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連載候補短編

芋くさ聖女は捨てられた先で冷徹公爵に拾われました

作者: 日之影ソラ

「聖女ヘスティア、アルカンティア国王の名のもとに、その役目を今日限りとする」


 大聖堂で聖女としての役目を果たしていたある日。

 突然陛下がやってきて、私を聖女の座から外すと言い放った。

 ありていに言えばクビだ。

 

「な、なぜですか陛下! 私は今もこうして役目を果たしております」

「異論は認めん。すでに決定事項だ」

「陛下!」

「明日までに荷物をまとめて、この大聖堂から出て行くのだ」


 陛下は私の話に耳を傾けてくれない。

 私は失礼を承知で立ち去ろうとする陛下を呼び止める。


「お待ちください陛下! では今後の御役目はどうするのです? 私以外に聖女の資格を持つ者はいません! まだ多くの方々が、私の祈りを欲しています」

「それについては問題ない。後任が決まったのでな」

「後任……? 一体誰が」

「私ですわ」


 大聖堂の扉が豪快な音を立てて開かれる。

 現れたのは輝かしい金髪に青い瞳をした女性。

 彼女は自慢げな笑みを浮かべている。


「アリステラ王女……どうして貴女様がここに……」

「君の後任だ」

「え?」

「そうよヘスティア。私が貴女の後を継いで、ここで聖女を務めるの」


 コツ、コツ、コツ。

 靴の音を響かせながらアリステラ王女が歩み寄ってくる。

 彼女が私の後任になるという話が信じられない私は、不遜にも陛下に意見する。


「お言葉ですが陛下! 聖女になるためには神に仕える資格が必要です。いかに王女様でも資格なしに聖女の務めは――」

「その資格があると言っているのだ」

「なっ、そんなことはあり得ません!」


 私は強く否定した。

 聖女とは神に仕える者。

 神の声を聞き、その意向を汲み取り、世に神の力を示す役割を担う。

 土地によっては神の代行者として扱われる。

 聖女には誰でもなれるわけではない。

 生まれながらに神とのつながりを持つ者は、身体のどこかに神印と呼ばれる紋様を描かれている。

 私の場合は胸の中心に、光り輝く太陽のような形をした紋様が描かれていた。

 その資格なくして、聖女は務まらない。

 そしてそれは、何かをして得られるものではなく、最初から持っている物だ。

 後から発現することなどあり得ない。


 そのはずなのに……


「信じられないなら見なさいヘスティア。この私が、聖女に相応しい証拠を」


 アリステラ王女が胸元を開いて見せる。

 そこには確かに紋様が描かれていた。

 燃え盛る炎の様に荒々しい紋様が。


「そ、そんな……どうして……」

「我が娘ながら素晴らしい。見事、神に選ばれる儀式に成功したのだからな」

「儀式? それは一体?」

「お前が知る必要のないことだ。話は終わった。言った通り、明日にはここを出て行くがよい」


 陛下が歩き出し、振り返ることなく大聖堂を出て行ってしまう。

 アリステラ王女はすぐには出ず、クスクスと笑いながら私のことを見て言う。


「可哀想なヘスティア。だからあれほど忠告したじゃない。ちゃんと、その力を振るう相手は選びなさいって」

「貴族や王族を優遇しろというお話でしたよね? そんなことは出来ません。聖女は神の意向を汲み取る者です。我が神は平等を望んでいます」

「ふふっ、本当かしら? 貴女が勝手にそうしているだけじゃないの? 偽善者だから」

「違います! 全ては神のご意志です!」


 聖女である私が、神の言葉を偽ることはない。

 何より神の身分で人間を選ぶことなどあり得ない。

 悪人が罰を受け、善人が安らかに生きる。

 それこそが、私の仕える神のご意志であり思いなのだ。

 彼女はそれを……無視しろと言う。

 以前からよくここを訪れ、私に忠告をしてきた。


「貴女は平等すぎるのよ。平民も貴族も差別なく力を振るう。平民ばかり喜ばせて何になるの? 力を持つ貴族の方々こそ、神の力を最も受けるべきじゃないかしら?」


 そう。

 何度も聞いたセリフだ。

