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剣聖の娘が賢者の弟子〜その娘は将来魔王になる予定です〜  作者: 桜庭古達
第一章 運命「的」な出会いは数多に
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番外編:魔導式録音再生機 記録内容【五色の賢者】No.61


この記録はとある魔道具に保存された風の賢者、もといアンナ=ダンタリオン。旧姓アンナ=ニカの某新聞制作グループによるインタビューの内容である。




『これでよし。動いてる……な。いやぁ毎度すみませんね、カンナ先輩。今回のインタビューを旦那さんの代わりに受けてくださって』


『あ、いえいえ。ウェルの代わりにはそんな十分なことは答えられないかも知れませんが、答えられることは精一杯答えたいと思います!』


『ウェル……ですか。なるほどなるほど、愛称で呼ぶほど夫婦仲は順調、と』


『ちょ、ちょっと!べ、別にそんなことメモする必要はありませんか!?』


『いえ、これも重要な一つの情報なので!……知ってます?我々の業界でも初めは盛り上がった結婚騒動ですが、その後は何も進展ないのでもう終わってるんじゃとか噂されている始末なんスよ』


『そうなんですか?でも確かに……周りから見たらそう見えますよね。あれでも結構感情豊かな人なんですよ?』


『それはもう、そこそこ取材を続けてきた私は分かってるッスけど……どうです?そろそろ子供のこととか……』


その瞬間、ブフッ!と何かを吹き出したような音がスピーカーから聞こえてきた。


『じょ、冗談ですよね!!?』


『あら、お二人にはその気がないと?』


『ないですっ!!…………とは言い切れないです』


最後の方はほぼ聞こえなかったが、この魔道具では確かに捉えていた。そのことを分かっている記者はよしっ!という声を出した後、


『妊娠報告待ってるッスよ!』


『は、はい』


消え入るような声で返事をすると、記者のほうから納得したようにうんうん、という声が聞こえた。恐らく、向こうの光景では頷きも交えているのだろう。

納得した記者は、さて!と手のひらを合わせて乾いた音を鳴らす。


『雑談はそれくらいにして、そろそろ本題に参りましょうか。今回の質問内容は五人の強さについてです!』


『五人って言うと勿論?』


『そう、その五人っす!』


興奮した声色で語る記者。


それはかつて、賢者の称号を最速で獲得した五人の幼い賢者たち。


総じて、『五色の賢者』


『そうですね〜。というか前に同じようなこと言わなかったですか?「貴方達の強みはなんですか〜」って』


『あ、あれ?そうでした?』


『……なんか質問内容ネタ切れしてきてません?』


カンナの呆れるような声がその場を支配する。

だがそれはそうだろう。なにせ長年殆ど密着のような感じで五人それぞれに取材をしてきたのだ。幾らその賢者がどれだけ凄かろうと、湯水のように話題を作り続けるほどスター性に富んているわけでもない。それでも長年取材を行えるのは、人気が絶えないのはこの『五色の賢者』の人気性は勿論のこと、この記者の腕が確かな事実なのだ。


『いやほんとすみませんッス。私も毎回どんなことを今日は聞こうかなーとか考えては来るんですけど、いかんせん記事の量が量っすから』


『仕方ないのはわかりますけど……意味なくないですか?』


『そう思うでしょ。それが全然人気がなくならないなくならない。先日起きた魔物の大量発生を食い止めた、という要因もその人気を後押ししているんでしょうね』


『あぁ、あれ?というかアレって私達も前に出はしたけど目に見えて活躍してたのジダちゃんとクシナ君くらいしか……。あ、あとそれと回復の面でクレアちゃんもね』


『クレアちゃん……ヨルグ様ッスか』


その言葉を聞いた瞬間、声のトーンが一段と低くなる。


『あー……』


カンナの方も察したのか、それ以上聞くことはない。


『……あの時は若かったッス』


『ご愁傷様です。確かにあの時の貴方は若かったですもんね』


流れる静寂。

恐らく、二人の頭の中にはその時の『若い』光景が映画のフィルムのように流れているだろう。……それも同じスピード、同じシチュエーションで……。


そしてそんな苦い思い出を振り払うように、その記者は新たな話題を導入する。


『あ、そう言えば前にセンパイ、「どうして怠けたがりのクシナ君がこんな前線に?」とかエシハ先輩に聞いてたじゃないですか。あの時ははぐらされましたけど、理由、聞いてきましたよ』


『えっ!ほんと!?』


と、突然カンナはその話題に異常な食いつきを感じさせるような声を出す。

バンッ!という音は恐らく、カンナが前にでた時の両手で机を叩いた時の音だろう。


『ほ、ほんとッス!私も気になってわざわざエルヴァレイン邸まで足を運んだら案外素直に話してくれましたよ。でも詳しい内容はあまり言いたくなさそうだったから私もそこまで深くは踏み込まなかったッスけど……』


『深くは踏み込まなかったって……貴方記者向いてないんじゃないですか?』


『いや賢者の一人にそんな尋問紛いな事したら痛い目合うのは確実じゃないですか!』


当たり前のことを当たり前のことで返答する。正論の殴り合いというのは得てして拮抗することが多い。勿論それはどちらも正しいことを武器に使っているわけだから負けるわけがないのだが、その本質は「絶対に負けない」という強い武器特有の過剰な自信だ。……それが話し合いを泥沼化させる。


