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第28話 地道な努力をしませんか


「それでどういった内容になるんですか? 具体的にお願いします」


 ミュウが詳細を尋ねてきた。不屈パンチのことで学んだんだろう。でも俺に任せっきりにするよりは断然良い傾向だ。


「不屈パンチはミュウの最大出力を上げる技だった。それを封印するからには別のアプローチが必要だ」


「マスター、前置きは短めでお願いします」


「今度はミュウの弱点を無くす方向でいくってことだ。ミュウの弱点は落ち込みやすく、メンタルが安定しないことだ。だからすぐにショックを受けて今みたいなことになる」


「はい……」


「そして今回潰す弱点はズバリ、読み書きだ!!」


「読み書きの克服……私にできるんでしょうか?」


「大丈夫だ。俺も一緒に勉強するから協力できる。恐らく俺の方が早くマスターするだろう。マスターだからな」


「あ、そういうのはいいんで」


 くっ、俺にだけ強気になるとは。舐められてるのか侮られてるのか。まあいい。


「恐らく都会の子供たちは当然のように読み書きを習得しているはずだ。そんな中、いちいち自分と比べて落ち込んでいたら母親を探すどころじゃなくなるぞ」


「話は分かりました。……でも無理です。絶対無理ですよ! 私が読み書きなんて!」


 ミュウが興奮しながら反論してくる。ここまでの圧力は初めてだ。でも絶対引いたら駄目だ。褒めつつ応戦しなくては。


「いや、できる。ミュウならできるはずだ! ミュウは字が読めないのに給仕として働いてるだろ。記憶力はあるし暗算能力もある。決して自頭が悪いわけじゃないんだ」


 俺の言葉にミュウが過剰に反応する。頭を掻きむしって拒絶する。


「なんで私に勉強させようとするの!? 読み書きができたってちょっと頭がよくなるだけじゃないですか! 美人だけどちょっと抜けたとこがあって可愛い、っていうのが私の持ち味なんです! 私からそれを取らないください!」


「馬鹿にアイデンティティを感じるな! ……それにな、それが通用するのは若い頃だけなんだ」


「えっ?」


 ミュウの表情が固まり、俺を凝視する。


「自分はそのままでも周りはどんどん大人になっていくんだ。それなのに自分一人だけ子供みたいな大人で……そんなのは嫌だろ?」


「だってお母さんはそうやって生きてきて……」


「それはきっとミュウのお母さんが強い人だからできるんだ。もしかしたらミュウに弱みを見せていないだけかもしれない」


「でも……マスターが読み書きを覚えたら送還魔法を探しやすくなるじゃないですか。マスターならすぐに見つけちゃいますよ……」


「大丈夫だ。俺はミュウの母親を見つけるまでは元の世界には戻らないよ。それは約束する」


 そもそもミュウじゃないと俺を元の世界に戻せないと聞いている。送還魔法を覚えてもらうには、ミュウのやる気を出させる必要がある。そのために心配事を無くしていく。一応召喚士としての実力も上げておいた方がいいしな。


「……分かりました。私、やります。読み書きをマスターします!」


「よく言った! その意気だ。読み書きの習熟はミュウの選択肢が広がると思うぞ。給仕以外の仕事にチャレンジするのもいいし、ワンランク上の結婚相手が見つかるかもしれない」


「本当ですか!?」


 思わぬ食いつき方にちょっと引いてしまう。


「どっちを選ぶかって時に俺ならそうするって話。でも大抵の人はそうだと思うぞ」


「あ、そうですか」


「落ち込んでる! あからさまに落ち込んでるよ、この人! 俺の意見では不服だとでも!?」


 「だってマスターって、ちょっと普通とは違うじゃないですか。参考にはならないかなぁって」


「普通ってなんだよ、普通って」


「それは私が普段から見てる男の人たちのことですよ。例えばお父さんとか……」


 いきなり普通じゃない人が来ちゃったよ……。流石にその方は普通じゃないよ。ミュウも自分で言ってて気づいたみたいだ。頭を抱えている。


「なんか、ごめんな」


「いえ、私の方こそ生意気言ってすみませんでした」


 俺たちは、どちらともなくトゥルンへの歩みを再開した。これが雨降って地固まるってことか。雨というよりミュウの心の涙だったような気がする。

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