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猫が、鳴いた。


 猫が、鳴いた。


 カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。


 ……寝てしまったのか。


 死にたいと思っていたのに


 しっかり寝てしまう自分に笑いが零れる。


 

 人生を賭けた試験に落ちた。


 全身全霊で書いた小説が落選した。


 ずっと一緒に居るのだと信じていた恋人に別れを告げられた。



 生きる気力を失った私は街を彷徨い歩き、結局この部屋に帰って来た。


 すべてを失った私には、死ぬ勇気すら残っていなかったのだ。


 無気力に横になりこのまま畳に溶けてしまいたいと願った。



「にゃーん」


 寝ている私の顎を噛む毛玉。


 うむ、痛い、これは相当お腹が空いているらしい。


「ごめんね、いまご飯用意するから」


 私が居なくなっても良いように出入り自由にしておいたのに戻って来たのか。


 まったく世話の焼ける奴だね。にやける口元こぼれるため息。



 飾りっ気のないワンルームの部屋、繰り返す朝、お腹が空いてご飯を食べるキミと私。モフモフの手触りとぷにぷにの肉球、ざらざらの舌。


 ……なんだ、何も変わらないじゃない。


 すべてを失ったと思っていたのに、笑ってしまうくらい、太陽が昇って沈むくらい当たり前に私のすべてはちゃんとここにある。



「あ……ご飯切らしてた」


「うにゃんっ!?」


 いてて……何も引っ掻かなくてもいいじゃないか。


 お詫びに一品おかず増やしてあげるからさ。



 引っ掻かれた傷がじんじん痛い。


「あはは」


 思わず笑ってしまう。


 これは生きている証。


 今の私にはそう思えるんだよね。



「にゃー!!!」


 猫が、鳴いた。


 そろそろお怒りのようですな。はいはい、買ってまいりますとも。


 なる早超特急でね。

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― 新着の感想 ―
[一言]  里親も見つけずに、猫ちゃん放り出すなんて、許されることではありません。  もうどうでもいいや、に猫ちゃんのこともはいっていたのなら美談には思えません。  どこまで本気で、猫ちゃんを。自分の…
[良い点] 古人曰く、禍福は糾える縄の如し。 人間誰しも生きていれば、上手くいかない事が立て続けに起きてしまう時期も来るでしょうし、「もうどうでもいいや。」と捨て鉢な気持ちになってしまう事もあるでしょ…
[一言]  地の底に堕ちたと思ったら、それ以上堕ちることは無いから次は上がるだけ。  試験はまた受ければいいし、小説もまた書けばいい。  男は次はもっといい男と縁があるかもしれない。  笑ってしまう主…
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