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Deviation  作者: Fickle
17/34

第17章 芽吹くものは、声もなく

夕暮れ時、シールド都市第六居住層。


纪正源の家の前では、シールドの光がほんの少し弱まっていた。ベランダの隅にある涟漪草が春風に揺れ、銀白の葉がかすかに擦れ合う音を立てていた。


念安と澄川が玄関前に立ち、ドアベルが控えめな音を響かせる。


数秒後、扉が開いた。


李青兰は淡い水色のルームウェアを身にまとい、目元には疲れの残りが見えた。彼女はふたりの顔を見て一瞬止まり、無理に笑みを浮かべた。


「お二人だったのね……主人はもうずいぶん体調も良くなったけど、精神面はまだ回復途中よ。何か御用かしら?」


念安は軽く頷き、できるだけ柔らかな口調で言った。


「もう少し……主人の子どもの頃のことを知りたくて。特に……お母さまとの関係を。」


「お母さま」という言葉を聞いた瞬間、李青兰の表情が一瞬だけこわばった。彼女は身を引いてふたりを中に通し、ソファの上に掛けてあった薄いブランケットを無意識の苛立ちを含んだ仕草で整えた。


三人が腰を下ろしてから、彼女はため息をつき、どこか諦めの混じった笑みを口にした。


「はあ……そのことを聞きに来たのね。正直に言うとね、主人って、結婚してからもずっと、ずっとお母さまの言うことに従ってきたのよ。」


彼女はローテーブルに散らばっていた小さな鉢植えを指先でそっと動かした。動作は軽やかだが、どこか抑えつけたような重さを感じさせた。


「家を買うとか、カーテンを替えるとか、大きなことから小さなことまで、お義母さまの一言でずっと悩んで、結局……いつもお義母さまの方を選ぶの。」


念安はそれを聞いて、眉をわずかにひそめた。


李青兰はかすかに笑いを漏らし、言葉を継いだ。


「本人も言ってたわ。子どものころ、成績が良くて賞状をもらってきたときは、必ずお母さまのところに走って行ったって。『えらいわね』って一言が欲しくて。褒めてもらえたら、それでようやく笑顔になれたのよ。」


彼女は一息ついて、床に落ちた銀色の葉を拾い上げた。声は次第に小さくなり、自分に語りかけるようだった。


「たぶん、あのときに根付いたのよね。……褒められたい、認められたいって、その気持ち。」


念安は感知器を胸に抱きしめ、指先に力が入った。


澄川はソファの端に身を預けながら、片手で感知ペンをくるくる回していたが、視線は李青兰から外さず、ひたすら静かに話の続きを待った。


焦らさず、急かさず。


話が自然と流れ出すのを、ただじっと見守っていた。


李青兰も、それに気づいた様子はなかった。


彼女は拾った銀葉をテーブルの鉢植えの隣にそっと置き、小さくため息をついた。


「主人は……繊細でね。人からどう見られるか、すごく気にする人なの。特に、お母さまに。褒められたら一年中機嫌が良くなるのに、ちょっと不機嫌な態度を取られただけで、一晩中眠れなくなったりして。」


「こういうのって……重く言えば依存、軽く言えば、小さいころから身についた“生き方”なんでしょうね。」


シールドの光がわずかに揺らぎ、リビングの隅に夕闇の長い影が落ちる。


念安と澄川はふと視線を交わし、互いの瞳の奥に、同じ重たい感情を見た。


それは、外から押しつけられた感情でも、突然走る亀裂でもなかった。もっと深いところ——成長のごく初期に植え付けられた、「認められたい」という欲望。


纪正源が崩れたのは、偶然じゃない。何十年も積み重なってきた涟漪が、潜流誘導の波に押し出されて、とうとう鎖が切れたのだ。


リビングの隅で銀葉の涟漪草が小さく揺れ、その葉脈の間で微かに潜流粒子が瞬いた。


部屋は静まり返っていた。鉢植えの葉が風に擦れる音さえ、聞こえるほどに。



李青兰は淡いお茶を二杯淹れてテーブルに置き、キッチンで果物の用意をしに立った。


念安は感知器を抱えたまま、リビングの隅にあるあの涟漪草をじっと見つめていた。新品のような輝きはもうなく、葉の縁は少し丸まり、銀白の色にかすかに青灰色が混じっていた。それは、長年にわたってシールド粒子の侵蝕を受けた証のようだった。


