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剣聖の娘が賢者の弟子〜その娘は将来魔王になる予定です〜  作者: 桜庭古達
第一章 運命「的」な出会いは数多に
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見つけた真実:part,2


その日は流石にエルヴァレイン邸に泊まるのははばかられたため、領内の手頃な宿に泊まってから一夜を過ごした。

そして翌日。


「今日も来たのか」


「もちろん!この私を止められる者なんて誰もいない!!」


その言い回しだと一回止められたんだな。多分主にあのヴェンスに。ただまぁ、そんな事言われたって、それはそうだろうという感想しか出ないが。

再三確認するが、この目の前の腰に手を当て胸を張って自慢できないことを声高らかに自慢している少女はエルヴァレイン領の娘なのだ。

もっとこう、俺について来る以外にも色々とやらなければいけないこともあるはずだ。


それを無視して来ているのだから我儘としか言いようがない。そしてその我儘を押し通せるほどの才能も助長しているのだろう。


「……まぁいいや。ほれ、昨日のこれ」


「えぇ……!?またこれ?これ凄い面倒くさいんだけど……というか形なんか違くない?」


「難易度アップ」


「……私昨日のやつですらあんなに時間かかったんだけど……」


と、文句をたれながらも、歩きはじめと同時に渋々作業へと取り組んでいく。


正直言って俺もこれは面倒くさいと思う。

パズルを解くと言ってもただただ魔力を使ってパーツを動かしているだけだし、俺も作ってはみたものの好き好んでやるものではない。

チマチマした作業が苦手な人には非推奨である。


「古い文献に書いてあった異世界の玩具(オモチャ)から発想を受けて、でもどうせならそれと同じように作るのはつまらなかったから難易度を調整できるように緻密に計算して設計したオモチャだ」


散歩の暇つぶしとして話したバベルの説明をし始めると、ティナから驚きの発言が飛んできた。


「えっ?これ魔道具じゃないんだ」


そのティナの気の抜けるような声を聞いた瞬間、思わずため息が漏れる。


「な、何よ……」


「……いや、ほんと魔法以外のことは知らないんだなーって思って。一般常識だぞこれ」


「仕方ないじゃない!まだ勉強してないんだから」


「どちらにせよ無知だってことだ」


ティナの言い訳を聞き流しながら一度立ち止まり、ポケットからもう一つ同じバベルを取り出す。


「良いか、この際説明してやるからよく聞いとけ。魔道具とは主に魔物が保有している『魔石』を組み込んで構成する。使用用途は多岐にわたり水を出したり炎を出したりと……まぁ様々だ。ただ統一して言えることは―――」


と、そこで言葉を切り、手元にあるバベルを魔力で空中に浮遊させ……



一瞬でバラす。

ガラスのような音はなく、パキン、という風な枝を折るような乾いた音だけが聞こえてきた。



「へ?」


昨日自分が死ぬほど苦戦していたものをあっさりと、まるで一つ抜いたら全てが崩れ去るトランプタワーのような勢いで起きた事象に、「は」とも「へ」ともつかないなんとも間の抜けた声を出した。


ただ俺はそんなティナの事を無視して説明を再開する。


「バベルのパーツは全四十七であり、大小は様々、形も全てが違う。だが逆に言えばバベルを構成している部品はこれだけだ。魔石も歯車も、ましてや、役割を異なる素材を使って分担するなんてこともない」


淡々と説明をしながら今度はその四十七のパーツを俺の周りに円を書くように配置する。

そしてその一つを手に取り、告げる。


「違いは分かったか?お嬢様」


俺の言葉に反論しようとするが、その言葉が思いつかなかったのか、その代わりに自分の中に溜まった鬱憤はため息として外に吐き出された。


「はぁ……良いですよ―だ。どうせ私は魔法の事以外何も知らない才能もない娘だよ」


「……なんだ、才能ないって自覚してたんだ」


これには少し驚いた。このタイプは大抵自分の持っている良い部分しか見ようとせず、自らが才能のないということしら気づけないはずなのだが……。


そう思いながら歩くのを再開する。

ただ、俺のその様子を察したのか苦笑いをしながら言葉を紡ぐ。


「流石に分かるよ。あなたは分からないかも知れないけど、これでも森の中で魔法書片手に毎日毎日、()()()()()()()()魔法を使い続けて五年も経つんだから」



「……は??」



その言葉に思わず再開したての足を止める。


おいおい、今こいつなんつった??


