弟の女装で起こったラブコメが尊い。
翌週の日曜日、デート当日。最寄り駅前。午前10時
「ごめんなさい。待たせましたか?」
「ううん!そんなことないよ。さっき着いたばっかだし、
わっ、真白ちゃんすっごく可愛いね」
可愛い、という単語に敏感になってしまう。
なんか照れる。
いや、落ち着け俺。
これは姉ちゃんのメイク技術がすごいだけだ。
ありがとう。まじ感謝。
決して俺ではない。
前を見ると眼の前で笑っている春馬がいる。
なんだろう、いつも見ている顔なのに今日だけは
少し距離が近くて、
駅前の街頭と共に、少し輝いて見える。
馬鹿のくせに。
「てっきり俺、あんな告白しちゃったから引かれてもう会えないかと思ってたよ
今日だってすっごく会いたくて‥‥‥
あっ、これってよく考えたら出会って間もない人にする話じゃないわ。
気分悪くさせたらごめんね」
―会いたいって思ってくれてたんだ。
その事実が胸を躍らせる。
「全然気にしないでください。
私も、今日が楽しみでしたから‥」
何考えてんだ、俺。
一応まだ女ってことなので”私”って言ってみたけど
なんかむず痒い。
「それはよかったよ!
そうだ!クレープ食べに行きたいんだっけ?
ここは男として奢らせてよ!」
流石に男だってことも隠して、騙してるのに
奢ってもらうわけには‥‥
‥‥結局、最後までクレープのキッチンカーの前で抵抗するも
押し負けて奢ってもらってしまった。
なんかすまん、春馬。
今度さり気なく学食奢ろう。
罪悪感に苛まれながら奢ってもらった
いちごのマスカルポーネクレープ。
二人でお揃い。
おいしい。
普段なら絶対選ばない。
甘すぎるし、俺にはもったいないぐらい可愛い。
姉ちゃんがこんな格好させなきゃ食べなかった。
そう、姉ちゃんのせい。
でも――――――今日はなんとなく。
そんな気分だった。
そんな浮ついた気分‥‥
浮ついてる‥‥?春馬相手に何言ってんだ。
まぁそれは置いといて、ちゃんと言わなきゃいけない。
―――自分が男だってこと。
今日はそれでおしまい。
でも結局言えないまま時間は過ぎて、
食べながらお話ししてしまった。
春馬らしい、明るくて何も考えずに
相手に自分のそのとき思ったことを共有したいってのが伝わる。そんな話。
学校で、クラスで、聞いた話もあったけど
なんだか退屈じゃなかった。
なんか俺、告白されてからおかしいな。
横目で春馬を見る。
口にクリームを付けたまま美味しそうに食べ進めていく姿を見て想像する。
ここで拒絶してくれたら、
ここで見放してくれたら
ちゃんと割り切れる。
そしたらこの変な気持ちにも整理がつく。
「‥‥どうしたの?
もしかしてあんまり美味しくなかった?」
「ううん!あの、その‥
すっごく美味しいです。でも、ほんとに奢ってもらってもいいんですか?」
だめだ、なんか言えない。
言わなきゃいけないのに。
「いいんだよ、遠慮しないで
少しはカッコつけたいんだ。好きな子の前だし。」
「いや、そうじゃなくて
その、重要な話があって今日は誘ったの。」
声が震えているのが自分でもわかる。
なんで?
拒絶されるのがそんなに嫌なの?
惹かれるのがそんなに怖いの?
自分でもわからない。
「あのわっ、わたs、俺は..」
なぁに?とでも言いたげな顔をむけてくる春馬。
目が合わせられなくなって背けてしまう。
なんでだろう。
「実は、俺
男なんだ」
沈黙が流れる。
なんだか今は春馬の顔を見るのが怖くて
顔を見ることができない。
どんな顔してるかな。
「えっそうだったの?
じゃあ俺、男に一目惚れして告白したってことは?」
「そうなり、ます
騙していてごめんなさい」
声からじゃ全然感情が読み取れない。
まだ俺自身ってバレたわけじゃないけど
もう顔合わせができない。
頭を下げたまま思考がぐるぐる巡る。
息が、だんだんと、苦しくなる。
目の前がまっくらになる。
「んーでも、だから?
男で何か問題があるの?」
思わず顔を上げてしまう。
え?こいつは何を言ってんだ?
"男で何か問題があるの?"
問題しかないだろ。
でもその表情からは嘘偽りを感じない。
本気で言ってるのか?
「好きになった相手が男だったってだけで
なんにも問題はないでしょ?」
忘れてたこいつ超ド級のバカだった。
「正直に言うと男ってのはめちゃくちゃ驚いたよ?新たに俺の扉が開く気もした。」
そこは聞きたくなかった。
けどさっきまでの苦しさが不思議となくなっていた。
「最初は俺も一目惚れでビビっと来て告白しちゃったんだ」
「は?」
「でも例えばだけど俺が奢ろうとした時、嫌がったてしょ?俺が話す時、うわの空気味だったけどちゃんと話を聞いてくれたでしょ?
.....俺、空気読めなくてさ。よく女の子とか同性にもうざがられちゃうんだ。」
確かに。こいつは人望もあるけど
空気が一切読めない。いいところでもあるけど影で煙たがられてるのが実際だ。
「でも真白ちゃん、いや真白はちゃんと目を見てくれた。俺なんかに気を配ってくれた。
ちゃんと話しそうとして震えているのも。
逃げないで自分のことを話してくれたのも
そう言うところが好きになっちゃったんだ。」
「俺が好きになったのは一目惚れした真白でもない。今ここにいる真白なんだよ。」
顔が熱くなる。
思考が停止する。
「最初は不純な動機だったけど
それでもよかったらまた今日みたいに誘ってもいい?」
なんだよ、それ。
ずるすぎるじゃんか。
そんなの良くないわけがない。
今の自分の春馬に対する気持ちを言語化するのは難しい。
多分まだ心の中に留めておきたい自分がいるんだと思う。
もう何か理由をつけて目を逸らしたくない。
自分に正直になりたい。
「こんな私いや、俺でよければ
また遊びに誘ってよ。」
「うん、また"デート"に誘わせてね」
でもまだ、俺が普段学校で、お前の周りで笑っている、真白であることは秘密でいよう。
でもこれは逃げじゃなく、春馬に対しての気持ちが明確になったら伝える。
ダメでもいい。
でもいつか伝えられるといいな。
だけど今はこのまま。
このままがいいな。
クレープを手にした二人はしんしんと降り始めた雪と共に歩みを進めていった。
*
同日。
クレープのキッチンカー後方にて。
「なんだあいつら!?!?
早くくっつけよ!?!?」
このデートに不安でいっぱいだった
とある腐女子は
己の欲もついでに満たすためにこっそりとついてきてたのはまた別の話。




