その20
通された部屋は、大きな円卓が中央にあり、壁には大きなこの世界の地図のような物が貼ってある。どうやら、会議室のみたうな感じ。
「皆さん、お座り下さい。」王子が椅子を勧める。
「ねぇねぇ、ベイル。シャラン、フィーダとラインとカルとで遊びたいけどダメ?」
シャランちゃんが王子の袖を引っ張り上目遣いでお願いする。
うぅっ、かわいい!
「え!!あ、あぁ…わかった。じゃあ、この部屋の中なら遊んでもいいよ。フィーダ君、カル君、ラインさん。悪いけどシャランと遊んでもらえるかな?」
コクリとラインが頷きフィーダも同じように頷くと
「シャラン!何して遊ぼっか?」と笑顔でシャランとカルの手を取りラインと一緒に席を立って行った。
「すみません…。シャランが人と遊びたいと言う事自体珍しくて・・・フィーダ君とラインさんとカル君には、申し訳ないです…。」
すまなさそうな顔で王子言った。
「いいのよ。どうせ、あの子達は、じっと座ってられないもの」あっけらかん母様が言う。
「ありがとうございます。実は……。シャランは、先程父が今日集まっていただいた方々に紹介しようとしていた僕の婚約者なんです」
「「「「エェー!!!」」」」
残った一同が再び驚く。
うちは、リアクション芸人一家か?って思うくらい素敵なリアクションで返す。
「だって、王子も十分若いけど、シャランちゃんなんてまだカルとそんなに年が変わらないくらいの子供よ!」
母様が身を乗り出して聞く!
母様、王子に対してフランク過ぎです。
「まぁ、いつかはシャラン様も成長する。王も、それまでは婚約者としての立場という事で見守るおつもりなんだろう。」
おじーさまが静かに言った。
「成長・・・ですか。皆さん、シャランはいくつだと思いますか?」
「見た目は、5才くらいに見えますが…?精神的にも幼いように感じますので実年齢的にもまだ10才前後では?」
クラスが思案顔で言った。
「実は……シャランは、あぁ見えても125才なんです。」
「「「「「エェー!!!」」」」」」
再び驚きの声をあげる私達。
「125才っていったらエルフでも見た目は、十分大人に見えるはずよ。」
母様が再び身を乗り出して言う。母様、母様が身を乗り出す度に横にいる私に胸が当たりますので座って下さい。
「実は、彼女はパレス山という山奥に住むパーム一族の長の孫なんですが、まだほんの赤子の時から、両親から虐待を受けていたみたいで、満足にご飯も与えられ無かったそうです。
そして、シャランが5才の時、母親と父親から森の中で折檻を受けていた際に魔族に襲われたそうで……。なんとかシャランだけは、一命を取り留めましたが、目の前で両親が殺されたショックと虐待を受けた心の傷から大人になる事を拒否し、自ら成長を止め、更に精神的にも幼いままになってしまっているんです。」
悲しそうな顔で王子が続ける
「彼女の一族は、エルフの元種に最も近く、動物と話せ、植物を操る力を持ち、その血を重んじる為に血族結婚を繰り返していました。彼女が成長を止めたのも、その強い力の影響が出ているのかもしれません。そして、王族の直系も代々動物と話せる力を持っているので、その血を薄れさせないためにエルフの血を重んじる一族と代々結婚していました。
しかし、僕の代になるとシャランの他に動物と話せる女子がいなく、シャランの年齢を考えて父が決断したと言う次第です」
「かわいそうに…」
クラスがそう言って押し黙る。
「そう言ってくれて、ありがとう。僕としても、悲しい経験しか知らないシャランには本当に幸せになって欲しいから、彼女が心から愛せる人と結婚して欲しいと思います。
それに、彼女は僕の事を兄のように慕ってくれてはいますが、夫になるなんて夢にも思っていないですしね。僕もシャランの事は妹以外には思えませんし、僕だって、本当に愛する人と一緒になりたいと思ってるので、父の意見には従いたくは無いんです。」
毅然とした態度で王子が言った。
「ベイル様のお気持ちは、王には伝えられたのですか?」
おばーさまが真っすぐに王子を見ながらいった。
「はい……。しかし、父は聞く耳を持ってはくれませんでした。王宮でのシャランの立場は、とても危ういんです。彼女の安全を考えると、僕としても受け入れざらねばならなかったんです。でも、シャランの食事への欲求からお披露目の前にいなくなってしまって、王宮では、大探しをしていた所でした。
そんな時に、サルン伯爵から幼い迷子を保護したという連絡を受け、僕が見に行ったという訳です。」
「じゃあ、貴方は、シャランちゃんを連れて帰ってお披露目させるの?」
堪らなくなって、私が聞いた。
「シャランの立場を考えるとそうぜなるを得ないよ、ラルー」
悲しい顔で王子が言った。
「事の次第は、わかりました。・・・ねぇ、あなた、シャラン様をウチで引き取る訳にはいかないかしら?シャラン様は、あまりにも悲しい事しか知らないわ。
孫達と一緒にサルン家で大切に楽しくに育てれば、成長も見込めると思うの。その間にシャラン様が好きな人が見つかれば、御の字じゃない。それで好きになる人がベイル様なら尚の事、いいお話でしょ?ベイル様には時折、ウチにいらしていただいければ好きになる可能性も高いわ!
このまま、王家にいてもシャラン様が成長できるとは、到底思えないの。お願い・・・あなた。」
おばーさまがおじーさまを見つめる。
「お父様、私からもお願い。私の娘だと思って育てるから!もちろん、分け隔ては絶対にしないわ。」
母様もおじーさまにお願いする。
「僕達も、兄妹と思って接するから!ね、ラルー!」
「うん、おじーさま!お願い!」
クラスと私がおじーさまを見つめる。
「お前達、犬や猫の子供を引き取るのとは、訳が違うんだぞ!
……………………………。
はぁ……。わかった。私から王に話してみよう。」
おじーさまがうなだれながら微笑むと、王子の嬉しいそうに目をきらめいた。