「毎日魔力を使い果たしてる……だって?」


「そうだけど?」


ティナはまるでそれが当たり前かのように飄々としていた。

突然目の前に爆弾を置かれたような錯覚に陥り、俺は思わず頭を抱える。


「あーーーなるほどなるほど。そう、か……ははっ、まじで無知は罪だな……」


苦笑いでそういった独り言を呟いていると、何がなんだか分かっていないティナは、


「むむ、何一人でぶつくさ呟いて納得してるのさ。私にも教えてよ」


半分拗ねた感じで唇を尖らせながら尋ねてきた。


「(……う〜ん。ただ拗ねてるだけなのに絵になるのは流石と言わざるを得ないかな)」


「うわっ、その温かい目気持ち悪っ」


「ひでぇ。……あ、そう言えば今回の任務についてなんだけどさぁ」


と、笑顔で言いかけたその時、ティナの人差し指が俺の口を塞ぐ。


「……露骨に話逸らさないで。今はその話してない」


魔法を愛している故か、何か少しでもその話題が魔法に絡んでくると話を逸らすことは難しい。しかも今回は殊更彼女にとって重要なことなのだ。


「ま、いいか。確かにこれはいつかは話さないといけないことだし、何よりその『才能』は魔法を扱うのに長けている。……いや、神に愛されていると言っても過言ではない」


ごくり、と生唾を飲む音が聞こえる。

真剣にこちらに目を向ける。


「……っ!!」


その輝く目に思わず息が詰まった。

何も疑わない、何も知らない。



この真実の意味に。



心が、本能が……この少女を汚す事を拒んだ。


「(いや分かってる。この真実を伝えてもこの少女に何も痛みはない。奥底にある深い想いは他人である俺には知る由もないが……それでも確かにこれだけは言える……)」


魔法がこの少女を傷つけることは、絶対にない。


……でも、

あと一つだけ。


「ただその前に一つだけ聞いていいか?」


「も〜!何!?ほんと焦らすのが上手いな〜」


「もし、もしも、だ。この世の中に存在している全ての魔法が人を傷つけるためだけに存在して、そしてお前はその魔法の力を全て掌握している。……それでもお前は……魔法が好きだと言えるか?」


かつてあった混沌の時代。

遥か昔に異世界から勇者が召喚され、魔法、という力をお互いが滅ぼすためだけに運用していた歴史上最も最悪とされた時。


もしもその時代に、その才能の恩恵を受けて生まれていたとしてもお前は―――


「えっ?そりゃもちろん好きに決まってるよ」


―――狂おしいほど、魔法を愛している。


その呆気のない、まるでそれが根拠のないくせに確定している事のように言い切る返答に俺は……


「……じゃあ教えねー」


「……………………はい?」


質問の拒絶、という形でその会話を打ち切った。




…………ほんとうに、


無知は『救済』だ。















「……なぁ、もうそろそろ機嫌直せよ。あと少しで親玉とご対面だぞ」


「フン、怒らせたシークが悪い」


ご尤もで。

一度食べたことのある至高のご飯を見せびらかすだけ見せた挙げ句、結局与えず回収、なんて真似したら流石にこうなるか。


今俺たちはとある目的地に向かって歩を進めている。

因みにティナには詳細を全く教えていない。なんだかわざわざ説明するのも面倒くさいし、何よりティナ自身がバベルに夢中で聞いてこなかったからする必要もない。


「まま、いつか教えるいつか教える」


「……確証のない『いつか』の約束ほど人と関わる上で信用できないって父さんが言ってた」


「…………」


ぐうの音も出ないとはこのことである。


気まずい空気が流れる中歩き続けていると、唐突にティナが「それじゃあさ」と言って俺の前に躍り出る。


「私がいつか魔法の腕でシークを超えたら教えてよ」


ニッと笑いながら、こちらに指を差すオマケ付きで約束を提示する。


「ほう?俺を超えると。だったら―――」


こちらも仕返しに、と思いティナの右手で握りしめられていた中途半端なバベルを指差す。


「まずはそれの最高レベルを完全攻略しないことには話にならないな」


ニヤリと口端を歪ませる。

するとティナはうっ、とうめき声を上げたあと、バベルとのにらみ合いが開始される。


「(流石にこれは可哀想かな)」


昨日今日で、ティナはバベルが十分嫌いな類だということを知った。

そしてそれが魔法に繋がると信じてずっと根気よく続けていたことも……。


さて、そろそろ()()()()()、実際に魔法を見せてやらんとな。


そう思い、不意にハッとなる。


「(いつから俺はこんなに『教える』という面倒くさい事を楽しめるようになったのか。……元々教えるのはそんなに嫌いじゃないけど)」


しかし、好きなことでさえ時たま面倒くさく感じてしまう俺からすると、今回のようなことは稀に見る奇跡である。


……ならば、その奇跡を存分に活かすとしよう。


「ティナ、ちょいとバベルを止めてこっちに来てくれる?」


「……?分かった」


そう言って、何も疑わずにこちらへと寄ってくる。


「これからちょっと()()()けど舌噛み切るなよ」


「は?それってどういう―――」


と、言い切る前にわざと魔法を行使する。


「“土魔法:落とし穴(グランド・フォール)”」


その瞬間!足元の土が全て消え去り……。


……その後、悲鳴が聞こえてきたのは火を見るより明らかだろう。






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