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【第2章】制作ログ信仰時代
透明性システムは、瞬く間に世界を支配した。
「JUDGECHAIN」と呼ばれるその仕組みは、
作品が生まれる過程を1秒単位で記録する。
筆圧・筆跡・クリック数・思考の遅延。
AI補助の割合から、作者の集中度まで。
──全部、NFTに刻まれる。
そして、人類は悟った。
作品の価値は完成品ではなく、履歴にあるのだと。
美術館では絵ではなく、制作ログが展示される。
小説は文章よりも、タイピングデータが高値で取引される。
詩人の“削除キーの回数”が文学賞を取った。
「創造とは、試行の証である」
そう語った学者がバズり、
“純手動認証マーク”が流行した。
AI補正ゼロの人間にだけ与えられる、青い炎のアイコン。
SNSの上で、それは聖人の証になった。
──気づいたら、誰も作品を見ていなかった。
人々は完成品をダウンロードしない。
代わりに、「創造率99.3%」という数字を讃える。
透明性が正義、プロセスが神。
それでも俺は、自分の発明が間違ってるとは思えなかった。
「人間を証明する仕組み」を作ったはずだった。
だけどある日、
ある画家が俺に言った。
「あんたのせいで、筆を置くのが怖くなった。」
何を言ってるのか、最初は理解できなかった。
でも、見ればわかった。
彼女のキャンバスには、線が一本も引かれていなかった。
ただ、録画ログだけがNFTに刻まれていた。




