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剣聖の娘が賢者の弟子〜その娘は将来魔王になる予定です〜  作者: 桜庭古達
第一章 運命「的」な出会いは数多に
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私の知らない魔法


その後も俺らは落ち続けた。物理法則に従ってそのスピードも徐々に加速していき、上にあった丸い光が途轍もない勢いで小さくなってゆく。そしてそれはとどまるところを知らず、初めは叫び散らかしていたティナも、いつの間にかなんだか静かになっているくらいに時間は過ぎた。


それでもまだ落ちる。


落ち続ける。


落ちて、落ちて……落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて―――


そして



「“土魔法:衝撃吸収”」



地面に衝突する瞬間、白銀色のハンドベルを取り出し、詠唱を唱える。

その数瞬後、ありえない現象が起きる。


俺らは地面へと音もなく着地したのだ。


「っと」


突然の足場に、思わずバランスが崩れる。

すぐ隣にいるであろうティナの方を確認してみると、かなりぐったりしている様子だ。

そして俺はそのティナを起こすため近づいていき、声をかける。


「お〜い、生きてるか〜?」


「ぎ、ギリギリなんとか。いやなんかもう……気力が抜けすぎて怒る気にもなれないよ……。それにビックリしすぎて腰抜けた。……ここ暗い」


腰抜けてる割には出てくる言葉が軽い。


「事前に説明しなかったのは謝る」


一応、形だけでも謝罪はする。


こういったことをいちいち説明するのは面倒くさいんだよな。それにティナ、なんか人の話聞かないで自分の中だけで解決する節があるし……。

と、そこまで考えた時、あることに気がつく。


「(というかこんな性格の奴、絶対人に教えるのには向いてないだろ)」


今更ながら、そう思う。

俺の中での理想の指導者像は、どんだけ教えられる側が不真面目な態度で、聞く耳も全く持たない失礼極まりないやつでも一生懸命寄り添って、嫌な顔一つせず、時には然り時には褒める。

正に、理想オブ理想。


でも、言うて俺も学園では面倒くさがりながらも気が向いたときにはジダやカンナとかに教えてる時は「面倒くさがってる割には結構教えるの上手いじゃん」とか言われるもんだから、教える事自体は苦手ではないのだろう。……ただ性格的には向いていないだけで。


「まぁ、私もこの三日間でそこそこシークの性格は分かってきたつもりだから突然何かを起こしたりするんだろうなー……とは思ってはいたよ?でもまさか地下への直下掘りをなんの一言もなくするのはどうかと思うんだよ。というか起こして。それに暗いからなんも見えない」


地面を背中に思いっきり仰向けになりながら両の手をバッと広げるのが()()()


グチグチ長引く文句かと思いきや唐突な懇願。


「しょーがねぇな」


そう呟いた後、俺はティナを軽々と背負う…………なんてできるわけない。……ので彼に手伝ってもらうことにしよう。

誰にも聞こえないくらいの声量でボソリと魔法の詠唱を行う。勿論使う魔法は……


「“唯一の魔法(オリジナルマジック)土の配下(サモン・ゴーレム)”」


それと同時に足を経由して地面の土に魔力を満たす。

すると、どんどんと足元の土が隆起していき……


ある一体のゴーレムが誕生する。


「ふむ、取り敢えずティナを運ぶ用途だけの個体だからまだ例の機構は追加してないし、それに加えた魔力もそこそこ少なかったけど……まぁ大丈夫か。よし!それじゃあ君に最初の任務だ」


