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剣聖の娘が賢者の弟子〜その娘は将来魔王になる予定です〜  作者: 桜庭古達
第一章 運命「的」な出会いは数多に
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賢者、女の子を拾う


魔法の歴史は案外、それほど深いものでもない。

時間にして発見されてから数百年ほどは経っているが、人類の文明が発展し始めた頃が数千年前ということを考えると、まだ魔法にも未開発の部分も多い。

もしかしたらそれよりも前に魔法という存在は認知されていたのかも知れないが、そんなものは物的証拠も見つかっていないので確認しようもない。


そして魔法の開発に大きく貢献した存在とも言えるのが、世の中で称賛されている『賢者』というものだ。

ただ強いだけではいけない。その能力に見合った功績がないと賢者の称号は貰えない。

因みに怠惰な俺がどんな方法で世の中に貢献したのか。

俺は細かなパーツを作って、それを研究者たちに渡すことで間接的に世に貢献していると見なされた。事実、俺は学生時代の殆どの間をそんなことをして過ごしていたものだから魔力による物の変形がかなりうまくなった。

能力も鍛えられて小さなお小遣いも手に入れられるなんて一石二鳥!、としか当時の俺は思っていないかったが。


そして賢者と認められた者は多くの魔法師にとっての目標であり、憧れへと昇華する。


賢者の印たる金の刺繍が施された純白のローブと、国獣である不死鳥が刻まれた銀のメダルを身に着け町中を闊歩すれば人に囲まれること間違い無しの栄光の証だ。


まぁ、俺も一応持ち合わせてはいるが……正直ローブヒラヒラして邪魔だし目立って囲まれるのも面倒くさい。世の中には好き好んでわざと自分をアピールする輩もいるらしいが、俺にはどうもそいつの思考は理解できそうにない。

まだ魔法陣を覚えたほうが面倒くさくない。


賢者の授与式の時もわざとフードを目深に被って顔を見られないようにした。ただそのせいで世の中の俺のイメージがミステリアスだとか、クールだとか、余計に顔を出しづらくなってしまった環境になってしまったが。


