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白猫・サザンクロスのゴロゴロな日々  作者: 紅葉
第一章 繋ぐ手紙と浄化の聖女
7/12

05-1.サザンクロスのおつかい

サザンクロス視点に戻ります。



 月が眠りに就き、太陽の光が届いた人間国・アルモニア。

 そのアルモニアの王都にある、マンスフィールド侯爵邸の一室──この家の三男であるクロード・マンスフィールドの部屋の窓辺で、今日も白猫・サザンクロスは外の景色を眺めていた。

 見つめる先は偶然にも、昨日友人になった少女と出会った方角だ。


(アイナ……今頃何してるかな)


 恩人でもある少女を思い、尻尾が小刻みに震える。


(それもこれも、シリウスが不穏なこと言い出すからだよっ)


 思い出すのは昨日の晩。

 クロードの自室なのにも関わらず、彼を部屋から追い出した魔導師・シリウスは、その後サザンクロスをこれでもかと可愛がりながら、友人となった少女について色々と質問をして来た。


『……さて、クロードもいなくなったし、話をしようか、クロス。君が出会ったのは、どんな人だい?』


 妙に胡散臭い笑みに、サザンクロスは思わず顔をしかめた。

 この部屋の主を追い出して聞いてくるあたり、裏に何かあると言っている様なものだ。


(……なに考えてるの?)


 企みを確信した体で問えば、シリウスは『そんなに警戒しないでよ』と苦笑を漏らした。警戒されるような事をするからだと言ってやりたい。


『ちょっと人助けだよ』

(人助け? ならクロードがいてもいーじゃん)

『色んな人に関係してるから、先に俺が聞いてから教えたいんだよ』

(それは……知ったら後戻り出来ないとか、大変な事があるってこと?)


 何の問題もなければ、こんなまどろっこしい事はせず、いつも通りその場でサザンクロスの言葉を通訳していた筈だ。それが出来ない、聞かれたくないというのは、知り得た情報次第でクロードは何かしらのトラブルに巻き込まれるという事……シリウスはそれを避けようとしているのだと、サザンクロスは見当をつけた。


『やっぱりクロスは賢いね。強いて言えば、もう巻き込まれているから慎重に進めたい、って感じかな?』

(ウソ!! もう手遅れ!?)


 なんという事だ。既に巻き込まれていたとは思いもしなかった。


『まぁ仕方ないよ。これも彼の運命だったんだ』


 シリウスは哀愁を漂わせながらポツリと呟くが、冗談じゃない。サザンクロスにしては重大事件だ。


(そんな……い、命に関わったり、するの?)

『今は大丈夫だよ。ただ今後はわからないから、慎重に進めたいって感じ』

(な……なるほど)


 どうやら今すぐどうにかなる訳ではないらしい。だが危険な状態なのには変わりなく、同時にもう一つの危機を感じて、人の頭に頬擦りをしている男に質問した。


(クロードが危険ってことは、本人であるアイナも危険って事でしょ?)


 聞かれるのを避ける内容がアイナの事なのだ。アイナの身に危険が迫っているのは、話の流れからして明白だった。


『うん。ただ、そのアイナって子はクロードよりも無事かな。危険度がその子の方が高かったら、きっと今日出会う事もなかったよ』

(……そっか)


 安心できる話ではないが、あの優しい子が無事なのを知って、張っていた気が少しだけ緩んだ。

 どうしてアイナが関わっているのか不明だが、シリウスはアイナを害する気がないのを肌で感じとった。最初から事情を説明してくれれば良かったのに、と、そう思わずにはいられない。


『それで、教えてくれる?』

(……いいよ。アタシを除け者にしなければね)


 そうして、シリウスの問いにサザンクロスは答えていった。

 どんな人間だったのか、瞳や髪の色は何色か、年齢は自分に近いかどうか等……様々な疑問が飛んで来ては、サザンクロスはその都度真面目に答えた。大切な人の命が懸かっているのだ。真面目にもなるだろう。

 けれど同時に、クロードには伝えられない友人の話を、聞いてもらえるのを嬉しく思ったのも事実だった。


(ついつい話しすぎちゃったけど……大丈夫かな?)


