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死神的少女考察

大したことないので警告タグは入れておりませんが、ちょっとトチ狂ったような表現が入ります。お気をつけ下さい。


 僕は死神だ。

 具体的な表現にこの上なく困るんだけど、とにかく死神だ。

 上司が居たり居なかったり、同士が居たり居なかったり、とりあえず自由の身だ。

 そんな僕は一昨日の夜中から、とある人の子を片時も離れることなく観察している。

 理由は暇だったからという至極当たり前のもので。

 否、人からしてみれば奇天烈なのかもしれない。

 しかし僕は死神で、腐っても死神で、ゆえに独尊理論が通用する事実を念頭においておくべきだと示しておく。

 ともあれ一見すればただの少女。

 よくよく見てもただの少女。

 結果的にただの少女でしかない人の子だった。

 付け加えるなら本当の意味で、との前置きを要する程度だ。

 珍妙といえば珍妙で、当然といえば当然のこと。

 そんな人の面白いところはその思考回路にあると僕は思う。

 別に死刑宣告をすべくやって来たわけじゃない。

 残り香にしては濃密なそれに誘われて、行き着いた先に少女がいただけのこと。

 それを少女は勘違いした。

 自分が近々、もしくは刹那に死んでしまうのかと。

 あの時の表情に心底悦楽を覚えたものだ。

 うっかり震えそうになってしまった。

 少女の言った「死神が枕元に居たら死ぬ運命」というのは、どちらかというと正解だ。

 頭からいく者も居るが、僕は純粋な心臓派。

 皮膚を透過し直接触れて、気の済むまで愛でたら抜き取り喰らう。

 良い身体であれば筋や声帯を貰うこともあるが、最近は随分と減ってしまった。

 最後は首を斬り離して輪廻に還す。

 何が言いたいのか、つまり基本的に下半身での作業がないわけで。

 どういった由来で伝わった迷信かは知らないが上出来だろう。

 恐怖さえ感じた僕の目前で眠る、まだ死なない予定の少女。

 このまま首を掻っ斬ってしまおうか。

 空いた僕の両手に、少女はきっと鎌を見た。

 それは現実でもなければ架空でもない、あるようでなくないようであるもの。

 あの時殺さなかったのは、せっかくの戯れだから。

 なれば今は。

 微かな違和を感じたことに、気付きたくなどない。



「人って、面倒だね」

「……何なんですか、突然」

 家のあちこちを動き回って掃除を終えた、日曜日の昼下がり。

 埃とかカビとか、物理的なそれらは僕への影響力を持ちえない。

 おかげで一切無関係なせいか、週末だからと掃除を始める少女に感心してしまった。

 文明の機器というのはいつ見ても難解だ。

 わけが分からない。

 そもそも分かりたくもないけど。

 死神は人の末路を司るせいか、同様に視覚能力を持つ。

 僕が邪魔だというならすり抜けていけばいいものを、少女はそれを断固として拒絶した。

 姿形を現している以上は存在するものとして対応すべきだと。

 どうやら人型をすり抜けるのは気分が悪いらしい。

 立場的に命令を下せぬ少女の懇願を聞いてやる必要はどこにもない。

 ならばなぜ人を真似てテレビ観賞に徹したかというと、実際僕にも分からなかった。

 仕方ないと。

 そう、思わざるおえなかったような。

「今日は3食なんだ」

「それが普通です」

「へーえ」

 死神は人を喰う。

 事実あの艶かしく毒々しい臓器は好物である。

 経緯がどうであれ心臓は死神にとっての主食だし、輪廻に還さなくてはならない頭部も脳さえ残っていればいい。

 人が家畜を隅々まで食品化するのと同じだ。

 語彙的には人が死神に、家畜が人に変わるだけ。

 死神である僕から見た人とは所詮、その程度でしかない。

 一時の玩具。

 喜劇の役者。

 戯れに必要なのは融通の効く従順な、けれど意思を持った駒だ。

 人の見せる表情はいつも矛盾だらけ。

 恐怖に怯え狂いだす人を傍観するのは愉しい。

 反抗的でありながら脆弱な人を嬲るのも愉しい。

 享楽に浸るための近道だ。

 何もそれがすべてというわけじゃないが、まあ大部分を占めている。

「死神さん」

 茶碗を片手に勇敢な少女が問うてきた。

 コイツは一体どんな思考回路をしてんだろう。

 あんなに畏怖して、あんなに絶望したくせに、なぜコイツはこうも容易く話しかけてくるんだ。

 僕自身、好んで使っている口調は親しみやすいと思う。

 だからってこんな。

「何」

 僕はいつからこれほど律儀になったのか。

「人を食べるんですよね」

「そうだけど」

「いつ食べてるんですか」

 少女の考えていることが容易く理解できた。

 姿の見えない入浴時とか就寝後とか、そういう返答を予想しているはずだ。

 確かに、そうすべきだった。

 そうすることが普通だった。

 寧ろ少女にここまで付きまとう自分の気が知れない。

 そして考えたくもなかった。

「君に会ってからはまだ1度も喰らってないよ」

「……」

 この少女は馬鹿みたいに正直だ。

 だって今、喰われたらどうしようって顔してる。




 自分を見たくなくて、代わりに少女を見続けた。

 いつか何かを失い、それとは別の何かを得てしまいそうな予感がした。

死神視点。

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