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特別テスト『五異霧中』①

閲覧いただきありがとうございます。

 4月3日(水) 9時00分


 Eクラスの教室には20人の生徒が集まっていた。

 初めて迎える特別テスト、ここで良い成績を収めることができれば進級へ向けていいスタートダッシュを切ることができる。

 裏を返せば、ここでつまづいてしまうと周りに対して出遅れることになる。


 教室に少女先生がやってきた。

 そしてホームルームが始まる。


「は〜いみんな〜! お待ちかねの特別テストを始めるよ〜!」


 入学していきなり特別テストとは予想していなかった。

 だが特別テストがどういうものか知るのは、早いほうが助かるのは事実だ。


「今回はレクリエーションも兼ねてだからポイントの変動は少なめだよ。あと、次の特別テストは夏休みまでないからね!」


 この特別テストで1学期のHPが決まるということか。

 夏休みが7月20日から始まるとして約110日間。

 1年のおよそ3分の1を消費するのだから、ポイントの変動が少なめとはいえ差が生まれそうだな。


「今回のテストは、『五異霧中(ごいむちゅう)』だよ!」


 五異霧中?

 五里霧中じゃなくて?


「ルールは簡単だよ!」


『五異霧中』

 期限は今日の24時まで。

 各クラスの生徒はチーム1からチーム5に4人ずつ割り当てられている。


 自分と異なるチームの人物の所属チームを当てたら500HP奪取、外せば1000HP献上。


 15時には他のチームのヒントが配られる。

 投票は12時から24時まで可能。



「他にも細かいルールがあるからアプリから確認してね!」


 ルール自体は簡単だ。

 けど、どうやって当てるんだ?


「自分のチームは手続きをしたら専用アプリで見れるようになるから、あとで1人ずつ別室に来てもらうね」


 誰にも見られないように別室で手続きをするのだろう。


「そして各クラスで収支が1位の人には100万MPが与えられるよ! 同率なら分配されるからね!」


 100万MPのボーナスは欲しい。

 しかし仮に誰のHPにも変化がない場合でも、クラスは20人だから1人あたり5万MPが手に入るのか。


「じゃあ、前から順に1人ずつ来てね。まずは桜橋さんから」


 そういって成績順であろう席順通りに1人ずつ別室に呼ばれていく。


「最後に築山くん」


 そして俺の番が来た。

 少女先生の後ろを歩き、別室へとついて行く。


「お待たせ!じゃあスマホでこのQRコードを読み取ってくれる?」


 言われた通りQRコードを読み取る。


「これで専用アプリが使えると思うから起動してみて」


 専用アプリのアイコンをタップすると反応があった。


「今回の試験ではアプリに3つの機能があるの。1つ目がルール、2つ目が確認、3つ目が投票。名前でなんとなくわかるかな?」


「1つ目がルールの説明で、2つ目が所属チームの確認。3つ目が他者へのチーム指名ですか?」


「その通り!よく分かったね!えらい!」


 バカにされてるのだろうか。

 最下位だから仕方ないのかもしれないが。


「じゃあ確認機能をタッチしてみて」


 そう言われて確認機能を確かめる。

 アプリには『あなたはチーム4です』と書かれている。

 そしてその下に同じチーム4の生徒が羅列してある。


「チームメイトが誰か分かるんですね」


「そうじゃないと同じチームの人に投票することになっちゃうからさ」


「これってチームの情報とかを売ってもペナルティとかはないですよね?」


「もちろんだよ!でも画面をよく見てみて」


 言われた通り画面を見るが、特に違和感はない。


「今映っているのが僕のチームとチームメイトですよね。これ以上に何かあるんですか?」


「『チーム4』の文字をタップしてみて」


 言われるがままタップする。


「これ……変更できるんですね」


「そう。チームの数字だけじゃなくてチームメイトやヒントも変更できるようになってる」


 チームの情報を売ろうにも、その真偽を確かめる術がないという訳か。

 レクリエーションとはいえ特別テスト、一筋縄ではいかなそうな試験だ。


「アプリも入れ終わったし教室に戻ろうか」


「はい」


 教室に戻り少女先生が話し始める。


「投票は12:00からできるようになるから、それまでにルールを確認しておいてね!何かわからないことがあったらメッセージアプリや職員室で聞いてくれたらいいから。じゃあ解散!」


