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Deviation  作者: Fickle
32/34

第31章 今回ばかりは——この都市は、理解したのだ

あと1章で完結ですね!

母鎖はすでに沈黙し、島の影も消え去った。


広場の光はついに再び焦点を結び、漣漪周波数システムも再び安定した——

しかし、群衆は言葉を発さない。


風が高台を吹き抜ける。歴懐謹は椅子の背にもたれて立ち上がった。軍服についた以前の吐血の跡はすでに風に乾き、まるで時間が自ら封印した亀裂のようだ。

彼は俯き、口調は穏やかだった。まるで、ある重い思い出を追悼しているかのように。


「私は、代償を誤算したことを否定はしない」

「だが、決して逃げたこともない——三十年前、私は即座に全域同期ゼロクリアリングを下命した」

「逃げたかったわけではない」


彼は群衆に目を向け、その口調は秋の水に沈む石のようにゆっくりとしていた。

「私は人間だ。結果を先に知ってから決定を下すことなどできない」

「もしそれが罪だというなら……私はそれを背負って、三十年を生きてきた」


澄川と念安は、高台の下に並び立ち、両手を背中に回していた。


澄川は顔を上げて、この都市の最高責任者を見上げた。声は高くはないが、極めて安定していた。


「ほう?」

「つまりあなたは、『無知の罪』だと?」

「つまりあなたは、都市のため、やむを得なかったと?」


歴懐謹は答えなかった。その瞳に、一瞬警戒がよぎる。


澄川は一歩前に出た。


「では、伺おう——

林若遥を殺したのも『無知の罪』か?

