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第4話 仕方ない事情ってあるんだな


「それじゃあ、文字が読める人を探さないとな」


 俺の言葉に、ミュウが不安そうに見つめてくる。


「……元の世界に戻っちゃうんですか?」


「そうだ。俺にはやらなきゃいけないことがあるからな。元の世界に戻って誤解を解かないといけない」


「……そうなんですか。そうですよね。見た目くらいしか取り柄のない私に召喚されるなんて、やってられないですよね……」


「意外に自己評価高い!」


 見た目がいいのは否定はしない。だが俺はショートカット至上主義の男だ。簡単に騙せるとは思わないでくれ。でも俺を引き留めようとするってことは何か事情があるんだろうな、きっと。


「俺を呼び出したのには何か理由でもあるのか? その、やむを得ない事情とか。なんなら、元の世界に戻る前に少しなら協力してもいいよ。俺は基本ジェントルメンだから」


 別の世界で生きていくのに協力者は必要だという事情もある。敢えて口に出すつもりはないが。


「ありがとうございます。実は私、母を探してるんです。間男と出ていった母を」


「そうなんだ。頑張ってね」


 俺は椅子を引いて、勢いよく立ち上がった。召喚されたばかりだけど、言葉は分かるし、男一人生きていくくらいはできるだろう。扉を開けようとすると、ミュウが想像以上の機敏さでやってきてすがり付いてきた。


「助けて下さいよぉ。今、手伝うって言ったばかりじゃないですかぁ」


「残念ながら俺の手には負えないよ。君の力になれない。すまない」


「違うんです! 私じゃないんです! 父を助けてほしいんです!」


 今までになく力強い声が狭い小屋に響いた。かなり真剣な問題のようだ。思ったよりパワーがある。服が伸びそうだし、とりあえず聞くだけ聞いてみるか。


「分かった、聞くから。話を聞くから離してくれ」


「……分かりました」


 ミュウは掴んでいた俺の服を離すと、ふらふらしてる振りをして扉に寄りかかった。この家には出入り口は一つしかない。ここから逃がさないってか。中々に計算高い。


「母の浮気は別に良かったんです。父はそれを許せるくらい母を愛していますから。でも母は出て行ってしまいました。父は無気力になって寝込んでしまいました。私じゃ駄目なんです。父に立ち直るきっかけを与えられるのは母だけなんです。だから一緒に母を探してほしいんです。また一緒に暮らしてほしいだなんて言いません。ただ……、一言でいいから会話を交わして、それが父の刺激になって……。何でもいいからとにかく切っ掛けがほしいんです。父に立ち直ってほしいんです」


 理由は置いといて、やることは単純だな。ミュウの母親を探すだけだ。説得するのはミュウだろうし。父親のことを思えば、確かにどうにかしたいよな。


「そういえば親父さんの姿が見えないな。どこにいるんだ?」


「父は生家に戻って祖母と暮らしています。そこで子供のように祖母に甘えてるらしいです。子供には違いないんですけど」


「……つまりはマザコンになったと。それはなんというか、ちょっと嫌な光景だな」


 ミュウは諦めているかのように首を横に振って遠い目で淡々と話す。


「祖母はもう長くありません。だからその前になんとかしたいんです。祖母が死んだら次は私の番ですから。私が母親役をやる番ですから……」


 なんか、流れ変わったな。

 ……いや、最初からこんな感じだったか。


「今の父と一緒に暮らすことになったら、どうなると思います? 引きこもりの父がいるなんて、それじゃあ一生お嫁にいけませんよ!」


「どこか遠い土地に住めばいいのでは? それこそどこかにとついで」


 興奮するミュウに対抗せず、冷静に話した。失敗した。テキトーに同情しとけばよかった。


「いくら美人だからって、学がない田舎娘にそうそう良い縁談なんてありませんよ! 常識的に考えてください!」


「それは上を望み過ぎなだけじゃ……いや、なんかごめん」


「それに父を見捨てるなんてできません。もう無理なんです。引きこもりのマザコンがいる私に結婚なんて無理なんです。だから母を探したいんです!」


 ミュウは顔を手で覆って悲しみに暮れている。流石に同情するよ。


「話は分かった。手伝うよ。でも一言だけ言わせてくれ」


「……な、なんですか?」


「なにが父を助けてほしいだ。思いっきり自分のことじゃねーか!」

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