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「そういえば、なぜ私たちは襲われたんでしょうか?」

「あー、んー女だったらなんでもいい奴らもいるんだ。貧民街や荒れた場所は特に増える」


根本は繁殖への執念なのですかね?先の環境で適当な番を見つけるのは困難でしょう。加えて女という理由で襲われると、負の循環に繋がることも原因になりそうですね。

・・・けど私は顔を隠していました。フードも深く被っていましたし男の身長からして、私の口元ほどしか見えなかったはずです。背格好も女性と断定できるほどではありません。けれども私の存在でアスバルに迷惑がかかってしまったのは、申し訳ないですね。日に当てられて光る血も痣も痛々しいです。


「だからノルンは気にすんなよ。あんな場所に連れて行った俺の落ち度だ。昨日の説明不足もだな」

「顔に出てましたか・・・?」


図星を突かれ、体が跳ねる。気を遣わせ精神的にも負担をかけていることが、さらに私の申し訳なさを加速させる。


「あいつらが、悪い!ノルンは、悪くない!それだけだ」

「そうですよね!アスバルの言いつけだって、ちゃんと私は守っていましたし!」


アスバルは励まそうとしてくれてるんですね。私の半分は人間ですし、天使だって感情はあります。その優しさを無下にするわけにはいきません。


「たしかに俺が悪い部分があったのは認めるが、開き直れとは言ってないからな!それにちょくちょく寝てただろう。ノルンの身を思って言ったんだからな!」

「ね、寝てませんよ。現に私の恰好に文句あるんですか?」


アスバルは目を細めて、私を直視しないように斜めを向いた。ふふん、衣服までは聞いてましたからね。


「はいはい、ありませんよ。天使様」

「そうですよねっ。目を閉じてても音が聞き取れるのは、人間も同じですもんね」


フードが遊べば、天真爛漫な笑顔は振りまかれる。その場で一回転外すれば、祝福するように外套が軽い花びらのように浮き上がる。天辺に昇る太陽が、ノルンの影を映し出した。


「じゃあ、今から人間の常識でも勉強しようか?」

「い、いや。ち、ちょっと遠慮させていただきたいです・・・」


また呪文のように長い長いご鞭撻は、もうお腹がいっぱいです。人間の常識など欠片ほどしか知っていないでしょう。アスバル以外と会話を交わせば、ぼろが掃いて捨てるほど出て、そこから・・・良いことが起きることは、滅多にないことは見当がつきます。しかし、一朝一夕で身に着くものでもありませんからね、常識とは。


「ふぅ、もう食べれませんっ・・・」


意の向くままに暴飲暴食を尽くし、

お腹をさすれば分かるほどに膨れてます。肺が下から押されるようで、少々息が詰まる。人間に仕立てられた服や日用品を買い付けた疲れも、調味料の一つとなった。補って余りあるほどの満足感と多幸感が脳を刺激し続けています。揺れる足取りに、落ちかかる瞼。このまま何かに埋もれるように眠りにつきたいです。


「・・・ノルン。会議の時間だ」


稲妻が落ちる前のような一瞬の沈黙が生まれる。指を組むアスバルが机に座って待ち構える。


「明日じゃ駄目ですか?」


く、苦しい。お腹が痛い。やはり食べすぎは良くないです。最後のパイの一切れがとどめの一撃でしたね。


「人間の街で生きていくのならば、金だ。金は湧いて出てくるものでもない。湯水の如く使うだけではない」


アスバルは指と現実を私に突きつける。

あれもこれもと、蝶よ花よの貴族令嬢さながら限度を知らずに頼み、膨らんだお腹に向かっている。


「お金は稼ぐものでもある。ノルン・・・金の稼ぎ方も知らず、人間を知ろうとはちゃんちゃら甘い。」


アスバルの指は淡々と私の点穴を突いてくる。そして、アスバルの向かいの椅子を指す。

逃げることはできないようです。大人しく座ると、胃の痛みがキリキリと音を上げる。


「無理ですよ!常識も知らない、一般教養もない、ひいてはコミュニケーションも疑わしい。誰が好き好んで雇うんですか?翼を見せるんだったら天使ってバレますし、言わなかったら外套を羽織ってなきゃいけないんですよ。私だったらそんな怪しい人万が一でも雇いません」


アスバルは私との出会いを思い出して欲しいです。どれだけ私が異界(人間)の地に怯えていたか。狭く小さく限られた世界で生きてきたので、コミュニケーションの取り方が分からないですよ。アスバルとの出会いだって、流されてばかりでしたし。

・・・初対面の人の家で寝るのは、無防備すぎましたね。説教が長かったのと旅の疲れのダブルパンチが響きました。寝顔まで見られて、色々吹き飛びましたが。アスバルにはちょっと当たり強くいけます。話を戻すと、今度は形成されているコミュニティに入っていくんです。さらに厄介じゃないですか。想像するだけで陰陰滅滅ですよ。


「自分の置かれてる状況が分かってるな。じゃあ俺も言う・・・俺も天使だろうが、ニートを置いとく余裕はない!今はただの金食い虫だ。そこらの乞食と何も変わらない。さっき人間が~ほにゃららってのは、建前だ。今のが本音っ!」


アスバルは強力な一手を放ってきましたね。私はごもっともな理由を挙げては見ましたが、本音は曝したくないです。これは、プライドバトルです!