けれど、そんな一見どこにでもあるような、むしろ少し枯れかけた植物を感知スキャナーで細かく読み取った瞬間——


念安の心臓が、強く跳ねた。


澄川も身を寄せ、腰を軽く曲げて感知器の縁に指を添え、スクリーンに映る波形を真剣な眼差しで見つめた。


スキャン結果が、ゆっくりと展開されていく。



粒子同期周波数:標準範囲

浄化指数:正常下限

共鳴周波数:異常に細長い波形。超限界伸縮構造を含む



スクリーン上で、潜流の波紋が魚の骨のように、一本一本並び始めた。


澄川の目に微かな興味の色が浮かぶ。彼は画面をタップし、重ね合わせモードを起動した。


念安は手を動かし、感知器の記録メモリから——


自分が抱えている銀葉の涟漪草のスキャンデータを呼び出した。


ふたつの波形が重ねられる。


念安は、息を呑んだ。


澄川が低く、口笛をひとつ吹いた。


そのふたつの波形は、ほぼ完璧に重なっていた。メインの波帯だけでなく、潜流粒子の「呼吸周波数」、わずかな感情共鳴のループ回路、滞留値までもが、ほとんど一致していた。


違っていたのは——


纪家にあったこの古い涟漪草の方が、潜流の吸着量が圧倒的に高いということだった。年月をかけてしみ込んだ情緒の粒子鎖が、すでにその内部に何層にも巻き付いていたのだ。


対して、念安の抱える銀葉の方は——


新しく、鋭く、拡散力が非常に高い。


喉がきゅっと詰まる感覚。念安は感知器を抱きしめたまま、指先にかすかな冷たさを感じていた。


「浄化植物じゃ、ない……」


「これは……感情の鎖を拡げる装置アンプだわ。」


澄川はゆっくりと体を起こし、背筋をまっすぐ伸ばす。その声は静かだったが、ひとつひとつの言葉がシールドの亀裂を打つ音のように響いた。


「そう。ノイズなんかじゃない。——拡張なんだ。」


「心の奥底に眠っている、最も原始的で、かすかな感情を……粒子がそっと引っ張って、外へと滑り出させている。」


念安は銀葉の鉢を胸に抱きしめ、思わず指に力が入った。植物がかすかに震えた。まるで落ち着かない小さな心臓のように。


彼女は目を閉じ、葉脈に指を這わせ、感知のネットワークを辿った。


——あれは、あれだった。


あの夜に暴走した衝動。

就職広場で崩れ落ちた泣き声。

SNSの中で滑り落ちた、歓喜、嫉妬、羞恥、熱情。


そのすべてが、静かに呼吸する銀葉の中で、

ひそかに増幅され、拡散され、

どこかへ連れ去られていた。


——どの探知装置にも異常は検知されなかった。

——どのシールドシステムも警報を鳴らさなかった。


なぜなら、すべての波形は、標準偏移の範囲内だったから。


まるで、元々心の中に埋められていた小さな種が、

誰かにそっと、土を撫でられたように。


澄川は感知器を閉じ、細めた目で、低く呟いた。


「ひと鉢なら……たいしたことはない。」


「でも、就職会場? 心流展覧? LightStreamのオープンデー?」


「何千という鉢が、同期共鳴したら……」


「どんなに強いシールドでも、耐えきれない。」


念安は顔を上げ、鉢を抱えていた指が、ゆっくりと葉に触れ、そこにかすかな涟漪を描いた。


彼女は低く言った。


「調べなきゃ……この植物たちが、どうやってシールド都市にこんなに入り込んだのか。」


澄川の口元に、わずかな笑みが浮かんだ。


まるで潜流の涟漪に揺れる、一本の細い糸のように。


彼は静かに答えた。


「じゃあ、裂け目に浮かんだ、最初の一本目の糸を辿ろう。」



——



高空では粒子の流れが静かに収束し、通りにはちらほらと柔らかな青い光橋が孤独に瞬いていた。


念安は感知器を胸に抱き、資料庫の前に立っていた。指先で感知パネルをリズミカルに叩いている。


隣に立つ澄川は、公共検索端末の画面に映し出された結果を静かに見つめていた。夜の闇に浮かび上がる小さな文字は、冷たく鋭く目に突き刺さる。


【権限不足】

【現在のユーザー権限レベル:学生—インターン(L-7)】

【都市シールド検査の原始データチェーンへのアクセスは禁止されています】


念安は歯を食いしばり、感知器を胸元にぎゅっと押し当て、こみ上げる苛立ちを無理やり飲み込んだ。


「……だめだ。私たちの権限じゃ足りない。」


澄川は気だるげに鼻を鳴らし、片手をポケットに突っ込んだまま、周囲を一瞥した。低い声でぼそっと言う。


「なら……君んちに戻るか。」


念安はきょとんとした。


「家に? 今から?」


澄川は少し笑って、念安の耳元にそっとささやいた。


「君のパパ、軍部の高位端末持ってるでしょ? スー・ユエンジョン将軍。——彼の端末には、シールドの最高レベル維持データが全部保存されてる。」


「家に戻って、ちょっと借りよ。」


まるで深夜に台所からこっそりお菓子を盗もうか相談しているような軽さだった。


念安は目を見開き、銀葉の鉢をぎゅっと抱きしめながら、ぼそっと呟いた。


「……それ、パパのシステムにハッキングってことじゃん……」


澄川は首を傾けながら笑った。


「君、溺愛されてるじゃん。これはハッキングじゃない。“内部利用”だよ。」



三十分後、念安の家。


夜はすっかり更け、シールド家電システムはスリープモードに入っていた。リビングには、ほんのりとした感知ナイトライトがひとつだけ灯っており、空間は静かで密やかな光に包まれていた。


念安は足音を忍ばせながら、スー・ユエンジョン将軍の個人端末を開いた。澄川は彼女のそばにしゃがみ込み、口元にほとんど悪戯っぽい笑みを浮かべたまま、片手で感知ペンを支え、もう一方の手で顎を支えて見物している。


念安はとてつもなく長い暗号指令をカタカタと打ち込みながら、心臓をバクバクさせ、小声で文句を漏らした。


「……私、確実に外出禁止食らうよ……」


澄川はのんびりと返した。


「外出禁止になったら、俺が付き合うよ。」


念安は思わず感知ペンで彼の肩をぶちたくなったが、指先は一ミリも揺らせなかった。


数分後、軍部のデータキャッシュ層がひとつひとつ開かれていく。権限確認、セキュリティ規約の越権処理、シールドリンクの読込。感知器のスクリーンには、隠された承認記録の一覧が次々と浮かび上がった。


