氷結のライル
私たちは同時に魔法を放つ。そして二つの魔法がぶつかる。辺りは一気に寒くなり、私の電撃が周りに分散され黄色く光る。私は即座に次の電撃を放ちその後に続くように相手との距離を縮める。ライルは当たり前のように氷の壁で防ぐ。私はそれを読んで氷の壁を避けながらライルに蹴りを放つ。ライルはそれすら回避される。瞬間ライルは無数の氷の槍を召喚し私に攻撃してくる。私は避けていく。避けられない攻撃は魔法で破壊する。気づけば再び距離が開いている。
「あなた相手だと決め手に欠けるねぇ。」
「それはこっちのセリフよ。」
氷属性と雷属性は相性がいいとも悪いとも言えない。そのためどちらも有利とも不利とも言えない。つまりは読み合い、または魔力量などで結果が決まる。
『だが魔力量に関しては多分互角…つまりは読み合いで決まる…』
私は即座に次の攻撃を仕掛ける。
・・・
私は相手の動きをよく見ていた。雷属性の魔法使いには何度も戦ったことがある。そして負けたことはなかった。黒味と出会うまでは。黒味と出会って私は初めて雷属性の魔法使いに負けた。それから私は一度たりとも勝負ごとで油断しなくなった。それは今回も変わらない。私は黒味の動きを見続ける。一瞬も油断はしない。
『今の動き…地雷を仕掛けたな…他にも罠を仕掛けている…わかるだけでも地雷が5か所、雷線が3か所、確実に私の動きを塞ぎに来ている。それならやることはただ一つ』
私は全力で相手に突っ込んで行く。
「な!?」
こう来るとは思っていなかったのか。黒味は驚いた表情をしている。私は氷の剣を召喚し、体を氷で守る。ただ地雷にも引っかかっていく。普通なら致命的な攻撃。だが私には効かない。氷は-80℃以下になると電気を通さなくなる。私の纏っている氷は-80℃を下回っている。ただこれは諸刃の剣でもある。電気を通さない代わりに使用者の身体は急速に冷えていき動きや思考にも影響が現れてくる。つまりここでやれなければ私の勝ち目は限りなくなくなる。
「さあ!決着としようか!」
・・・
ライルは氷を纏い私に突っ込んでくる。氷は私の電撃をことごとく防いでいく。しかも私が近距離で攻撃することもできない。魔法は使用者への影響より他者への影響が大きくなるようにできている。きっと私がライルの氷に触れた瞬間、私の身体は凍りつき身動きが取れない状況でやられることだろう。ならやることは…
「避けるしかないわよね!」
ライルは私の考えを読んでいた。自分の魔法とは言えずっと耐えられるわけではない。避け続ければ勝機はある。ただライルはそれを読み切り地面を凍らせていく。
「チッ!」
私は軽く舌打ちをする。私はギリギリでその攻撃を避ける。だが気づいたときにはすでに目の前にライルがいた。
「終わった…」
私がそう思った瞬間、目の前に炎の魔法が飛んできてライルに当たる。
「グハッ!」
「言いましたよね。危険な状況になったら呼んでくださると。」
目の前にはさっきまではいなかった黒糖がいた。
「ごめんなさい。」
「謝罪は今はいいです。まずは彼女を倒さなければ。」
「はぁ…はぁ…」
ライルはすでに息が上がっていた。纏っていた氷も溶けていっている。
「今回はあなたの勝ちよ。ライル。」
「はぁ…はぁ…」
「それじゃあね。宿敵」
私がとどめを刺そうとした瞬間横から攻撃が飛んでくる。私はギリギリでそれを避ける。
「ライルちゃーん。大丈夫?」
「はぁ…ハイドか…」
「ハイド!?」
ハイド。創影でもライルと同レベルの地位を持っている実力者である。
『この状況ではハイドには勝てない…かと言って逃げれば拍白社が崩壊する…』
白煙にも実力者はいる。だが現在本部にはその実力者が出払っている。この状況で入られれば崩壊は免れないだろう。
『どうすれば…』
私がそんなことを考えていると新しい足音が近づいてくる。その方向には1人の男性が立っていた。
「今回はここまでにしてもらおうか。」
・・・
俺は戦闘の現場にいた。このままでは黒煙からも白煙からも死人が出ると判断したからだ。
「まさか黒煙のボス、火炎が現れるとはねぇ。」
「本当は出るつもりはなかったんだがそうも言ってられなさそうだったからな。さあ、どうする。俺とやるか?氷結のライル、火水のハイド。」
「そうだねぇ。今日は手を引かせてもらおうかな。それに今回のことをボスに報告しないとだしね。」
「そうか。今回は見逃してやる。さっさと消えろ。」
「はは、そうさせてもらうよ。それじゃあね。」
ハイドはそう言って水蒸気の煙を出してその場から消え去った。気づくと他の創影のメンバーも消えていた。俺が安堵していると複数の足音が近づいてくる。
「全員、ここを去るぞ。気絶してるやつらを担いで移動する。」
「はい!」
そして俺たちはその場を後にした。
・・・
「灯華様、昨日の夜、拍白社本部前で魔法による戦闘が行われたのは事実のようです。付近で魔法の形跡が大量に発見されました。」
「わかりました。捜査を続けてください。」
「はい!」
そして部下は出ていった。
「はぁ…」
私は大きなため息をついていた。
『はやく休みが欲しいなぁ。』
と山積みの書類を前にそんなことを思うのであった。