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第29話 村の底力を見せてくれ


 トゥルンに到着した。


 俺たちはここで情報収集と読み書きの学習を行う予定だ。トゥルンは広く大きな街なので、隅々まで情報を集めるには時間が必要だろう。お財布に余裕があるわけじゃないので、まずは宿と仕事を探して生活基盤を整える必要があった。


 幸いにも宿はすぐに見つかった。俺たちのように田舎から出てくる人たちをターゲットにした宿で、狭くて汚いわりには料金は都会基準なのでちょっと厳しい。できれば早めにグレードアップしたいところだ。


 仕事も順調に見つかった。ミュウは人気のカフェで働くことになり、俺も近場で仕事を見つけることができた。


 情報収集については継続的にやり続ける必要があるが、読み書きはミュウがカフェで自信を取り戻してからでいいだろう。俺は単純にそう考えていた。ところが事態は俺の想像を超えていた。チック親子によって打ち砕かれた自信を取り戻していると思っていたが、仕事から戻ってきたミュウに元気がないのだ。いったい何があったというのか。


「はぁ……」


 ミュウがため息をつく。何かあったのは間違いない。


「はぁ……」


 再びため息をついて、俺のことをチラチラと見てくる。


「どうした。話を聞いて欲しそうにアピールして」


「分かってるんなら聞いてくださいよ……」


「何か問題が起きたのは分かってたよ。でもミュウが黙ってるから自分で解決しようとしてると思ってたんだ。成長したんだなぁって」


「そこまで私を信頼しないでください……」 


「分かったよ。信頼しない」


「なんで私のこと信じてくれないんですか! マスターのバカ!!」


 いや、どっちだよ! 言いたいことは分かるけどさ。


「私は今、壁にぶつかってるんです。都会という大きな壁に……」


「……カフェでか?」


「カフェで、です」


「仕事なんだ。そりゃ辛いこともあるだろうさ。新人ならキツイことも言われるよ」


「違います! みんな優しいですし、そういうことじゃないんです! ……たぶん男性のマスターには理解できないかもしれません。私はカフェを理解してなかったんです。それを思い知らされました。明日、休憩時間にカフェのテラスを覗いてみてください。私が言ってることが分かると思いますから……」


 ミュウが深刻な表情で語る。これでは読み書きどころではない。いったいどんな壁にぶつかったというんだ。


 翌日、俺は昼休憩の時間にミュウが働くカフェに行くことにした。


「流石に人気店だけあってお客さんが多いな。さてさてミュウは……」


 テラスで注文を待つお客さんたちの料理が出来上がったのか、屋内から料理を持った給仕の少女たちが次々と出てきた。その中にミュウの姿もある。頑張っているようだが、その表情は浮かない。


 ミュウは給仕の仕事にプライドを持っているんだろう。笑顔で接客しているというのにどことなくぎこちない。お客さんは入ったばかりの新人が緊張しているとでも思ってくれているのかもしれんが俺には分かるぞ。なんというか周囲の様子を窺っているというか……そうか、分かったぞ。


 ミュウは自分と同僚を比べて落ち込んでるんだ!


 都会の洗練された少女たちと田舎者丸出しの自分と比べて劣等感を覚えてるんだ。この世界はインターネットで繋がっているわけじゃないからな。情報の行き来が少ない田舎には伝わっていなかった流行をミュウはここで目にしたんだ。


 確かに他の給仕はミュウとは一味違う魅力があるように見える。流石は人気店だけあって全体的にレベルが高い。化粧や表情、仕草はもちろんのこと、同じ制服なのに着こなしが違う。これが都会の女の実力か。侮りがたし。


 ミュウは自分のことを卑下しながらも美人とか可愛いとか思っている。それが今、人気カフェで働いて衝撃を受けている。まるでクラスで一番の美少女が芸能界入りを目指して上京した時のように。周りのレベルの高さに挫折してるみたいだ。これは結構深刻かもしれないぞ。

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