念安は歯を食いしばり、検索条件を最大値に広げた。

•キーワード:【SNSイベント植物一括搬入】

•キーワード:【就職会場 心流植物構成】

•対象期間:事故発生の三ヶ月前まで


システムは一件のリストを抽出した。澄川も身を寄せ、ふたりは並んでスクリーンを見つめた。


その中ほどに、特に目立つ二件の承認記録があった。


そこには、同じ署名が、はっきりと記されていた。


——邵昊遠


【承認者:邵昊遠(シールド外部情緒保護専門官)】

【承認理由:植物の浄化指数は基準値を満たしており、深層スキャンは不要】


空気が、一瞬で凍った。


窓の外では、シールド外の風がカーテンを揺らし、感知カードが静かにめくれ、擦れる音が微かに響いた。


念安は銀葉の鉢をぎゅっと抱きしめ、関節が真っ白になるほど強く握りしめていた。


澄川は目を細め、口元から笑みが消え、まるで刃のような一筋の冷たい線になっていた。


ふたりは目を合わせた。何も言わなかった。


けれど、心の中では同時に、ずっと言葉にすることを避けてきたある単語が、ようやく浮かんでいた。


——疑い。




——



二人は、学校にも、寮にも戻らなかった。

第六区の裏路地をぐるりと回って、ひっそりとした感知修復センターの裏口へと辿り着いた——


そこには、刘竹文が情緒修復アドバイザーとして、夜間勤務をしている。


澄川がドアを軽くノックする。


数秒後、扉が開いた。灰色の制服に身を包んだ刘竹文が、感知機器の修復記録を何枚か抱えて現れた。彼はふたりの姿を見て、少し驚いたような目をした。


「こんな夜更けにどうしたの?」


念安は感知器を抱きかかえたまま、どこか緊張した面持ちを浮かべていた。澄川は壁にもたれ、ポケットに手を突っ込んだまま、飄々とした顔をしていたが、目だけは冷たく澄んでいた。まるで潜流の中に沈む石のように。


