その10
おばーさまにその場で治癒魔法をかけてもらい、とりあえず応急処置を受け、すぐに馬車を呼んで家に帰った。
馬車の中でクラス達の姿が見えないからどうしたのかと聞くと、私を探す為に小さな子供を見ながらだと探せないので、ラインとカルを屋敷に帰す事にしたらしく、付き添いでクラスも一緒に先に帰らせたという。
屋敷に着いたら直ぐに医者を呼んで、腕の治療をしてもらった。
どうやら、エルフは長寿の割には人間に比べて傷や病気に弱いらしい。
けれど、幸か不幸か私はハーフエルフの為、骨が折れてもエルフよりもダメージが少ないらしく(骨折が中々治らず死んでしまうエルフもいるみたい)骨を再生する呪文も直ぐに効いた。
まぁ、効いたと言っても折れた骨が薄く、くっついているだけでしばらくは安静にしなきゃならないらしいけど。
しかも2、3日は骨が折れた事と治癒魔法の反動で高熱が出るとの宣言つき…。もちろん、宣言通りの高熱が出てきましたとも。あぁ苦しい…
しかも私の安静を確保するため、兄妹達とは別室に移されてしまった。しかーし、私が不安にならないよう母様とおばーさまが交代でずっと側に付いていてくれている。
クラス達には悪いけど、母様とおばーさまを独占したようでうれしいなぁ!腕を折ったかいがあるかも。
今はおばーさまがついてくれてお昼を食べさせてくれた。
私が食べ終わってしばらくするとコンコンと部屋の扉を控えめにノックし、クラスが入ってきた。
「おばーさま、僕がラルーに付いていますからお昼を食べてください。母様は、お仕事が立て込んでしまってすぐにはこちらに迎えないらしいので、僕が代わります。」
「あら、そんな時間かしら?そうね、そうしましょうか。ラルー直ぐに戻りますからちょっと待っていてね。クラス、それまでラルーの事お願いね。」
そう言っておばーさまが部屋から出て行った。
「ラルー、熱は下がった?」
心配そうな顔したクラスが私のおでこを触って熱を確かめる。
「まだ、結構あるね…。大丈夫?辛くない?欲しいものがあったら言うんだよ」
そう言いながらクラスは優しく頭をなでてくれた。
私は、クラスに対して悶々としている事を口にした。
「クラスごめんね。心配かけて…。それにせっかく買ってもらった髪飾りを壊しちゃって……本当にごめんなさい」
「あれは、ラルーのせいではないもの。気に病む事なんて全くないよ。また今度買ってあげるから気にしないで」
そう言ってクラスは優しく私の頬をなでてくれた。
なんて優しいんだろう!大好きな兄様だ!
「ありがとう」
私はクラスに微笑んだ。
そして、ずっと不思議に思っていた事をクラスに聞いた。
「ねぇ、なんで母様達は私の居場所がわかったの?」
「実はね、ラルーと別れた後、ラルーを散々探したんだけど見つけられなかったんだ。
けど、しばらくして母様達とは出会えたから、事情を説明してる時に突然、空から鷹が降りてきて、僕達に何か言いたげに、しきりに鳴くんだよ。
最初は何なのかよくわからなかったけど、しばらくして母様が鷹の後を追ってみようと言い出して、おばーさまとフイーダとで鷹の後を追って行ったんだ。
そうしたら、まさかのラルーが居たってわけ」
クラスがクスクスと笑いながら答えてくれた。
「鷹が!? あのね、私を助けてくれた人が鷹を呼んだと思ったら、よくわからない言葉で鷹に話し掛けた後に鷹が飛んで行って、その後に母様達に会えたの!」
興奮した私が支離滅裂の言葉で説明すると、さすが生まれた時から一緒にいたクラス!言いたい事をわかってくれた。
「って事はさ、その人、鷹と話せたんだね。昔、読んだ本に古代のエルフは、動物と話せたって書いてあったな。だけど、時代が進むにつれてその能力が薄れていってるみたいで、今じゃ、殆どのエルフは、動物とは話せないんだ。
ただし、一部話せる人達も極わずかだけど残っているんだって」
「へぇ〜そうなの。じゃあ、あの人は珍しいエルフなんだね」
まぁ、眼鏡かけたエルフ自体今まで会った事無いから、珍しい体質なのは、そのせいなのかも。
エルフは一概に目が非常にいい種族なので人間みたいに眼鏡をかける人を私は見たことがない。
「その一部の人達はどんな人達なの?」
「動物と話せる能力を重視して、話せない者達との交流を避けて辺境の地で少人数で暮らしている一族が数グループいるみたいだよ。
まぁ、古代の能力を絶やさないように血族結婚をしている人達がいるって事だよ」
「じゃあ、私達は絶対に動物と話せる能力なんて持てないよね!」
「エルフの血が半分しかないからね。でもさぁ、傷や病気に対する生命力や体力は、エルフ以上に強いんだから、それに感謝しようよ」
「うん!」
バタバタバタ、バターン!
クラスと微笑みあっていると廊下からけたたましい音と共にカルとラインを小脇に抱えたフイーダが入ってきた。
「クラスだけラルーに会うなんてズリぃーよ!チビ達だってラルーに会いたいよな?なぁ?」
フイーダの問い掛けにラインは泣きそうな顔でこちらを見る
おそらく無理矢理フイーダに連れて来られたんだろう。
「ねぇたま!ねぇたま!だっくぅだっくぅ」
小さなカルがフイーダの腕から逃げようと身をもがき、私に腕を伸ばし抱っこしてとねだる。
げ、激カワ!
「カ〜ル〜!ねぇたまも会いたかったよ!」
腕を固定しているのでカルの事を抱っこできない私に気を使い、クラスがカルを抱き上げた。
小さな手で一生懸命頭を撫でてくれる。
「ねえたま、いたい、いたい。あっちいけーー!!」
あぁ癒されるわぁ…
「うん、カルのおかげで大分良くなったよ!ありがとう」
「姉様、早くよくなってね」
ラインがフイーダの拘束からやっと逃れられたらしく、怪我をしていない方の手を握ってかわいい顔で聞く。
「ラインもありがとうね。もう大丈夫だよ!治ったらまた一緒に遊ぼうね」
「やっぱり、家族の力は凄いよな!ラルーの顔色が俺達が来る前より格段に良くなってる!」
フイーダがエッヘンと威張りながら言った。
「馬鹿か、お前は…。ラルーの熱が上がったんだよ。さぁ、お見舞いが済んだら早く出てけよ!
ライン、カル、姉様は、もう少し休まなきゃならないから、もうちょっと我慢してね。
さぁラルー、熱が高くなる前にしっかり寝る事!さぁさぁ、各自、言われた事をちゃっちゃとやる!」
クラスが仕切だすと皆、有無言わずに従わざるをえない。
私は仕方なく寝ることにした。