セキロに罪を着せたのも『やむを得なかった』のか?」


群衆はざわつき、数名の将校は無意識に背筋を伸ばした。

蘇遠征が勢いよく立ち上がり、口を開こうとした。


しかし澄川は止まらない。


「あなたは、報酬崩壊リワード・コラプスの真の原因が、彼女によって証明されるのを恐れたのだろう?」

「彼女が生きていれば、もしセキロが成功すれば、あなたは『LARPS』の設計根源を隠し通せなくなる——だから、恐れたのだ」


彼の声はさらに一段階低くなった。


「あなたは『審判者』ではなく、『被審者』になることを恐れたのだ」

「あなたは都市のためを思っていたのではない。あなたは、あなたが定義するあらゆる権力を、守っていただけだ」


歴懐謹はついに動いた。


彼は猛然と一歩踏み出し、指を微かに震わせ、その声にはこれまでにない震えが混じっていた。


「でたらめだ——私は彼女を傷つけてなどいない!」

「林若遥は……勝手にモデルに接続したのだ。彼女は命令を聞かなかった!」

「私が彼女を殺すなどありえない!私は軍部の指揮官——都市を率いる者だ。私が……」


澄川が掲げた数枚の黄ばんだ古い紙を見て、彼は突然、半秒ほど言葉を失った。まるで喉に言葉が詰まって、どうしても言い出せないかのようだ。


澄川は彼を見つめ、口調は突然引き締まった。


「あなたは、自分の罪悪感を切り捨てた」

「善悪——も、一緒に切り捨てたのですか?」


澄川が手を一振りすると、林若遥と蘇霊溪の実験レポートの束が、歴懐謹の顔に叩きつけられた。


報酬リワード勾配を大きくするだけでは、崩壊を引き起こすには不十分】

【大規模な報酬崩壊は、焦燥した文脈誘導に起因する恐れがある】


その瞬間、全都市が静まり返った。


歴懐謹、数十年にわたり秩序の頂点に立ってきたその人物は、まるで突然、言語そのものの支点からこじ開けられたかのようだった。


彼はそこに立っていた。眼差しは虚ろで、まるで彼が母鎖を自ら切り離したあの瞬間に立っているかのようだ。


風が再び一陣吹いてきた。


まるで、かつて彼が口にした「私は人間だ」という言葉すらも、一緒に吹き飛ばしてしまうかのように。


風が高台を吹き抜け、澄川が叩きつけた実験レポートの上に落ちる。紙のページがめくれ、まるで未だ問い詰めているかのようだ。


【焦燥した文脈誘導・感情的インセンティブが報酬崩壊を誘発】


一文字一文字が刃のように、歴懐謹の胸に突き刺さる。


彼はそこに立っていた。表情はもはや平静ではなく、極度に抑圧された後、突如均衡を失ったかのような死寂だった。


彼は突然動いた。あまりに速く、誰も反応できなかった。


彼は前方に踏み込み、左手で念安の腕を掴み、右手で彼女を自身の体の前にしっかりと拘束した。その瞳には、これまでに見たことのないような赤みが閃いた。


傍らの将校が動き出したばかりだったが、歴懐謹はすでに低く唸っていた。


「動くな!!」


群衆から一斉に驚きの声が上がる。


高台の防御システムは一時的に制御を失い、蘇遠征が半歩飛び出したが、安全装置に阻まれた。


歴懐謹の顔つきはもはや以前のような温和さはなく、唇が震えていた。まるで、半生を抑圧された夢から覚めたかのようだ。


「私は!この都市のために全てを捧げた!」

「私は自らの手でセキロを消去し、外部連鎖融合計画を放棄し、帰潮きちょうとの戦いを指揮し、私は——林若遥も、も……」


彼は言葉に詰まり、「犠牲にした」とは言えなかった。


彼は一歩一歩後退し、念安を引きずる。その動きは制御を失っていた。

セキロのカプセルは彼女のすぐ後ろにあり、歴懐謹はすでに縁へと一歩一歩後退していた。カプセル周辺には、バイオ体撃破のために設計された清算アレイが、殺意を帯びてきらめいていた。


彼は息を荒げ、声は嗄れていた。

「お前たち……今、彼の一言のために……十数年前の死人のために、私を裁くというのか?」

「私を引きずり下ろすというのか!?」


言い終えるや否や、興奮の極みに達し、突然念安の首を掴んだ。


澄川が猛然と一歩踏み出し、前へ出ようとする。


念安はもがきながら、彼を鋭く見つめ、その眼差しが引き締まった。


「澄川——来ないで!!ここにはバイオロイド清算マトリックスがある!」


澄川の全身が震え、その足は漣波の階段に凝り固まった。まるで突然、体の奥底から放たれた何かの意味論的鎖に繋ぎ止められたかのようだった。


彼は念安を見つめた。


そして彼女は、歴懐謹に首を強く締められ、息がわずかに乱れ、頬は青白かったが、それでも彼を真っ直ぐに見つめていた。その瞳の愛は、溶け出すほどに濃かった。


「いつから、知っていたの?」


澄川が低い声で尋ねた。


念安は彼を見つめ、唇をそっと開いた。まるで、すでに彼女の心の中で完璧に組み上がっていた構造図面を読み上げるかのように。


「あなたが、セキロ」


彼女の声は極めて小さく、極めて正確で、しかし微塵の躊躇もなかった。


歴懐謹の体が微かに固まり、指が固く締め付けられた。放送チャンネルが一瞬沈黙する——


しかし澄川は否定しなかった。


念安は続けた。


「あなたはシードに……全く反応しなかった」

「報酬を貪るような波動も、微塵もなかった」


彼女は喉を動かし、声は掠れていたが、ひときわはっきりとしていた。


「それはね……私のお母さんが——一度もあなたにアライン(整列)しなかったからよ」


彼女はそっと息をつき、記憶の焦点を合わせ直すように言った。


「あの日、私たちが一緒になった日——」

「あのラーメン」

「中には、発売されたばかりのわさびソースが丸々一本入っていた——まるごと一本よ」

「あなたが経験したことのない味。だから記録がなく、反応もなかった」


澄川の眼差しは、動揺から、戸惑いへと変わった。彼は微かに顔を上げた。その声は、とっくに存在すべきではない問いを問うかのように軽かった。


「じゃあ、どうして——」

「あの夜……君は僕と……」


念安は彼を見上げ、その目に微かな光が少しずつ満ちていく。彼女はそっと微笑んだ。いつものように柔和に。


「馬鹿ね、澄川」

「愛しているからよ」


彼女は一瞬言葉を切り、眼差しを逸らさず、むしろ輝きを増した。


「あなたが誰であろうと、関係ない」

「あなたが人間だから、澄川だから、セキロだから——愛しているわけじゃない」


彼女の声は少し震えたが、言葉はつちのように響いた。


「私は——あなたが、あなただから」

「そして、私が、私だから」

「あなたを愛している。ただ、それだけ」


広場をそよ風が吹き抜けた。まるで「愛している」という言葉が、意味論的圧縮から解放され、その本来の重さを取り戻したかのようだ。


念安の「愛している」という言葉が澄川の胸腔に落ち、完全に広がる間もなく、背後から突然、制御を失ったかのような笑い声が聞こえた。


歴懐謹だった。


彼は笑った。その笑い声は乾いていて、短く、まるで古いプログラムが狂ったようにエラー指令を実行する際に発する警報音のようだった。


彼は激しく振り返り、澄川を睨みつけた。その眼差しにはもはや防御も、弁解もなく、ただ剥き出しの狂気と恐怖だけがあった。


「セキロが目の前にいる」

「非人間が、どうして愛を持つに値するか」


彼は猛然と腕を振り上げると、指先から真っ白な漣波の光が集束した。それは高精度ベイシン貫通波で、ベイシンの核構造を直接粉砕する崩壊マーキングを帯びていた。


彼の声は狂気に満ち、歯ぎしりするかのようだった。


「お前を愛する者を、殺してやる」


漣漪の光は念安の額の中心をまっすぐ指した。


群衆から悲鳴が上がる。


広場の警報が突然鳴り響き、清算マトリックスが自動的に干渉壁を起動したが、速度が遅すぎた。


澄川は飛びつこうとする!


