第14話 負けたくないらしい
シャイラの召喚獣はカメみたいな姿をしている。人が乗れるくらいに大きい。陸上のカメはのろまな印象があるけど、俺の知るカメとは違うかもしれないし、シャイラの補助魔法で速度が強化されている可能性もある。驚かないで対応しないとな。
作戦を考えていると、ミュウが寄ってきて俺の耳元に口を近づけた。
「私、絶対にシャイラちゃんに負けたくないんです」
珍しくミュウが真剣な眼差しでシャイラを見つめている。シャイラもそれに気づいて睨み返している。友人でありながらライバルなのかな。
「そんなに負けたくないんだ?」
「はい。私たちは先生から召喚魔法を教わりました。その時私たちは同時に先生に恋してしまったんです。だから……この気持ちだけはシャイラちゃんに絶対負けてないって証明したいんです! 一番弟子の座を譲りたくないんです! きっとシャイラちゃんも同じこと考えてます。シャイラちゃんは私より才能が有ります。でも絶対勝ちたいんです!」
「わかった。俺も全力で戦うよ」
「ありがとうございます」
さて、勝つためにまずは観察だ。あの甲羅でわかるように防御に自信を持っているはず。それをぶち破るパワーを優先するべきか。カウンターで攻めるか。
作戦を考えていると、頭の中に声が響いた。ミュウと念話してた時みたいだけど、ミュウにそんな様子はない。
『わしじゃよ、わし。ほれ、目の前にいるじゃろ』
目の前にいるシャイラの召喚獣と目が合った。
『ま、まさかカメか! カメが俺に話しかけているのか!』
『その通りじゃ、悠久の時を生きる我らなら人間の言葉を覚えるのは容易いからのぉ』
……いや、長年生きてるのが誇りみたいだけど、アンタもう死んでるから。
『それで何の用だよ?』
『そう急かすな。若いもんはせっかちでいかん』
『もう戦いが始まるぞ。用があるなら、さっさと済ませろよ』
『仕方ないのう。それにしても、このような戦い、無駄だと思わんか? どちらが勝っても大した意味はなし。生き返ったとしても痛い思いをするのはするのは、ちと堪えるでのう』
『それは分かるけど……』
若い女の子にとって重要なことなんだ。ミュウの気持ちを裏切りたくないんだ。だから、俺は絶対に勝つ。
『じゃから、見せかけだけの攻撃で互いに見せ場を作るのはどうじゃ? 勝利はお主にくれてやる故』
『……だ、駄目だ!』
『なんじゃ、融通の利かない奴じゃのう』
カメはそれだけ言って念話を切った。シャイラはいつの間に指示を出していたのか、いきなりカメがゆっくりとこっちに向けて歩き出した。今はゆっくりと歩いてるけど、恐らくいきなり早くなって俺の不意を衝くってとこだろう。
「マスター!」
ミュウが俺に指示を問う。
やはり、ここは強引にパワーで攻める。硬い甲羅を叩き割ってやる。
「思いっきり殴るぞ!」
「はい、マスター! 思いっきり殴ってください!」
拳から力が湧いてくる。でも何かがおかしいぞ。体のバランスが崩れてる。訓練した時より補助魔法が効いてない気がする。ミュウはあんなにやる気になってるってのに……。
って、ことは俺のせいか!?
俺の迷いがミュウに伝わったのか!
ちょっとカメの誘いに乗りたくなったせいかよ!
でも、俺の迷いなんて相手は知ったこっちゃないわけで。カメはいいタイミングで攻勢に出てきた。
「今よ。シュテフィン! 踊りなさい!」
カメが左右に跳ねながら一気に距離を縮めてくる。しかも言葉通りにジタバタとカメの踊りをするわけじゃなく、剣の舞みたいに軽やかだ。それにしても凄い動きだ。表面的な言葉ではなく、そこに込められた意味まで理解しているようだ。
あんな単純な指示に複雑な意図を込めている。
それなのにきちんと意思疎通ができている。
シャイラはそれほどの信頼関係を築けてるというのか。
カメと!




