第32話 第三者の評価
トゥルンでの生活は順調に回り始めた。
ミュウは仕事に慣れてきたこともあって不安が小さくなり、お客さんとよく話すようになった。
言っちゃなんだがこれまでのミュウは知り合いのおじさんたちにチヤホヤしてもらってただけ、いわばホームで戦ってきた。知り合いのいないアウェイの都会に出てくれば今の状況は当然だ。お客さんだってミュウとの接し方に迷っていたはずだ。
だが覚悟を決めて接客を始めてからのミュウは日に日に笑顔を増やしていった。お客さんとの距離感もつかめてきたようだ。それによって自信が芽生え、さらに笑顔が増えて魅力的になる。好循環が生まれてきている。
「確実に手ごたえを掴んできてます」
ミュウに誘われた夕食でそう告げられた。
「でもやっぱり、上の人は凄いんですよね。熱狂的なファンもいるらしいんです。たまにトラブルになったこともあるそうですよ」
「……それはカフェでのことだよな?」
「勿論カフェのことですよ?」
まあ、異世界だからな。そういうことにしておこう。
「ミュウも気をつけろよ。仲良くなるのはいいけど、適度に距離は保っておかないとな。ストーカーにでもなられたらまずいからな」
「あれあれ? もしかしてマスター嫉妬ですか?」
「ベランダで生まれた雀のヒナが巣立つのを見守る気分だ」
「すごく分かりにくいです」
ミュウも真面目に聞いているわけではないだろう。ふざける余裕があるってことだ。
食事をしながら話を続けていると、近くのテーブルの声が聞こえてきた。若い男性二人で、どうやらミュウが働くカフェの常連さんのようだ。二人はミュウに気づかずに、カフェのことを楽しそうに話し込んでいた。
「そういえば、新しい給仕が入ったよな。ミュウちゃんだっけ。どう思う?」
「俺は好き。最初は不安そうだったけど最近はいい感じ」
ミュウが聞き耳を立ててニンマリしている。いいぞ青年B。その通りだ。もっと言ってくれ。
「それ分かるー。頑張ってる感があるよな」
「根の真面目さが顔に出てるよ。それに周りに可愛がられてたんだろうなって凄く感じる。天真爛漫なところとか」
青年Bは中々に鋭い。結構な洞察力じゃないか。
「でも田舎っぽくね? あの店らしくないっていうか。ちょっと浮いてるよな。田舎じゃあれで良くてもここじゃお客さんは付かないし、他から引っ張ってこれないよ」
それに比べて青年Aは分かってない。そういうのが清純さに繋がるんじゃないか。いや、田舎は結婚が早いとかいうけどさ。
アイツは分かっていない。一言モノ申してやる。俺は立ち上がり、彼らのテーブルに向かおうとした。ところがミュウが俺の腕を引っ張って止めてきた。
「大丈夫です、マスター。あれくらいじゃ、へこたれませんよ。田舎者なのは本当ですからね」
「ミュウ……」
ミュウは強くなった。あんなこと言われたのに効いてる様子はないし、我慢しているわけでもなさそうだ。本当に強くなったんだ。
「それに大事なのはこれからです。そうですよね、マスター?」
感動だ。ミュウがこんなこと言ってくるなんて。俺が泣いてどうする!
「……ああ、その通りだ。ニッチな需要でも全然問題ない。とりあえずは特定の層にしか刺さらなくても、むしろそれを強みにするんだ」
「マ、マスター?」
「ナンバー1よりオンリー1。それでいいじゃないか。まずは世界一の田舎者を目指そう!」
「絶対嫌です!!」
なぜ否定する……反抗期か?