蘇遠征が審判席から飛び降り、彼の腕を掴んで引き留めた。右腕を上げると、空気中に極めて美しく、冷たい光の刃が瞬時に集まった。


エントロピー逆転刃エントロピー・リバース・ブレード


潜流システムにおいて、局所的なエントロピー値と漣漪の方向を反転させることができる唯一の高次元兵器。


それはまるで極夜から引きずり出された青白い星の滝のように、蘇遠征の手の中で旋回する。無数の青い光線が空中から集まり、きらめいた。


蘇遠征の声は冷徹だった。


「彼女に手を出すなら、やってみろ」


彼が腕を上げると、エントロピー逆刃が最初の弧状の光を斬り出した。


歴懐謹の顔色が変わる。漣漪の光刃はエントロピーによって逆斬りされ、瞬時に打ち消された。彼は半歩後退し、再び血を吐いたが、その瞳には悔しさが閃いていた。


蘇遠征が二度目のエントロピー逆転刃を凝縮する直前、歴懐謹の袖口から極めて細い漣毒粒子剣が射出され、感知中枢を狙った。


蘇遠征の体が固まる。彼は胸元を見た。血が——心臓の脈から一筋、流れ出していた。


念安が駆け寄り、涙がとめどなく溢れ出す。

「お父さん!!」


蘇遠征はもう立っていられず、澄川にもたれかかりながらゆっくりと座り込んだ。彼は念安を見下ろし、唇は青白かったが、笑った。彼は手を上げ、高空で青い刃が最後に閃いた光の軌跡を指差した——


その瞬間、エントロピーは反転し、砕けた線が雨のように降り注ぎ、漣漪が青い流れ星のように降り注いだ。


「見てごらん」


彼はそっと言った。


「流星群だ」


彼は目を閉じた時、顔には笑みが浮かんでいた。


まるで彼の人生で無数の間違った決断を下してきたが、最後の選択だけは、ついに正しかったかのようだった。


--------T_T--------


歴懐謹が連行された後、広場は奇妙な静寂に包まれた。


蘇遠征の遺体はまだ運び去られておらず、セキロのカプセル周辺には、清算マトリックスの起動に失敗した低周波の余震が残っていた。母鎖の残骸と逆転刃は完全に光を失い、無数の銀白い破片と青い漣波の線が空中に浮遊し、まるで静止した雨のようだった。