「浮浪者、不届き者、脛に傷を抱える者全般を引き受けてくれる場所がある。誰でも、一人でも日銭を稼げる場所がある。性質上治安は良くないが、ギルドと呼ばー」

「ーやらせてください!」


先に言ってくださいよ。私向きじゃないですか。この人間社会でお天道様に顔向けできない所は、私も同類です。目標ができると、心も軽くなりますね。では、いざ入眠!これは快眠の予感です。


「待て待て。まだ話はある。ノルン、お前は色々隠しすぎ!言わなすぎ!秘密は無しだ!・・・お前の新たな一面を見ると、不安でゲロが出そうになっちまう」


机を叩き、威嚇するかのように立ち上がる。熱を抑えるように、深呼吸をする。

そんなの私がトラウマみたいな扱いではないですか。少しばかり心外です。


「魔法が使えるだったら先に言っとけよ。もうちょっと楽になったかもしれないだろう。それになんかボソッと、あの魔調度のこと言ってたよな!その知識もあるのか!?あれなんか壊したら何かあったんじゃないのか?それか発動させないとか!なんでー」


お説法、一つ入ります~。深呼吸は助走らしい。毎夜毎夜やるんですかね?・・・今日のは心の声が漏れてる感じなので、許してあげましょう。体も中々に張ってましたし・・・ね。


「まず私の基本スペックから説明しますね。空飛べます。魔法使えます。簡単な亜人、魔人、魔獣、動物の知識はあります。軽い魔調度の知識もあります。得意な分野は材料があれば作成もできますね。他は・・・ありましたっけ?」


亜人と魔人は人に近い容貌をしており、会話が成立する程の知性も持つ。二つの違いは種族全体での敵意の有無だ。魔人に分類される中では、吸血鬼やオーガなどが有名です。魔獣の範囲は広く、知性の有無なども問わない。ドラゴンからゴブリンまで。他の三つの例外が全て収まっている。


「多い多い多い多いいぃぃ!ッ天使ってやつは!」

「そんなことないですよ。細かい説明いいですか?飛ぶのは一時間で限界です。人を担いだら、持って十分前後です。ハイペースのランニングに似てますかね。魔法は生活に使えるぐらいで、特筆すべきことはないです。あの状況で悪党を倒すのは、逆立ちしても無理ですね」


アスバルは目を瞑って、深く頷く。それを見て私は言葉を繋げる。


「魔調度の知識は、魔法の知識と結びつきが強いです。簡単なものであれば、効果なども推測できます。作れるのは魔提燈(ランプ)程度の物ですね。わざわざ魔調度にするほどでもないですね」

「分かった。知識の部分はもういい。どこから来た?天使の村はどこにあった?」

「インプレオの森です。私がいなきゃ見つけることもできないですよ」


アスバルが私の故郷を知ろうと、お手上げ状態だ。不識、無理解は恐怖の根源となりうる。アスバルが求めているのは安心感だ。良き隣人か確かめるための。


「どうやって生活をしてた?」

「果実や野草を採取し、獣を狩って」

「どうやって獣を狩ってたんだ?魔法じゃ無理なんだろ?」

「罠や弓矢ですよ。人間も使うでしょう」


アスバルはハッとした表情を浮かべる。魔法は全能、という如何にもな発想ですね。便利なことにも同意しますし、人間は魔法の才を持つ者が限られてますから。


「体術や剣術の心得は?」

「多少は」

「やっぱ、なんでもありじゃねぇか!弓矢のくだりでビビッと来たわ!」

「魔獣に森を荒らされるのは困るので。最後に身を守ってくれるの自分の芸です」


アスバルは頭を抱えて、机を見る。”…ますます俺が戦った意味がねぇ…”ブツブツと何かをつぶやく。


「最初になんか探し物があるって言ってなかったか?」

「同胞が作った魔調度を」


不本意な形で置いていくことになったが、本人達の最高傑作だったらしい。一目見るだけでもいい、本懐が果たされてるのならば十分。そうでなければ回収したいものです。


「同胞ってことは、天使の作った品物か。見てみて~な。心当たりとかはあんのか?」「ありませんよ」「場所は?」「知らないですね?「形は?」「分かりませんね」「効果か?」「さっぱりですね」「そういう魔調度があるんだなっ!?」「存在しませんね」


「じゃあどうやって見つけるんだよ!?」

「神気を見れば一発です」

「し、し、神気?」


アスバルの動揺が手に取るように分かる。また一つ当たり前が崩れていく。


「あー、天使は神によって、神の力の一部で作られるんですよ。なので丹精を、心を込めると間接的に神気が宿ります。聖器具とも呼ばれるらしいです。私に神気はないですが、見ることはできます。最高傑作と呼ばれているので、間違いなく神気は宿っているでしょう」


片目を薄ら瞼で見れば、アスバルは開いた口が塞がらない。驚きなのか、呆れなのかは不明です。アスバルもキャパオーバーで、疑問もこれ以上ないでしょう。私も学びました、天使の常識は信じられないと。

このフリーズしたアスバルを置いて、床に就いていいでしょうか?私も明日に備えなければなりません・アスバルも明日から仕事らしいので、おいそれとは助けに来ることはできない。不安は残りますが、お金を稼ぐのは必要不可欠ですからね。人間の世界で生きていくには。

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