煙訓練
模擬戦から一週間経つのは意外と早かった。気づけば夏休みになっていた。
「なぁ、本当に夏休み中遊べないのか?」
「ああ、すまんな。知り合いと一緒に出掛けることになっててな。」
「そうか…それなら仕方ないな。もしかわいい子がいたら紹介してくれよ?」
「わかったよ。」
『煙には美男美女しかいないんだよな…』
煙はかなり顔立ちがいい人間が集まっている。別に顔がいい奴を集めているわけではない。顔がいいと何かと楽なのだ。そのため煙内で恋愛に発展しそうになっている奴らもちょくちょくいる。別に俺(火炎)としてはどうでもいいのだが、黒炎と白炎が恋愛禁止としている。なんでも恋愛は判断を鈍らせるかららしい。まあ否定はしないがやりすぎな気もする。
「ただいまっと。」
俺は家に帰り荷物を机の上に置き、すぐに課題に取り掛かる。我縁学園では課題の丸つけは学園がするため回答が渡されることはない。ただ大半が教科書や授業で習ったことの応用のため裏世界で大量の魔法を見る俺としては超簡単だ。ただ普通の学生からすると結構難しい。そのため普通の学生を装うために俺はわざと間違えた回答を書いていく。だがここで適当に書いたら教師からも疑われるので意外とそれっぽいことを書いていく。そして2時間程度で全ての課題を終わらせた。
「よし行くか。」
俺は制服から着替えて拠点に向かうのだった。
・・・
「火炎様、お待ちしておりました。」
俺が拠点に入ると白炎が出迎えてくれた。
「他の奴らはどこだ?」
「第二拠点で訓練中です。」
「第二拠点か…」
当たり前だがこの世界には今いる国以外にも何個も国が存在する。煙は三つの国に拠点を置いている。1つがここ《デスターザ》、二つ目は《スーカケ》、三つ目は《メディカラー》。第二拠点はスーカケに存在している。この三つの国はそれぞれ違う考えをしている。デスターザは魔法と武術を両立できる者が強いとされている。スーカケは魔法を極めた者が強いとされている。メディカラーは剣術や弓術などを極めた者が強いとされている。そのためこの三国はそこまで仲が良いわけではない。そのため第二拠点への移動は意外とめんどくさかったりする。
「こちらで転移陣は作成しています。」
「そうか。では行くか。」
本来転移陣で他国へ行くのは犯罪だ。だが煙には魔法痕跡を消すのが得意な人材が何人もいるため見つかることがない。そのため移動はほとんど転移陣を使っている。
そして俺と白炎が転移陣に乗ると光だし、気づくとすでに第二拠点だった。
「火炎様が到着されました!」
白炎がそう言うと全員が俺の方を向いて跪く。
「今回は俺も参加する。全力でかかってきていい。」
「わかりました。それでは全員再開!」
再び全員が訓練を始める。
「今は何をしているんだ?」
「はい、今は魔法の発動時間短縮の訓練をしています。」
「そうか。」
魔法展開時間短縮は学園などでは学ばない。理由は短縮してもそこまで戦闘に関わらないと考える人たちが多いことだ。だが裏世界や戦場なんかだと0.01秒が勝敗を分ける時が多い。負けたら死という世界で生きているのだ。一瞬でも先に攻撃できることは重要だ。
「俺もやってみるか。」
俺も周りと一緒のことをする。俺は一瞬で氷の槍を20本召喚して消すを繰り返す。気づくと全員の視線が俺に向いている。
「どうかしたのか?」
「いえ、改めて火炎様の異常さを実感しただけです。」
「???」
・・・
火炎様は周りの子たちと同じ方法で訓練している。魔法を使って解除するを繰り返すだけ。だが火炎様と周りでは圧倒的に速さが違う。幹部の中で一番展開が速い白凛ですら展開の瞬間が見える程度だ。だが火炎様の展開はもとからそこにその魔法が存在していたと錯覚を起こしそうなほど速いのだ。見えないなんでレベルではない。展開の瞬間を感じられないのだ。もし一般の魔法使いが火炎様と戦えば気づいたときには首が落ちているだろう。それほどの速さ。
「あのー火炎様…」
「なんだ?」
「周りの子たちに少しコツなどを教えていただけないでしょうか?」
火炎様の魔法展開のコツを知れば少なからず速くなるのではと考えた私はそんなことを聞く。
「そうだなぁ。魔法展開には手順が存在する。」
1.脳が使う魔法を思考する。
2.その魔法を脳から魔力に伝える。
3.魔力を魔法を発動する部位に移動させる。
4.そして魔法を発動。
「こんな感じだ。この4つの手順で今全員が鍛えているのは1と2だ。ここは一番鍛えやすい。だが速くなる幅はかなり少ない。重要なのは3つ目の魔力の移動だ。魔力の移動は魔力管によって行われている。」
※魔力管とは魔力の通る血管のようなものである。
「魔力の移動を速くすれば魔法展開も速くなる。これを鍛えるには大量の魔力を身体に入れて一度魔力管の通りをよくするのが手っ取り早い。」
「そんなことができるんですか?」
私は咄嗟に聞いてしまった。
「ああ、あるぞ。ほら手をつないでみろ。」
私は言われるがまま火炎様の手を掴んだ。少し心臓が高鳴るのを感じた。だがそのドキドキも一瞬で亡くなった。
「ッ!」
大量の火炎様の魔力が私の中に入っていく。身体が燃えそうなぐらい熱くなる。そして私は気を失った。