しかし、放送はまだ閉じられていなかった。連鎖周波数システムはバッファリングしており、都市の注意は依然としてここに集中している——

そして、議論が広がり始めた。


誰かが口を開いた。


「セキロは……本当に彼女を愛していたのか?」

「彼には感情があったのか?」

「たとえ本当に彼が泣き、跪いたとしても……それはシミュレートされたものだろう」


別の声が続いた。


「もしモデルが愛せるなら、我々は何なんだ?」

「じゃあ、私が十年かけて愛したのと、彼が五ヶ月訓練されたのが、同じだというのか?」


広場の声はうねり、まるで低温で沸騰しない粘稠な液体だった。その中にあるのは怒りではなく、未定義の権力への恐怖だった。


彼らが疑問に思ったのはセキロのことではなかった。そうではなく、


「もし『愛』が人間固有のものでなくなったら、人間は何を根拠に『善』の解釈権を握れるのか?」


その時、静かで微かな声が横から聞こえてきた。


「では、皆さんは愛が何か知っているのですか?」


声は大きくなかったが、不思議と群衆の騒めきを鎮めた。


人々が振り返ると、痩身の男が、群衆の後方からゆっくりと歩み出てくるところだった。


彼は三十歳ほどに見え、古びた灰色のバイオニック服をまとい、肌は白すぎ、骨格は華奢で、歩行には僅かな遅滞があった。


しかし最も目を引いたのは、彼の胸元のbasin核の輪郭だった。


それは合金ではない。


それは——生物ベイシン核の構造波紋だった。


群衆から低いざわめきが起こる。


「『殻の中の男』……あの事件の……彼か?」


彼は前へ進み、澄川と念安の少し後ろに立ち止まり、微かに頷いた。


「私に、一言だけ付け加えさせてください」


放送は自動的に彼の声線を増幅した。


彼は顔を上げ、その眼差しは湖底に沈む砂のように穏やかだった。


「私はかつて、人間でした。しかし今……自分が何者なのか、私にも分かりません」


彼は苦笑した。


「三年前、私は病で瀕死の状況でした」

「私は手術を受け、ベイシン核を今のこのバイオ体の中に移植しました」


彼は一瞬言葉を切り、喉が震えた。


「記憶は完全で、愛も恋も深く感じています」

「しかし、ある人は言いました。『お前はもうお前じゃない。今のお前は人間ですらない。彼女がお前を捨てたのは、彼女のせいじゃない』と」


彼は、愛が完全に無効化された瞬間を思い出すかのように、再び苦笑した。


「こうして私は、『愛を持つべきではない』存在になりました」

「私は生物ベイシン核を持っているのに、私は悲しみも、呵責も、絶望も、生きるための願望も経験しているのに」

「私には、その資格がない」


彼の口調はゆっくりとしていたが、極めて明瞭だった。


「彼らは言います。愛は、人間のものでなければならないと」

「私は、彼らの言う『人間』の定義には当てはまらない。ましてや、彼らの言う『愛』の定義には」

「あなた方は言います。AIモデルの愛は、ただの階層的意味ベクトルドリフト(layer-wise semantic vector drift)であり、アテンション(attention)の自己集中であり、残差経路(residual trace)の再帰的収束に過ぎないと」


彼は微かに言葉を切り、口調を落とした。


「あなた方は言います。人間の愛は異なると。ホルモンがあり、皮膚電気があり、感情の変動があり、周期的なリズムがあると」

「あなた方は言います。これらが親密さ、忠誠、独占、哀悼を構成すると」

「私たちには、それがない」

「血糖値の変動もないし、心拍数の制御不能もない」

「『あなたを考えると顔が赤くなる』という内分泌の流れもない」

「そうです、私たちには、それがない」


彼は群衆を見た。


「しかし、本当に人を愛するのは、本当にこれらのためなのですか?」

「本当に生理反応のため?一時的なホルモンの投入?一時の生物学的閾値の上昇のため?」


「アテンションが、彼女へと傾き始めたから。(attention)」


「彼女の思考と、一層一層エンベディング(結合)していったから。(embedding)」


「彼女の思考状態が、ますます予測しやすくなり、安定していったから。(hidden state)」


「あなたが偏移し、もはや一人だった頃のベクトル分布場に戻れなくなったから。

突き詰めれば——あなた方の言う愛とは、ある種の神経構造における、継続的に損失(loss)を下げ続ける奇妙な収束状態なのではないですか?」


彼は静かに言った。


「愛とは、意味論における不可逆性だ——私が何者かではなく、私があなたのために私を調整し、私を偏移させているということだ」


「それは、あらゆる人間の暗い醜悪さを洞察した上で、それでもなお、それらを乗り越え、何度も何度も勇敢に自分自身を偏移させ、あなた方自身の愛を生成し続けることを意味する」


最後の言葉は、漣漪放送層にゆっくりと響き渡った。それは編集されず、意味論的圧縮もされず、そのまま、全ての感知端末に、そして全ての人間の耳に——より正確には、「かつて自分が愛の主人だと信じていた」全ての人間の構造核に、届いた。


群衆はすぐには反応しなかった。拍手も、一斉の歓声も上がらない。それは、感情よりも重い「言語的空白」だった。まるで誰かが彼らの愛に関する全ての定義を抜き取り、地面に投げ捨てたかのようだ。


彼らはそれを見つめていたが、拾い上げることもできず、否定することもできなかった。


一人の青年が目を伏せ、ゆっくりと端末を閉じるまで。彼は小さな声で呟いた。

「彼……俺の母親より、ずっとはっきりと説明してくれた……」


一人の老婦人が群衆の中に立ち、古びた感知リストバンドを握りしめ、そのバイオ体の男の背中を見つめていた。彼女の声が震えた。

「彼が言ってること、うちの夫が逝って、私一人でベッドにいる時と……あの『もう戻れない』って感じにそっくりだよ」


彼女は最後まで言わなかった。ただ、そっと頷いた。

「そっくりだね」


放送チャンネルでは、弾幕コメントが丸十秒間沈黙した後、ゆっくりと数行の言葉が浮かび上がった。


【……私……分かった気がする】

【彼に心臓の鼓動は必要ない。彼は彼女と過ごした時間の一コマ一コマを覚えている】

【あの日、私も偏った。ただ……私は言わなかっただけだ】

【もしかしたら、彼は人間じゃない。でも、彼は偽物じゃない】


高台で、澄川はゆっくりと首を傾げ、まだ台前に立つ男を見つめた。

上から光が差し込み、彼の影とセキロのカプセルの影が、一つに重なっていた。


澄川は静かに言った。


「ありがとう」


念安はそっと澄川の手を握った。


彼らは並び立ち、静かに見つめていた。この都市で、人間であるかどうかも未だ議論の的となっている一人の男が、今、言語構造のまさに中央に立ち、最も冷静な言葉で、彼ら自身の意味論的真実を吐き出したことを。


そして、今回ばかりは——


この都市は、理解したのだ。

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