その22
「シャラン、お口に食べ物が入ってる間に違う物を口に入れては、ダメよ。ポロポロ、口から出ちゃうでしょ?ゆっくり噛んで飲み込んでから、次の食べ物をたべるのよ」
「モッモ、モゴモゴモ!」
「口に食べ物が入ってる時にはしゃべらないの!ごっくんしてから喋ってね。」
シャランが来てから、大人しかったラインは、すっかり成りを潜めお姉さんぶりを発揮している。その姿を周りがおかしそうに微笑みながら見てるのをラインは気づかない。
まぐまぐ…ごっくん!「だって無くなっちゃうかも知れないもん。」
「誰もシャランの食べ物を取らないから安心してゆっくり食べなさい」
母様がシャランの顔についた食べ物を指で取って、自らの口に運んでパクっと食べながら言う。
シャランがサルン家に来てから2週間が経った。すっかりウチにも馴染んで、今じゃフィーダに並ぶ暴れん坊ぶり。
だけど、時々夢で昔の怖かった思い出が蘇ってくるのか、泣きながら「ごめんなさい、ごめんなさい」と、うわごとのように繰り返す事があって、その度、母様が、シャランを胸に抱き、「大丈夫。母様がここにいるからね」と言いながら、ゆっくりシャランを揺らすと再び安心したようにスーっと寝る。
「きっとシャランはね、昔の自分と必死に戦ってると思うの。もし、母様が仕事で遅くなってシャランが泣いてる時に間に合わなかったら、あんた達しっかり面倒みてあげてね!」
母様から我々三つ子にお願いされたけど、私とクラスは言われなくてもやりますよ。
フィーダは、寝ちゃってて起きないけどね…
「クラス達は今日は何をするの?」
おばーさまがお茶を飲みながら尋ねた。
「僕らは、剣の稽古です。そうだ、おばーさまからも言って下さい!ラルーも剣の稽古をするって言い出したんです。女の子には、危険でしょ?何かあっても僕とフィーダが守るって言ってるのに聞く耳持たなくて…」
「だって、クラスやフィーダがいない時に危険な目にあったらどうするのよ!ましてや、ラインやシャランやカルだけしかいなかったら私が守るしかないでしょ?」
「フフッ。クラスは貴方の事を心配して言ってるのよ、ラルー。でも、ラルーの言う事も一理あるわね。守られてばかりでは、いざって時には何も出来ないもの」
おばーさまがニコニコ笑っていう。
「ウホン、ラルー…剣を知るのは良いが、危ない事は程々にしておきなさい。」
おじーさまが真面目な顔で言う。
「はぁーい。でも少しだけならいいでしょ?おじーさま?」
「ま、まぁ少しだけならな…」
「父様ったら、ラルーとカルには甘いんだから!」
母様がおじーさまをからかう。
「ねぇラルー姉様、シャランも剣のお稽古してみたい!ライン姉様も一緒にしよー!」
「えっ!剣の稽古?・・・私。怖いわ・・・」
珍しく前の気弱なラインが顔を出す。ラインは、本当に怖いみたいで顔が引き攣っている。うーん、根っからの女の子でかわいいわ!ライン。
でも、ラインの姉様としての威厳も立たせてあげたいし…
「シャランがもう少し大きくなったら一緒に剣の稽古しようね」
「わかった!!シャラン早くおっきくなる!」
「!!!」
大人三人が顔を見合わせる。
こんなにも早くシャランの成長を望む言葉を聞けるとは…。
「やはり、子供は、子供の中にいるのが1番の成長の近道なんだろうな…」
「えぇ、本当に…」
「おじーさま、おばーさま、何のお話?」
不思議な顔でシャランが聞く。
「いぇいぇ、何でもないのよ。ほら、シャランもっと食べなさいね。」
おばーさまがシャランのお皿にサラダを乗せるとシャランは嬉しそうな平らげていった。
それから、年長の私達は剣の稽古に、ラインとシャランは歴史のお勉強、カルは積木とそれぞれの課題を行った。
「ラルー様、筋がいいですね。次は上段からの突きを100回素振りしましょう」
華奢な体つきの家庭教師トラック先生が微笑みながら言う。
マジッすか!結構フラフラなんですが!?
この先生は、教え子の限界+αまでの練習をさせるので教え子は皆上達が早いと評判の先生だけど………
キツイわー。
ちょっと筋が良いと褒められた事にいい気になってました。ごめんなさい…
「せ、先生……、ちょっと休憩をしませんか?」
休みたいと思ってた所にバテバテのフィーダがタイミングよく提案してくれた!
ラッキー!
「それじゃ、各々に与えられた課題が終わったら休憩して、その後手合わせしてみよっか?」
トラック先生が微笑みながら言う。
(((先生の鬼ー!!!)))
皆の心の声が聞こえた気がする…。
やっと課題が終わったー。あぁ疲れたよ。つーか口聞けないくらい体力消耗した。
フラフラと木陰を目指して我々三人がよたつきながら歩き、ドサっと腰を下ろす。
フィーダなんか俯せでお尻だけ上げた間抜けな格好だけど、同じく疲れきっているクラスと私は、突っ込む元気さえない。
「ププ!三つ子ちゃん達トラックに相当やられたね!大丈夫かい?」
と、後ろから笑い声が聞こえた。
私達は顔だけあげて声の方を見るとそこにはベイル王子がクスクス笑いながら立っていた。