とまぁ、結局何が言いたいのかというと、あの純白のローブも銀のメダルも持ち合わせていない俺はただの一魔法師でしかない、というわけだ。


だから……、


「俺の正体もこいつには……バレない、はず」


魔法によって創り出した火打ち石で作った焚き火の近くに置いた横たわる少女と、その対面に座る俺。


悲報(?)、山籠りしようかと思ったら女の子を拾いました。















懐かしい夢を見た。

それは私が小さい頃に初めて魔法書に出会った時の夢だ。子供の私には到底理解の及ばない文字や記号で構成されたその陣は私に夢を与えた。

その頃から私は魔法という存在に惹かれていった。深くのめり込んでいったのだ。

そしていつしか……


依存していた。


「……んぅ」


その瞬間、意識が覚醒する。


「(いつの間にか森の中で寝てた?でも、不思議と温かい……)」


つい森の中の奥の方まで足を踏み入れてしまい、そして戻れなくなってしまって森の中を彷徨っていたところ空腹で……


「(あぁ、そうだ私空腹で倒れたんだ。クソっ、私ともあろうことかこんなヘマをするなんて)」


心の中でそこそこ……いやかなり女の子らしくない悪態をつく。


……そのままの流れだったのだろう。

瞼を開き、目の前の視界に入り込んだ人を見て思わず呟いてしまった。


「……お前誰だよ」


……と。















「いや口悪っ!」


間も空けずに思わずツッコんでしまう。こんな清楚百パーセントみたいな見た目でこんな口調。

幸いにも俺はそんな特殊な癖を持ち合わせていないし、そんな謂れもないため、そりゃあごく普通の反応をしてみせたわけだが……。


一気に視線を訝しげなものに変えた後、その少女はハッとした様子で口に手を当て、


「し、失礼しました!……それはそうと貴方様は一体どちら様でございましょうか?」


「いや遅い遅い。それに普段そんな丁寧語を使ってないのはバレバレだぞ」


そんな反応をしてみせると、


「チッ、誤魔化せないか」


「舌打ちすんな。しかも隠す気ゼロかよ」


……一体何なんだこの少女は。

初対面でタメ口、そして出会って間もない頃には舌打ちときた。こんな態度悪い人間には初めて会った。


と、そんな心中を察っしてか、なんとも悪そうな笑みを浮かべながら話し始めた。


「ハハッ、なるほどね。確かにこれじゃあじいやに口調を直せと言われるわけだ。初対面の人間からこんな表情されたらたまったもんじゃない」


「分かってんなら直せよ」


「お前が言ったとおりもう遅いだろ。それに私はそこらへんの普通の人間には態度は直さないぞ。それこそ私の立場上、な?」


立場上?……ってまさかお前……!

その言葉を聞き、ある文字が頭の中に思い浮かんだ。


「お前、まさか貴族か?」


「大正解」


まじかよ。森の中で女の子を拾ったら、しかもその正体が貴族様だって?それにこの付近の領地って……。

その考えに至ったその瞬間、腹のそこからため息が出た。


「お前、貴族って言ったらここの『エルヴァレイン領』の侯爵様しかいねぇじゃねぇかよ〜。なんでそんなお嬢様がこんな森の中で……」


「ん?なんで落ち込んでるのさ。私は貴族だぞ。しかもお前の言う通り侯爵の娘の一人だ。その事を報告したらお前は一生を楽に過ごせるほどのお礼が貰えると思うのだけど?」


こいつの言うとおりだろう。常人にとってはこの機会はまたとないチャンス。そしてこの貰った金で商売をするもよし。両親に恩返しするのもよしの……ものなんだが。


「はぁ……面倒くさ」


小さく、少女には聞こえない程度の声量でボソリと呟く。


折角これから充実した一人暮らしin森を送れるところだったのにこんな荷物拾ったらもう一回街に行かなきゃいけないじゃんかよ。


「(幸先悪いなぁ)」


心のなかで忌々しげに呟く。


しかし、クイナ自身気づいていなかったことだったが、そこまで面倒くさいと思うのならそもそもとしてこんな少女なんて拾わなければ良かったのだ。寧ろ、彼の心のなかにはそんな考えなんか一切なく、彼女を拾った瞬間に、夕食のことまで考え始めたほどだ。「(食材もうちょっと取らないといけなくなったじゃないか)」という風に。


「はぁ……まぁいいや。ここでお前を拾ったのもなにかの縁だ。ちゃんと責任持ってお前を家までお届けしてやるよ。お礼、期待してんぞ」


「そこんところは期待しといて。侯爵家の名は伊達じゃないよ」


なんとも悪そうな笑みを浮かべながらピースをする。

それを見て思わず苦笑いを浮かべてしまった。


「ハハ、どうしてこう……格式高いであろう侯爵家からこんな少女が生まれるのだか。……しかもエルヴァレインの娘って聖女みたいに性格が良いって聞いた気がするんだが?」


「あ、それ姉ちゃんのこと。……あ、そう言えば自己紹介してなかったね。私の名前は『ティナリウム=エルヴァレイン』。長いからティナって呼んでね」


「あぁ。俺の名前は……」


と、そこまで言いかけたところで気づく。

俺、このまま本名を言って良いのか?


……いやだめだわ。普通にだめだわ。普通に俺の名前『土の賢者』で広まってたわ。そんなことしてしまったら俺のぬくぬく森の中ライフができなくなってしまう!

じゃあ別の名前を考え……ってそんなん急に思いつくわけ……!


「……あ」


「あ?」


きた。ひらめいた。


「シーク=ナエハ。ま、適当呼んでもらって」


「あ、うん。んじゃあ普通にシーク」


シーク、……シークか。


シイクナエハ


我ながら即興にしては違和感のない名前が作れたのでは?

適当なアナグラムだがなんとかなるもんだ。






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