 つまり彼女は、貴族たちのほうが偉いから、一般の方々より贔屓しろと言っている。

 私はそれに一貫してこう答えている。


「違います。人の命は、権利は、未来は平等です」

「……相変わらずね」

「何度忠告されようと変わりません。それこそ神のご意志に反する行為です」

「さすが田舎育ちの芋くさ聖女様。ご立派な考えをお持ちね」


 明らかにけなす言葉を口にするアリステラ王女。

 否定すべきところだけど、私が田舎育ちなのは事実だった。

 私の生まれは辺境も辺境。

 大国でも北の端にある小さな村で、道も整備されていないから王都から馬車で一月近くかかる。

 そんな田舎で生まれた私は、王都にくるまで畑を耕したり、森で狩りをしたり、言い換えれば芋くさい生活を送っていた。

 彼女や陛下が私をのけ者のように扱うのは、ただの田舎娘が聖女になり、民衆から支持されることが許せないからだろう。

 聖女とはいえ、平民が王族より支持されるなどあってはならない。

 そういう思いがあることは、ずっと前から気付いていた。

 でもまさか、大聖堂を追い出される日がくるなんて……


「まぁ精々最後のお仕事を頑張りなさい。それではご機嫌よう、先輩」


 嫌味なセリフを言い残し、アリステラ王女は大聖堂を出て行く。

 そのすぐ後から、迷える人々が大聖堂へ押し寄せた。

 いつものように。

 彼ら彼女たちは私に悩みを打ち明ける。


「聖女様! どうか息子の病を治してください! 昨日から熱が上がり続けているんです」

「はい。お任せください」


 困っている人がいれば手を差し伸べる。


「私は最低な人間です……妻と娘を蔑ろにして、仕事ばかりにうちこんで……」

「そんなことはありません。貴方の努力はきっと伝わります」


 悩める人には助言を与える。

 私は今日も聖女としての役目を果たす。

 個人的な事情は持ち込まない。

 これが最後になるかもしれないけど、みんなにとっては人が代わるだけ。

 きっと困らないはずだ。


「ねぇ聖女様? 元気ないの?」

「え? 大丈夫よ」

「本当?」

「ええ。心配してくれてありがとう」


 普段通りに振る舞っているつもりでも、表情や声に不安が現れてしまっている。

 子供に気付かされる情けなさと、追い詰められ弱っている自分の心を感じ取る。

 明日から大聖堂にはいられない。

 田舎から王都に拾われて五年……私は、捨てられたんだ。


  ◇◇◇


 翌日の朝。

 私はまとめた荷物の再確認に勤しむ。

 昨晩のうちに準備だけは済ませておいたけど、忘れ物があったら大変だ。

 大切なものは特に確認しておかないと。

 忘れていたら捨てられるだろうし、二度と来るなと言われたから、戻ってくることも出来ない。

 とはいっても、大して荷物もなかったりする。

 私は多くを与えられていない。

 生活に必要な物を、必要な数だけ与えられ、それ以外は特に優遇されることもなかった。

 別に望んでいたわけじゃないけど、今から思えば不遇な扱いだった。


「はぁ……これからどうしよう」


 大聖堂でため息をつく。

 神に対して失礼なことだと知りながら、身体は正直に反応する。

 重たくないはずの荷物が重くて、足が前に進まない。

 この先のことを考えると不安で仕方がない。

 生まれ故郷に戻ることも考えたけど、今さら戻っても私に居場所はない。

 村を出ることになって、反対するみんなの意見を押し切って王都に出て来たから。

 それでどんな顔をして戻れるというんだ。


 ゴーン、ゴーン。


 時計の針が上を指し、鐘の音が時刻を告げる。


「あ、もういかないと」


 私は鐘の音に急かされ荷物を背負い、急いで大聖堂を出ようとした。

 大聖堂の扉に手をかけた時、触れる前に開く。

 ガチャリと開いた扉の先には、鋭い目をした背の高い男性が立っていた。

 青黒い髪と濃く青い瞳。

 服装は派手過ぎないが、明らかに一般の方とは違う。


「失礼する。ここにいる聖女とは君のことかな?」

「え、はい」

「そうか。私はレオン・ハーストンという」


 レオン……ハーストン?

