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そして死神は染まりきる

大したことないので警告タグは入れておりませんが、ちょっとトチ狂ったような表現が入ります。お気をつけ下さい。

 僕は死神だ。

 具体的な表現にこの上なく困るんだけど、何はともあれ死神だ。

 上司が居たり居なかったり、同士が居たり居なかったり、下僕が居たり、言ってみれば自由の身だ。

 そんな僕は6日前から、とある人の子を片時も離れることなく観察していた。

 理由は暇だったからという至極当たり前のもので。

 だがそれのみかと問われれば答えは否だ。

 死神に理性はない。

 なぜなら必要性が求められなかったからだ。

 欲に忠実でこそ死神。

 それを抑え込むものなど要るわけがない。

 対極の2つを掴むことができるのは、それこそ格外な破綻者くらいだろう。

 そして異端と称される僕には僅かなれど抑制力が存在するものの、深層の本能にまで逆らえるほど人染みてなければ、見も知らぬ引っかかりを放置できるほど無関心でもない。 

 やはり僕は死神で、腐っても死神で、結論からすると大いに死神なのだ。

 拭いきれぬ何かを抱えたまま見下ろした先に寝ていたのは、まだ幼く僕からすれば赤子も赤子な軟弱極まりない人の子。

 人は面白い。

 その重きは思考回路にあるんじゃなかろうかと僕は思う。

 別に死刑宣告をすべくやって来たわけじゃない。

 残り香にしては濃密なそれに誘われて、行き着いた先に少女がいただけのこと。

 身内か、親族か、交友か。

 近しい誰人かが死神の斬首を受けたに違いない。

 安楽という名の至極穏やかで極々自然な終着点を迎えたのなら、残り香はもっと和らいでいたはずだから。

 それを少女は勘違いした。

 自分が近々、もしくは刹那に死んでしまうのかと。

 あの時の表情に心底悦楽を覚えたものだ。

 うっかり震えそうになってしまった。

 同時に異なる歓喜を自覚せざるおえなかった。

 死神は理性を持たずに欲を持つ。

 欲に従順だ。

 本能しか知らない。

 それが、そのものが打ち震え、喝采しながら跳ね上がる。


 こわやこわや恐ろしいや。

 嗚呼彼の人が。嗚呼其の人が。

 異端だ異質だ異例だ異変だ異能だ異常だ異形だ異色だ異体だ異例だ異様だ異種だ。


 そうとされてきた僕にとって、初めての困惑。

 生まれながらに死神としての立ち姿を知っていた。

 生まれながらにして刈り取る方法を知り、そこに躊躇いはなかった。

 今も昔も変わらない、僕のすべては生来のもので構成されている。

 そのものこそが可笑しいとされる僕の中に、更なる可笑しさが生まれるなどと、誰が予想してくれただろう。

 分かるわけがなかった。

 教わる誰かも何かもなく、学べる誰かも何かもない。

 真実孤独だった。

 人としてカウントするなら、1人だった。

 死神にはそもそも身内というものが存在しないが、その概念からさえ除け者扱い。

 それによって僕は破綻したのかもしれないし、やはり生来から破綻していたのかもしれない。

 どちらにせよ僕は結局僕でしかないのだ。

 何度同じことを考えようと終結するのはそこでしかありえない。

 だって、僕だから。

 人の言葉ではこれを根拠のない自信というらしいが、生憎と僕は死神だ。

 補足すると自他共に認める破綻者だ。

 これは至極正しい。

 生来より謳われ続けた先入観というやつもあるだろう。

 それと等しく僕が僕自身で在るためには破綻せねばならないという必然性を持っていた。

 だって、僕だから。

 同じ言葉は徒労だったか。

 死神は途方も果てもなく不可解なものであると認識しておけば、それらは呆気もなく片付く事柄だけれど。

 さらには僕が際限なく狂気的なのだと認知しておけば万事解決というやつだ。