 現在の時刻は10:30。

 特別テストの説明がおわり解散となった教室には、テストについて考えたいのか、あるいは協力関係を求めているのか、教室にはまばらに生徒が残っていた。


 そういう俺もその1人だ。

 そして協力関係を持つ相手なら、うってつけの奴が隣の席にいる。


「蓬莱」


「様が抜けてるよ」


「様蓬莱」


「人の名前を穴◯弟みたいに言わないで」


「このあと2人で話さないか」


「仕方ないな。どこで話す?」


「蓬莱の部屋で」


「はいはい。じゃあ行くよ」


 前と同じく蓬莱の部屋に向かうこととなった。


 ちなみに蓬莱は話しかけて欲しかったのか、教室で俺の方をチラチラ見ていた。



 ---移動中--- 教室→寄宿エリア



 10分ほど歩き蓬莱の部屋についた。

 現在の時刻は10時40分。

 あと1時間と20分で投票機能が開放されるため、それまでにルールを把握しておきたい。


 2度目となる蓬莱の部屋へ訪れ、そして洗濯物を観察する。


「今日の下着は水色か。わかってるじゃないか」


「なんで上から目線なの。それと女子の部屋に入ってすぐに言うことがそれ?」


「#89c3edは目に優しいし良いと思うぞ」


「人の下着をカラーコードで述べるのやめてくれないかな」


「勿忘草色だよな」


「それならいいけど」


「いいんだ……」


 自分で言っておいてなんだが違いがわからない。


「そんなことよりテストの話しようよ」


「それじゃあ余談でも始めるか」


「下着の色が本題だったの?」


「当たり前だろ」


 他に何があるというのだろうか。

 この小娘は道理というものがわかっていないようだ。


「もう余談でもいいから話そう」


「何から話す?」


「とりあえずルールの確認からかな」


 そう言われ俺は専用アプリを開き、確認の項目を選択する。


「これがルールか」


「どれどれ見せて」


 特別テスト『五異霧中』

 その1 時間に関するルール


 期間は4月2日12時から24時まで。

 投票はテスト期間中ならいつでも可能。

 15時にはヒントが与えられる。


「すでに先生が話したことだよね」


「そうだな……強いていうならヒントについてくらいか」


「ヒントって何だろうね?ルールに書いてあるのかな」


「とりあえず全部のルールを確認してみるか」



 その2 投票に関するルール


 投票は成功する限り何回でも可能。

 投票を失敗した時点で投票はできなくなる。

 正解の投票をされた場合、その時点で投票をすることもされることもできなくなる。

 投票に成功した場合、相手から500HPの奪取。

 投票に失敗した場合、相手へ1000HPの献上。

 チームメイトに投票した場合、ペナルティとして1000HP失う。

 このとき相手はルール上の影響を受けない。


「このルールはかなり重要になりそうだね」


「チームメイトを売るという行為が、アプリ内偽造と合わせて相当難しいな」


 虚偽の情報を流すメリットがかなり大きい。

 これでは協力関係を築くのは難しいだろう。



 その3 その他事項について


 ヒントとは自分の所属チーム以外の4チーム、そのうちの2チームが表示される。

 与えられたヒントがチーム1とチーム2の場合、それぞれのチームに所属する2人、計4人が表示されるがどちらのチームに所属しているかは分からない。

 チームごとに同じヒントが与えられる。

 偽造システムは自身のグループ、チームメイト、ヒントにおいて使用できる。



「ヒントって割には運任せになるね」


「2分の1で当てられる訳か。ギャンブル感覚で投票するやつもいるだろうな」


 外せば-1000HP。

 当たれば500HP。

 期待値で考えるならばマイナスであり引かないだろう。


「ルールはこれで全部だけど、何かいい策は見つかった?」


 必勝法と呼べるものは今のところ見つかってない。


「色々考えてみたけど、どれもルールによって防がれている感じだ」


「例えばどんなの?」


「お互いのチームメイトを売るとかな」


 互いのチームメイト3人の情報を売ればお互いが1500HPを得ることが出来る。

 しかし、これには穴がある。


「偽造システムがある限り、相手のチームに確証が持てない。もし投票を間違えれば-1000HPだから、実質的に不可能だろうな」


「それに間接的に自分のチームが相手に知られてしまうよね」