そして互いに言い合いで息切れした後は…………急激に冷静になるものだ。


『これ以上に無駄な争いはありませんね』


『そうッスね』


そこで両者ともに静かになる。

コトン、という音が聞こえてきたため、テーブルの上で置いてあったお茶でも飲んだのだろう。


『エシハ様が言うには「過去にやり残したことを精算しただけだ」って言ってたッスけど……意味わかります?』


『その細かな情報から分かったらさっきはあんなに食いつかないですよ』


それもそうだ。

彼女は賢者の一員。そして尚且風を司るものだから、やろうと思えば風を伝って振動する細かな反応を認識することによって、理論的には空気のある場所ならどんな情報でも聞き取れる。


五色の賢者内では「実は案外彼女が最強なのでは?」と囁かれているほどである。


『そう言えばジオン様はどうしたんすか。最近はもっぱら噂も聞かないですけど……』


『そのことですか?なんか今は山奥で修行してるらしいですよ。話によるとさっきのクシナとの共闘で実力の差を思い知ったから……って言ってましたし』


『はは、ジオン様らしいっすね』


『らしいといえばらしいんですけどね、時々ジダちゃん、自分も教える側だってこと忘れてるんじゃないかと思うんです』


声に少々怒気が含まれる。

そのせいで何か苦労することでもあったのか。

だが、そのことを第三者が知ることはない。


『一応あの方も師匠という立ち位置ですもんね』


『そうですよ!しかもなまじオスカー君が優秀すぎるからあの子もサボりぐせが付いてきちゃうんです。そろそろ私が直接赴いてお灸をすえに行こうかなと思っているんですけど……』


『あはは!その時は私もお供するっすよ。「炎の賢者、第二の怠惰の賢者なるか!」という名目で』


『ええ、その時は是非に』


互いの笑い声が部屋の中を木霊する。


そしてその後もインタビュー、という名目の談笑は花開き、いつの間にか久しぶりに会った友達のようなノリの会話へと変化していた。

実際はなんだかんだ短いスパンで会っているのだが、学園の先輩後輩の関係に注視すればあながち間違った表現ではない。


そしてそのまま暫く談笑をし続け……三十分くらい経った頃だろうか。

唐突に記者が「お」という声を漏らした。


『あちゃー、もう時間です。そろそろ戻らないと』


立ち上がった音なのか、ギシッという木製品特有の軋む音が耳に入る。


『あら、貴方のタフネスと風魔法を利用すれば帰りの時間も短縮できるはずだけれど……』


『……ヨルグ様の真似しないでくださいよ。わざわざ口調まで真似て……、言っておきますけど今でもたまにあの頃の思い出が夢に出るんッスからね!』


『ははっ、ごめんなさい。確かに少し意地悪しすぎましたね。会った時の仕返しです』


記者から乾いた笑いが聞こえてくる。

最後の最後で出し抜かれ、果たして彼の気持ちは悔しい、と思っているのか。それか一枚上手の大人気ないその先輩に呆れているのか……。


『ま、良いです。それでは、今度は菓子折りでも持って普通に遊びに来ますよ』


『ええ、いつでも来てちょうだい。ついでに高いお酒でもあったらもっとオマケしますよ』


『安月給の新聞グループに期待しないでくださいね〜』


そうして、扉の開く音と閉まる音が聞こえた。

彼が部屋を出ていったのだろう。



……この魔道具を残して。



そして勿論、この機械は魔道具だ。持ち主がいなくなってもこの魔道具に内蔵された魔石の魔力が尽きない限り、スイッチで切られない限りこの魔道具も動き続ける。


『ん〜〜〜!疲れたぁ!』


先程とは別人のような声色をこの機械が捉える。


『でも久々にルード君に会えて楽しかったなぁ。みんなにも暫く会えてないし……今度の集まりは……まだ三ヶ月後かぁ。……みんなに会えないの寂しいな』


これがカンナ=ダンタリオンの素なのだろう。

そしてこれがバレることは一切ない。

だって彼女は風、もとい空気を支配する風の賢者なのだから……。


そして風の賢者も魔道具には疎いようで……


『あれ?そう言えばこれってなんなんだろ〜。ルード君が持ってきたものっぽいけど…………まぁいっか。そのうち気づいて取りにくるかな?』


この独り言の内容も全て録音されているとは気づかず、途端にその魔道具に興味は失せる。その代わり、


『そう言えばウェル君は褒めてくれるかな、「インタビューの仕事頑張ったな」って。と言っても殆ど雑談しかしてないような気もするけど……ま、いいか。早くウェル君の顔見に行こー』


そう言ってルンルンの雰囲気で―――表情は見えないが―――部屋を後にするカンナ。
















……因みに、余談だがこの魔道具はクシナが一枚噛んでいる。というか大体の枠組みは彼が制作したと言っても過言ではない。そしてその友人であり、良き話し相手でもあるウェルナルドも勿論この魔道具の仕組みはクシナから聞かされていた。


そして運が良いのか悪いのか、


『……む、この魔道具は前にクシナが自慢していたもの……。それにこれ動いてるではないか』


そこでその魔道具の記録は途絶えた。






次の日、ウェルナルドが顔を合わせてくれないという愚痴のために研究員の一人が一日中拘束されたのだそう。






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