彼女
一年ぶりだろうか。シュウに電話をするなんて。
言葉もまとまらずLINEに文字さえ打てない。
コール音が終わり「はい」という女の人の声が聞こえた。
「シュウに用事?」
「はい…まぁ…」
お願いだから。シュウの声が聞きたい。
「シュウが…亡くなったってウソですよね?」
まだハタチだ。私より年下の人が死ぬなんて。
「本当です…」
通勤途中バイクに乗ってるところにトラックと衝突した。
そんな死因を聞いたところで耳からこぼれ落ちる。
一年前、シュウは大学を辞めると言った。
ビルの屋上で夕陽を眺めながらシュウが言った。
「俺、早く働きたいんですよね」
「もったいないなぁ。私なんて高卒で苦労してるのに」
夕陽なんかより眩しい人だった。
シュウとは、恋人とは言えなかった。
何度かそういう行為をしたけど、遊びと片づけるのは寂しい。
他人から言わせれば、やっぱりセフレだったんだろうな。
シュウが地方で就職して会うことも、連絡をすることもなくなった。
それでも、どこかで幸せに暮らしていると思ったのに。
私があの日、大学を辞めるなと言っていたら。
電話口の女の人が私に聞いた。
「シュウの元カノさんですよね?」
「私?」
自分の立場を元カノと言うのは忍びない気持ちになる。
「あ、私はシュウの彼女なんですけど。前にバイト先の年上のお姉さんと付き合っていたって聞きました。」
「あー。それ私かな」
シュウのお墓の場所を教えてもらって電話を切った。
私はシュウの彼女だった時があったのか。
いまさら知っても嬉しくない。
付き合おうとも、別れようとも話していない。
それで今あんなに可愛い声をした彼女がいるのに。
まだ死ぬのは早い。どうかウソだと言って。
部屋が海になるくらいに泣いた。
泣いて戻ってくるなら、いくらでも泣くのに。
あれから、シュウの年齢の倍になった。
いつの日かしわしわのおばあちゃんになって、終わりを迎えたらシュウに会いにいく。
それまで、のんびり、じっくり人生を楽しむつもり。
今のところあの日の夕陽を超える眩しさに出会ったことはない。