凄いわよ!ラルー。グッジョブよ!」
グッジョブって母様…
まぁ、しかし、おじーさまとの距離が少しは埋まったって事かなぁ。怖いけど、もっとお話したいなぁ。
そう思いながらラルーは眠りに落ちた。