 どこかで聞いたことのある名前だった。

 でもすぐには思い出せない。


「突然で申し訳ないのだが、聖女である君に頼みたいことがある」

「私にですか? 申し訳ありません……それにはお応えできないと思います」

「なぜだ?」

「私は聖女ですが、もうここの聖女ではありませんので」


 彼が求めているのは大聖堂の聖女だろう。

 それは昨日までの私で、今日からはただの聖女……いや、アリステラ王女の言葉を借りるなら芋くさ聖女になった。

 だから、彼のお願いを聞くのは私じゃない。

 次の聖女でアリステラ王女だ。


「聖女だが聖女じゃない……だと? それはどういうことだ? 聖女の力を失ったのか?」

「いえ違います。神様とのつながりはあります。聖女としての力もあります。ただ、この大聖堂からは追い出されてしまいました」


 私は笑いながら話す。

 別に隠すようなことじゃない。

 むしろ隠したところでいずれ知られることだ。

 ならば先に自分で言ってしまったほうが気分も晴れるだろう。

 ただそれだけ伝えて、私は彼の前を通り過ぎようとした。

 すると――

 

「なるほど……そういうことか。それはこちらとしても好都合」

「え? 好都合って」

「改めてお願いしたい。聖女ヘスティア、私の領地に来てはくれないだろうか? 君の力が必要だ」

「領地……」


 その時、ようやく私は思い出した。

 ハーストン家という貴族の名前と、若くしてその当主となった人のこと。

 圧政を続ける公爵家の当主。

 どれだけ民を虐げても、顔色一つ変えないという冷酷。

 冷徹公爵と呼ばれている辺境の領主だ。

 

