2人の戦友
2023年。7月。10時30分過ぎ。イギリス国内のイギリス軍特殊作戦センター。
サプレッサー搭載のサブマシンガンである、SMG10から2発、同時に弾丸が射出された。
この銃器は傑作短機関銃として名高いMP5の最新モデルある。弾丸は6メートル先の訓練用の的に命中し、人型を模したその的の上部、つまり頭部を貫通した。続いて1秒もかからず同じサブマシンガンから2発の実弾が人間でいうところの両胸の少し上に当たった。
ジョージ・レヴィンソン軍曹は一旦サブマシンガンに安全装置をかけトリガーから指を離した。
「1時間前より好調じゃないか、ジョージ。どうしてだと思う?」
背後からの男の声に反応してレヴィンソンは振り返りながら答えた。
「ええと、そうですね。レンジャー訓練を受けていた時、ある教官がレクチャーしてくれて、それをよく見直したからだと思います。(標的をお前の友達を全て殺したがっている奴だと思え。迷うな)
そんな感じだったかな。」
レヴィンソンはかつて、アメリカ陸軍のレンジャー部隊にいたことがある。その返答に背後にいた戦友のホーマー・シャープには心当たりがあった。
「そのレクチャーをした奴はもしかしてウィーバー曹長か?」レヴィンソンはやや驚いた。
「よくわかりましたね、お知合いですか?」
「曹長とは、よくビールを飲んだ仲でね。いい奴だった。」
レヴィンソンはサブマシンガンから全ての弾薬を外して武器庫に戻した。
そして、シャープと一緒に射撃場の中にある休憩所に行き、自動販売機の前で止まった。レヴィンソンはミネラルウォーターをコインで購入して、その後にシャープが続き、ソーダ味のドリンクを同じくコインで買った。2人は近くのデスクに座ると飲み物に口に運んだ。
「お前と出会ってから何年になるかな?6年か?」。」ちょっと考え込んでからレヴィンソンは口を開いた。「そんなところです。合衆国の第1特殊任務グループの計画した合同演習以来ですね。」
正直なところシャープは初めてレヴィンソンを見た時に特別に思うことはなかった。ただ話を重ねる内に2人には共通点が多くあり、それが打ち解けあうきっかけになった。
どちらも高校卒業後に陸軍に入隊してからレンジャー学校に行き、激しい猛訓練を耐え抜いた。そのあとから道が分かれてシャープは特殊部隊のグリーンベレーの訓練生となった。
一方でレヴィンソンはレンジャー部隊に留まり続けた。2人はまず、中米での陸軍第1特殊任務グループの合同演習に参加してジャングルでのパトロール活動に取り組んだ。この時、どういうわけか、運に恵まれなかったのはレヴィンソンの方だった。
彼は、高さ7メール近くはある崖から誤って転落した後、下の小川で足を骨折した状態で40分もじっとしていなければいけない羽目になった。偶然、その小川の哨戒ルートを進んでいたシャープの小隊がレヴィンソンを発見したおかげでどうにか状況はよくなった。
シャープは直々に応急手当をレヴィンソンに施し医療チームを無線で呼ぶよう部下に指示した。医療チームの搭乗する救難ヘリコプターが来るまでケガの鈍痛に苦しむレヴィンソンにシャープはずっと寄り添い続け痛みを和らげるつもりでお互いの家族、友人の話をした。
そして、現地の仮設救護施設に搬送されたレヴィンソンは結局、ケガの本格的な治療のためにアメリカ本国にもどらねばならなかった。
それでも2人は話をした時に互いの連絡先を教えていたので再会は、難しくなかった。シャープはグリーンベレーから対テロリズム特殊部隊デルタフォースに転属となり、ケガから回復したレヴィンソンと公私共に行動をした。以来、彼らは中東、アフリカ、アジア、中米など地上のあらゆる地帯で特殊活動に介入することになった。