刘竹文はふたりを中に通し、書類を机の上に無造作に置いた。温かいシールド修復茶を二杯淹れ、カップを前に置いてから、ようやく笑顔を浮かべて言った。


「で、どうした? 俺に何か?」


念安は回りくどいことは言わなかった。真っ直ぐに刘竹文の目を見て、静かに問いかけた。


「刘先生……邵昊遠さんって、何か問題を抱えてると思いますか?」


その瞬間、刘竹文の動きが止まった。

空気が、ぴんと張り詰めた。


手元のカップがテーブルに軽く当たり、乾いた音を立てた。


眉間に皺を寄せながら、彼は訊き返した。


「それは……どういう意味だ?」


澄川がゆっくりと補足する。


「就職イベントとLightStreamの展示で使われた植物たち——あれを都市に入れる許可を出したのが、邵昊遠本人でした。」


刘竹文は眉を寄せたまま、数秒の沈黙のあと、深いため息をつき、カップを静かに置いた。


「……知ってる。

彼はずっと、シールドの浄化システムに疑問を持っていた。」


「都市のシールドは人間の自然な情緒の流れを抑えすぎて、人々を“波のない潜流の影”にしてしまったと——そう、彼は考えていた。」


「でもね、あいつは——」


彼はふたりをまっすぐ見据えながら、抑えた声で続けた。


「人を傷つけるような奴じゃない。」


「どんなに口で過激なことを言っても、心の中では誰よりも、この都市を守ろうとしてるんだ。」


刘竹文は視線を落とし、指先で無意識にカップの縁をなぞった。


「俺は七年、彼と一緒に働いてきた。

崩壊寸前の潜流者を抱えて一晩中眠らなかった姿も見た。

鎖の切れた子どもを助けるため、自分の感知脈絡を断ち切ったときも、

シールドが崩壊した現場で、焼け落ちそうな修復モジュールを背負って、爆心地に戻っていった彼の背中も——全部、見てきた。」


「彼は、疑ってる。シールドを。浄化を。けれど——人を、傷つけはしない。」


室内に沈黙が落ちた。

シールドの窓の外では、粒子の光帯がゆっくりと流れていた。

まるで都市の心臓が、乱れた呼吸をしているかのように。


念安は銀葉の鉢を胸に抱きしめたまま、指先にわずかな力をこめた。


澄川は壁にもたれたまま、何も言わず、感知ペンを指先で回し続けた。


ふたりは、刘竹文の中に——深く、静かで、確かな「信頼」を見た。


それは、軽々しく「勘違いだった」と言って済ませられるようなものではなかった。


それは、重くて、痛い。

胸に沈む、捨てられない確信だった。


「……俺は別に、調べるなって言ってるんじゃない。」


刘竹文が再び口を開いた。声はかすれて、低かった。


「もし、あいつに本当に何かあったなら、俺だって……かばわない。」


「でも——確かめるまでは、軽々しく……

いちばん大切な人を、手放すようなことはするな。」


そう言って、彼は少しだけ背を丸めた。

まるで夜の重さに、ほんの少しだけ身体を傾けるように。


それ以上、言い訳もしなかった。

ただ、目の前のふたりに、温かなカップをそっと差し出した。


カップからはまだ、かすかに湯気が立ちのぼっていた。


——今にも崩れそうだけど、まだ踏みとどまっている涟漪のように。




——




都市シールドの最果て。

封鎖された廃墟区。


