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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

時代小説

貝合(かいあわせ)

作者: 民間人。

 その夜は、とても良い月が空に浮かぶ夜でございました。

 物の怪の気配などもなりを潜めるばかりの忙しなさの中に、かさり、かさり、と貝殻を擦り合わせる音が響いております。


「まぁ、正解」


 などと、裳をお召しの姫君が嬉しそうに仰せになるのを、貝をお合わせになった姫君がはにかみがちに微笑んでお返しになります。


 御二方の御手元には扇が置かれており、床には規則的に並べられた色々の形をした貝殻が置かれております。御二方の御衣が重ねる御色もとても美しくいらっしゃいます。

 裳をお召しになる姫君が、髪を耳にお掛け遊ばすのを、貝殻を脇に置かれた姫君が御諫めになって申し上げます。


「お姉様、ご結婚なさるのですから、お下品なお姿はお控えくださいませ」


 すると、姉君は耳挟みをお直しになさらずに、形の良い貝殻をお選び遊ばして、「貴女の前だけよ」などとお返しになるのです。


 妹君は呆れてしまわれて、お言葉を噤んでしまったのですが、まんざらでもないご様子。恥ずかしそうに顔をお隠しになって、首を擡げておしまいになります。


 姉君が二枚の貝殻を裏返して、高灯台に御近づけになると、袖口から僅かに手首が覗くのも、とてもはしたなく、遠慮がないご様子。

 貝殻の裏には貴公子が、姫君を垣間見るご様子が描かれておりました。幼い姫君は飛び立つ雀をご覧になって、悲しそうにしておいでです。

 また一枚は、女房が御簾を打ち上げる御様子が描かれております。よく見れば外は雪景色で、とても風情のある御様子です。


 姉君は「あら・・・自信があったのに・・・」と悔しそうに仰せになると、貝殻をそっと元の位置にお戻しになりました。


 残念に思いつつも、その表情はどこか楽し気でございます。一方で、妹君の袖口から覗く表情は、華やかなお召し物とは対照的です。


 姉君がお戻しになった貝殻を早速お選びになると、ご自分のお膝元にあるとても形の良い貝殻をそっとお持ち上げになりました。


 お持ち上げになった貝殻の裏側には、御簾をお持ち上げになる女房の御姿と、女房と后の宮が、蝶などをご覧になる別の女房達のご様子を並んでご覧になる絵が描かれておりました。

 明かりが照らし出す重ねは暖かい色にお染まりになって、とても優し気な表情をしておられます。持ち上げた際にさり気なく香る、お香の香りも照らし出されるよう。


 妹君は貝殻をそっとお重ねになって、難しそうに眉をお顰めになりました。そして、堪えかねてお手元の扇をうち開き、御顔をお隠しになりました。

 中央でしっかりと分けられた前髪を少しお乱しになって、鼻声で申し上げるには、


「ごめんなさい、おめでたい日ですのに・・・」


 その御様子をご覧になって、姉君はそっと妹君の御手にある扇を閉ざしておしまいになる。そうして、そっと乱れた御髪をお直しになると、


「わが殿は いかでか食はむ干し鮑 老いさらばえて 月にはならねど」


 と、お詠みになる。その御様子がとてもあはれに思われて、妹君も歌をお返しになる。


「わが身こそ 合はせ召すべき壺鮑 忍ぶることも 難き殻かな」


 そのように歌い合わせになると、妹君はそっと姉君に御身をお預けになって、袖をしとどに濡らしてお嘆きになる。そのお嘆きは鈴虫の音を隠すほどの大きさで、姉君は妹君の御髪をそっとかきならしてお慰めになる。


 高灯台が照らすお二方の影が、屏風に映って重なっております。ますますお体をお重ねになるお二人の影は、ついにぴたりと御顔を合わせて、ちょうど山際のよう。


「ほととぎす 山橘を 発とうとも 心ばかりは (さと)を変わらじ」


 そのように姉君がお詠みになるのを、妹君はお返しになることもできずに袖をしとどに濡らしておいでです。嗚咽をお漏らしになるのも絶えられず、影ばかりか声も簀の子に届きそうなご様子。御手に持つ扇でお顔だけでもお隠しになろうとするのも、姉君がそっと指でつまんでおしまいになって、お隠しになることもできない。


「どうして、こんなお恥ずかしいところを隠させて下さらないのですか?」


 そう泣く泣く申し上げるのを、姉君は少しお顔を綻ばせて、お微笑みになる。その様子がとても妖艶で、妹君は思わず姉君の頬に御手をお伸ばしになる。

 その様子がとてもいじらしく思えて、妹君の乱れる髪をそっとかき伸ばして仰せになるには、


「なかなか見られなくなるものを、もっと見せてくださいませ。御姿を、私の目にしっかと焼き付けたいのですよ」


「そうは言ってもまたお会いできますでしょう?ああ、恥ずかしい、恥ずかしい・・・!」


 妹君はせめてと高灯台の明かりを吹き消してしまわれます。辺りはすっかり闇の中。影もすっかりお姿を隠してしまわれましたが、お声ばかりはお隠しにはなれない。やがて御二人はたがいの御衣を重ねて、褥にそっと身を預けて横たわりになりました。


「今生の別れというわけでもありませんよ。大丈夫、大丈夫」


 そうお慰めになりながら、お二人は、もう二度とはない夜をお過ごしになるのでした。


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