 そんな僕は人のように今後のことを考える。

 感じ、気付き、認めてしまった以上は仕様がない。

 かと言ってあの少女とどうこうなりたいわけじゃない。

 冒頭の通り、僕は死神なのだ。

 考えることはただ1つ、どうやって喰らうか。

 死神の欲は食べることのみに向けられる。

 唯一持ちえたその欲により愛情表現をするのは当然だった。

 人には理解できない、けれど死神にとってはいかにも過ぎる手段。

 前例がないので何とも言えない。

 随分と長い間存在しているが、こればかりは未体験だ。

 いの一番は、同じでいい。

 皮膚を透過し直接触れて、気の済むまで愛でたら抜き取り喰らおう。

 心臓さえ頂ければ基本的に満足してしまう上、対象が減少しつつあることもあり最近はご無沙汰だったおかず。

 良い身体であろうとなかろうと、筋も声帯も髄まで残らず味わい尽くそう。

 最後は首を斬り離し、まじないをかけ、僕の手元に未来永劫留め続けよう。

 輪廻に還してなんかやらない。

 似て非なる者に興味はない。

 飽いてしまおうとこの両腕に抱え続けよう。

 そう、その頃にはもう愛着が湧いているだろうから平気だろう。

 幾年後、あるいは幾百年後。

 輪廻が僕の犯した罪を知り、激昂し、そして罰する刹那さえ。

 生きることなく存在するだけの僕と、物質に成り下がった少女だったもの。

 きっとお似合いに違いない。

 邪魔などさせるものか。

 たとえ輪廻であろうと許さない。

 僕は反抗意識も執着心も過激に強い性質だから決して放さないだろう。

 そうしてもし輪廻が少女の穴埋めに偽りを創り落としたなら、輪廻の束縛をも引き千切り振り払い、少女の核を抜き取った、少女だったものを抱き続けた両手両腕で偽りを刻み潰し嬲り屠り消し去ろう。

 少女の偽りとされた人の子には握れぬほどの同情を。

 けれどもし輪廻が僕から少女だったものを奪い取った場合は、輪廻が僕を罰したように僕が輪廻を罰するだろう。

 他には当然の事象も、破綻した僕にとってはあり得ない事象なのだから。

 権利はない。

 だが力ならある。

 まどろっこしい策略は不要だ。

 ただ本能の命じるままに動けばいい。

 問題ない。

 どんな未来仮定においても、僕は少女を手放さずにいられる。


 嗚呼、けれど。

 動く少女を見ていたい。

 破綻者にしては驚くべき通常思考に毒気を抜かれたのは一瞬だけ。

 人とは、思い考え動き惑うからこそ面白い。

 少女だったものへと変じてしまえば、取り戻すことは不可能だ。

 蘇生は禁忌。

 それは世の理。

 輪廻でさえも手法を知らない。

 なれば一端の死神風情である僕が成せるはずもない。

 少女を殺すのは僕。

 少女を喰らうのは僕。

 それは既に揺るがぬ決定事項となった。

 後は待てばいい。

 少女が僕に殺されてもいいと言うまで。

 少女が僕に喰われてもいいと言うまで。

 無為に時間を過ごすのは得意中の得意だが、いかんせん"待て"をしたことがない。

 どこまで持つかは不明だ。

 けれど少女が動ける限り見ていられたらと思う。



 空いた僕の両手に、少女はきっと鎌を見た。

 それは現実でもなければ架空でもない、あるようでなくないようであるもの。

 あの時殺さなかったのは、せっかくの戯れだったから。

 あの時殺せなかったのは、僕が少女を欲していたから。

 なにより今は。

 思ううち、想ううちに濃度をあげる真情を、もはや知らぬとは言えなかった。




 知って欲しいだなんて凡なことを求める死神はありえない。

 相当な、それこそ手に負えない末期だと分かっていた。

 けれど究極に破綻的な僕だから人らしすぎる感情も悪くない、寧ろお似合いなんじゃないかと思う。

僕は君に決めた!

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