  ◇◇◇


 ガタンゴトン。

 でこぼこの道を馬車が走り、盛り上がった地面を車輪が走れば大きく揺れる。

 私はその馬車に、レオン公爵と一緒に乗っていた。

 レオン公爵からの要望を受けることにして、彼の治める領地に向っている。

 受けた理由はシンプルで、行く当てがなかったから。

 私を必要としてくれるなら、たとえ冷徹で有名な公爵様の元だって行くしかない。

 それ以外に、生きていく方法が見つからなかった。


 それにしても静かだ。

 馬車の音以外には何も聞こえない。

 すでに数時間経過しているが、会話の一つもない。

 さすがに耐えかねた私は、意を決して声をかけてみることにした。


「あ、あの! 公爵様はどうして、私のことを必要とされているのですか?」

「ん? ああ、到着してから伝えるつもりだったが……時間もある。先に説明だけしておこう」


 そう言って、公爵様は改まって私と目を合わせる。


「実は最近になって、私の領地内で質の悪い感染症が流行しているんだ」

「感染症ですか?」

「ああ。毎年何度かはあるのだが、今回のは特にしつこくてな。医者たちに任せているが、どうにも数が足りていない。感染者の数が増え続けている」

「それで私に……」


 公爵様は小さく頷く。

 聖女には様々な奇跡を起こす力がある。

 その中で最も強い力が、傷や病を癒す力だ。

 私が祈りを捧げればどんな病も大けがも、たちまち治してしまえる。


「正直ダメ元だったのだが、追い出されたというのは朗報だった。王族の管理下にある者を無理やり連れだすわけにもいかないからな」

「……そうですね。タイミングが良かったと思います」


 私はぎこちない笑顔で答えた。

 タイミングは確かに良かったと思う。

 だけどそれは、私にとって良かったこととは言い難い。

 公爵様も意地悪で言っている様子じゃないし、別に責めることはないのだけど。

 少し悲しくはあった。


「すまないな。失礼なことを言った」

「え?」

「君が望んで大聖堂を出たわけではないことはわかる。今の発言は訂正しよう」


 驚いた。

 公爵様は素直に自分の発言を誤りだったと認め、謝罪してくれた。

 彼が噂通りの人なら、謝罪なんてするとは思えないのに。

 一切の躊躇なく、自分が悪いと気づいてすぐに謝罪するなんて……


「ん? 何だ? 話は以上だが他に聞きたいことでもあったか?」

「い、いえ、大丈夫です」


 何となく気になって、彼の顔をじっと見つめてしまった。

 噂で聞いていた印象と随分違う。

 とても冷徹で横暴な人には見えない。

 確かに目つきは怖いし雰囲気も冷たくはあるけど……私の感じた印象は別だった。

 私の印象と、みんなから聞いている噂。

 果たしてどちらが正しいのか、私は少しだけ興味が湧いた。


  ◇◇◇


 領地に到着すると、早々に屋敷へ案内された。

 広さとしては予想より小さめだ。

 内装も豪華かと聞かれれば、普通と答える程度の派手さしかない。

 噂では民から巻き取った税金をふんだんに使って、自分だけ豪勢な屋敷に住んでいるという話だったけど……

 すでに違っている。


「少し待っていてくれ。今紅茶を淹れる」

「は、はい……え? 公爵様が淹れるんですか?」

「ああ、まずかったか?」

「い、いえそうではなく、使用人の方々は?」


 そういえば、屋敷の中に人が少ない気がする。

 玄関から入って階段を上り、この部屋に入るまでの数分間。

 すれ違った人数は片手の指で足りる。

 屋敷の規模を考えても、明らかに人員が少ない様に見えた。


「使用人はいるが、彼らには別の仕事を任せてある。これくらいは自分で出来る。わざわざやってもらうことではない」

「そ、そうなんですね……」


 使用人の仕事でも、自分でやれるなら自分でやる?

 そんな考えの貴族なんて、王都じゃ絶対にいなかった。

 わからない。

 この人は一体、どういう人なのだろう。

 ただ一つ言えるのは……


「あ、美味しい」


 彼の淹れてくれた紅茶は、今までで一番美味しかったということ。

 温かくて、優しい味がする。


「気に入ってくれたか?」

「はい」

「そうか。口に合って何よりだ」


 公爵様もソファーに腰を下ろし、自分で淹れた紅茶に口をつける。

 私は紅茶を飲みながら、公爵様のことを密かに見ていた。

 まだ出会って一日も経過していないのに、思っていたイメージとだいぶ違う。

 今のところ、普通に親切で優しい人だ。


「さて、本題に入ろうか?」

「はい」


 その後は、今後についての説明がされた。

 私の仕事は、領地の中で病気に感染してしまった人の治療だ。

 ここには大聖堂がなく、屋敷から民家までも距離がある。

 病で弱っている人に長い距離を歩かせるわけにもいかないから、日にちを分けて順番に家々を回っていくことになった。

 

「巡回には護衛をつける。すまないが私は同行できない。やることが溜まっているのでな」


 そういう公爵様は少しお疲れの様子だった。


 そして翌日。

 私は用意された馬車に乗り、街を巡っていく。

 民家にお邪魔して様子を聞き、体調が悪い人がいれば祈りを捧げる。

 これを繰り返していく。


「ありがとうございます! 身体が軽くなりました」

「それは良かったです。でも無理はしないでくださいね?」

「はい。しかし驚きました。まさか聖女様がこの地に来てくださっているとは、なぜこちらに?」

「レオン公爵様からお願いされたのです。皆さまの治療に力を貸してほしいと」


 私が何気なく彼の名前を出すと、明らかに表情を暗くする。

 そして外にいる護衛に聞こえないようにひっそりと、小声で私に囁く。


「お気を付けください。あの方は我々に無理ばかり強いる。聖女様のことも、倒れるまで酷使するおつもりかもしれません」

「え、はい……お気遣い感謝いたします」


 民衆からの評判は、どうやら良くないみたいだ。

 それから次々に家を回ったけど、同じように公爵様に否定的な意見を口にする人は多かった。

 金ばかりとって何もしないとか。

 自分だけ好き勝手に暮らしているとか。

 私が軽く否定しても、まったく信じようとしない。

 

 本当に、どっちが正しいの?


 わからないまま初日を終え、屋敷に戻ると公爵様が出迎えてくれた。


「戻ったか。どうだった? 皆の様子は」

「公爵様がおっしゃったように家の中で安静にしていました。治癒した後もなるべくゆっくり休むように伝えてあります」

「そうか。感謝する」

「あ、あの公爵様」


 私は聞こうと思った。

 公爵様が民衆のことをどう思っているのか。

 民衆からどう思われていて、それを知っているのか。

 知っているなら、何を思うのかも。

 

 でも……


「どうした?」

「……いえ、何でもありません」

「そうか。明日も頑張ってもらわねばならん。今日はゆっくり休むと良い」

「はい」


 少し怖くて、聞くのをやめた。

 その日から私は、聖女として毎日のように街を巡った。

 自分の役割を全うしながら、公爵様のことが気になって、よく目で追うようになった。

 街の人は彼を悪く言う。

 でも、私にはそんな風に見えなかった。

 彼は私に無理を強いたりしない。

 休める環境と時間をちゃんと与えてくれるし、働き過ぎを注意されるくらいだ。

 逆に公爵様のほうが働きすぎている。

 朝は私より先に起きて仕事をし、夜も遅くまで明かりがついている。

 