 チームメイトを教えることは、チーム番号を教えることに繋がる。

 つまり自分のチーム番号を教えることに等しい。

 その点から見ても、チームメイトを裏切ることは難しいだろう。


「もし本当のチームを言えば自分にも投票され、自分は投票できなくなる」


「実質不可能ってことだね」


 互いのチームメイトの情報を公開できないとなると取れる方法がかなり限られてくる。


「他にはヒントで当てる方法を考えていた」


「ヒントで当てるっていっても無理じゃない?2分の1までなら絞れるだろうけど」


「結局そうなる。お互いのヒントを公開するというのも考えたが、これも無理だと思う」


「そうだよね……お互いのヒントに同じ人がいないと意味がないし」


 俺に与えられるヒントを仮にチーム2と3のメンバー4人だとしよう。

 そして、協力相手に与えられたヒントがチーム2と4の場合だ。


 お互いのヒントに同じ名前があれば、その人物はチーム2だと判る。

 しかしそれを行うには、結局のところヒントが偽装されていないことが前提である。


「表示されるヒントはチームごとに被らない4人になるだろうな」


 各チームに与えられるヒントは4人分。

 全5チームのためヒントに表示されるのは計20人。

 クラスの20人全員がヒントに表示されると考えられ、もしそうなら誰もヒントで被ることはない。


 つまり違うチームだとしても、与えられるヒントに同じ名前はないことになる。

 だからヒントに虚偽の情報がなくても、ヒントの共有は無意味という訳だ。


 これはあくまで予想だが、間違ってはないだろう。


「だから攻略法は俺にはわからん」


「そんな気はしてたよ。でも実際どうしたらいいのかな?」


「MPを利用するしか方法はなさそうだな」


「例えば?」


「仮に俺が蓬莱に俺のグループを教えるとする。蓬莱は500HPを得る代わりに俺に毎日500MPを送る」


「それだと築山くんは、MPで損はしないけどHPは減るよ」


「収支1位には100万MPが手に入るんだ。それを貰えれば文句はないさ」


 減るHPは500。

 その分の500MPを定期送金して貰えれば、毎日手に入るMPは変わらない。

 たったの500HPで100万MPが手に入るならば、お買い得というものだ。


「同じことしてる人がいたら貰えるMPは減っちゃうけどね」


「それが不安材料だ」


 仮に同じことをしてるグループがいれば、その分貰えるボーナスは減る。

 1位が同率ならボーナスは分配となるからだ。


 さらに3人で協力してるグループがいれば、その者は1000HPを得るため単独で首位となる。

 そうなれば俺の貰えるMPは0。

 HPだけが損をすることになる。


「それに取引相手を裏切った方が、ポイントで有利になるよね」


 相手に嘘のチームを教えれば、自身は1000HPを得ることになる。

 HPでもMPでも得をする。


「結局、信じられる相手がいない限り机上の空論というやつだな」


 現状はテストに関して何の案も浮かんでいない。


「他に協力関係を得る人が欲しいね」


「それに最適なのは昨日話したあいつだな?」


「クラス1位の『桜橋さん』だね」


「先に聞いておくが、桜橋とは同じチームか?俺は違う」


「私も違うよ」


「それは好都合だな。さっそく連絡を取ってみるか、頼んだ」


「なんで私なの?」


「相手は天下のアイドルだぞ?知らない男からのメールなんか見ないだろ」


「本当は女子に連絡するのが怖いだけでしょ」


「ギクリ」


「それは口に出すものじゃないよ」


「というわけでお願いします、蓬莱様」


「苦しゅうない」


 そういって蓬莱はスマホに文章を打ち込む。


「とりあえず送ってみたけど連絡くるかな」


「まぁ待ってたら来るだろ」


 ピコン


「返事来た」


「早すぎだろ。現代っ子だな」


「『14時30分にカフェでどう?』だってさ」


「わかった。それでお願いしよう」


「了解」


 返信を終えると時刻は12時を迎えようとしていた。


「そろそろ投票が始まるな」


「わたしたちはまだ投票しないし、お昼でも食べに行こうか」


「そうだな」


 そうして2人は学食に向かう。

やっと特別テストが始まりました。

ここまで長かったですね。

お疲れ様です。

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