そしてその辺に転がっているティナを指さして命令をする。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


言葉による命令。

それが俺の創り出したゴーレムに対しての簡単な一つの制御方法だ。


その命令を受けたゴーレムはなんの違和感もなく、スムーズにティナを両手で抱える。


「一応簡易的な個体だから少し揺れると思うけど我慢してね」


「ふぁーい。というか暗いのなんとかして」


落下する際は魔力で体に影響がでないよう調整していたため、体に何かしらの害があるとかはないはずだ。

だからあんなに怠そうにはしているが、恐らく精神的なショックはあるものの身体的には健康極まりない状態であることは賢者の俺が保証する。


そんなこんなで、俺らは地下を練り歩く。


「ねえ、一つ……いや、あと三つくらい不思議に思ったことがあるんだけど聞いていい?あと暗すぎて何も見えない」


「暗い暗い流石にうるさい!暗所恐怖症じゃなかったら我慢しろ!」


しつこいくらいに暗いことを訴えてくるもんだから思わず声を荒げる。


「ったく、……あ、そうだ……ほれ」


確認がてらの魔法の行使。


『あーあー……聞こえるか?』


「うわっ!えっ、なに??」


「聞こえてるっぽいな。ならオッケーだ」


そうして一度魔法をやめる。


「……な、なにそれ?それも魔法?何も詠唱……してなかったけど」


「ん?あーそっか。……ま、これも一つの魔法の技術?じゃないけど……まぁそんな感じだよ。後で教えてやるから」


「そ、そう……!」


流石のティナも自重しているのか、こんな場面で強く問い詰めてくることはない。

……だが、


「(わぁ〜、すげ〜お目々がキラキラしているなぁ)」


こんな時でも「なぜこんな事になったのか」、という疑問を置いてけぼりにして自らの興味の方が勝ってしまうのだから、ティナのこれはもうバカの部類だ。


「んで、その聞きたいことは何だったんだ」


「今ので四つに増えたけど……」


「お願いだから三つで頼む」


そう言うと、渋々と言った様子で返事を返す。

ほんとに、悔しそうに渋々と……。


「仕方ない。なんかここで引いとかないと話すら聞いて貰えないような気がするし」


というその言葉に、思わず声を漏らす。


「ほー、お前も俺のことをよく分かってきたじゃないか」


ティナの方から見えるようにわざと顔を覗かせ、ニヤリと笑う。

魔法以外のことは興味がまるでなさそうなティナに人間性を見てもらえるのはかなり高感度が高いのでは?


「……まーね。じゃ、それじゃあさ、まず一つ目。さっきの着地の仕組みについて。どんな魔法を使ったの?」


「さっきの……これか」


その質問に応えるために、俺は先程使った魔法の魔法陣を空中に『投影』する。


「土魔法の一つである、『衝撃吸収』。普段は小さな足音なんかを消すために使うものだけど使い方を覚えたらさっきみたいに高い場所からの着地にも応用できる便利な―――」


「ちょいちょいちょいちょいちょい!!ちょっと待って……?」


いきなり説明を中断させたティナに怪訝な顔を向ける。


「そ、それ何?」


見ると、ティナは驚くくらいに呆けた顔をしていた。


「それ?それってなんだよ。別に変なことはしてないだろうが」


「だからそれだよそれ!」


そこで言葉だけでは伝わらないことを感じたのか、今度は魔法陣に向けてビッ!と指してくる。


「なんで魔法陣が()()()()()!?」


「浮いてるの…………って、ああ……これのことか」


そこでティナが何の事に対して言っているのかがようやく納得できた。


「この投影のことか。これも基礎知識だぞ?」


というか魔法を学ぶ上で一番初めに習うと言っても過言ではない基本要素なのだが……。


『投影』


文字通り、魔法陣を頭の中ではない、別の場所や物へ投影させる技術。

一昔前はこの投影の技は広く普及されておらず、頭の中で思い浮かびそれを自分を起点にして使用することしかできなかった。

しかし、この技術の魔法界への進出で、ありとあらゆることが大きく変わった。

これが俗に言う産業革命ならぬ、魔法革命だ。


これにより具体的何が変わったかと言われると、まず初めに言えることは魔法に対しての自由度が大きく変わったということだ。

例えば一つ、魔法を用いた模擬戦を例に出してみることにしよう。

この投影が生まれる前の時代の模擬戦は、兎に角どちらかが先に相手に大きな魔法を当てることができるか。そんな考え方だった。しかし、この投影が世の中を台頭し始めると、その価値観は大きく変わった。

簡単に言えば、「どうやって魔法を当てるか」ではなく「どうやって相手を追い詰めるか」だ。

『第三位』や『第四位』の大魔法一辺倒の戦いではなく、相手の足元に威力は弱いが、詠唱も少なく発動が早い『第八位』の種類の魔法を投影することで牽制したり、一番最初に大魔法をどこかに投影しておいて、ここぞというときで予備動作なして発動する、なんて真似もできたりするのだ。


そして勿論、この投影は戦いだけではなく魔道具作りにも多様な用途が存在している。


「―――って感じ。さっきの着地だって元は足音を無くすだけの魔法だったもんだから。頭の中で描いた魔法陣だけではどれだけ魔力を込めようとも、流石に限界は存在する。そんな時に、この投影。自分の中に作った魔法陣と同じ魔法陣を地面に付与し、発動させることによって効果も倍々。さらに一つの魔法陣に魔力を無駄に込めるよりも効果は高くなる」


「はぇ〜〜〜」


目を丸くして、感嘆の声を出す。

俺らにとってはごく基礎的で当たり前なことでも、彼女にとっては新しい発見の一つだ。

……魔法が好きな者にとって、新しい発見ほど興味がそそられることはない。


……非常に皮肉なことに、俺も最初は楽をしたいがために面倒くさがりながら魔法を学んだはずなのに、自分で例の機構を発見したときには、今までにないくらいに楽しかった。


今では俺の中の魔法の気持ちも、こいつと案外似たようなものかもしれない。










余談だが、俺の今の心の中でティナとの好感度が高いのは、俺への自主的な興味ではなく、「魔法の知識」という餌で餌付けしてるおかげなんじゃないかと思い始めてきた。

……果たしてこれが良いのか悪いのか。俺には判断のしようがない。







作者「食べ物の力に頼らずにペットと友情築ける人ほんと凄いと思う」


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