ショート劇場「大好きって言うんだ。」
大好きって言うんだ。
「だ、だだだ・・・・僕と付き合ってくれませんか?」
・・・言えなかった。
「喜んで♪」
でも付き合えた。笑った彼女の顔が可愛い♪
大好きって言うんだ。
今ここで言わなければ、もう言うチャンスが無いだろう。
「だ、だだだ、だい・・・結婚して下さい。」
また言えなかった。プロポーズはちゃんと出来たのに。
「喜んで♪」
やっぱり笑顔が可愛いな♪
大好きって言うんだ。
花束もプレゼントも用意した。絶好の大好きチャンス。
「だ、だだだだだだだ、ダイズ!!」
「大豆がどうかしたの?」
大豆じゃなくて!!大好きと言うんだよ!!
「・・・け、結婚一周年だね。あはは。」
「えぇ♪」
言えなかった。これは不味いなぁ。
今日は彼女が頑張ってくれた。
これは言わねば、男が廃る。
「だいす・・・」
「あら♪お父さん元気な女の子ですよ♪」
い、いや看護婦さん、ちょっと邪魔しないで。
「アナタ、抱いてあげて下さい♪」
「あっ、はい。」
ダメだ。今回は言えないわ。てか愛娘メチャクチャ可愛い♪よしよし♪
子供たちも巣立った。二人だけの生活。ここだ、ここで言っておこう。
「だい・・・」
「お父さん、じゃがいもの皮剥いてくださる?」
「はい、喜んで。」
あれ?意外と言う暇無いな。
もう最後だ。思えば今まで言おうとして一度も言えなかった。
これが最後のチャンス、だが言えるだろうか?
「君のことが大好きだ。」
おぉ、すんなり言えた。これで心残りは無い。
「お婆ちゃん、おじいちゃん最後になんて言ったの?」
中学生になった孫娘が突然家に遊びに来たと思ったら、そんな事を聞いてきました。
「お婆ちゃんのこと大好きって、そう言ってくれたのよ。」
「あーやっぱり♪私の予想通りだよ♪」
「分かってたの?」
「へへん♪そりゃ分かるよ♪だってお爺ちゃんがお婆ちゃんのこと大好きだって、見てたら分かるもん♪」
そうね、あの人は言葉よりも仕草や態度で私に愛を示してくれたもの。
アナタ、私もあなたのこと大好きでしたよ。
心無しか、あの人の遺影の写真がいつもより嬉しそうに笑っている様な気がした。