その2
私達がパチーノに来てから、今までの生活とは、がらっと変わった。
朝、私達六人が寝ている大きなベッドに侍女三人が起こしに来てくれ、それぞれに身支度を整えてくれる。
服もいつも同じ服を着ていたのに、毎日違う服を用意される。
一度着た服は、どうなるんですか?まだ全然着れますよ!なんてもったいない事してるんですか!とツッコんでみたが何を言い出すのこの子は的目線で見られ、それからは、出されるものを静かに着ている。
その後、朝ごはんを食べる食堂に移動する。
食堂には、おじーさまとおばーさまと一緒に朝食を取るが、おじーさまは、私達の事が好きではないので、全くの無視。
ところが、おばーさまはどうやら子供大好き気質のようで、最初はハーフエルフの孫に戸惑っていたが、時間が経つに連れ溺愛し、世話を焼き始め、おばーさまが口を開かない時間はない。
「クラス!顔にパンがついてますよ!おばーさまが拭いてあげるわね。
あら、カルは、お腹が空いてたのね、もぅお皿が空だわ!早くおかわりを持ってきてちょうだい。
ラルー、ニンジンが嫌いなのはわかるけど、今よりもっと美人になるから一口でもいいから食べなさいね。
またラインは、お口が動いてないわよ。違うものがいいなら作らせるから何が食べたいの?言ってごらんなさい。え?お菓子?そうねぇ、お皿にあるご飯食べたらラインの好きなケーキをあげますよ。えぇ約束するわ!
フィーダ、肘をついてはダメよ。せっかくの男前が半減しちゃうわよ!そう、姿勢を正しく美しい所作をしていれば、あなたは素敵な紳士に見えるわ!」
おばーさまは、本当にうれしそうに私達の世話を焼いてくれるので今では皆おばーさまから引っ付いて離れない。
母様は、その光景をしたり顔で見ている。
母様、計算ずくだったんですね。っていうか、母様私達にしつけという事は、一切してませんよね。おかげでのびのび育ちましたが、今現在教養が全く身についていないから苦労してますよ…。テーブルマナーくらいは、早めに教えおいて!
その後は、年齢別に別れ家庭教師のもとでお勉強。
カルはまだ赤ちゃんなのでおばーさまと過ごしている。
その間、母様はおじーさまとは、一緒に伯爵家の難しいお仕事 をしている。
今日は、楽器の練習だ。
クラスとフィーダは、飲み込みが早く先生が稀に見る逸材と褒めているが私ときたら全くできない。
違う意味で稀にみる逸材と先生に言われてしまった。
すっかりやる気を無くしてしまい、先生にお腹が痛いから自室に戻るといい、部屋を出た。
「ラルー大丈夫?」
「クラス!大丈夫よ。わざわざ追いかけてくれてありがとう。でも、本当に大丈夫!クラスは続きをして」
「ラルー…気にしなくていいよ。魔力だったらラルーが僕らの中で1番なんだからね。音楽なんて、生きてく上では必要ないからさ」
そこまで気をまわされると余計落ち込むよクラス。
「違うの、本当に朝ごはん食べすぎたみたいでお腹痛いの。あ、でもおばーさまと母様には内緒にしてね。心配するから。」
「わかってるよ。ゆっくり休んで。」
優しい兄様だけど、その気配りが今は辛いわ。悔しいから一人でこっそり練習しようっと!
広い庭に出ると人がめったに来ない東屋がある。(この前、皆で探検した時に見つけたの)
よし、ここで練習しよ!
私はこっそり隠し持ってきた横笛を出し練習を始めた。
フゥーフゥーフゥピーフゥー
いくらやっても音がでない…
出ても的外れな高音だけだし。何故だ!?
クラスもフィーダも始めからできたのに…
あたし、本当に才能ないかも…
いやいやいや、同じ兄弟なんだから私にだってできるはず!!
気を取り直して、笛を持った。
フゥーフゥーフゥーピーフゥーフゥーピーフゥーフゥーフゥー
ブフフゥー
小1時間くらい練習したが、全く音がでない。
「何よこの笛!」
あまりの出来なさ加減にほとほと嫌気がさし、横笛を芝生に投げ出した。
「プッ(笑)」
え?え?え?
誰もいなかったよね…。今。誰か笑った?
周りを見渡すと、私のすぐ後ろになんとおじーさまがいた。
「あ、あの…これは、その…」
やばい癇癪起こしたとこまで見られてた?
「お前は、なんでこんな所で笛を練習している?兄弟達と一緒ではないのか?」
「あ、えっと一緒にいたんですが、二人はすぐに出来てしまい、私だけが…出来ないんです…」
あぁただでさえおじーさまに嫌われてるのに、更にまた笛が苦手の癇癪持ちという嫌われ要因が加算されてしまう!
あぁ私のバカこんなとこで練習しようとして!
「出来ないのが悔しくて一人で練習して、更に出来なくて癇癪を起こしたのか?」
「…はい」
「フッハハハ!」
え?お、おじーさま?何がそんなにツボなの?
キョトン顔の私に散々笑いようやく落ち着くと
「私の幼い時も同じ事をしたよ。更にエルザも全く同じ事をしてた。エルザの場合は、笛を粉々にしたけどなぁ。
笛が苦手なのは我が家の伝統らしいな。散歩の途中で今日は、懐かしいものを見れた。」
そう言うと、おじーさまは屋敷の方へ戻っていった。