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第7話 戦闘中はノータイムなのよ


 村の門番であるヤシュケーさんは、その身一つでモンスターに勝ったり、大昔の戦で大立ち回りをしたらしい非常に胡散臭い逸話を持つ人物だ。なにせ体が小さい。身長は150cmしかない。他の男性は160cmはありそうだから余計に胡散臭い。筋肉もないし。


 まあ、戦うのはケルベロスだから関係ないんだけど。


「よ、よろしくお願いします」


「うん。かかってきなさい」


 ミュウとヤシュケ―さんが対峙する。


「いけ、ダムダム。かみつき攻撃だ! 首を狙え!」


 いきなり殺意ありありな指示だ。でも狙いが分かれば対応しやすいはず。俺の身体能力も上がってるしな。


 体格差的に俺の方が大きいから、ケルベロスは近くでジャンプしてくるはず。そこでカウンターを繰り出せばやれそうな気がする。


 俺は動物虐待には明確に反対の立場だが、命の奪い合いとなれば覚悟は決めるぜ。普通の犬だったら、ちょっとやばかったかもしれないが、ケルベロスがグロテスクで助かったぜ。


 さあ、ミュウくん。俺に指示を出すんだ。指示を!


 ところがミュウからはなんの指示も飛んでこない。指示がないと補助魔法バフの効果が上昇しない。しかも中途半端に信頼関係を結んだせいか、動きが鈍い気がする。優柔不断なミュウの思考が乗り移ってるんじゃないだろうな。それに補助魔法がないとケルベロスには勝てないぞ。実際凄い早いし。


 振り返ってミュウを見る。

 目が合った。

 唇がゆっくり開いていく。


 いいぞ。

 そのまま俺に指示を出すんだ。


「た……」


「た?」


 早く続きを!

 それだけじゃ分からんぞ!


「たーいむ!」


「……タイムじゃねえよ、アホ!」


 タイムしたいのはこっちの方だよ。もう目の前までケルベロスが来てるし。変な指示のせいで全然能力が上がった感じがしない。少しはマシになったけどな。


 相手の命令は変更してない。ケルベロスは命令通りの攻撃をするはず。それなら狙われる首の前に左腕を置いてガードだ。かじりつかれたところを我慢して、右手でどうにかする。これしかない。


 ケルベロスが跳躍態勢に入る。俺はそれに合わせて首の高さまで左腕を上げた。ところがケルベロスは直前になって一度横にステップした。


 なるほど。指示通りにするけど、過程は自由でいいのか。って、呑気に分析してる場合じゃねえ。


 なんとか躱そうと態勢を変えたが、それでも補助魔法の差なのか元々の能力の差なのか、間に合わずにケルベロスの牙が俺の首を掠めた。出血がひどい。これ死んだかも。


「痛い。マジ痛い……」


 というか声を出すのも辛い。それを見て、ミュウは懐からボールを取り出した。


「戻って! 召喚獣さん!」


 ミュウがそう叫ぶと、俺の体は親指くらいのサイズのボールに吸い込まれてしまった。首には傷などないし、血液も付着していない。助かったみたいだ。


「これでは認められないぞ」


 ヤシュケーさんは、ミュウにそう告げて去っていった。何もできないどころか、何もしなかったわけだからな。当然の判断だ。思った以上にミュウの先行きは不安だな。何か大きな変化がないと村を出るのすら難しいぞ。


『ごめんなさい。私のせいで』


『大丈夫。たぶんなんとかなるよ』


 あんまり強く怒ったら逆効果で委縮しそうだな。こりゃ、意外と大変だぞ。というか、ミュウの声が脳に直接響いてくる。なんだこれ。


『これはスターボールっていって、とても貴重なモノらしいんです。先生から譲っていただきました。結構しましたけどね。エヘヘ。でも召喚獣と話さなくても意思疎通ができるし、召喚獣を中にいれて持ち歩けるんです。それに魔力の節約になるんですよ。召喚と違って』


 傷もなくなってるしな。もしかしたら、ここにも俺のデータが保存してあって上書きしてるのかも。


『なるほどね。そんなに便利なら戦術に組み込めるかもしれないな』


 ミュウは負けたばかりだというのに、得意気になって話している。落ち込みやすくても、切り替えが上手なタイプなのかもしれない。そうじゃないと生きていけないくらい酷い現実なのかもしれないが。


『それにスターボールの中にいると、召喚獣はお腹が空かないらしいんです。だから食費を気にしなくていいんですよ。すごくないですか?』


『うん。そりゃ凄いわ。特にミュウへの信頼度が落ち方が……』


『あ…………ごめんなさい』


『許す』


 ったく、俺がナイスミドルクラスで良かったな。それにしても、召喚士には召喚獣には責任を持ってもらいたいものだ。


 ……いや駄目だ。俺はペットじゃねーんだから!

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