 ある日、私は公爵様に進言した。


「公爵様は働き過ぎではありませんか? 少しは休まれたほうが……」

「それは君もだ。毎日予定より多く家を回っているだろう? 無理はしないように言ったはずだ」

「それはそうですが、私よりも公爵様のことです。あきらかに働きすぎです、これ以上無理をされるとお身体にさわります」

「わかっている。だが、休んでいられる状況でもないのだ」


 執務室の机の上には、大量の書類が散らばっていた。

 中身は全て、この領地について。

 どうやらあまり良い状況ではないようだ。

 話によると、元々この土地は気候の変化が激しく、作物が育ちにくい環境だったらしい。

 現在でもそれは続いており、数か月間雨が降らなかったこともあったそうだ。

 

「何もかも不足している。この環境下で育つ作物の開発も、資金が足りず滞っている。これ以上住民から税をとるわけにもいかない。そこに加えての感染症流行……休みたくとも、休めない」

「公爵様……」

「私が働くことで変えられるなら喜んで動こう」


 真摯な目、偽りのない言葉。

 私はようやく、この人のことがわかってきた。

 公爵様は……不器用なんだ。

 常に民のことを考えて、一番いい方法を考えて、全ての責任を一人で背負い込もうとする。

 理解されなくとも、正しいと思ったことをただひたすらにやる。

 自分が傷ついたり嫌われることを厭わない。

 誰より真面目で、本当は優しい。

 みんな知らないだけなんだ。


「公爵様、少しじっとしていてください」

「ん? 何を」


 私は祈りの力で公爵様を癒す。

 淡い光が彼を包む。


「これは?」

「私には疲労を癒すことは出来ません。ですが、休息の質を上げることは出来ます。短い時間でも良いんです。ちゃんと休んでください」

「……何度も言うが、君も休まないと駄目だぞ。私より君のほうが倒れられたら困るんだ」

「はい」


 この時、互いに同じことを思っただろう。

 私たちは似た者同士なのかもしれない。

 理解されなくとも正しい道を見定め、突き進んでいく。

 その苦しみや辛さは、知っている者にしかわからない。


「私は運が良かったのかもしれませんね」

「そう思うか?」

「はい。今は」


 彼のことを理解したいと思った。

 私のことを理解してほしいとも思った。

 そんな相手に出会えたのだから、きっと運は良いのだろう。

 捨てられたことも、拾われたことも。


  ◇◇◇


 ヘスティアを追放した大聖堂では、新たにアリステラ王女が聖女として活動していた。

 日々大勢の人々が訪れる中、優雅に振る舞う。

 ヘスティアの時は、毎日欠かさず同じ時間に大聖堂を開けていた。

 しかし現在は、日にちを空け短い時間だけ解放している。

 王女でもある彼女は多忙だ。

 聖女としての務めだけで一日を終えることはない。


「聖女様! どうか私たちの娘も」

「申し訳ありません。本日はこれから予定がありますので」

「そ、そんな……」


 王女である彼女に意見できる者は少ない。

 苦しい思いをして大聖堂を訪れても、時間切れで追い出されてしまう人が多発した。

 徐々に民衆の不満は蓄積されていく。

 が、彼女は気にしていなかった。


「ふふっ、ヘスティアも馬鹿ね。民衆に媚びを売ったって何も返ってこないのに」


 そう言って彼女は笑う。

 聖女らしからぬ発言と行動。

 果たして神は許しているのだろうか?


 否、彼女は神に認められてなどいない。

 聖女になる儀式など、最初から存在しないのだから。

 彼女の胸元に描かれた紋様は、神とのつながりではなく……悪魔との契約だった。

 誰も気づいていない。

 勘違いで行った儀式が、悪魔契約の儀式だったことを。

 そして、契約には対価が必ず必要になることを。


 聖女を失い、悪魔を引き入れてしまった彼女たちは……


本作とは異なりますが、連載版を投稿しています。


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よければ読んでみてください。

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