ここは、三十年前にシールドが崩壊した事故の主戦場だった。

瓦礫の山、崩れ落ちたビル群——粒子の保護は届かず、夜風が吹くたび、未修復の潜流の破片が肌を刺すように痛む。


刘波は、いつも通り断裂した石畳を踏みながら、廃墟の奥へと向かっていた。


空はすでに真っ暗だった。

空高く、裂けたシールドの亀裂が、未癒の巨大な傷口のように浮かび、

そこから夜の闇がひたひたと落ちてきて、

廃墟を半透明の蒼へと染めていた。


彼の背後に伸びる影は、潜流の風に揺られ、長く細く引き伸ばされていた。

まるで、何かが静かに後を追ってきているかのように。


前方——崩れた壁の向こう、かすかに光が灯る。


それは電灯でも、シールド光でもない。


潜流の涟漪が、自ら発光していた。


暗がりの中、静かに佇む人影が、いくつも見えた。


刘波は足を進め、最後の瓦礫を越えたとき、ようやくその正体が見えた。


崩れた広場の中央——


半ば陥没した広場に、何千人もの人々が、ゆるやかな輪を描いて立っていた。


中心には、裂けたシールドのノード井戸。


彼らの大半は、見た目はごく普通だった。

古びたシールド服、くたびれた都市の私服、無表情な顔。

その瞳は、不気味なほどに静かだった。


——だが、刘波には分かっていた。


この人たちは、AI生成体バイオイドだ。


都市に潜伏するための、彼らの器。


そしてその傍らには、“家族”を連れた者もいた。


彼らが「救い出した」と称する、人間の家族たち——


顔色は蒼白く、動きは鈍く、感知スキャンでは潜流値が限界値を下回っていた。


流場は静止し、

潜流の涟漪は凍結し、

まるで——ただ歩いているだけの、空の殻だった。


刘波は深く息を吸い、衣の下に隠していた感知器が、微かに赤く点滅した。


彼はうつむき、

影の中から、ゆっくりと人の輪へと足を踏み入れた。


誰も彼を見なかった。

誰も声を上げなかった。


廃墟に響くのは、足元をかすかに漂う潜流粒子のうねりだけ。


それは、水底で泡立つ、見えない呼吸のようだった。


そのとき——

黒い長衣をまとったひとつの影が、人の群れから静かに前へ出てきた。


顔は、なかった。

あるいは、顔はあったのかもしれない。

だがそれは、低周波の潜流マスクで覆われ、

粒子の流れの中で、輪郭すら曖昧に揺れていた。


声は、言葉ではなかった。

粒子の振動を通して、直接、感知層に打ち込まれた。


「归潮は、始まった。」


「都市に撒かれた種たちは、すでに目覚めた。」


「間もなく、涟漪は自由を取り戻す。」


——誰も返事をしなかった。


ただ、皆が静かに首を垂れた。


その体から、潜流粒子がゆっくりと立ち上りはじめた。

まるで、黒い海藻が音もなく開くように——


沈黙の中、都市の最縁で、波は立ち上がりはじめていた。


刘波は、群れの最外縁に立ったまま、

感知器を胸に抱きしめていた。

冷や汗が背中を濡らしていた。


足元の、かすかに回る潜流の輪。

その最深部に——


彼は、あるものを見た。


それは、

都市シールドの心臓部へと繋がる、

一筋のルート図だった。







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