 窓の外に広がる景色の、その向こうにいる友人に想いを馳せる。

 シリウスの口振りからして、危険な環境にいるのは元々らしいが、自分のせいで更に危険な状態に陥っていないか気がきでなかった。


(それに、昨日の怪我も気になるし……手、治ってるかな)


 引っ掻いてしまい、血が溢れていた手を思い出す。


『私、自分のためには力、使えないの』


 困っちゃうよね~、と笑っていたアイナだったが、昨日別れる時には、手に巻いた布がうっすらと血で染まっていた。相当深く引っ掻いてしまったらしく、罪悪感が胸を締める。

 彼女の手からは、花の香りに紛れ、質の良い土の匂いもしていた。もしかしたら、土を弄る人なのかもしれない。


(それなら尚更気になるな~。仕事が出来なかったらどーしよ?)


 怪我をした手で土を弄るのは難しい。サザンクロスも野良時代には肉球に怪我をして数日過ごす事もあったが、傷口に砂が入り込み、なかなかに痛かった記憶がある。

 それでもアイナは土を掘っているのか。それともあの刺々した花の手入れをしているのか……気にするほど、サザンクロスの中でアイナが悲惨な目に遭っていた。


(行きたいな~。でも昨日の今日だからな~)


 窓辺から降り立ったサザンクロスは、昨日散歩に出かける時に出ていった、バルコニーに繋がる窓の前に来た。

 昨日は油断から烏に襲われ、怪我を負って帰って来た。なのに懲りずに今日も出かけるとなれば、クロードは良しとしないだろう。それは当たり前の判断だとサザンクロス自身そう思うが、しかしアイナの事も気になって仕方ないのだ。


(せめて元気にしてるかだけでも知れたらな~。シリウスは『今後の方針が決まったら教えるよ』って言ってたし……)


 落ち着かずにウロウロとしていれば、後ろから「クロス?」と声がかけられた。


「外に行きたいのか?」

(そうなんだよー)


 主のクロードが、気難しそうな表情をしながら見つめて来る。

 烏に襲われたのは昨日だ。遠い日の出来事であれば渋々了承してもらえただろうが、流石に記憶に新し過ぎる。駄目と言われても仕方ないと思う反面、アイナにはどうしても会いたかった。


(……ダメ?)


 猫なで声で、甘えてみる。

 止めとばかりに小首を傾げてみれば、クロードは深い溜め息の後に、脱力したように座り込んだ。


「わかったよ……」


 数秒項垂れていたクロードだったが、ポツリと呟くと、サザンクロスの顎を掻いた。


(やった~! ありがと、クロード!)


 足元にすり寄って一鳴きする。

 すれば大きな手に抱き上げられて、見上げるほど高かった目線が、同じ位置で交わった。


「昨日助けてくれた人のところへ行くのか?」

(そーだよ!)


 何がしたいのか察し始めた辺り、やはり主だ。「さっすがクロード!」と、嬉しさにゴロゴロと喉を鳴らす。

 少しずつだが意志疎通が出来始めた事に喜んでいれば、クロードは「ちょっと待て」と言い、そのままデスクに向かって歩き始めた。


(どーしたの?)

「行くなら、相手の方にこれを渡してくれ」


 そう言うと、クロードはペンを持ってメモ用紙程の小さな紙切れに文字を書き始めた。

 くっきりとした力強い文字を追う。そこには【昨日はうちの猫を助けて下さりありがとうございました】と、短い礼が綴られた。


(わかった! これを渡せば良いんだな!?)


 角を揃えて綺麗に折り畳まれたそれを、得意気に咥えて、サザンクロスは胸を張った。

 初めてのお使いに胸が高鳴る。

 必ずや任務達成してみせると意気込み、鼻をフンッ、と鳴らせば、クロードは苦笑しながら立ち上がり、サザンクロスの出入口と化した窓を開けた。


「行ってこい。だが、決して無茶するんじゃないぞ?」

(わかってるよ!)


 口が塞がっていて答えられない代わりに、足に頭をすり寄せる。

 サザンクロスは開け放たれた窓から外に飛び出した。



読んで下さりありがとうございます!

ここからクロードとアイナが徐々にくっついていきます。

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